第3節 利便性の高い交通の実現

第3節 利便性の高い交通の実現

(1)都市・地域における総合交通戦略の推進
 安全で円滑な交通が確保された集約型のまちづくりを実現するためには、自転車、鉄道、バス等の輸送モード別、事業者別ではなく、利用者の立場でモードを横断的にとらえる必要がある。このため、地方公共団体が公共交通事業者等の関係者からなる協議会を設立し、協議会において目指すべき都市・地域の将来像と提供すべき交通サービス等を明確にした上で、必要となる交通施策や実施プログラム等を内容とする「都市・地域総合交通戦略」を策定(平成25年3月末時点で77都市で策定・策定中)し、関係者がそれぞれの責任の下、施策・事業を実行する仕組みを構築することが必要である。国は、同戦略に基づき実施されるLRT注1等の整備等、交通事業とまちづくりが連携した総合的かつ戦略的な交通施策の推進を支援することとしている。
 
図表II-5-3-1 都市・地域総合交通戦略の推進事例
図表II-5-3-1 都市・地域総合交通戦略の推進事例

(2)渋滞緩和に向けたTDM等の推進
 自動車交通の状況や道路交通の混雑を解決する処方せんは都市ごとに異なるものであるが、TDM注2は都市の特性に応じて措置ができる施策であり、総合的かつ効果的なTDMの普及を推進している。朝夕のラッシュ時等に発生している渋滞を緩和するために、道路ネットワークの整備、ボトルネックの解消等の交通容量拡大策に加え、バスロケーションシステムの導入等の公共交通機関の利用促進策や、パークアンドライド注3、時差通勤等のTDM施策を実施している。また、地域によっては、バス路線マップや個別冊子を住民に配布することで、自動車の使い方の見直しを促し、公共交通を有効に使うモビリティマネジメント注4を実施している。

(3)公共交通の利用環境改善に向けた取組み
 地域の公共交通について、バリアフリー化されたまちづくりの一環として、より制約の少ないシステムの導入等地域公共交通の利用環境改善を促進するために、地域公共交通確保維持改善事業により、LRT、BRT、ICカードの導入等を支援している。平成24年度においては、福井鉄道等で低床式車両の導入が行われている。

(4)都市鉄道ネットワークの充実
 都市鉄道ネットワークは、輸送力増強による混雑緩和を主眼とした整備が進められてきた結果、相当程度拡充されてきた。その結果、大都市圏における鉄道の通勤・通学時の混雑は少子高齢化の進展等と相まって低下傾向にあるが、一部の路線では混雑率が180%を超えるなど依然として高く、引き続き混雑緩和に取り組む必要がある。このため、特定都市鉄道整備積立金制度を活用した小田急小田原線複々線化工事や東急東横線改良工事を進めている。
 また、既存の都市鉄道ネットワークを有効活用しつつ、速達性の向上や交通結節機能の高度化を図ることを目的とする「都市鉄道等利便増進法」を活用し、相鉄・JR直通線や相鉄・東急直通線等の整備を進め、利用者利便を増進するなど、都市鉄道ネットワークの一層の充実を図っている。
 
図表II-5-3-2 三大都市圏における主要区間の平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移(指数:昭和50年度=100)
図表II-5-3-2 三大都市圏における主要区間の平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移(指数:昭和50年度=100)
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(5)都市モノレール・新交通システム・LRTの整備
 少子高齢化に対応した交通弱者のモビリティの確保を図るとともに、都市内交通の円滑化、環境負荷の軽減、中心市街地の活性化の観点から公共交通機関への利用転換を促進するため、LRT等の整備を推進している。平成24年度は、鹿児島市電(鹿児島市交通局)において、ヒートアイランド現象の緩和、走行騒音の低減等を図るため、路面電車の軌道敷に芝生を張る軌道緑化事業が行われている。
 
軌道緑化(鹿児島市電)
軌道緑化(鹿児島市電)

(6)バスの利便性の向上
 バスについては、バスを中心としたまちづくりを推進するオムニバスタウンの整備をはじめ、公共車両優先システム(PTPS)やバスレーン等を活用した定時性・速達性の向上、バスの位置情報を提供するバスロケーションシステム、円滑な乗降を可能とするICカードシステムの導入等を行い、利便性の向上を図っている。

(7)既存高速道路ネットワークの有効活用・機能強化
1)多様で弾力的な料金施策の実施
 物流の効率化や地域の観光振興を図るため、高速道路の利便増進事業として、平日の全時間帯に3割引以上や、土日祝日に普通車以下を対象に終日5割引等を実施した。
 
図表II-5-3-3 現行の料金割引と財源(NEXCO地方部の例)
図表II-5-3-3 現行の料金割引と財源(NEXCO地方部の例)

2)スマートインターチェンジの整備等の促進
 既存の高速道路ネットワークを有効に活用し、地域経済の活性化や渋滞の軽減等を図るため、スマートインターチェンジの整備等を促進している。
 ・我が国の高速道路IC間隔は約10kmで、欧米諸国の2倍程度
 ・一定規模以上注5の工場の約5割がICの5km圏内に存在
 ・スマートICは、現在64箇所で供用中、30箇所で事業中(平成25年3月末時点)
 
図表II-5-3-4 スマートIC整備と併せて周辺道路整備を実施した事例
図表II-5-3-4 スマートIC整備と併せて周辺道路整備を実施した事例


注1 Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システム
注2 都市又は地域レベルの道路交通混雑を緩和するため、道路利用者の時間の変更、経路の変更、手段の変更、自動車の効率的利用、発生源の調整等により、交通需要量を調整(=交通行動を調整)する手法
注3 交通混雑緩和のため自動車を都市郊外の駐車場に駐車し(パーク)、鉄道、バス等の公共交通機関に乗り換え(ライド)、目的地に入るシステム
注4 一人一人のモビリティ(移動)が、個人的にも社会的にも望ましい方向(過度な自動車利用から公共交通・自転車等を適切に利用する方向)へ自発的に変化することを促す、コミュニケーション施策を中心とした交通政策
注5 工場又は研究所を建設する目的をもって、1,000平方メートル以上の用地を取得したもの(工場立地動向調査より)


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