◯1 災害に強い安全な国土づくり・危機管理に備えた体制の充実強化
(1)南海トラフ巨大地震、首都直下地震への対応
南海トラフ巨大地震により、関東から九州の広範囲において、強い揺れが発生し、巨大な津波が短時間で沿岸域に襲来することが想定されている。死者は最大で32万人にのぼり交通インフラの途絶や沿岸の都市機能の麻痺等の深刻な事態が発生する。また、首都直下地震により、首都圏全域で強い揺れが発生することが想定されている。建物の倒壊や火災が発生し、密集市街地で甚大な人的被害が生じるとともに、政治・経済・行政の中枢機能が被災することで、国民生活や経済活動にも甚大な影響が発生する。現地での対策の担い手となる国土交通省においては、省の総力をあげてこれらの事態に対処すべく、平成25年7月に国土交通省南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部を立ち上げ、26年4月1日に首都直下地震対策計画及び南海トラフ巨大地震対策計画を策定した。また、南海トラフ巨大地震については、地方ブロックごとに、より具体的かつ実践的な地域対策計画を策定した。
(2)気候変動への対応
地球温暖化の進行に伴い海面水位の上昇、大雨の頻度増加、強い台風の増加等が予測されており、これにより水害、土砂災害、高潮災害等が頻発、激甚化するとともに、降水量の変動幅が拡大することに伴う渇水の頻発や深刻化が懸念されている。また、近年、現況の治水安全度や計画規模を上回る外力により災害が頻発している。最近の多様な被害形態を有する災害や、地球温暖化に関する新たな知見等を踏まえ、「社会資本整備審議会河川分科会気候変動に適応した治水対策検討小委員会」において、今後取り組むべき適応策のあり方について検討を行うなど、関係する主体が連携して取組みを進めていく。
(3)水害対策
我が国の大都市の多くは洪水時の河川水位より低い低平地に位置しており、洪水氾濫に対する潜在的な危険性が極めて高い。これまで、洪水を安全に流下させるための河道の拡幅、築堤、放水路の整備や、洪水を一時的に貯留するダム、遊水地等の治水対策を進めてきたことにより、治水安全度は着実に向上してきている。しかしながら、台風第18号による由良川、桂川での氾濫や山口県・島根県での集中豪雨による被害など、各地で水害が発生している。頻発する集中豪雨等による被害を防止・軽減するため、予防的な治水対策や再度災害防止対策を引き続き推進するとともに、「国土交通省水災害に関する防災・減災対策本部」を設置し、地下街・地下鉄等における浸水対策の推進や水防体制の強化、タイムライン(防災行動計画)の作成など、ハード・ソフト施策を適切に組み合わせた防災・減災対策をより一層推進する。
図表II-7-2-1 平成15年〜24年 水害・土砂災害の発生件数
1)予防的な治水対策
大規模な水害が発生すると、人的、経済的被害が発生するなど、社会経済活動に大きな影響を与え、その復旧・復興には、多大な時間と費用を要することから、それを未然に防止する予防的治水対策が重要である。そのため、築堤、河道掘削、ダム、放水路等の治水施設の整備を計画的に実施している。また、既設ダムの再開発や複数ダムにおける容量再編等のダム再生技術を活用した既存施設の有効活用にも取り組んでいる。さらに、既設の堤防については、洪水時における浸透破壊や侵食に対して安全性が不十分なものについて、強化対策を推進している。
また、「人口が集中した区域で、堤防が決壊すると甚大な人的被害が発生する可能性が高い区間」においては、まちづくり事業と一体となって、地域住民の人命を守る安全で良好な住環境を形成するとともに、河川から離れた地域の安全度も高めるため、施設の計画規模を上回る洪水に対しても決壊しない高規格堤防の整備を実施している。
図表II-7-2-2 治水安全度等の国際比較
2)水害の再度災害防止対策
近年、甚大な水害を受けた地域においては、同規模の洪水で再び被災することがないよう、河川の流下能力を向上させるための河道掘削や築堤等の実施、内水氾濫を防ぐための排水機場の整備等の対策を短期集中的に実施し、浸水被害の防止、軽減に努めている。
3)流域の特性等を踏まえた様々な治水対策
流域の開発に伴う治水安全度の低下が著しい河川や、従来から浸水被害が著しい既成市街地の河川においては、流域の持つ保水、遊水機能の確保が重要である。このような河川では流域対策の推進を図るなど、地域の特性を踏まえた多様な手法により安全・安心の確保を図っている。
(ア)総合的な治水対策
近年、流域の都市開発による不浸透域の拡大に伴う洪水時の河川への流出量の増大等により、治水安全度の低下が著しい都市河川においては、河川の整備に加えて流域の持つ保水・遊水機能の確保、災害の発生のおそれのある地域での土地利用の誘導及び警戒避難体制の確立等の総合的な治水対策が重要である。その一環として雨水貯留施設の整備を促進するため、流域貯留浸透事業、税制措置等により、地域の関係主体が一体となって、雨水の流出抑制や民間による被害軽減対策を推進している。
さらに、都市部において浸水による都市機能の麻痺や地下街の浸水被害を防ぐため、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づき、河川管理者、下水道管理者及び地方公共団体が協働して、雨水貯留浸透施設の整備、雨水の流出の抑制のための規制等の流域水害対策を推進している。
(イ)局地的な大雨(ゲリラ豪雨)への対応
近年、短時間の局地的な大雨等により浸水被害が多発していることから、計画を超えるような局地的な大雨に対しても住民が安心して暮らせるよう、河川と下水道の整備に加え、住民(団体)や民間企業等の参画の下、浸水被害の軽減を図るために実施する総合的な取組みを定めた計画を「100mm/h安心プラン」として登録し、浸水被害の軽減対策を推進する取組みを実施している。
図表II-7-2-3 富山県高岡市における100mm/h安心プランに基づく対策事例
(ウ)土地利用と一体となった治水対策
