第1節 我が国の経験・技術を活かした国際展開支援・国際協力 

第8章 戦略的国際展開と国際貢献の強化

第1節 我が国の経験・技術を活かした国際展開支援・国際協力

(1)官民連携による海外プロジェクトの推進
 建設・運輸産業の国内市場が中・長期的に減少傾向にある一方で、アジア等の地域においては、引き続きインフラ整備への大きな需要が見込まれている。我が国の経済発展のため、これらの需要を取り込むための官民連携による海外プロジェクトの推進は、成長戦略の中に重要施策として位置付けられており、トップセールスの展開や各種協議会(海外水インフラPPP協議会、海外道路PPP協議会、海外鉄道推進協議会、海外港湾物流プロジェクト協議会、海外エコシティプロジェクト協議会)の開催、人材の育成、個別企業では対応が困難なリスクに対する支援等を行うなど、官民一体となった積極的な取組みを通じ、我が国の建設・運輸産業の国際競争力強化を図るとともに、プロジェクト構想段階から発注・実施段階に至るまで、総合的・戦略的な支援を実施し、具体的案件の受注を目指している。
 トップセールスについては、相手国政府とのハイレベル協議やシンポジウムの開催、相手国要人・政府行政官の招へい等の実施を通じて相手国政府との関係を強化している。平成23年度には以下のような取組みを実施している。
 ○米国に対しては、23年9月に国土交通副大臣が訪米し、高速鉄道計画等について加州知事と会談を行うとともに、同年12月に訪日したロサンゼルス市長に対しても、国土交通大臣が関係民間企業代表者とともにトップセールスを実施した。
 ○インドに対しては、24年1月に国土交通大臣が訪印し、印鉄道大臣と会談を行い、高速鉄道分野における次官級の協議体設置について合意した。併せて国土交通大臣のイニシアチブにより同地にて高速鉄道セミナーを開催した。また、道路交通大臣との会談では、道路分野の協力覚書の内容に合意した。
 ○ベトナムに対しては、23年9月に交通運輸副大臣が訪日した際、国土交通大臣が会談し、防災関係のトップセールスを実施した。また、同年11月には、日越首脳会談で訪日した首相及び交通運輸大臣等に対し、国土交通大臣が関係民間企業トップとともに、鉄道、道路、建設、港湾、空港のトップセールスを実施した。24年3月には、国土交通大臣政務官が訪越し、今後のエコシティ開発の進め方等について、建設副大臣と意見交換を行った。
 ○インドネシアに対しては、23年9月に国土交通大臣政務官が、首都圏投資促進特別地域(MPA)の委員会において、経済担当調整大臣他、関係閣僚等に対し、鉄道・道路・水インフラ・港湾・空港等のトップセールスを実施した。
 ○中東諸国に対しては、23年9月に国土交通大臣政務官がサウジアラビアを訪問し、経済産業省との連携の下、水分野に関する水電力省との覚書を締結した。また、24年1月には、国土交通大臣政務官がカタールを訪問し、「カタールインフラプロジェクト及び下水管理技術に関するセミナー」に出席しトップセールスを実施した。
 また、官民連携による協議会としては、23年6月に第2回海外港湾物流プロジェクト協議会を開催し、同年10月に海外エコシティプロジェクト協議会が設立され、第1回協議会が開催された。さらに、24年2月に第3回海外水インフラPPP協議会、第3回海外道路PPP協議会を開催し、海外水インフラPPP協議会には5箇国の政府高官が参加し、日本の民間企業等との意見交換を実施した。
 加えて、23年6月に取りまとめられた「建設産業の再生と発展のための方策2011」に基づき、海外建設工事における契約・リスク管理の強化、情報収集・提供の強化、人材育成の強化、事業初期段階からの戦略的支援等を実施するほか、同年9月にマレーシア、11月にインドネシアにおいて二国間建設会議を開催し、我が国建設企業の有する環境に配慮した建設技術や免震・制震技術を紹介するなど、我が国建設企業の海外展開を支援するための施策を実施している。また、海外建設プロジェクトにおける施工技術、施工管理マネジメントに関する本邦企業のための「海外建設ホットライン」等を通じ、相手国政府と協議等を行い、我が国建設企業が安定的に海外展開できるように引き続き支援している。
 また、各分野における取組みも積極的に推進している。

1)下水道分野においては、ベトナム、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ等において、協力覚書締結等に基づき、地方公共団体や関連団体の協力の下、技術セミナーやモデルプロジェクト、二国間検討会議を通じ、下水再生水利用、資源・エネルギー活用、浸水対策、非開削工法等に関する案件形成を図っている。

2)鉄道分野においては、米国、英国、ブラジル、ベトナム、インド等の高速鉄道計画について、省エネルギー性に優れ、安全・安定・高頻度・大量輸送を強みとする我が国の新幹線技術の導入に向けた取組みを進めている。また、都市鉄道についても、技術協力を実施し、海外展開を積極的に推進している。さらに、海外展開体制の整備を図るべく、かねてより総合的な鉄道コンサルティング機能の確保に向けて取組んでいたが、平成23年11月に、鉄道事業者を中心としたオールジャパン体制による海外鉄道コンサルティング会社が設立され、24年4月より営業を開始することとしている。

