第4節 健全な水循環系の構築

4 下水道整備の推進による快適な生活の実現

 下水道は、汚水処理や浸水対策によって都市の健全な発展に不可欠な社会基盤であり、近年は、低炭素・循環型社会の形成や健全な水循環の形成等の新たな役割が求められている。

(1)下水道による汚水処理の普及

 汚水処理施設の普及率は平成23年度末において、全国で約88%(下水道の普及率は約76%)になった(東日本大震災の影響により、調査対象外とした岩手県、福島県を除いた45都道府県の集計データ)ものの、地域別には大きな格差がある。特に人口5万人未満の中小市町村における汚水処理施設の普及率は約74%(下水道の普及率は約48%)と低い水準にとどまっている。今後の下水道整備においては、人口の集中した地区等において重点的な整備を行うとともに、地域の実状を踏まえた効率的な整備を推進し、普及格差の是正を図ることが重要である。

 
図表II-8-4-4 都市規模別下水道処理人口普及率(平成23年度末)
図表II-8-4-4 都市規模別下水道処理人口普及率(平成23年度末)
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1)効率的な汚水処理施設整備のための事業連携
 汚水処理施設の整備については、一般的に人家のまばらな地区では個別処理である浄化槽が経済的であり、人口密度が高くなるにつれて、集合処理である下水道や農業集落排水施設等が経済的となるなどの特徴がある。このため、整備を進めるに当たっては、経済性や水質保全上の重要性等の地域特性を十分に反映した汚水処理に係る総合的な整備計画である「都道府県構想」が各都道府県において策定されている。近年の人口減少傾向も踏まえ、より効率的な汚水処理施設整備のため、都道府県構想の早急な見直しを推進している。また、広域的な汚泥処理等、他の汚水処理施設との連携施策の導入による効率的な整備についても積極的に推進している。

 
図表II-8-4-5 下水道計画の見直しと重点的な整備
図表II-8-4-5 下水道計画の見直しと重点的な整備

2)下水道クイックプロジェクト
 本プロジェクトは、人口減少や厳しい財政事情を踏まえ、従来の技術基準にとらわれない地域の実状に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備が可能な新たな整備手法を、有識者らにより構成される委員会において性能等の検証を行いながら、地域住民協力の下、広く導入を図るものである。平成24年度までに14市町村で社会実験を実施し、「工場製作型極小規模処理施設(接触酸化型)」等の6つの技術については有効性が認められたため、当技術を利用するに当たっての手引書を取りまとめている。また、他の技術についても全国で活用可能となるよう、検証・評価を進めている。

 
図表II-8-4-6 下水道クイックプロジェクト実施事例(極小規模処理施設:岩手県二戸市)
図表II-8-4-6 下水道クイックプロジェクト実施事例(極小規模処理施設:岩手県二戸市)

(2)下水道事業の持続性の確保

1)適正なストック管理
 下水道整備の進展に伴い増大している下水道施設(管路延長約44万km処理場約2,200箇所)の適正な維持管理・改築更新が重要である。老朽化を放置すれば、下水処理機能の停止により日常生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれがある。また、管路施設の老朽化や硫化水素による腐食等に起因する道路陥没は、小規模なものが主であるが、平成23年度には約4,700箇所で発生している。下水道の機能を将来にわたって維持・向上し、また、必要となる費用の最小化あるいは平準化を図るため、予防保全管理を実践したストックマネジメントの導入を推進する必要がある。そのため、効率的な管路点検調査手法や包括民間委託の導入検討等を行うとともに、耐震化等の機能向上や長寿命化対策を含めた計画的な改築を推進している。

2)経営基盤の強化
 下水道事業の経営は、汚水処理費(公費で負担すべき部分を除く)を使用料収入で賄うことが原則であるが、事業の初期段階でまとまった費用が必要であり、面整備の進展とともに収入が安定する事業の性格上、構造的に資金不足が生じる場合もある。したがって、個々の事業においては、短期的な視点ではなく、施設の耐用年数を考慮した長期的な視点で収支状況を見ることが必要である。このため、「下水道経営健全化のための手引」等により、各市町村における下水道経営健全化に向けた取組みを推進している。

3)民間委託の推進と技術力の確保
 下水処理場等の維持管理業務について、包括的民間委託注1の更なる推進に向けて、導入のための環境整備等の取組みを実施している。また、地方公共団体の要請に基づき、下水道施設の建設・維持管理等の効率化のための技術的支援、地方公共団体の技術者養成、技術開発等を地方共同法人日本下水道事業団が行っている。

(3)下水道による地域の活性化

 下水道整備による適切な汚水処理の実施や、良好な水環境の保全・創出により、地域の定住促進や産業・観光振興が図られるとともに、高度処理による再生水等を利用した水辺空間の創出、住民等による親水空間の維持管理を通じた地域活動の活性化、下水処理場の上部空間利用、下水熱による地域冷暖房、バイオガスのエネルギー活用等、下水道資源の有効活用により、下水道は多面的に地域活性化に貢献している。

(4)下水道分野の環境教育の推進

 小学校教員の方々と下水道行政担当者によるワーキンググループにより、授業で使いやすい下水道を活用した学習指導案を作成し、これら下水道教材を教員の方々が自由に利用できるように、「循環のみち下水道環境教育ポータルサイト注2」を通じて提供している。また、各小中学校における下水道に関する環境教育の実施に必要な経費の助成を行っている。

 
図表II-8-4-7 下水道分野の環境教育
図表II-8-4-7 下水道分野の環境教育


注1 施設管理について放流水質基準の順守等の一定の性能の確保を条件として課しつつ、運転方法等の詳細については民間事業者に任せることにより、民間事業者の創意工夫を反映し、業務の効率化を図る発注方式
注2 http://www.jswa.jp/kankyo-kyoiku/index.html


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