近年、浸水被害が著しい地域であり、土地利用状況等により、連続した堤防を整備することに比べて効率的かつ効果的な場合には、輪中堤注1の整備等と災害危険区域の指定等による土地利用規制とを組み合わせる土地利用と一体となった治水対策を地方公共団体等と協力して推進している。
(エ)内水対策
内水氾濫による浸水を防除し都市等の健全な発達を図るため、下水管きょや排水機場等の整備を進めている。しかしながら、近年、計画規模を上回る局地的な大雨等の多発、都市化の進展による雨水流出量の増大、人口・資産の集中や地下空間利用の拡大等による都市構造の高度化等により都市部等における内水氾濫の被害リスクが増大している。このため、下水道浸水被害軽減総合事業や総合内水緊急対策事業等を活用し、地方公共団体・関係住民等が一体となって、雨水流出抑制施設を積極的に取り入れるなどの効率的なハード対策に加え、降雨情報の提供、土地利用規制や内水ハザードマップの作成等のソフト対策、止水板や土のう等の設置や避難活動といった自助の取組みを組み合わせた総合的な浸水対策を推進している。
4)水防体制の強化
都道府県や水防管理団体と連携し、出水期前に堤防等の合同巡視や情報伝達訓練、水防技術講習会、水防演習等を実施し、水防上、特に注意を要する箇所の周知や水防技術の習得を図るなど、人命と財産を守り、被害を最小限にとどめるための水防体制の強化に向けた支援を行っている。
全国各地で豪雨災害が多発する一方、水防団員の減少等による地域の水防力の弱体化が進む中、多様な主体の参画により地域の水防力の強化を図るため、平成25年6月に「水防法」を改正し、1)河川管理者と水防の連携強化、2)浸水想定区域内の地下街等、要配慮者利用施設、大規模工場等における自主的な避難確保・浸水防止計画の取組みの推進、3)水防協力団体の指定対象及び業務内容の拡大などについて規定した。
5)洪水時の予報・警報の発表や河川情報の提供
国土交通大臣又は都道府県知事は、流域面積が大きい河川で洪水によって国民経済上重大又は相当な損害が生じるおそれのある河川を洪水予報河川として指定し、気象庁長官と共同して水位又は流量を示した洪水予報(氾濫注意情報・氾濫警戒情報、氾濫危険情報、氾濫発生情報)の周知等を行っている。また、洪水予報河川以外の主要な河川を水位周知河川として指定し、洪水時に避難判断水位(特別警戒水位)への到達情報の周知等を行っている。平成26年3月末現在、洪水予報河川は417河川、水位周知河川は1,555河川が指定されている。
河川の水位、雨量、洪水予報、水防警報等の河川情報をリアルタイムに収集、加工、編集し、ウェブサイト「川の防災情報」注2において、河川管理者、市町村、住民等に提供を行っており、洪水時の警戒や避難等に役立てられている。
また、放送局等と協力して地上デジタルテレビのデータ放送により、河川の水位や雨量情報を提供する取組みを進めており、26年3月までに全国50放送局にて提供が開始されている。雨量観測に当たっては、従来のレーダ雨量計(Cバンドレーダ)・地上観測網に加え、近年増加する集中豪雨や局地的大雨による水害や土砂災害等に対して、適切な河川管理や防災活動等に役立てるために、リアルタイムでより詳細な雨量観測が可能なXRAIN(国土交通省XバンドMPレーダネットワーク)注3の整備を行っている。インターネット上でも雨量情報の提供を行っており、26年3月末現在、35基での観測体制を構築している。
6)浸水想定区域の指定
洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、「水防法」に基づき、河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域(浸水想定区域)を指定し、想定される浸水の深さ等を公表している。
また、洪水が発生した場合でも住民が適切な避難行動をとることができるよう、洪水予報や水位到達情報の伝達方法、避難場所その他避難の確保を図るために必要な情報等を住民に周知するため、市町村に対する洪水ハザードマップ作成や周知の技術的支援や、国土交通省のホームページ上に全国の洪水ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注4の開設を行っている。
浸水想定区域については、洪水予報河川及び水位周知河川の約98%において指定・公表済みであり、洪水ハザードマップについては、浸水想定区域を含む市町村の約97%で作成済みである(平成26年3月末現在)。
25年6月の「水防法」の改正により、浸水想定区域において、市町村地域防災計画に定められた地下街等、要配慮者利用施設、大規模工場等の所有者又は管理者が自衛水防の取組みとして避難確保・浸水防止計画の作成、訓練の実施、自衛水防組織の設置を行うこととなった。国土交通省では、地域の水防力の強化を図るため、同法に規定する浸水防止計画に基づき取得した浸水防止用設備に係る税制上の支援のほか、全国の地方整備局等の河川関係事務所に設置した災害情報普及支援室を相談窓口として事業者等による自衛水防の取組みに対する支援を行っている。
7)河川の戦略的な維持管理
整備された河川管理施設等が洪水時等に本来の機能を発揮することができるよう、河川や施設等の状況を把握し、その変化に応じた適切な維持管理を実施している。
これまで河川整備が進められてきた中で、堤防、堰、水門、排水機場等の管理対象施設が増大し、更にそれら構造物の経年劣化等が進行している。このような状況下で、「河川砂防技術基準維持管理編(河川編)」に基づいて計画的に維持管理を進めていくこととしている。また、河川構造物については、点検等により、劣化状態やその進行を監視して適切な時期に対策を行う状態監視型の保全手法への移行を図りつつ、計画的に施設の長寿命化や更新を図ることとしており、社会資本整備重点計画において、国の管理する主要な河川構造物すべてについて、平成28年度までに長寿命化計画を作成することとしている。あわせて、長寿命化のために必要な技術開発等を進めていくとともに、都道府県等の管理河川についても適切な維持管理が進むよう、中小河川の技術基準に関する検討を連携して進めるとともに、各地方整備局等に常設の相談窓口を設け、技術支援等を行っている。