3)港湾・空港分野においては、ベトナム等で港湾、空港開発のプロジェクトが進行中であり、相手国との協議・調整、技術面での協力、人材育成・技術移転等、官民の連携による多角的な取組みを進めている。

4)道路分野においては、インド、ベトナム、フィリピン、インドネシア等の道路整備プロジェクトについて、計画段階から建設、運営・維持管理の幅広い視点にて海外事業の展開の取組みを進めるとともに、相手国との協議・調整、セミナー開催等を実施するなど、海外展開を積極的に推進している。
 また、国内における海外展開の推進体制の強化を図るべく、海外事業を幅広くオールジャパンの共同体制で推進するため、平成23年9月に、高速道路会社5社の共同出資による「日本高速道路インターナショナル株式会社」が設立され、営業を開始した。

(2)国際協力の展開
 開発途上国の発展には、経済社会基盤の整備をはじめ、計画・政策策定や管理・運営を担う人材の育成が不可欠であり、国土交通分野の国際協力に対するニーズが高いことから、1)政策対話を通じた国際交流の実施やNGO等の民間団体による国際協力の支援と研修生受入れ等を通じた人材育成、2)地球環境問題への対応や安全性向上のための技術開発等、3)JICA等の関係機関と連携した専門家の派遣及び要人招へい等を通じた技術・ノウハウの移転等を行っている。
 その他の取組みとしては、平成23年7月にモンゴル国道路・運輸・建設・都市計画省とインフラ分野の協力に関する覚書を締結し、協力関係を強化することとしたほか、ベトナム、カンボジアを対象に、建設工事の安全や品質確保等について我が国の取組みを紹介するとともに、意見交換を行うセミナーを開催した。

(3)広域的な経済社会基盤の整備等への協力
 国際的な相互依存関係の拡大を踏まえ、メコン地域開発等の複数国にわたる広域的な経済社会基盤整備を支援している。
 メコン地域開発については、「メコン地域のインフラ分野における今後の支援のあり方(提言)」に基づき、メコン地域各国への外務省・JICA等による技術協力の枠組での専門家派遣等を通じた技術協力等を推進している。
 また、アフリカ広域インフラについて、第4回アフリカ開発会議(TICADIV)の合意に基づき、広域運輸回廊及び国際港湾の計画・建設・改良に向け、技術・ノウハウを活用した整備支援を推進しているとともに、産業界から要望の強いASEANやインドにおける物流インフラ整備、ロシアにおける貨物輸送の円滑化等について、関係国政府等と共同で検討を行っている。

(4)防災・安全・環境面での協力
 ASEAN各国等に対し、自動車行政に関する研修、都市公共交通改善に関する研修、河川水質環境改善に関する研修及び政策対話等の建設・交通分野における環境改善に資する取組みを実施している。
 また、都市、河川、下水道、道路、住宅、地図、鉄道、自動車、海事、航空、気象等の各分野においても、各国で技術移転を目的とした専門家派遣、研修等の技術協力を実施している。
 安全面では、インドネシアに対し、航空安全政策の向上等に資する技術協力を行っているとともに、開発途上国の保安担当官を対象に港湾、航空各分野のセキュリティに関する専門家会合や集団研修を行っている。また、海上保安庁でも、アジア地域の海上保安機関の能力向上を目的とした研修・訓練を実施するなど、海上保安分野に関する能力向上支援を積極的に推進している。
 災害対策等への協力については、国際緊急援助隊として派遣される救助チームに海上保安庁、専門家チームに国土交通省及び海上保安庁が参加している。これまでに、インドネシア西スマトラ州パダン沖地震、中国四川大地震、ニュージーランド南島で発生した地震等に救助チームを派遣しており、平成23年にはタイで発生した洪水に対し、排水対策の専門家と排水ポンプ車を、官民連携の専門家チームとして派遣したほか、空港施設の専門家を派遣した。また、タイ(洪水)、台湾(地震)、チリ(地震)、ベネズエラ(洪水)等の被災地への政府調査団に各分野の専門家を派遣している。
 さらに、南アフリカ、ミャンマー、インドネシアにおいては、水資源管理や防災に係る取組みについてワークショップを実施し、両国の水資源管理及び防災の取組みの向上を図ったほか、ブラジルにおいて防災に関する新規立法のための議会のセミナーに出席し、日本の防災や災害対応に関する政策を紹介するなどの取組みを行った。
 東日本大震災においては、甚大な被害が生じたものの、道路橋等の耐震補強技術や新幹線の早期地震検知システム等、我が国の持つ技術により、防災・減災に一定の効果があった。これを踏まえ、「災害軽減・インフラ復旧セミナー」を実施し、東日本大震災の災害対応及び復興計画を通じて得られた多くの教訓や課題をアジア諸国インフラ担当部局幹部と共有した。また、気象分野でも「震災後の防災気象業務、危機管理業務セミナー」を実施し、同震災後の対応を通じて得られた多くの教訓や課題をアジア・大洋州諸国の防災気象・危機管理担当部局幹部と共有するとともに、意見交換を行った。

 

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