◯7 道路交通における安全対策
平成25年の交通事故死者数は、13年連続で減少し、4,373人(対前年比0.9%減)となったが、交通事故死者数の65歳以上の高齢者の割合が52%を超えるほか、78万人が交通事故で死傷しており、依然として厳しい状況である。このため、更なる交通事故の削減を目指し、警察庁等と連携して各種対策を実施している。
図表II-7-4-5 交通事故件数及び死傷者数等の推移
(1)効率的・効果的な交通事故対策の推進
近年、道路整備の進展や社会情勢の変化等を受けて、歩行者、自転車等の多様な利用者が安全に安心して共存できる道路環境が求められている。交通事故死者数の約7割を占めている幹線道路については、「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」により市民参加・市民との協働の下、効果的・効率的に事故対策を推進するなど、事故の危険性が高い箇所等について重点的に対策を実施している。
また、歩行者・自転車に係る死傷事故発生割合が大きい生活道路等において、安全な歩行空間の確保等を目的として、都道府県公安委員会と連携し、面的な速度規制と組み合わせた車道幅員の縮小、路側帯の拡幅、歩道整備、車両速度を抑制するような物理的デバイスの設置等の対策を行うなど、面的かつ総合的な交通事故抑止対策を推進している。
(2)通学路の交通安全対策の推進
通学路については、平成24年4月に相次いだ集団登校中の児童等の事故を受け、学校や教育委員会、警察等と連携した「通学路緊急合同点検」を実施しており、その結果に基づく対策への支援を重点的に実施している。
さらに、継続的な通学路の安全確保のため、市町村ごとの「通学路交通安全プログラム」の策定などにより、定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等の取組みを推進している。
(3)ITSスポットを活用した高速道路上における安全運転支援
平成23年8月より、全国の高速道路上においてITSスポットサービスを開始しており、事故多発地点、道路上の落下物等の注意喚起及び積雪や越波等の状況に関する情報を自動車のカーナビ等に提供することにより安全運転支援を推進している。
(4)安全で安心な道路サービスを提供する計画的な道路施設の管理
平成24年12月2日に、9名の尊い命が犠牲となった中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故が発生した。事故後の「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」において、落下の発生原因や再発防止策について報告書を25年6月18日に取りまとめた。
今後、橋梁等の道路構造物が急速に高齢化することを踏まえ、道路構造物の適切な管理のための基準類のあり方について調査・検討することを目的として、「道路メンテナンス技術小委員会」が設置され、点検、診断、修繕等の措置や長寿命化計画等の充実を含む維持管理のメンテナンスサイクルの構築について、中間取りまとめがなされた。
また、道路の適切な管理を図るため、点検を行うべきことの明確化や、道路構造物への影響が大きい大型車両の通行を誘導する道路を指定する制度の創設、制限違反車両の取り締まりの強化などを内容とする改正道路法を公布し、政令において、改築・修繕の代行の対象となる施設等はトンネル、橋等とすることや、道路の維持・修繕に関する技術的基準等を定めた。
橋梁・トンネルなどは、5年に1度、近接目視で点検する等、道路管理者の義務を明確化する省令を、26年3月31日に公布した。
さらに、26年4月14日に、社会資本整備審議会道路分科会においてとりまとめられた「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」を受けて、今後、メンテナンスサイクルの確定(道路管理者の義務の明確化)を図るとともに、メンテナンスサイクルを回す仕組みを構築することとしている。
(5)「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」の着実な実施
平成24年4月に発生した関越道高速ツアーバス事故を受けて、25年4月に「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」を策定し、高速ツアーバスの新高速乗合バスへの移行・一本化や交替運転者の配置基準の設定を既に実施したほか、その他の各措置についても25・26年度までの2年間にわたって迅速かつ着実に実施し、また、実施状況について随時フォローアップ・効果検証を行うことにより、バス事業の安全性向上・信頼の回復に向けた取組みを集中的に進めている。
(6)国際海上コンテナの陸上運送の安全対策