25年6月の「河川法」の一部改正に伴い、河川管理施設又は許可工作物の管理者が、河川管理施設又は許可工作物を良好な状態に保つよう維持、修繕すべきことを明確化するとともに、政令において多種多様な河川管理施設等の維持、修繕に関し、管理者が共通して遵守すべき最低限の技術的基準が定められたところである。
8)河川における不法係留船対策
河川における不法係留船は、治水対策上の支障(河川工事実施の支障、洪水時の流下阻害、河川管理施設の損傷等)やその他の河川管理上の支障(燃料漏出による水質汚濁、河川利用の支障等)の原因となっている。このような不法係留船については、適法な係留施設への移動の指導、撤去を進めている。
平成25年5月には、放置艇(不法係留船)の解消に向けて「プレジャーボートの適正管理及び利用環境改善のための総合的対策に関する推進計画」を策定した。25年12月には河川法施行令を改正し、河川に船舶等を放置する行為を禁止した。(施行は26年4月1日)
(4)土砂災害対策
我が国は急峻で複雑かつ脆弱な地質が広く分布していることから土石流、地すべり、がけ崩れの土砂災害危険箇所は約52万箇所存在し、集中豪雨や地震等に伴う土砂災害が、過去10年(平成16年〜25年)の年平均で約1,000件以上発生しており、多大な被害が生じている。また、自然災害による犠牲者のうち、土砂災害によるものが大きな割合を占めている。このため、特に対策の必要な重点箇所に対する砂防施設整備や、自助、共助、公助による安全かつ的確な警戒避難体制の整備等、土砂災害による犠牲者を減らすための、ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策を推進している。
1)根幹的な土砂災害対策
荒廃した山地を源流域に持つ河川は、そこから流れ出す土砂により、流域全体にわたり甚大な被害をもたらすおそれがある。このような土砂災害から国土を保全し、人命保護を図るため、砂防関係施設の整備を推進している。
2)土砂災害発生地域における緊急的な土砂災害対策
土砂災害発生箇所及び周辺地域を含めた集中的な砂防関係施設の整備により、近年、甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進している。
3)災害時要援護者を守る土砂災害対策
病院、老人ホーム、幼稚園等の災害時要援護者関連施設が存在する土砂災害危険箇所について、砂防堰堤等の土砂災害防止施設を重点的に整備している。
また、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)」に基づき、土砂災害特別警戒区域等内への災害時要援護者関連施設等に係る開発行為の制限等を実施している。
図表II-7-2-4 土砂災害による死亡・行方不明者に占める災害時要援護者の割合(平成21〜25年)
4)市街地に隣接する山麓斜面における土砂災害対策
土砂災害の起こりやすい山麓に隣接する市街地に対し、土砂災害の防止及び緑豊かな生活環境の創出を目指して健全な樹林帯(グリーンベルト)を保全、育成することにより、安全で自然豊かな都市空間を創出している。
5)地域防災力向上に資する土砂災害対策
土砂災害により社会・経済的に壊滅的な被害が生じやすい中山間地域において、各集落における警戒避難体制の強化や、人命保全上、重要な施設・防災基幹集落の保全を推進している。
6)土砂災害防止法の推進
(ア)土砂災害警戒区域等の指定の推進
「土砂災害防止法」に基づき、住民等の身体等に危害が生ずる土砂災害が発生するおそれのある土砂災害警戒区域を指定し、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、当該区域において、特定の開発行為の制限、建築物の構造規制等のソフト対策を講じている。また、警戒避難体制の整備やハザードマップの作成のためのガイドラインや事例集を示し、市町村の土砂災害に対する警戒避難体制やハザードマップの整備を促進している。
図表II-7-2-5 全国の土砂災害警戒区域等の指定状況(H26.3.31)
(イ)危険住宅の移転の促進
崩壊の危険があるがけ地に近接した危険住宅については、がけ地近接等危険住宅移転事業の活用等により移転を促進している。平成25年度は、この制度により危険住宅28戸が除却され、危険住宅に代わる住宅18戸が建設された。
7)大規模な土砂災害への対応
大規模な土砂災害はひとたび発生すれば甚大な被害となることが多く、災害の事象に応じた予防対策・災害対応を効率的に実施することが重要である。
深層崩壊に対しては、深層崩壊の危険度評価マップを用いた警戒避難体制の整備や予防的対策の検討に加え、振動センサーや衛星画像等の技術を駆使した監視、警戒システムの整備を進めている。
図表II-7-2-6 土砂災害警戒情報及び土砂災害警戒判定メッシュ情報
河道閉塞(天然ダム)、火山噴火に伴う土石流、地すべり等の災害が急迫している状況においては、市町村が適切に住民の避難指示の判断等を行えるよう、国土交通省や都道府県が緊急調査を行い、土砂災害が想定される土地の区域及び時期の情報を市町村に提供を行う必要があり、訓練などや関係機関との連携強化に努める。平成25年は、火山活動による降灰が顕著な桜島及び霧島山(新燃岳)、23年台風第12号に伴う豪雨による河道閉塞が継続している奈良県の熊野川(十津川)流域及び和歌山県の日置川流域で実施し、監視・観測情報を関係機関へ随時提供した。
8)土砂災害警戒情報の発表
大雨による土砂災害発生の危険度が高まった時に、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう、土砂災害警戒情報を都道府県と気象庁が共同で発表し、都道府県消防防災部局等を通じて市町村等に提供している。
(5)火山災害対策
1)活発な火山活動に伴う土砂災害への対策
