第2節 自然災害対策

1 災害に強い安全な国土づくり・危機管理に備えた体制の充実強化

(1)気候変動への対応

 今後20年から30年の間に実施する気候そのものの変化と変動性を緩和させる緩和策の規模にかかわらず気温が上昇し、大雨の頻度の増加、台風の強度の増大、海面水位の上昇、降雨の変動幅の拡大等が予測されており、これらに伴う洪水や土砂災害、高潮災害、渇水等の被害を回避・低減させる適応策が必要である。適応策の実施に当たっては、関係する主体が連携して、長期的視点に立った予防的な施設の整備に加え、避難、危機管理等を中心とした取組みを進め、持続可能で強靭な社会を目指していく。

(2)水害対策

 我が国の大都市の多くは洪水時の河川水位より低い低平地に位置しており、洪水はん濫に対する潜在的な危険性が極めて高い。これまで、洪水を安全に流下させるための河道の拡幅、築堤、放水路の整備や、洪水を一時的に貯留するダム、遊水地等の治水対策を進めてきたことにより、治水安全度は着実に向上してきている。しかしながら、平成24年7月の九州の豪雨災害により矢部川の直轄管理区間で堤防が決壊するなど、大きな被害があったほか、各地で水害・土砂災害が発生し、新たな課題も明らかになっている。引き続き、大規模災害についても的確に対応するため、東日本大震災から得られた教訓である「災害に上限はない」こと、「人命が第一」であることの重要性を再認識し、ハード・ソフト施策を適切に組み合わせた防災・減災対策をより一層推進する。

 
図表II-7-2-1 平成14年〜23年 水害・土砂災害の発生件数
図表II-7-2-1 平成14年〜23年 水害・土砂災害の発生件数

1)予防的な治水対策
 大規模な水害が発生すると、人的、経済的被害が発生するなど、社会経済活動に大きな影響を与え、その復旧・復興には、多大な時間と費用を要することから、それを未然に防止する予防的治水対策が重要である。そのため、築堤、河道掘削、ダム、放水路等の治水施設の整備を計画的に実施している。また、既存ダムの再開発や複数ダムにおける容量再編等のダム再生技術を活用した既存施設の有効活用にも取り組んでいる。さらに、既設の堤防については、洪水時における浸透破壊や侵食に対して安全性が不十分なものについて、強化対策を推進している。

 
図表II-7-2-2 治水安全度等の国際比較
図表II-7-2-2 治水安全度等の国際比較
Excel形式のファイルはこちら


 高規格堤防は、施設の計画規模を上回る洪水に対しても決壊しない堤防であり、また、まちづくり事業と一体となって、地域住民の人命を守る安全で良好な住環境を形成するとともに、広域避難場所の確保につながるものである。なお、高規格堤防については、平成22年10月の事業仕分けを踏まえ、一旦白紙にしてゼロベースで検討を行い、「人命を守る」ということを最重視し、そのために必要な区間として「人口が集中した区域で、堤防が決壊すると甚大な人的被害が発生する可能性が高い区間」としたところである。

2)水害の再度災害防止対策
 近年、甚大な水害を受けた地域においては、同規模の洪水で再び被災することがないよう、河川の流下能力を向上させるための河道掘削や築堤等の実施、内水はん濫を防ぐための排水機場の整備等の対策を短期集中的に実施し、洪水への不安解消に努めている。

3)流域の特性等を踏まえた様々な治水対策
 流域の開発に伴う治水安全度の低下が著しい河川や、従来から浸水被害が著しい既成市街地の河川においては、流域の持つ保水、遊水機能の確保が重要である。このような河川では流域対策の推進を図るなど、地域の特性を踏まえた多様な手法により安全・安心の確保を図っている。
(ア)総合的な治水対策
 近年の都市部及び都市周辺地域の開発の進行に伴う人口の集中、洪水時の河川への流出量の増大等により、治水安全度の低下が著しい都市河川においては、河川の整備に加えて流域の持つ保水・遊水機能の確保、災害の発生のおそれのある地域での土地利用の誘導及び警戒避難体制の確立等の総合的な治水対策が重要である。その一環として雨水貯留施設の整備を促進するため、流域貯留浸透事業、税制措置等により、地域の関係主体が一体となって、雨水の流出抑制や民間による被害軽減対策を推進している。
 さらに、都市部において浸水による都市機能の麻痺や地下街の浸水被害を防ぐため、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づき、河川管理者、下水道管理者及び地方公共団体が協働して、雨水貯留浸透施設の整備、雨水の流出の抑制のための規制等の流域水害対策を推進している。
(イ)局地的な大雨(ゲリラ豪雨)への対応
 1時間に50ミリ、100ミリを超えるような局地的な大雨に対して、国民が安心して暮らせるよう、河川管理者が実施する河川整備や調節池等の対策、下水道の整備及び住民が行う住宅敷地内への貯留浸透施設の設置等地域ごとの集中的な対策と役割分担を定めた「100ミリ/h安心プラン」を策定し、地域における総合的な豪雨対策を推進している。

 
図表II-7-2-3 樋井川における100ミリ/h安心プランに基づく対策事例
図表II-7-2-3 樋井川における100ミリ/h安心プランに基づく対策事例
Excel形式のファイルはこちら