国際海上コンテナの陸上運送の安全対策を充実させるため、新たな「国際海上コンテナの陸上における安全輸送ガイドライン」等を取りまとめ、これに基づく取組みを平成25年8月より開始するとともに、実施状況等について安全対策会議でフォローアップすることとしている。
(7)自動車の総合的な安全対策
1)事業用自動車の安全対策
平成20年から30年までの10年間で、事業用自動車の事故死者数・人身事故件数の半減、飲酒運転ゼロを目標とする「事業用自動車総合安全プラン2009」に基づき、トラックにおける運行記録計の装着義務付け範囲拡大や運行管理の高度化に資する機器の導入支援等の安全対策を実施している。
2)今後の車両安全対策の検討
第9次交通基本計画(平成23年3月策定)においては、27年までに交通事故死者数を3,000人以下とする目標が設定されている。この交通事故削減目標の達成に向けて、「安全基準等の拡充・強化」、「先進安全自動車(ASV)推進計画」及び「自動車アセスメント」の3つの施策を有機的に連携させ、車両安全対策の推進に取り組んでいる。
3)安全基準等の拡充・強化
平成27年から市場導入が予定されている燃料電池自動車の世界最速普及を目指すべく、燃料電池自動車の安全基準の整備を行った。また、大型車に備える衝突被害軽減ブレーキの義務付範囲を拡大するとともに基準の強化を図った。更に、チャイルドシートの安全性向上のため、これまで実施していた前面衝突基準・後面衝突基準に加え、側面衝突基準を導入した。
4)先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進
産学官の協力体制の下、先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進を図っており、衝突被害軽減ブレーキ等の実用化されたASV技術の本格的な普及促進、車車間通信システムや歩車間通信システムといった通信利用型安全運転支援システムの実用化に向けた検討を進めている。この一環として、平成25年10月にITS世界会議東京2013を開催し、車車間通信・歩車間通信を利用した安全運転支援システムの公道デモを実施した。
図表II-7-4-6 衝突被害軽減ブレーキの作動例
5)自動車アセスメントによる安全情報の提供
ユーザーによる安全な自動車及びチャイルドシートの選択や製作者による、より安全な自動車等の開発を促すことを目的に、自動車等に関する安全性能の評価結果を公表している。平成25年度においては、自動車14車種、チャイルドシート6機種の評価を新たに行った。
6)リコールの迅速かつ着実な実施・ユーザー等への注意喚起
自動車のリコールの迅速かつ着実な実施のため、自動車メーカー等及びユーザーからの情報収集に努め、自動車メーカー等のリコール業務について監査等の際に確認・指導するとともに、安全・環境性に疑義のある自動車については(独)交通安全環境研究所において現車確認等による技術的検証を行っている。また、ユーザーからの不具合情報の収集を強化するため、「自動車不具合情報ホットライン」(www.mlit.go.jp/RJ/)について周知活動を積極的に行った。
さらに、国土交通省に寄せられた不具合情報や事故・火災情報等を公表し、ユーザーへの注意喚起が必要な事案や適切な使用及び保守管理、不具合発生時の適切な対応を促進するために必要な事項について、ユーザーへの情報提供を実施した。特に、「エアブレーキを装備したトラックではブレーキのバタ踏みは危険です!」及び「自動車用緊急脱出ハンマーの性能確保と使用方法の周知について」について報道発表等を通じ、ユーザー等への注意喚起を行った。
なお、平成25年度のリコール届出件数は303件及び対象自動車数台数は7,978,639台であった。
7)自動車検査の高度化
不正な二次架装注の防止やリコールにつながる車両不具合の早期抽出等に資するため、情報通信技術の活用による自動車検査の高度化を進めている。
(8)自動車損害賠償保障制度による被害者保護
自動車損害賠償保障制度は、クルマ社会の支え合いの考えに基づき、自賠責保険の保険金支払い、ひき逃げ・無保険車事故による被害者の救済(政府保障事業)を行うほか、重度後遺障害者への介護料の支給や療護施設の設置等の自動車事故対策事業を実施するものであり、交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。
図表II-7-4-7 自動車損害賠償保障制度
(9)機械式立体駐車場の安全対策
機械式立体駐車場で死亡事故等が発生している状況にかんがみ、安全対策検討委員会において、事故等の発生状況や要因の分析等を行い、安全確保と適正利用について、関係団体等へ要請を行っている。
注 部品等を取り外した状態で新規検査を受検し、検査終了後に当該部品を再度取り付けて使用する行為等