噴火等の活発な火山活動に伴い発生する火山泥流、火砕流、降雨による土石流などによる火山災害に備え、被害を最小限にくい止めるため土石流を捕捉・抑制する砂防堰堤・床固工、土石流を安全に流下させる渓流保全工(導流工)や導流堤の整備を進めている。加えて継続的かつ大量の土砂流出により適正に機能を確保することが著しく困難な設備は、除石等を行い機能の確保に努めている。また、火山地域は脆弱な地質であり、平成25年台風第26号で甚大な被害が発生した伊豆大島のように降雨による土砂災害発生の恐れも高いことから、砂防堰堤などの施設整備を推進している。
火山泥流等は大規模な土砂災害となる傾向があるが、あらかじめ噴火位置や規模を正確に予測することが困難である。このため、前述の施設も活用しつつ、火山噴火時の減災を図るため、想定される火山活動と影響範囲の推移に応じた機動的な対応を円滑に実施するための「火山噴火緊急減災対策砂防計画」の策定を、火山活動が活発かつ社会的影響が大きい29火山について進めている。また、火山活動から住民等の円滑な避難が行えるよう、市町村が策定する「火山防災マップ」の作成支援を行う。
2)気象庁における取組み
火山噴火災害の防止と軽減のため、全国の火山活動の監視を行い、噴火警報等の迅速かつ的確な発表に努めている。特に「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山については、観測施設を整備し、24時間体制で火山活動を監視している。
また、各火山の火山防災協議会における避難計画の共同検討を通じて、噴火警戒レベル(平成26年3月末現在30火山で運用中)の設定・改善を進めている。
図表II-7-2-7 「火山防災のために監視・観測体制の充実が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山における火山ハザードマップ、リアルタイム火山砂防ハザードマップ、噴火警戒レベルの整備状況
3)海上保安庁における取組み
海域火山噴火の前兆として、周辺海域に認められる変色水等の現象を観測し、航行船舶に情報を提供している。また、海域火山噴火予知の基礎資料とするため、総合的な調査を実施し、海底地形、地質構造等の基礎情報の整備を行うとともに、伊豆諸島海域においてGNSS連続観測を実施し、地殻変動を監視している。
平成25年11月に39年振りに噴火を開始した西之島火山については、航空機により火山活動と島の変化の状況を継続して監視している。
4)国土地理院における取組み
(ア)火山活動観測・監視体制の強化
全国の活動的な火山において、電子基準点(GNSS注5連続観測施設)、自動測距測角装置等の火山変動測量やGNSS火山変動リモート観測装置(REGMOS)等による機動観測を実施し、地殻の三次元的な連続監視を行っている。さらに、他機関のGNSS観測データを合わせた統合解析を実施し、火山周辺の地殻のより詳細な監視を行っている。
図表II-7-2-8 GNSS連続観測がとらえた日本列島の動き
(イ)火山噴火等に伴う自然災害に関する研究等
GNSS、干渉SAR注6による地殻変動観測により火山活動のメカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。
(6)高潮・侵食等対策
1)高潮・高波対策の推進
頻発する高潮や風浪による高潮・高波災害等から人命や財産を守るため、海岸堤防等の整備・補修や水防警報の発令等ハード・ソフト両面から施策を進めている。
2)海岸侵食対策の推進
様々な要因により全国各地で海岸侵食が生じていることから、河川、海岸、港湾、漁港の各管理者間で連携し、サンドバイパス注7やサンドリサイクル注8等による対策を進めている。
3)高潮にかかる防災情報の提供
市町村の防災担当者がより的確に防災対応を実施できるよう、気象庁では高潮警報等を市町村単位で発表している。
また、東日本大震災により地盤沈下が発生した地域の被災者や復興作業を支援するため、天文潮位(潮位の予測値)をまとめた「毎時潮位カレンダー」の公開等、高潮に関する情報提供を行っている。
(7)津波対策
1)津波対策の推進
南海トラフ巨大地震等による大規模な津波災害に備え、最大クラスの津波に対してはハードとソフトの施策を組み合わせた多重防御による津波防災地域づくりを進めており、津波浸水想定の設定や津波災害警戒区域等の指定、避難計画の立案等において地方公共団体を支援してきている。
また、東日本大震災を教訓に、関係省庁と連携し、ハザードマップの作成マニュアルの見直しを進めている。
比較的発生頻度の高い津波を対象に必要な海岸堤防等を整備するほか、耐震対策を進めている。その際、津波が天端を越流した場合でも堤防の効果が粘り強く発揮できるような構造の海岸堤防、防波堤等の整備を推進し、また、人口・機能が集積する三大湾の港湾においては比較的発生頻度の高い津波を想定した防護水準の確保を検討し、さらに、水門・陸閘等の管理運用体制の構築や自動化・遠隔操作化を促進する。
また、防災・減災対策の強化及び適切な海岸管理を進めるため、「海岸管理のあり方検討委員会」を開催し、平成26年1月に今後の海岸管理のあり方を取りまとめた。
港湾においては、大規模地震が発生した際にも港湾機能を維持するため、津波来襲時の大型船の待避場所の確保、重要な拠点に至る航路機能の確保などの事前防災・減災対策を推進している。
さらに、全国の「港則法」の特定港(86港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており、関係機関の協力の下、各港において船舶津波対策の充実を図っている。
河川津波対策については、東日本大震災における堤防の液状化や津波の河川遡上による被害、水門操作員の被災等を踏まえ、河川堤防のかさ上げ、堤防等の耐震・液状化対策、水門等の自動化・遠隔操作化等を引き続き推進していく。
また、東北地方における4つの水系について、東日本大震災の教訓を踏まえた地震・津波対策の考え方や、地震に伴う地盤沈下等による河口周辺の地形変化を踏まえ、変更を行った河川整備基本方針、同基本方針に沿って策定・変更を行った河川整備計画に基づき地域と連携しつつ、河口部の河川堤防の整備等、地域の復興・まちづくりに向けた取組みを推進していく。