(ウ)土地利用と一体となった減災対策
 土地利用状況等により、連続した堤防を整備するのに比べて効率的かつ効果的な場合には、輪中堤注1の整備等と災害危険区域の指定等による土地利用規制とを組み合わせる土地利用と一体となった減災対策を地方公共団体等と協力して推進している。
(エ)内水対策
 内水はん濫による浸水を防除し、都市等の健全な発達を図るため、下水管や排水機場等の整備を進めている。しかしながら、近年の計画規模を大きく上回る集中豪雨の多発、都市化の進展による雨水流出量の増大、人口・資産の集中や地下空間利用の拡大等による都市構造の高度化等により都市部等における内水はん濫の被害リスクが増大している。このため、下水道浸水被害軽減総合事業や総合内水緊急対策事業等を活用し、地方公共団体・関係住民等が一体となって、雨水流出抑制施設を積極的に取り入れるなどの効率的なハード対策に加え、降雨情報の提供、土地利用規制や内水ハザードマップの作成等のソフト対策、止水板や土のう等の設置や避難活動といった自助の取組みを組み合わせた総合的な浸水対策を推進している。

4)ハード対策と一体となったソフト対策
(ア)ハザードマップ等の整備・周知
 水害に対する危険性を周知し、効果的な住民の避難の確保を図るとともに、適正な土地利用を促すため、「水防法」に基づき、河川がはん濫した場合に浸水が想定される区域(浸水想定区域)を指定し、想定される浸水の深さ等を公表している。
 また、洪水はん濫が発生した場合でも住民が円滑かつ迅速な避難行動がとれるよう、浸水に関する情報や、避難場所、洪水予報等の伝達方法その他避難の確保を図るために必要な情報を住民に周知するため、洪水ハザードマップを作成する市町村に対する作成や周知の技術的支援や、国土交通省のホームページ上に全国の洪水ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注2の開設を行っている。
 平成24年度には、平成24年7月の九州の豪雨災害等により全国で70万人以上の住民に避難勧告等が出された中で避難が遅れたり、ヘリコプターで救出されたりするなど、適切な避難行動がとられていない実態等を踏まえ、住民の的確な避難行動につながるような実践的な洪水ハザードマップを市町村が作成できるよう、「洪水ハザードマップ作成の手引き」を全面改定し、25年3月に公表した。
 浸水想定区域については、対象河川の約98%の河川で指定・公表済みであり、洪水ハザードマップについては、浸水想定区域内の約95%の市町村で作成済みである(25年3月末現在)。
(イ)洪水時の予報・警報の発表や河川情報の提供
 国土交通大臣又は都道府県知事は、流域面積が大きい河川で洪水等によって国民経済上重大又は相当な損害が生じるおそれのある河川を洪水予報河川として指定し、洪水時に気象庁長官と共同して水位又は流量を示した洪水予報(はん濫注意情報・はん濫警戒情報等)の周知等を行っている。また、洪水予報河川以外の主要な中小河川を水位周知河川として指定し、洪水時に避難勧告発令の目安となる避難判断水位(特別警戒水位)への到達情報の周知等を行っている。平成25年3月末現在、洪水予報河川は415河川、水位周知河川は1,554河川が指定されている。
 また、市町村が地下街等及び要配慮者利用施設への洪水予報等の伝達方法を定めるにあたり、都道府県と連携して支援を行っている。なお、25年3月末現在、65市町村において対象となる地下街等が、541市町村において対象となる要配慮者利用施設が市町村地域防災計画に定められている。
 河川の水位、雨量、洪水予報、水防警報等の河川情報をリアルタイムに収集、加工、編集し、ウェブサイト「川の防災情報注3」において、河川管理者、市町村、住民等に提供を行っており、洪水時の警戒や避難等に役立てられている。
 また、放送局等と協力して地上デジタルテレビのデータ放送により、河川の水位や雨量情報を提供する取組みを進めており、25年3月までに全国49放送局にて提供が開始されている。
 雨量観測に当たっては、従来のレーダ雨量計(Cバンドレーダ)・地上観測網に加え、近年増加する集中豪雨や局地的大雨(いわゆるゲリラ豪雨)による水害や土砂災害等に対して、適切な河川管理や防災活動等に役立てるために、リアルタイムでより詳細な雨量観測が可能なXRAIN(国土交通省XバンドMPレーダネットワーク)注4の整備を進めている。インターネット上でも雨量情報の提供を行っており、24年7月までに27基での観測体制を構築している。

5)水防体制の強化
 都道府県や水防管理団体と連携し、出水期前に堤防等の合同巡視や情報伝達訓練、水防技術講習会、水防演習等を実施し、水防上、特に注意を要する箇所の周知や水防技術の習得を図るなど、人命と財産を守り、被害を最小限にとどめるための水防体制の強化に向けた支援を行っている。
 また、東日本大震災を踏まえて「水防法」を改正し創設した国土交通省自ら水防活動を行う特定緊急水防活動を、平成24年7月の九州の豪雨災害及び同年8月の近畿中部地方の大雨で発生した災害において実施した。

