第1節 我が国経済とこれを取り巻く環境

■4 我が国の経済状況

(1)我が国の経済の現況と経済成長率
 我が国の経済は、2008年秋のリーマンショック、2011年の東日本大震災の影響による低迷を乗り越え、2012年末に持ち直しに転じたものの、中長期的に見れば、近年のGDP成長率は1980年代と比べて低い水準にある(図表1-1-10)。2014年4月に実施された消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響があったものの、2014年末以降、消費者マインドが下げ止まり、個人消費や住宅投資等が底堅く推移し、2015年1−3月期には、実質GDPは、個人消費、住宅投資、設備投資と民需が増加し、プラス成長となった注7
 
図表1-1-10 我が国のGDPの推移
図表1-1-10 我が国のGDPの推移
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(2)国内総生産(支出側)及び各需要項目
 内閣府が公表する国内総生産注8(GDP)は「国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額」であり、四半期別GDP速報(QE:Quarterly Estimates)が公表されている。QEでは、民間最終消費支出注9、総固定資本形成注10、在庫品増加、輸出入(財貨・サービスの純輸出注11)といったGDPの需要項目ごとに推計し、それを積み上げて全体のGDPを算出しており、民間最終消費支出が全体の約6割を占める(図表1-1-11)。
 
図表1-1-11 名目国内総生産(支出側)の構成
図表1-1-11 名目国内総生産(支出側)の構成
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(民間住宅投資注12
 2014年度は、雇用・所得環境の改善や、東日本大震災からの復興需要等が見込まれたものの、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動もあり、前年度比減となった(図表1-1-12)。
 
図表1-1-12 名目民間住宅投資の推移
図表1-1-12 名目民間住宅投資の推移
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 民間住宅投資がGDPに占める割合は3%ほどで、他の需要項目と比べ必ずしも大きな割合ではない(前述図表1-1-11)。しかし、住宅投資は、住宅の建設に関連する産業が建設・不動産業・鉄鋼・非鉄金属といった多岐にわたり、その裾野が広いことから、経済全体に波及する生産誘発効果が大きい。さらに、住宅への入居時には、家電、家具等の耐久消費財需要が喚起され、1世帯当たりの購入額は約127.5万円にのぼる(図表1-1-13)。そのため、民間住宅投資は、国土交通省関係のGDP項目のうち、公共投資と並ぶ重要な柱となっている。
 
図表1-1-13 住宅購入時における耐久消費財の購入内訳
図表1-1-13 住宅購入時における耐久消費財の購入内訳
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(民間企業設備)
 2014年度の名目GDPは489.6兆円となっているが、うち民間企業設備は68.4兆円と約14%を占める。個人消費などと比べると、そのウエイトは必ずしも高くはないが、変動が大きく、全体の景気変動に与える影響が大きいことから、その動向への注目度は高い。
 設備投資は、企業収益が改善傾向にあることを背景に、2014年度まで6年連続の増加となっている(図表1-1-14)。労働力人口の減少が見込まれる中、我が国の成長力を供給面から押し上げていくために、生産性向上に向け設備投資の役割の重要性は高まっている。
 
図表1-1-14 名目設備投資の推移
図表1-1-14 名目設備投資の推移
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(公的固定資本形成)
 公共投資の動向をつかむ上で一般的に利用されるのがQEで公表される公的固定資本形成である。公的固定資本形成は、政府及び公的企業の固定資本ストックの増加に対する投資であり、1)公的住宅の建設への投資、2)公的企業の活動上使用する機械設備や建物への投資、3)一般政府(国、地方公共団体)が行う公共工事や施設の建設等への投資の3つに分かれる注13
 1995年の44.4兆円をピークに減少基調にあったが、東日本大震災に係る支出もあり、2013年半ば以降、増加している(図表1-1-15)。
 
図表1-1-15 公的固定資本形成の推移
図表1-1-15 公的固定資本形成の推移
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(輸出入総額)
 諸外国との貿易の状況を見てみると、1960年当時は、輸出が約1兆5,000億円、輸入も約1兆6,000億円程度の規模で推移していたが、1973年からは輸出入とも10兆円の大台に乗り、1980年には輸出入ともに約30兆円と拡大した。1981年から2010年までは輸出が輸入を上回る貿易黒字の状態が続いていたが、2011年からは貿易赤字の状態となり、2014年には輸出が約73兆円、輸入が約86兆円となっている(図表1-1-16)。貿易相手別に見ると、これまで長期にわたり米国が我が国の第1の貿易相手となっていたが、2003年以降は中国が米国を抜いて我が国の第1の貿易相手国となっている(図表1-1-17)。
 
図表1-1-16 我が国の輸出入総額の推移
図表1-1-16 我が国の輸出入総額の推移
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図表1-1-17 1995年〜2014年の相手国貿易額の推移
図表1-1-17 1995年〜2014年の相手国貿易額の推移
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 我が国の国民経済計算において、2014年度の財貨・サービスの輸出額はGDPの約18%に上り、近年、内需の伸びが縮小する傾向にある中で、経済成長に対する外需の寄与が相対的に重要性を増している。
 例えば、インフラシステム海外展開には、新興国等の膨大なインフラ需要を我が国に取り込むことで、我が国経済の成長につながる効果が期待される注14。経済協力開発機構(OECD)の報告注15によると、2030年における世界のインフラ需要は年間2兆3,260億ドルに上るとされており、膨大な需要が見込まれている。国内のインフラ市場に加えて、こうした海外市場を我が国企業が獲得することは、新たな受注による我が国企業の収益拡大に資するのみならず、事業拡大のスケールメリットを活かした価格競争力や生産性の強化、グローバルスタンダードの獲得による国内事業への還元等の効果が期待され、ひいては我が国経済の活性化につながるものである。