空港の津波対策については、南海トラフ巨大地震等による大規模な津波災害に備え、津波被災の可能性のある空港で、人命保護のため津波発生時の空港利用者等の避難方法等を定めた津波避難計画を策定し、計画に基づく津波避難訓練等の取組みを引き続き実施していく。また、津波被災後に空港機能を早期に復旧するための計画を策定し、計画に基づく関係機関との協力体制構築等の取組みを推進していく。
鉄道の津波対策については、東日本大震災における、津波発生時の避難誘導などの状況を検証するとともに、南海トラフ巨大地震等による最大クラスの津波からの避難の基本的な考え方(素早い避難が最も有効かつ重要な対策であること等)を踏まえた津波発生時における鉄道旅客の安全確保への対応方針と具体例等を取りまとめ、鉄道事業者における取組みを推進している。
2)津波にかかる防災情報の提供
津波による災害の防止・軽減を図るため、気象庁は、全国の地震活動を24時間体制で監視し、津波警報、津波情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。また、東日本大震災によって明らかになった課題を受け、気象庁は、マグニチュード8を超える巨大地震の場合には「巨大」という言葉を使った大津波警報で非常事態であることを伝えるなど、新しい津波警報等を平成25年3月より運用している。
26年3月末現在、気象庁は、東北地方太平洋沖に設置した3箇所のブイ式海底津波計を含め、36箇所の海底水圧計、16箇所のGPS波浪計、172箇所の沿岸の津波観測点を監視し、津波警報の更新や津波情報等に活用している。
さらに、国土交通省では関係省庁と連携し、南海トラフ巨大地震等の大規模災害対策の1つとして津波・高潮ハザードマップの作成マニュアルや事例集を示している。
船舶の津波対策に役立てるため、海上保安庁では、南海トラフ巨大地震の新しい想定(24年8月:内閣府)に基づいて、港湾域において予想される津波の挙動を示した津波防災情報図を作成・提供している。
3)津波避難対策
将来、南海トラフ巨大地震をはじめとする巨大地震の発生による津波被害が懸念されることから、都市計画の基礎的なデータを活用した避難施設等の適正な配置を行うための方法を取りまとめた技術的な指針を策定し、平成25年6月に公表した。
港湾の津波避難対策については、堤外地で活動する就労者等が津波等の災害時に安全に避難・退避できるよう、港湾の特殊性を考慮した津波避難対策のあり方の検討を行い、「港湾の津波避難対策に関するガイドライン」の策定を行った。また、地方自治体が整備する津波避難施設についは、防災・安全交付金等の活用により、整備の促進を図っている。引き続き港湾における津波避難対策の取り組みを推進していく。
4)津波被害軽減の機能を発揮する公園緑地の整備
東日本大震災の教訓を踏まえ、地方公共団体が復興まちづくり計画の検討等に活用できるよう「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」を平成24年3月に取りまとめ、公園緑地が多重防御の1つとしての機能、避難路・避難地としての機能、復旧・復興支援の機能、防災教育機能の4つの機能を有するものとし、減災効果が発揮されるための公園緑地の計画・設計等の考え方を示している。
5)官庁施設における津波対策
官庁施設は、災害応急対策活動の拠点施設として、あるいは、一時的な避難場所として、人命の救済に資するものであるため、津波等の災害発生時において必要な機能を確保することが重要である。
平成25年2月に社会資本整備審議会より「大津波等を想定した官庁施設の機能確保の在り方について」が答申され、本答申で示されたハード・ソフトの対策の組み合わせによる津波対策の考え方を踏まえ、営繕関係基準類の改定等を行った。官庁施設を運用管理する機関と連携しつつ、総合的かつ効果的な津波対策を推進している。
(8)地震対策
1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
平成25年11月に施行された改正「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に基づき、住宅や多数の人が利用する建築物の耐震化率を27年までに少なくとも9割、住宅の耐震化率を32年までに95%とする目標を定めるとともに、不特定多数の人が利用する大規模建築物等に対する耐震診断結果の報告の義務付け、建築物の耐震性に係る表示制度の創設等により耐震化の促進を図っている。
住宅・建築物の耐震化に係る補助については、社会資本整備総合交付金等により支援を実施しているが、25年度からは、診断義務付け対象建築物について、通常の支援に加え、重点的かつ緊急的に支援する仕組みを実施している。
2)宅地耐震化の推進
大地震時における大規模盛土の滑動崩落による被害を軽減するため、新規盛土宅地については、改正「宅地造成等規制法」等により技術基準を強化している。また、既存宅地については、滑動崩落や液状化による被害を防止するため、宅地耐震化推進事業により、変動予測調査や防止対策の地方公共団体等への支援等を実施している。
3)被災地における宅地の危険度判定の実施
宅地において、二次災害を防止し、住民の安全確保を図るため、被災後に迅速かつ的確に危険度判定を実施できるよう業務マニュアルを整備するなど、都道府県・政令市から構成される被災宅地危険度判定連絡協議会と協力して体制整備を図っている。
4)密集市街地の改善整備
防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な改善整備は喫緊の課題である。住生活基本計画(全国計画)において、「地震時等に著しく危険な密集市街地」の面積(全国約6,000ha)を平成32年度までにおおむね解消することとしている。
この実現に向け、幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と合わせた耐火建築物等への共同建替え、避難や消防活動の向上を図る狭あい道路の拡幅等のきめ細かな対策等による密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。
