第3節 産業の活性化

9 建設産業の活力回復

(1)建設産業の現状

 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移は図表II-6-3-14のとおりである。

 
図表II-6-3-14 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
図表II-6-3-14 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移
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(2)建設産業の再生と発展のための方策の具体化に向けた検討

 平成23年6月に「建設産業の再生と発展のための方策2011」が、24年7月には「建設産業の再生と発展のための方策2012」が建設産業戦略会議において取りまとめられた。
 これらを受け、将来的にも地域を支え得る足腰の強い建設産業の構築及び将来にわたる工事の品質の確保を図るため、国土交通省では、1)専門工事業者等評価、2)建設技能労働者の「見える化」、3)登録基幹技能者の更なる普及、4)技能労働者に対する教育訓練、5)戦略的広報といった人材の確保・育成のため方策について検討を行う「担い手確保・育成検討会」を24年9月に開催し、25年3月に大きな方向性を提示した。
 また、新たな事業ニーズや多様なプロジェクトに対応した適切な契約方式を当事者間で円滑に採用できるよう、多様な契約方式を検討・普及・啓発するため「多様な契約方式活用協議会」を24年10月に設置し検討を進めている。

(3)公正な競争基盤の確立

 建設投資が急激に減少する中で「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が生き残り、成長するための競争を実現するためには、建設業者における法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従来より下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル・苦情等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進月間」(11月)における都道府県との連携等を通じて、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。

(4)建設業への金融対策

1)地域建設業経営強化融資制度
 地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が公共工事請負代金債権を担保に事業協同組合等又は一定の民間事業者から工事の出来高に応じて融資を受けることが可能となるものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化と金利負担等の軽減を図っている。
 本制度は平成20年11月から実施されており、25年2月には事業期間を25年度末まで延長した。

 
図表II-6-3-15 地域建設業経営強化融資制度
図表II-6-3-15 地域建設業経営強化融資制度

2)下請債権保全支援事業
 下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社注1が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失を補償することにより、積極的な債権の支払保証を促進する事業である。
 本事業は平成22年3月に創設されたが、25年2月事業期間を25年度末まで延長した。

 
図表II-6-3-16 下請債権保全支援事業
図表II-6-3-16 下請債権保全支援事業

3)建設業災害対応金融支援事業
 平成24年度補正予算において、中小・中堅建設企業による災害対応等のための機械購入を図るため、中小・中堅建設企業による災害時において使用される代表的な建設機械の購入及び東日本大震災により被災した中小・中堅建設企業による建設機械の購入に係る借入金の金利負担を軽減するために行う建設業災害対応金融支援事業を創設した。

(5)ものづくり産業を支える「人づくり」の推進

 建設産業は、技術者・技能者の能力が生産の成否を左右する「人」が支える産業であるが、建設投資の大幅な減少、就業者数の減少等を背景に、就業者の高齢化、若年入職者の減少が課題となっている。
 また、加入義務のある社会保険等の法定福利費を適正に負担しない企業が多く存在し、技能労働者の最低限の福利が確保されず、若年入職者減少の一因となっているほか、真面目に保険に加入する企業ほど競争上不利という状況が生じている。
 このため、行政、元請業者、下請業者が一体となって総合的に社会保険加入を推進するとともに、技能労働者の技能の「見える化」等の検討や、若年者の入職促進、人材の育成・評価等に取り組むこととしている。
 また、作業管理・調整能力等を有し、基幹的な業務に従事する登録基幹技能者の確保・育成・活用を推進している。登録基幹技能者数は、平成25年4月1日現在で39,043人(30職種)となり、経営事項審査における加点評価や公共工事における総合評価落札方式(試行工事)における活用等を実施している。

(6)建設産業の振興

1)地域建設業の経営支援
 「建設企業の連携によるフロンティア事業」により、91の連携体の新事業展開に対して助成を行うとともに、全国11箇所及び東京で連携体による事業成果報告会を開催した。
 また、中小・中堅建設企業の新事業展開、企業再編・廃業等の経営戦略の実現を支援するため、建設業経営戦略アドバイザーが経営戦略相談窓口で申し込んだ建設企業に対して電話・訪問アドバイスを実施した。相談企業のうち46企業に対して、同アドバイザー等から構成される支援チームが計画策定支援等を行った。また33道府県及び330金融機関とのパートナー協定を締結し、相談支援体制の更なる強化を図った。

2)建設関連業の振興
 建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)については、建設コンサルタント登録規程等において、暴力団排除及び指導監督強化に関する規定を追加し、インターネットを介した情報提供を行っている。これらにより、登録制度の適切な運用を図り、優良な建設関連業の育成と健全な発展に努めている。

(7)建設機械の現状と建設生産技術の発展

 我が国における建設機械の保有台数は、平成21年度で約85万台注2であり、建設機械の購入台数における業種別シェアにおいては、リース・レンタル業が約44%、建設業が約22%となっている。
 なお、建設業における死亡災害のうち、建設機械等によるものは約15%を占めている。近年では施行体制の重層化により安全管理の一元化が難しくなる傾向に対応し、建設機械施工安全技術指針の改定、建設機械施工安全マニュアルの策定等を行い、建設機械施工の安全対策を推進している。
 また、建設業の諸課題(低い生産性、熟練労働者不足、施工品質の確保等)を解決し、ICTを活用した革新的な施工技術である情報化施工の普及促進を図るため、「情報化施工推進戦略」に基づき、現在、普及の課題となっている施工管理基準等の整備や設計データの標準化を行うなど、受発注者間の環境整備に取り組んでいる。

(8)建設工事における紛争処理

 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成23年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では41件(仲裁5件、調停30件、あっせん6件)、都道府県建設工事紛争審査会では123件(仲裁18件、調停86件、あっせん19件)となっている。


注1 他人が有する売掛債権の保証や債権の買取りを行いその債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系・前払保証会社系・リース会社系など10社のファクタリング会社が、当事業を運営している。
注2 主な機種:油圧ショベル約593千台、車輪式トラクタショベル約157千台、ブルドーザ約39千台


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