(訪日外国人観光客の増大)
 円安傾向による訪日旅行の割安感やビザ発給要件の緩和等を背景に日本を訪れる外国人観光客が急増している。観光庁によると、2015年の訪日外国人旅行数は過去最多の約1,974万人だった(図表1-1-18)。また、同年の訪日外国人旅行消費額も前年比71%増え過去最高の3兆4,771億円に上った(図表1-1-19)。
 
図表1-1-18 訪日外国人旅行者の推移
図表1-1-18 訪日外国人旅行者の推移
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図表1-1-19 年間の旅行消費額と一人当たり旅行支出の推移
図表1-1-19 年間の旅行消費額と一人当たり旅行支出の推移
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 訪日外国人の我が国における消費額はGDP統計上個人消費ではなく、輸出にカウントされる注16

(3)産業構造の変化
 また、人口減少・少子高齢化により人口構造が変化する中で、我が国が経済成長していくためには、技術革新を含む生産性注17向上が重要な役割を担う。
 内閣府の「平成27年度年次経済財政報告第3章第1節」によると、長期的な経済停滞の背景には生産性の伸び悩みがあげられ、先進国と比較して伸び悩む我が国のサービス産業注18の生産性が述べられている。
 経済のサービス化や高齢化等により、人手を多く必要とするサービス産業が経済活動に占める割合が高まっている。
 所得水準の上昇や少子高齢化等の社会構造の変化に応じたサービス需要の増大等を背景に、我が国を含む先進諸国では経済のサービス化が進んでおり、非製造業を中心に労働需要が拡大してきた。経済全体に占めるGDPのシェアや就業者数のシェアでみて、製造業からサービス産業へのシフトが生じている。
 製造業からサービス産業への経済構造のシフトは、先進各国で共通してみられている。我が国についてみるとサービス産業が生み出す名目付加価値が経済全体に占める割合は、2000年に70%であったが、2014年には74%まで上昇した(図表1-1-20)。同様に我が国のサービス産業に従事する就業者数の割合を見ると、2000 年には65%であったが、2013年には72%まで上昇している。
 
図表1-1-20 経済活動別国内総生産(名目)の割合
図表1-1-20 経済活動別国内総生産(名目)の割合
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 以上のように、GDPおよび就業者人口の約7割を占めるサービス産業であるが、就業者一人当たりのGDPは、製造業では増加しているのに対し、サービス産業では減少している。特に、卸売・小売、飲食宿泊、医療福祉等のサービス業において、就業者一人当たりGDPが少ない(図表1-1-21)。
 このような状況から、特にサービス産業は、生産効率性の改善や技術革新等により労働生産性を高めていくことが重要となる。
 
図表1-1-21 就業者の一人当たりGDP
図表1-1-21 就業者の一人当たりGDP


注7 出典:内閣府「平成27年度年次経済財政報告 第1章第1節2最近の景気動向」(平成27年8月14日)
注8 “国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含まない。
注9 民間最終消費支出は、家計最終消費支出に対家計民間非営利団体最終消費支出を加えたものである。
注10 総固定資本形成は、民間住宅、民間企業設備、公的固定資本形成から成る。
注11 財貨・サービスの純輸出=財貨・サービスの輸出−財貨・サービスの輸入
注12 民間住宅投資は、四半期別の全住宅投資額から、別途推計した四半期別の公的住宅投資額を差し引くことにより推計する。
注13 QEによる公的固定資本形成は「建設総合統計」と同様、工事の進捗に応じて計上される。一方で、確報の公的固定資本形成は国の決算書や地方公共団体の決算における公共事業の支出済歳出額に基づき推計される。
注14 インフラシステムの海外展開は、国内総生産(GDP)及び国民総所得(GNI)を押し上げる面もある。国内で製造した鉄道車両を売り切りで販売する場合はGDPのコンポーネントのうち「輸出」に計上される。一方、現地SPCを設立して運営にも関わるような場合の株式配当はGDPに含まれないが、海外から得た富を含め国民が受け取る総所得であるGNIには含まれる。
注15 OECD(2006/2007)「Infrastructure to 2030」、OECD(2012)「Strategic Transport Infrastructure Needs to 2030」より国土交通省算出。
注16 個人消費は概念上、国内の自国民の消費を対象としており、一方で訪日外国人の日本国内での消費は、(お土産物の購入の例が分かりやすいが、)仮に国内で消費される場合でも広い意味での輸出として位置づけられている。
注17 生産性とは、「生産資源の投入量と生産活動により生み出される産出量の比率」として定義され、投入量に対して産出量の割合が大きいほど効率性が高いことを意味する。
注18 「サービス産業」とは、農林水産業、鉱業、製造業、建設業を除く第3次産業を意味し、対個人サービス、対事業所サービスといった狭義のサービス分野に加え、電気・ガス・水道、卸・小売、金融・保険、不動産、運輸、情報通信業等を含む広義のサービス分野を指す。


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