図表II-7-2-9 密集市街地の整備イメージ
5)オープンスペースの確保
防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点、生活物資等の中継基地等となる防災拠点や周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容し、市街地火災等から避難者の生命を保護する避難地等として機能する防災公園等の整備を推進している。また、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を新川防災公園(東京都三鷹市)等6地域で実施している。
6)防災拠点となる官庁施設等の整備の推進
官庁施設については、来訪者等の安全を確保するとともに、大規模地震発生時に災害応急対策活動の拠点施設として機能を十分に発揮できるよう、総合的な耐震安全性を確保する必要がある。このため、官庁施設の耐震化の目標を定め、計画的かつ重点的に整備を推進しており、平成25年度は神戸地方合同庁舎の耐震改修等を実施している。
7)公共施設等の耐震性向上
河川事業においては、いわゆるレベル2地震動においても堤防、水門等の河川構造物が果たすべき機能を確保するため、耐震照査を実施するとともに、必要な対策を推進している。
海岸事業においては、津波到達前に機能を損なわないよう、大規模地震対策地域において耐震対策を推進している。
道路事業においては、地震による被災時に円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送を確保するため、緊急輸送道路等の重要な道路について、橋梁の耐震補強対策や無電柱化を実施している。また、無電柱化については、平成25年6月の道路法等の改正により、緊急輸送道路等の防災上重要な道路において、道路管理者が占用の禁止・制限ができる制度や、国が地方公共団体を通じて電線管理者に対して無利子貸付できる制度を創設した。
港湾事業においては、南海トラフの地震や首都直下地震等の甚大な被害が想定される災害に対し、機能不全に陥らない経済社会システムを確保し、我が国の競争力を向上させ、国際的な信頼を獲得するため、災害の切迫性や港湾機能の重要度に応じて国内外の広域ネットワークの拠点となる港湾施設の耐震・耐津波性の向上やコンビナート港湾の強靱化を図っている。
空港事業においては、地震等被災時に救急・救命活動や緊急輸送の拠点となるとともに、航空ネットワークの維持、背後圏経済活動の継続性確保において重要と考えられる航空輸送上重要な空港等において、必要な管制機能を確保するための庁舎等及び最低限必要となる基本施設等の耐震化等を実施している。
鉄道事業においては、南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模地震に備えて、主要駅や高架橋等の鉄道施設の耐震対策を推進している。また、本州四国連絡橋(本四備讃線)の耐震補強を着実に実施し、南海トラフ地震等による被害を回避・軽減するとともに、本州と四国を結ぶ鉄道ネットワークの確保を図る。
下水道事業においては、地震時においても下水道が果たすべき機能を確保するため、防災拠点等と処理場とを接続する管きょや水処理施設等の耐震化・耐津波化を図る「防災」と、被災を想定して被害の最小化を図る「減災」を組み合わせた総合的な地震対策を推進している。
8)大規模地震に対する土砂災害対策
南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模地震に備え、地震により崩壊する危険性が高く、防災拠点、重要交通網、避難路等への影響、孤立集落発生の要因等が想定される土砂災害危険箇所について、土砂災害防止施設の整備、警戒避難体制の整備等、ハード・ソフト一体となった効果的な土砂災害対策を推進する。また、地震後の降雨等に伴う二次災害の発生に備え、土砂災害防止施設・危険箇所および河道閉塞等の土砂災害発生箇所等について、斜面崩壊等による被害想定箇所に関するリスク評価に基づき、地震発生後、緊急的に重点的な点検・調査を行い、崩壊等が確認された場合には迅速な応急対策を行う体制の構築を推進する。
9)気象庁における取組み
地震による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動及び地震防災対策強化地域にかかる地殻変動を24時間体制で監視し、緊急地震速報、地震情報、東海地震に関連する情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。
緊急地震速報については、東日本大震災での経験を踏まえ、より適切に情報発表できるよう、地震観測点の電源・通信回線の強化を行うとともに、予想精度の向上や情報発表の迅速化を図るため、計算システムのソフト改修、関係機関が海域や地中深くに設置した地震計のデータを計算システムに取り込む準備等を進めている。
また、長周期地震動による人的・物的被害の早期把握といった地震直後の初動対応に資する有効な情報を提供するため、平成25年3月より、長周期地震動に関する観測情報を試行的に発表している。さらに、長周期地震動に関する予報の技術的検討を開始したところである。
10)海上保安庁における取組み
巨大地震発生メカニズムの解明のため、海溝型巨大地震の発生が将来予想されている南海トラフ等の太平洋側海域において、海底地殻変動を観測している。また、沿岸域及び伊豆諸島において、GNSS観測による地殻変動を監視している。
11)国土地理院における取組み
(ア)地殻変動観測・監視体制の強化
全国及び地震防災対策強化地域等において、電子基準点等約1,300点によるGNSS連続観測、GNSS測量、水準測量等による地殻変動の監視を強化している。
(イ)地震に伴う自然災害に関する研究等