6)河川の戦略的な維持管理
 整備された河川管理施設等が洪水時等に本来の機能を発揮することができるよう、河川や施設等の状況を把握し、その変化に応じた適切な維持管理を実施している。
 これまで河川整備が進められてきた中で、堤防、堰、水門、排水機場等の管理対象施設が増大し、更にそれら構造物の経年劣化等が進行している。このような状況下で、「河川砂防技術基準維持管理編(河川編)」に基づいて計画的に維持管理を進めていくこととしており、国の管理河川については、平成24年6月に「河川維持管理計画」を作成した。また、河川構造物については、点検等により、劣化状態やその進行を監視して適切な時期に対策を行う状態監視型の保全手法への移行を図りつつ、計画的に施設の長寿命化や更新を図ることとしており、社会資本整備重点計画において、国の管理する主要な河川構造物について、28年度までに100%長寿命化計画を作成することとしている。あわせて、長寿命化のために必要な技術開発等を進めていくとともに、都道府県等の管理河川についても適切な維持管理が進むよう、中小河川の技術基準に関する検討を連携して進めるとともに、各地方整備局等に常設の相談窓口を設け、技術支援等を行っている。
 近年、バイオマス資源として注目されている河川の草や木について、民間に幅広く活用できるようにするため、公募型の採取試行ガイドラインを作成し、試行を開始することとしている。
 24年7月には国土の保全や地域社会の安全を持続的に確保していくことを目的に、社会資本整備審議会河川分科会の下に「安全を持続的に確保するための今後の河川管理のあり方検討小委員会」を設置し、今後の河川管理のあり方に関する検討が行われたところである。

7)河川における不法係留船対策
 河川における不法係留船は、河川工事実施の支障、洪水時の流下阻害や河川管理施設の損傷の原因となっている。また、燃料の漏出による水質事故や水質汚濁等の原因となるおそれがあるほか、市民の利用の支障、騒音の発生、景観悪化等の原因となっている。このような不法係留船については、適法な係留施設への移動の指導、撤去を進めている。

(3)土砂災害対策

 我が国では、集中豪雨や地震等に伴う土石流、地すべり、がけ崩れ等の土砂災害が、過去10年(平成14年〜24年)の年平均で約1,000件以上発生しており、多大な被害が生じている。また、自然災害による犠牲者のうち、土砂災害によるものが大きな割合を占めている。このため、特に対策の必要な重点箇所に対する砂防施設整備や、自助、共助、公助による安全かつ的確な警戒避難体制の整備等、土砂災害による犠牲者を減らすための、ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策を推進している。

1)根幹的な土砂災害対策
 荒廃した山地を源流域に持つ河川は、そこから流れ出す土砂により、流域全体にわたり甚大な被害をもたらすおそれがある。このような土砂災害から国土を保全し、人命保護を図るため、砂防関係施設の整備を推進している。

2)土砂災害発生地域における緊急的な土砂災害対策
 土砂災害発生箇所及び周辺地域を含めた集中的な砂防関係施設の整備により、近年、甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進している。

3)災害時要援護者を守る土砂災害対策
 病院、老人ホーム、幼稚園等の災害時要援護者関連施設が存在する土砂災害危険箇所について、砂防堰堤等の土砂災害防止施設を重点的に整備している。
 また、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)」に基づき、土砂災害特別警戒区域等内への災害時要援護者関連施設等に係る開発行為の制限等を実施している。

 
図表II-7-2-4 土砂災害による死亡・行方不明者に占める災害時要援護者の割合(平成20〜24年)
図表II-7-2-4 土砂災害による死亡・行方不明者に占める災害時要援護者の割合(平成20〜24年)
Excel形式のファイルはこちら


4)市街地に隣接する山麓斜面における土砂災害対策
 都市域における土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面に一連の樹林帯(グリーンベルト)を形成することを推進している。平成24年度は、六甲地区(兵庫県)等13地区において実施している。

5)地域防災力向上に資する土砂災害対策
 土砂災害により社会・経済的に壊滅的な被害が生じやすい中山間地域において、各集落における警戒避難体制の強化や、人命保全上、重要な施設・防災基幹集落の保全を推進している。

 
図表II-7-2-5 全国の土砂災害警戒区域等の指定状況
図表II-7-2-5 全国の土砂災害警戒区域等の指定状況
Excel形式のファイルはこちら


6)土砂災害防止法の推進
(ア)土砂災害警戒区域等の指定の推進
 「土砂災害防止法」に基づき、住民等の身体等に危害が生ずる土砂災害が発生するおそれのある土砂災害警戒区域を指定し、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、建築物に損害が生じ、住民等の身体等に著しい危害が生ずる土砂災害が発生するおそれのある土砂災害特別警戒区域において、特定の開発行為の制限、建築物の構造規制等のソフト対策を講じている。また、警戒避難体制の整備やハザードマップの作成のためのガイドラインや事例集を示し、市町村の土砂災害に対する警戒避難体制やハザードマップの整備を促進している。
(イ)危険住宅の移転の促進
 崩壊の危険があるがけ地に近接した危険住宅については、がけ地近接等危険住宅移転事業の活用等により移転を促進している。平成24年度は、この制度により危険住宅22戸が除却され、危険住宅に代わる住宅16戸が建設された。

