第3節 産業の活性化

8 不動産業の動向と施策

(1)不動産業を取り巻く状況

 不動産業は、全産業の売上高の2.6%、法人数の10.8%(平成23年度)を占める重要な産業の一つである。
 リーマンショック以降減少が続いた住宅着工戸数も平成21年8月を底に緩やかに回復を続け、一時東日本大震災の影響で落ち込みを見せるもその後は徐々に回復し、23年7月末が着工期限の住宅エコポイントに関連する駆け込み需要が膨らむなど、底堅く回復傾向にある。
 既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)注1の23年度の成約件数が13.6万件(前年度比4.4%増)と堅調に推移している。
 賃貸住宅管理業に関して一定のルールを設ける、任意の賃貸住宅管理業者登録制度を23年12月から施行し、優良な賃貸住宅管理業の育成と発展に努めている。登録業者数については、24年3月末現在で1,579業者となっている。

(2)宅地建物取引業法の的確な運用

 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者については、123,922業者(平成24年3月末)であり、近年、微減傾向が続いている。
 国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、23年度の監督処分件数は358件(免許取消216件、業務停止54件、指示88件)となっている。
 また、マンションの販売の際の悪質な勧誘に関する問題に対応するため、23年8月に同法施行規則を改正し、宅地建物取引に係る勧誘をする際の禁止行為を明確化したところであり、引き続き、国土交通省ホームページ等で消費者に注意喚起を図るとともに、関係機関とも連携して必要な指導監督に努めている。

(3)マンション管理業者による適正な管理の確保

 マンションストックの増大に伴い、その適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や業務規制を実施している。マンション管理業者の登録は、平成23年度末において2,391業者であり、ここ数年大きな増減はない。
 また、マンション管理業者の法令遵守を促進し、不正行為の未然防止を図る観点から、マンション管理業者に対する立入検査を実施している。

(4)不動産市場の活性化

1)不動産市場の現状
 我が国における不動産の資産額は、平成23年末現在で約2,500兆円となっている注2
 24年度にJリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業者、特定目的会社等により証券化の対象として取得された、不動産又はその信託受益権の資産額は、約3.3兆円となっている。
 不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、24年度は19年度以来4年ぶりとなる新規上場が再開され24年度の1年間で6件の新規上場が行われた。25年3月末現在、39銘柄が東京証券取引所に上場されており、対象不動産の総額約10兆円、不動産投資証券の時価総額約7兆円となっている。
 東日本大震災直後、上場Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、震災発生前日の終値1092.29から、震災発生直後の23年3月15日には926.83にまで下落したが、Jリートが保有する不動産への震災による影響が限定的であったこと、迅速な情報開示に努めたこと、日本銀行の資産買入れ等の基金がJリートの投資口を買い入れたことなどにより、23年3月末には1055.18まで回復した。
 しかしながら、その後は深刻化する欧州の政府債務危機等により、投資家のリスク資産への投資意欲が減退し、東証リート指数が一時805.64ポイント(23年11月28日)まで下落したが、日本銀行の金融政策決定会合による金融緩和の強化(24年2月14日)等をきっかけに株式市況が回復、それに伴い東証リート指数も回復してきている。25年3月末現在1642.79ポイントまで回復し、20年1月以来の水準となっている。

2)不動産市場の条件整備
 国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム注3)を通じて公表している(平成25年3月現在の提供件数は、1,614,213件、Webアクセス総数は、約3億4千万件)。
 また、指定流通機構(レインズ)が保有する取引価格情報の加工情報を、不動産取引情報提供サイト注4を通じて提供するとともに、不動産取引の成約情報に基づく住宅価格指数について、東京証券取引所が指定流通機構(レインズ)等の関係機関と協力して開発し、23年4月から試験配信を開始している。さらに、宅地建物取引業者が取り扱う物件情報を網羅的に消費者へ提供する不動産統合サイト(不動産ジャパン)注5を不動産業界が一体となって整備しており、国土交通省としても、引き続きこの取組みを支援している。
 また、サブプライム危機等の教訓から、不動産バブルに対するEarly Warning Signal(早期警戒指標)を構築するため、国際機関が協力して不動産価格指数の作成に関する指針(RPPIハンドブック)を作成し、23年5月付けで最終稿を取りまとめた。国土交通省では、この指針に対応した不動産価格指数(住宅)を作成し、24年8月より試験運用を開始しており、今後の本格運用に向けて検討を進めている。

 
図表II-6-3-13 土地総合情報システム
図表II-6-3-13 土地総合情報システム

3)税制の活用
 平成25年度税制改正においては、土地の売買による所有権の移転登記等に対する特例措置(登録免許税)やJリート及び特定目的会社が不動産を取得する場合における不動産流通税(登録免許税及び不動産取得税)の特例措置について適用期限の延長等を実施した。

4)新しい時代に対応した不動産市場の構築に向けて
 不動産鑑定評価に対するニーズの多様化や企業会計における不動産時価評価の進展等を踏まえ、鑑定評価等業務の手順に「業務の目的と範囲等の確定」(Scope of Work)の考え方を取り入れた価格等調査ガイドラインを策定し、その周知に努めているとともに、投資家等依頼者以外の第三者に広く影響を与える証券化対象不動産の鑑定評価及び財務諸表のための鑑定評価に関し、不動産鑑定業者への立入検査等を行い、鑑定評価の適正性の確保を図っている。あわせて、不動産市場の国際化や民間における多様な鑑定評価ニーズへの対応のため、国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会において、不動産鑑定評価基準等の見直しに向けた検討を行っている。
 耐震性の劣る建物が多数存在していることや東日本大震災による電力需給の逼迫等を背景に耐震・環境性能を有する良質な不動産の形成が必要となっている。そこで、建築物の耐震化等、都市機能の更新に民間資金の導入を促進するため、一定の要件を満たす特別目的会社(SPC)による不動産特定共同事業の実施を可能とする「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律案」を第183回国会へ提出したところである。
 また、老朽・低未利用不動産について、国が民間投資の呼び水となるリスクマネーを供給することにより、民間の資金やノウハウを活用して、耐震・環境性能を有する良質な不動産の形成を促進し、オフィスビル等既存ストックにおける低炭素化や地域の拠点となる駅前等の再整備など、地域の再生・活性化に資するまちづくり及び地球温暖化対策を推進するため、耐震・環境不動産形成促進事業を創設した。
 さらに、持続可能な不動産ストックの形成に向けて、市場参加者が情報交換し、共通認識を醸成する場として、「環境不動産懇談会」を開催するとともに、環境不動産ポータルサイト注6を通じて情報発信を行っている。


注1 宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。
注2 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
注3 http://www.land.mlit.go.jp/webland/
注4 http://www.contract.reins.or.jp/
注5 http://www.fudousan.or.jp/
注6 http://tochi.mlit.go.jp/kankyo/index.html


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