GNSS、干渉SAR、水準測量等測地観測成果から、地震の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。また、国土の基本的な地理空間情報及び過去の災害履歴や震度の情報を組み合わせて解析し、災害時における迅速な情報の取得・提供に関する研究開発を行っている。さらに、関係行政機関・大学等と地震予知に関する調査・観測・研究結果等の情報交換とそれらに基づく学術的な検討を行う地震予知連絡会、地殻変動研究を目的として関係行政機関等が観測した潮位記録の収集・整理・提供を行う海岸昇降検知センターを運営している。
12)帰宅困難者対策
大都市において大規模地震が発生した場合、都市機能が麻痺し東日本大震災以上の帰宅困難者が発生することが予想されることから、都市機能が集積した地域における避難者・帰宅困難者の安全確保のため、平成24年に都市再生安全確保計画制度を創設した。これは、全国で62の地域が指定されている都市再生緊急整備地域において、都市再生安全確保計画の作成や、都市再生安全確保施設に関する協定の締結、各種規制緩和等により、官民の連携による都市の防災性の向上を図る制度である。25年に、備蓄倉庫に対する課税の特例措置を創設するとともに、主要駅周辺における避難者・帰宅困難者の安全確保のための支援も可能となるよう予算措置の拡充を行った。
13)地下街の安心安全対策
都市内の重要な公共的空間である地下街は、大規模地震発生時に避難者等の混乱が懸念されるとともに、施設の老朽化も進んでいることから、利用者等の安心避難のための防災対策を推進するため、地下街の安心避難対策ガイドラインを策定した。
(9)雪害対策
1)冬期道路交通の確保(雪寒事業)
「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」に基づき、安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、平成25年11月に「積雪寒冷特別地域道路交通確保五箇年計画」を閣議決定するとともに、雪寒指定道路の見直しを行い、道路の除雪・防雪・凍雪害防止の事業(雪寒事業)を進めている。また、24年7月に北陸雪害対策技術センターを設置し、全国の雪害対策に関する研究・開発、人材育成、自治体等への支援、国民への情報提供・啓発を推進している。異常な降雪時において大型車の立ち往生等が発生した場合、引き続き流入する交通による著しい渋滞を防ぐため、各都道府県警察と連携の上、早い段階で通行止め措置を行い、除雪作業を集中的に実施することで、迅速に交通を確保することとしている。さらに、除雪状況等の情報の共有及び提供の一元化、除雪の効率化等を図るため、道路管理者等の関係機関による情報共有体制の整備を進めている。
2)豪雪地帯における雪崩災害対策
全国には、約21,000箇所の雪崩危険箇所があり、集落における雪崩災害から人命を保護するため、雪崩防止施設の整備を推進している。
3)消流雪用水導入事業の実施
豪雪地帯において、治水機能の確保と合わせ、水量の豊富な河川から市街地を流れる中小河川等に消流雪用水を供給するための導水路等の整備を実施している。
(10)防災情報の高度化
1)防災情報の集約
「国土交通省防災情報提供センター」注9では、国民が防災情報を容易に入手・活用できるよう、保有する雨量等の情報を集約・提供しているほか、災害対応や防災に関する情報がワンストップで入手できるようにしている。
2)ハザードマップ等の整備
災害発生時に住民が適切な避難行動をとれるよう、避難場所、避難経路等を住民にあらかじめ周知すべく市町村によるハザードマップの作成及び住民への配布を促進するとともに、全国の各種ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注10を開設している。
図表II-7-2-10 ハザードマップの整備状況
3)防災気象情報の改善
気象庁では、警報・注意報を市町村ごとに発表するとともに、竜巻・雷・降水に対して「ナウキャスト」という1時間先までの分布図形式の予報を発表し、携帯端末でも情報を確認できるようにしている。また、竜巻等の突風に対しては竜巻注意情報を発表し、注意を呼びかけている。
一方、平成23年台風第12号による紀伊半島の大雨災害では、気象庁は大雨警報等により重大な災害への警戒を呼びかけたものの、更に降り続く記録的な大雨によって災害発生の危険性が著しく高まっていることを有効に伝える手段がなく、市町村長による適時的確な避難勧告・指示の発令や住民の迅速な避難行動に必ずしも結びつかなかった。このため、25年5月に「気象業務法」を改正し、同年8月30日から「特別警報」の運用を開始した。同年9月16日には、台風第18号による福井県、滋賀県及び京都府の豪雨に対して、運用開始後初めて大雨特別警報を発表した。
(11)危機管理体制の強化
自然災害への対処として、災害に結びつくおそれのある自然現象の予測(気象庁)、災害時の施設点検・応急復旧等の対応(施設管理関係部局)、海上における救助活動(海上保安庁)等を行うとともに、職員の非常参集、災害対策本部の設置等の初動対応体制を構築しているところであるが、東日本大震災における災害対応を踏まえ、危機管理体制のさらなる強化を図ることとしている。また、被災した地方公共団体等に対して、国土交通省及び関係団体等が有する資機材、マンパワー、ノウハウ等を活用した支援等をより積極的に推進する。
1)TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)による災害対応
TEC-FORCEとは、大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、被災地方公共団体等が行う、被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施することを目的に平成20年度に設置されたものである。25年度は、7月の山口・島根豪雨、9月の台風第18号、10月の台風第26号による大島町土砂災害等に対して、被害を受けた41都道府県、113市町村へ約1,600名の隊員、延べ約6,100人・日を派遣し、発災直後から被災状況の把握や被害拡大防止などの技術的な支援を実施した。また、25年度は、TEC-FORCE創設以来最大の派遣回数を記録している。