7)大規模な土砂災害への対応
 河道閉塞(天然ダム)、火山噴火に伴う土石流、地すべり等といった大規模な土砂災害が急迫している状況において、市町村が適切に住民の避難指示の判断等を行えるよう、平成23年5月に改正「土砂災害防止法」を施行し、国及び都道府県が緊急調査を行い、その結果に基づき、土砂災害が想定される土地の区域及び時期の情報を市町村に提供することなどにより、土砂災害から国民の生命・身体の保護を図っている。
 また、深層崩壊に関し、対策施設や警戒避難対策の検討等に活用するため、24年9月に深層崩壊の発生危険度の渓流単位で評価したマップを公表した。

8)土砂災害警戒情報の発表
 大雨による土砂災害発生の危険度が高まった時に、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう、土砂災害警戒情報を都道府県と気象庁が共同で発表し、都道府県消防防災部局等を通じて市町村等に提供している。

 
図表II-7-2-6 土砂災害警戒情報
図表II-7-2-6 土砂災害警戒情報

(4)火山災害対策

1)活発な火山活動に伴う土砂災害への対策
 噴火等の活発な火山活動に伴う火山泥流や土石流等の広域的かつ大規模な土砂災害への対策として、砂防堰堤等の整備を実施している。桜島では、平成21年より活発な噴火活動が続いており、弱い降雨強度及び少ない連続雨量でも土石流が発生する傾向があるため、継続的に監視・観測及び砂防堰堤の除石等を実施している。また、浅間山では中規模噴火がいつ発生してもおかしくない状況であり、今後、噴火活動が活発化した場合に、噴火活動に応じた機動的な対策を行うための直轄火山砂防事業を24年度より実施している。霧島山(新燃岳)では、23年1月から噴火活動が活発になり、相当程度の降灰が確認されたため、改正「土砂災害防止法」に基づく緊急調査を実施し、土砂災害が想定される区域及び時期の情報を市町村へ提供した。さらに、火山ハザードマップについては、火山活動による社会的影響の大きい37火山を公表している。

 
霧島山(新燃岳)の噴火状況(平成23年1月)
霧島山(新燃岳)の噴火状況(平成23年1月)

2)火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定
 火山噴火時の土砂災害による被害を軽減するため、関連機関と連携して火山ごとに、砂防堰堤の整備や緊急除石等の緊急ハード対策の施工やリアルタイム火山砂防ハザードマップによる危険区域の設定等の緊急対応等、ハード・ソフト対策からなる火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定を推進している。

3)気象庁における取組み
 火山噴火災害の防止と軽減のため、全国の火山活動の監視を行い、噴火警報等の迅速かつ的確な発表に努めている。特に「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山については、観測施設を整備し、24時間体制で火山活動を監視している。また、各火山の火山防災協議会における避難計画の共同検討を通じて、噴火警戒レベル(平成25年3月末現在29火山で運用中)の設定・改善を進めている。

 
図表II-7-2-7 「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山における 火山ハザードマップ、リアルタイム火山砂防ハザードマップ、噴火警戒レベルの整備状況
図表II-7-2-7 「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山における 火山ハザードマップ、リアルタイム火山砂防ハザードマップ、噴火警戒レベルの整備状況

4)海上保安庁における取組み
 海域火山噴火の前兆として、周辺海域に認められる変色水等の現象を観測し、航行船舶に情報を提供している。また、海域火山噴火予知の基礎資料とするため、総合的な調査を実施し、海域火山基礎情報の整備を行っている。さらに、火山噴火の予知に資するため、南関東の離島において、GPSにより島しょ等の動きを監視している。

5)国土地理院における取組み
(ア)火山活動観測・監視体制の強化
 全国の活動的な火山において、電子基準点(GNSS注5連続観測施設)、自動測距測角装置等の火山変動測量やGNSS火山変動リモート観測装置(REGMOS)等による機動観測を実施し、地殻の三次元的な連続監視を行っている。さらに、他機関のGNSS観測データを合わせた統合解析を実施し、火山周辺の地殻のより詳細な監視を行っている。24年4月に大きな隆起を観測した硫黄島においても火山活動の監視を行っている。

 
図表II-7-2-8 GNSS連続観測がとらえた日本列島の動き
図表II-7-2-8 GNSS連続観測がとらえた日本列島の動き

(イ)火山噴火等に伴う自然災害に関する研究等
 GNSS、干渉SAR注6による地殻変動観測により火山活動の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。

(5)高潮・侵食等対策

1)高潮・高波対策の推進
 頻発する高潮や風浪による高潮・高波災害等から人命や財産を守るため、海岸堤防等の整備・補修や水防警報の発令等ハード・ソフト両面から施策を進めている。

2)海岸侵食対策の推進
 様々な要因により全国各地で海岸侵食が生じていることから、河川、海岸、港湾、漁港の各管理者間で連携し、サンドバイパス注7やサンドリサイクル注8等による対策を進めている。

3)高潮にかかる防災情報の提供
 市町村の防災担当者がより的確に防災対応を実施できるよう、気象庁では高潮警報・注意報を市町村単位で発表している。
 また、東日本大震災により地盤沈下が発生した地域の被災者や復興作業を支援するため、天文潮位(潮位の予測値)をまとめた「毎時潮位カレンダー」の公開等、高潮に関する情報提供を行っている。

(6)津波対策

1)津波対策の推進
 南海トラフ巨大地震等による大規模な津波災害に備え、最大クラスの津波に対してはハードとソフトの施策を組み合わせた多重防御による津波防災地域づくりを進めており、津波浸水想定の設定や避難計画の立案等において地方公共団体を支援してきている。
 また、東日本大震災を教訓に、関係省庁と連携し、ハザードマップの作成マニュアルを見直した。
 比較的発生頻度の高い(数十年から百数十年に一度)津波を対象に、必要な海岸堤防等を着実に整備するほか、耐震対策を進めている。その際、津波が天端を越流した場合でも堤防の効果が粘り強く発揮できるような構造の海岸堤防、防波堤等の整備を推進し、また、人口・機能が集積する三大湾の港湾においては比較的発生頻度の高い津波を想定した防護水準の確保を検討し、さらに、水門・陸閘等の自動化・遠隔操作化を促進する。
 さらに、全国の「港則法」の特定港(85港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており、関係機関の協力の下、各港において船舶津波対策の充実を図っている。
 河川津波対策については、東日本大震災における堤防の液状化や津波の河川遡上による被害、水門操作員の被災等を踏まえ、河川堤防のかさ上げ、堤防等の耐震・液状化対策、水門の自動化・遠隔操作化等を引き続き推進していく。
 また、東北地方における4つの水系について、東日本大震災の教訓を踏まえた地震・津波対策の考え方や、地震に伴う地盤沈下等による河口周辺の地形変化を踏まえ、「河川整備基本方針」の変更を行うとともに、同基本方針に沿った「河川整備計画」の策定・変更を行い、地域と連携しつつ、河口部の河川堤防の整備等、地域の復興・まちづくりに向けた取組みを推進していく。
 空港の津波対策については、南海トラフ巨大地震等による大規模な津波災害に備え、津波被災の可能性のある空港については、人命保護のために津波避難計画の策定を実施した。引き続き、津波被災後に空港機能を早期に回復させるために早期復旧対策の検討を進めていくこととしている。
 鉄道の津波対策については、東日本大震災における、津波発生時の避難誘導などの状況を検証するとともに、南海トラフ巨大地震等による最大クラスの津波からの避難の基本的な考え方(素早い避難が最も有効かつ重要な対策であること等)を踏まえた津波発生時における鉄道旅客の安全確保への対応方針と具体例等をとりまとめ、鉄道事業者における取組みを推進している。

2)津波にかかる防災情報の提供
 津波による災害の防止・軽減を図るため、気象庁は、全国の地震活動を24時間体制で監視し、津波警報、津波情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。
 東日本大震災によって明らかになった課題を受け、気象庁は、マグニチュード8を超える巨大地震の場合には「巨大」という言葉を使った大津波警報で非常事態であることを伝えるなど、新しい津波警報等の情報文の運用を平成25年3月より開始した。
 また、津波警報の発表をより確度の高いものとし、迅速かつ確実に行うため、巨大地震でも測定可能な広帯域強震計を国内に整備(全国80箇所)するとともに、海底津波計(ブイ式)を東北地方太平洋沖の3箇所に設置し、津波警報の更新や沖合の津波情報への活用を開始した。
 25年3月末現在、気象庁は36箇所の海底水圧計、15箇所のGPS波浪計、173箇所の沿岸の津波観測点を監視し、津波情報に活用している。
 さらに、関係省庁と連携し、南海トラフ巨大地震等の大規模災害対策の1つとして津波・高潮ハザードマップの作成マニュアルや事例集を示している。

3)津波避難対策
 将来、南海トラフ巨大地震をはじめとする巨大地震の発生による津波被害が懸念されることから、パーソントリップ調査等の都市計画の基礎的なデータを活用した津波想定浸水域の都市圏における避難路、避難施設の適正な配置を評価するための方法の検討を行った。

4)津波被害軽減の機能を発揮する公園緑地の整備
 東日本大震災の教訓を踏まえ、地方公共団体が復興まちづくり計画の検討等に活用できるよう「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」を平成24年3月に取りまとめ、公園緑地が多重防御の1つとしての機能、避難路・避難地としての機能、復旧・復興支援の機能、防災教育機能の4つの機能を有するものとし、減災効果が発揮されるための公園緑地の計画・設計等の考え方を示している。

5)官庁施設における津波対策
 官庁施設は、災害応急対策活動の拠点施設として、あるいは、一時的な避難場所として、人命の救済に資するものであるため、津波等の災害発生時において必要な機能を確保することが重要である。
 平成25年2月に社会資本整備審議会より、大津波等を想定した官庁施設の機能確保のあり方について答申されたところであり、本答申で示されたハード・ソフトの対策を組み合わせた津波対策の考え方を踏まえ、官庁施設を運用管理する機関と連携しつつ、津波対策を総合的かつ効果的に推進している。

(7)地震対策

1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
 改正「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」に基づく国の基本方針において、住宅や多数の人が利用する建築物の耐震化率を平成15年の75%から27年までに少なくとも9割とする目標を定めるとともに、「住生活基本計画」等においては、住宅の耐震化率を32年までに95%とする新たな目標を定め、建築物に対する指導等の強化や計画的な耐震化の促進を図っている。24年度は、住宅・建築物安全ストック形成事業において、住宅の耐震改修等に対する補助額の加算や住宅・建築物の耐震改修等に係る時限拡充措置の延長等、住宅・建築物の耐震化に対する支援の強化を行った。