2)業務継続体制の強化
政府全体の業務継続に関する計画(政府業務継続計画)が決定されたことを受け、国土交通省業務継続計画(第2版)について、これまでの取組みをフォローアップし、平成26年4月1日に国土交通省業務継続計画(第3版)を取りまとめた。さらに、物資の備蓄や本省の指示を待たず他の地域からの応援体制を確保(TEC-FORCEの即時出動)する等しながら、業務継続体制の強化を図っているところである。
3)災害に備えた情報通信システム・機械等の配備
災害時の情報通信体制を確保するため、国土交通本省、地方支分部局、関係機関等の間で、マイクロ回線と光ファイバを用いた信頼性の高い情報通信ネットワーク整備に加え、災害現場からの情報収集体制を強化するために衛星通信回線を活用した機動性の高いシステムを整備している。また、迅速な災害対応のために全国の地方整備局、事務所等に配備している防災ヘリコプター、衛星通信車、排水ポンプ車、照明車等の災害対策用機械の拡充を図り、大規模災害が発生した場合には、迅速に派遣できる体制をとっている。
4)実践的・広域的な防災訓練の実施
起こり得る最悪シナリオを想定し、関係機関との連携や全国の地方整備局からのTEC-FORCE派遣等の実践的な防災訓練を積極的に実施した。また、地域住民・企業、NPO等のより一層の参加促進、ハザードマップを活用した避難訓練を行うなど、より実践型、参加型の水防演習等を実施した。
さらに、東日本大震災では、大規模災害時における関係機関の連携の重要性があらためて認識されたため、地方支分部局等を中心とした指定地方行政機関、消防機関、自衛隊等、多数の団体が一体となった各種訓練を実施するなど、巨大地震等大規模災害に備えた広域的な防災体制の充実強化を図る取組みを進めている。
5)海上での初動対策の準備
海上保安庁では、災害発生時に迅速に対応できるよう巡視船艇・航空機を24時間体制で配備している。また、災害の規模に応じて対策本部等を設置し、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等を実施するなど、迅速かつ的確に対応している。
(12)ICTを活用した既存ストックの管理
光ファイバ網の構築により、ICTを活用した公共施設管理、危機管理の高度化を図っている。具体的には、光ファイバを活用した道路斜面の継続監視による管理の高度化、インターネット等を活用した防災情報の提供等、安全な道路利用のための対策を進めている。また、水門等の遠隔操作、河川の流況や火山地域等の遠隔監視のほか、下水処理場・ポンプ場等の施設間を光ファイバ等で結び、遠隔監視・操作を実施するなど、管理の高度化を図っている。
さらに、水門等の施設を迅速かつ一元的に操作し、津波・高潮被害の未然防止を図る津波・高潮防災ステーションの整備については、社会資本整備総合交付金等により支援している。
図表II-7-2-11 津波・高潮防災ステーションのイメージ図
(13)公共土木施設の災害復旧等
平成25年の国土交通省所管公共土木施設(河川、道路、海岸、下水道等)の被害は、山口・島根県を中心とした7、8月の豪雨や台風第18号、第26号等の大規模な災害が全国的に多発したことにより、約2,197億円(15,197箇所)が報告されている。
これらの自然災害による被害について、被災直後より現地にTEC-FORCE等を派遣し、迅速な復旧・復興及び二次災害防止に向けた技術的助言等を行った。
また、特に被害が集中した自治体に対し、早期復旧を支援するため、災害復旧の迅速化に向け、災害査定における総合単価の使用限度額を通常の1千万円未満から5千万円未満に拡大、実地によらず机上で査定できる限度額を通常の300万円未満から1千万円未満に拡大するなど、査定の簡素化を行うことにより、事業採択までの事務手続を大幅に短縮した。
さらに、台風第18号及び梅雨前線等に伴う豪雨、低気圧に伴う強風・豪雪・波浪、崖崩れ及び融雪等の自然災害により被害を受けた地区(30件)に災害対策等緊急事業推進費を執行し、住民の安全・安心の確保に資するため、緊急に再度災害防止対策等を実施した。
(14)安全・安心のための情報・広報等ソフト対策の推進
安全・安心の確保のために、自然災害を中心として、ハード面に限らずソフト面での対策の取組みを進めるため、「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に基づき、毎年、進捗状況の点検を行ってきたが、東日本大震災を受けて、ソフトとハードの調和的かつ一体的な検討が必要であることが顕在化したことから、社会資本整備重点計画・国土交通省防災業務計画の見直しを踏まえ、検討を行っている。
注1 住宅等がある区域の周囲を取り囲む堤防
注2
http://www.river.go.jp[インターネット版]、
http://i.river.go.jp[携帯版]
注3 既存のレーダに比べ、より高頻度(1分ごと)、高分解能(250mメッシュ)での観測が可能。また、これまで5〜10分程度かかっていた配信に要する時間を1〜2分に短縮。
注4
http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html
注5 Global Navigation Satellite Systems:全球測位衛星システム
注6 人工衛星で宇宙から地球表面の変動を監視する技術
注7 海岸の構造物によって砂の移動が断たれた場合に、上手側に堆積した土砂を、下手側海岸に輸送・供給し、砂浜を復元する工法
注8 流れの下手側の海岸に堆積した土砂を、侵食を受けている上手側の海岸に戻し、砂浜を復元する工法
注9
http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/
注10
http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html