2)宅地耐震化の推進
 大地震時における盛土の滑動崩落による被害を軽減するため、新規盛土宅地については、改正「宅地造成等規制法」等により技術基準を強化しており、既存宅地については、宅地耐震化推進事業により、造成宅地防災区域の指定等に必要な調査や防止工事を実施している。また、液状化への対応等について技術的な検討を行っているところである。

3)被災地における宅地の危険度判定の実施
 宅地において、二次災害を防止し、住民の安全確保を図るため、被災後に迅速かつ的確に危険度判定を実施できるよう業務マニュアルを整備するなど、都道府県・政令市から構成される被災宅地危険度判定連絡協議会と協力して体制整備を図っている。

 
図表II-7-2-9 密集市街地の整備イメージ
図表II-7-2-9 密集市街地の整備イメージ

4)密集市街地の緊急整備
 防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な整備改善は喫緊の課題である。住生活基本計画(全国計画)において、地震時等に著しく危険な密集市街地の面積を平成32年度までにおおむね解消することとしている。
 この実現に向け、幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と合わせた耐火建築物等への共同建替え、避難や消防活動の向上を図る狭あい道路の拡幅等のきめ細かな対策等による密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。

5)オープンスペースの確保
 防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点、生活物資等の中継基地等となる防災拠点や周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容し、市街地火災等から避難者の生命を保護する避難地等として機能する防災公園等の整備を推進している。また、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を新川防災公園(東京都三鷹市)等9地域で実施している。

6)防災拠点となる官庁施設等の整備の推進
 官庁施設については、来訪者等の安全を確保するとともに、大規模地震発生時に災害応急対策活動の拠点施設として機能を十分に発揮できるよう、総合的な耐震安全性を確保する必要がある。このため、官庁施設の耐震化の目標を定め、計画的かつ重点的に整備を推進しており、平成24年度は神戸地方合同庁舎の耐震改修等を実施している。

7)公共施設等の耐震性向上
 河川事業においては、いわゆるレベル2地震動においても堤防、水門等の河川構造物が果たすべき機能を確保するため、耐震点検を実施するとともに、必要な対策を推進している。
 海岸事業においては、津波到達前に機能を損なわないよう、大規模地震対策地域において耐震対策を推進している。
 道路事業においては、地震による被災時に円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送を確保するため、緊急輸送道路等の重要な道路について、橋梁の耐震補強対策や無電柱化を実施している。
 港湾事業においては、大規模地震発生時に避難者や緊急物資等の輸送を確保するため、基幹的広域防災拠点や耐震強化岸壁を整備するとともに、緊急輸送ルートに接続する臨港道路の耐震補強、緑地等のオープンスペースの整備を推進している。
 空港事業においては、地震等被災時に緊急輸送の拠点となるとともに、航空ネットワークの維持、背後圏経済活動の継続性確保において重要と考えられる航空輸送上重要な空港等について、必要な管制機能を確保するための庁舎等及び最低限必要となる基本施設等の耐震化等を実施している。
 鉄道事業においては、発災時における鉄道利用者の安全等の確保を図ることを目的に、首都直下地震等の大規模地震による倒壊を防止するため、高架橋柱、地下トンネルの中柱、橋りょう及び複数路線が接続するなどの主要ターミナル駅等の耐震化を推進している。
 下水道事業においては、地震時においても下水道が果たすべき機能を確保するため、防災拠点等と処理場とを接続する管きょや水処理施設等の耐震化・耐津波化を図る「防災」と被災を想定して被害の最小化を図る「減災」を組み合わせた総合的な地震対策を推進している。

8)大規模地震に対する土砂災害対策
 平成23年7月に取りまとめた「今後の土砂災害対策の方向性」に基づき、東日本大震災による被害等への対応に加え、今後想定される南海トラフ巨大地震等大規模地震の発生の可能性が高まっている地域において、地震発生後の速やかな救急・復旧活動に不可欠な重要交通網や生活インフラ、地域の防災拠点、避難場所等を土砂災害から保全するための抜本的な対策を推進している。

9)気象庁における取組み
 地震による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動を24時間体制で監視し、緊急地震速報、地震情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。
 緊急地震速報については、東日本大震災での経験を踏まえ、より適切に情報発表できるよう、地震観測点の電源・通信回線の強化や計算システムのソフト改修等を行っている。さらに、予想精度の向上や情報発表の迅速化を図るため、関係機関が海域や地中深くに設置した地震計のデータを計算システムに取り込む準備を進めている。
 また、長周期地震動による人的・物的被害の早期把握といった地震直後の初動対応のために有効な情報を提供することを目指して、その情報の具体的な内容について検討を進め、平成25年3月より、長周期地震動に関する観測情報の発表を試行的に開始した。

10)海上保安庁における取組み
 地震調査研究に資するため、海溝型巨大地震の発生が将来予想されている日本海溝や南海トラフ等の太平洋側海域において、海底地殻変動を観測している。また、沿岸域及び南関東の離島において、GPS観測による地殻変動を監視している。

11)国土地理院における取組み
(ア)地殻変動観測・監視体制の強化
 全国及び地震防災対策地域等において、電子基準点1,240点によるGNSS連続観測、GNSS測量、水準測量等による地殻変動の監視を強化している。
(イ)地震に伴う自然災害に関する研究等
 GNSS、干渉SAR、水準測量等測地観測成果から、地震の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。また、国土の基本的な地理情報データ及び過去の災害履歴や震度の情報を組み合わせて解析し、緊急災害時における迅速な災害情報の取得・提供に関する研究開発を行っている。さらに、関係行政機関・大学等と地震予知に関する調査・観測・研究結果等の情報交換とそれらに基づく学術的な検討を行う地震予知連絡会及び地殻変動研究を目的として、関係行政機関等が観測した潮位記録の収集・整理・提供を行う海岸昇降検知センターを運営している。

12)帰宅困難者対策
 大都市において大規模地震が発生した場合、都市機能が麻痺し東日本大震災以上の帰宅困難者が発生することが予想されることから、都市機能が集積した地域における避難者・帰宅困難者の安全確保のため、平成24年4月に「都市再生特別措置法」を改正し、都市再生安全確保計画制度を創設した。これは、全国で63の地域が指定されている都市再生緊急整備地域において、都市再生緊急整備協議会を開催し、都市再生安全確保計画の作成や、都市再生安全確保施設に関する協定の締結、各種規制緩和等により、官民の連携による都市の防災性の向上を図る制度である。
 また、パーソントリップ調査等のデータを活用し、帰宅困難者の広域的な流動等を推計するとともに、交通結節施設等の都市交通施設における帰宅困難者の受入れのあり方や経路網の評価等の検討を行った。

(8)雪害対策

1)冬期道路交通の確保(雪寒事業)
 「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」に基づき、安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、道路の除雪・防雪・凍雪害防止の事業(雪寒事業)を進めている。また、異常な降雪時において大型車の立ち往生等が発生した場合、引き続き流入する交通による著しい渋滞を防ぐため、各都道府県警察と連携の上、早い段階で通行止め措置を行い、除雪作業を集中的に実施することで、迅速に交通を確保することとしている。さらに、除雪状況等の情報の共有及び提供の一元化、除雪の効率化等を図るため、道路管理者等の関係機関による情報連絡本部の設置を進めている。

2)豪雪地帯における雪崩災害対策
 全国には、約21,000箇所の雪崩危険箇所があり、集落における雪崩災害から人命を保護するため、雪崩防止施設の整備を推進している。

3)消流雪用水導入事業の実施
 豪雪地帯において、治水機能の確保と合わせ、水量の豊富な河川から市街地を流れる中小河川等に消流雪用水を供給するための導水路等の整備を実施している。

(9)防災情報の高度化

1)防災情報の集約
 「国土交通省防災情報提供センター注9」では、国民が防災情報を容易に入手・活用できるよう、保有する雨量等の情報を集約・提供しているほか、災害対応や防災に関する情報がワンストップで入手できるようにしている。

2)ハザードマップ等の整備
 災害発生時に住民が適切な避難行動をとれるよう、避難場所、避難経路等を住民にあらかじめ周知すべく市町村によるハザードマップの作成及び住民への配布を促進するとともに、全国の各種ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注10を開設している。

 
図表II-7-2-10 ハザードマップの整備状況
図表II-7-2-10 ハザードマップの整備状況
Excel形式のファイルはこちら


3)防災気象情報の改善
 気象庁では、警報・注意報を市町村ごとに発表するとともに、竜巻・雷・局地的な大雨等、狭い範囲に発生する激しい気象現象に対して「ナウキャスト」という1時間先までの分布図形式の予報を発表し、携帯端末でも情報を確認できるようにしている。
 一方、平成23年台風第12号による紀伊半島の大雨では、大雨警報や土砂災害警戒情報を発表した後、更に降り続いた記録的な大雨について気象情報で強い警戒を呼び掛けたが、気象庁の危機感が防災機関や住民には十分伝わらなかった経験を踏まえ、24年6月27日から、「記録的な大雨に関する気象情報」の中で“これまでに経験したことのないような大雨”等の表現を用いて災害が切迫している状況であることを短い文章で分かりやすく伝えるように改善した。
 また、暴風や強風災害への警戒を呼びかける気象情報では、瞬間的に吹く強い風への警戒を呼びかけるため、24年6月18日から、「予想最大風速」に加えて「予想最大瞬間風速」を記述するといった改善を行った。

(10)危機管理体制の強化

 自然災害への対処として、災害に結びつくおそれのある自然現象の予測(気象庁)、災害時の施設点検・応急復旧等の対応(施設管理関係部局)、海上における救助活動(海上保安庁)等を行うとともに、職員の非常参集、災害対策本部の設置等の初動対応体制を構築しているところであるが、東日本大震災における災害対応を踏まえ、危機管理体制の強化を図ることとしている。また、被災した地方公共団体等に対して、国土交通省及び関係団体等が有する資機材、マンパワー、ノウハウ等を活用した支援等をより積極的に推進する。

1)TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)による災害対応
 大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、被災地方公共団体等が行う被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対する技術的支援を円滑かつ迅速に実施するため、TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)を派遣する体制を整えている。平成24年度は、6月から7月の九州豪雨により被害を受けた福岡県、大分県、熊本県及び鹿児島県に延べ717名を派遣したほか、8月13日から続く大雨(宇治・大津豪雨)への派遣等、延べ272名を派遣し、被災地の迅速な復旧及び再度災害防止に向けた技術支援を実施した。

2)業務継続力の向上
 首都直下地震時等に継続すべき優先業務を継続するための取組みを推進する「国土交通省業務継続計画」について東日本大震災の経験を踏まえて見直しを行うとともに、参集や災害対策本部運営訓練の実施等を通じて、業務継続力の向上を図っている。

3)災害に備えた情報通信システム・機械等の配備
 災害時の情報通信体制を確保するため、国土交通本省、地方支分部局、関係機関等の間で、マイクロ回線と光ファイバを用いた信頼性の高い情報通信ネットワーク整備に加え、災害現場からの情報収集体制を強化するために衛星通信回線を活用した機動性の高いシステムを整備している。また、迅速な災害対応のために全国の地方整備局、事務所等に配備している防災ヘリコプター、衛星通信車、排水ポンプ車、照明車等の災害対策用機械の拡充を図り、大規模災害が発生した場合には、迅速に派遣できる体制をとっている。

4)実践的・広域的な危機管理訓練の実施
 災害対策要員の能力向上を図るため、ロールプレイング方式等の実践的な危機管理訓練を積極的に実施しているほか、地域住民・企業、NPO等のより一層の参加促進、ハザードマップを活用した避難訓練を行うなど、より実践型、参加型の水防演習等を実施した。
 さらに、東日本大震災では、大規模災害時における関係機関の連携の重要性があらためて認識されたため、地方支分部局等を中心とした指定地方行政機関、消防機関、自衛隊等、多数の団体が合同で各種訓練を実施するなど、巨大地震等大規模災害に備えた広域的な防災体制の充実強化を図る取組みを進めている。

5)海上での初動対策の準備
 海上保安庁では、災害発生時に迅速に対応できるよう巡視船艇・航空機を24時間体制で配備している。また、災害の規模に応じて対策本部等を設置し、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等を実施するなど、迅速かつ的確に対応している。

 
図表II-7-2-11 津波・高潮防災ステーションのイメージ図
図表II-7-2-11 津波・高潮防災ステーションのイメージ図

(11)ICTを活用した既存ストックの管理

 光ファイバ網の構築により、ICTを活用した公共施設管理、危機管理の高度化を図っている。具体的には、光ファイバを活用した道路斜面の継続監視による管理の高度化、インターネット等を活用した防災情報の提供等、安全な道路利用のための対策を進めている。また、水門等の遠隔操作、河川の流況や火山地域等の遠隔監視のほか、下水処理場・ポンプ場等の施設間を光ファイバ等で結び、遠隔監視・操作を実施するなど、管理の高度化を図っている。
 さらに、水門等の施設を迅速かつ一元的に操作し、津波・高潮被害の未然防止を図る津波・高潮防災ステーションの整備については、社会資本整備総合交付金等により支援している。

(12)公共土木施設の災害復旧等

 平成24年の国土交通省所管公共土木施設(河川、道路、海岸、下水道等)の被害は、凍上災、九州北部豪雨等の大規模な災害が多発したことにより、約2,314億円(13,837箇所)が報告されている。
 これらの自然災害による被害について、被災直後より現地にTEC-FORCE等を派遣し、迅速な復旧・復興及び二次災害防止に向けた技術的助言等を行った。
 また、九州北部豪雨等の甚大な災害に速やかに対応できるよう、災害査定における総合単価の使用限度額を通常の1千万円未満から2千万円未満に拡大、実地によらず机上で査定できる限度額を通常の300万円未満から600万円未満に拡大するなど、査定の簡素化を行い、事業採択までの事務手続を大幅に簡素化・短期間化し、被災地の迅速な復旧に努めている。
 さらに、九州北部豪雨を含む梅雨前線による豪雨や強風に伴う波浪、豪雪等の自然災害により被害を受けた地区(84件)に災害対策等緊急事業推進費を執行し、住民の安全・安心の確保に資するため、緊急に再度災害防止対策等を実施した。

(13)安全・安心のための情報・広報等ソフト対策の推進

 安全・安心の確保のために、自然災害を中心として、ハード面に限らずソフト面での対策の取組みを進めるため、「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に基づき、毎年、進捗状況の点検を行ってきたが、東日本大震災を受けて、ソフトとハードの調和的かつ一体的な検討が必要であることが顕在化したことから、社会資本整備重点計画・国土交通省防災業務計画の見直しを踏まえ、検討を行っている。


注1 住宅等がある区域の周囲を取り囲む堤防
注2 http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html
注3 http://www.river.go.jp[インターネット版]、http://i.river.go.jp[携帯版]
注4 既存のレーダに比べ、より高頻度(1分ごと)、高分解能(250mメッシュ)での観測が可能。また、これまで5〜10分かかっていた配信に要する時間を1〜2分に短縮。
注5 Global Navigation Satellite Systems:全球測位衛星システム
注6 人工衛星で宇宙から地球表面の変動を監視する技術
注7 海岸の構造物によって砂の移動が断たれた場合に、上手側に堆積した土砂を、下手側海岸に輸送・供給し、砂浜を復元する工法
注8 流れの下手側の海岸に堆積した土砂を、侵食を受けている上手側の海岸に戻し、砂浜を復元する工法
注9 http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/
注10 http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む