コラム 乗数効果は減少してきたのか
公共投資のフロー効果の1つに「乗数効果」というものがあります。公共投資それ自体が最終需要として景気拡大に結びつくのみならず、公共投資の増加が個人消費等に波及することにより、最終的にGDPを増加させるというものです(図表1-2-46)。
図表1-2-46 乗数効果のフロー(イメージ)
乗数効果は、公共投資の「経済効果」の代表であるかのように言われることがありますが、乗数効果はそもそも、公共投資を実施する際の「投資金額」そのものによって発生する雇用者所得の増大が消費の増大をもたらすという経路で発生するもののみをとらえたものです。つまり、公共投資を実施することによる生産誘発効果注1と異なるものであり、なおかつインフラが供用されたことによる経済効果は全く含まれていないことに留意する必要があります。
この乗数効果については、その数字が近年低下してきたのではないかと言われていますが、これについては「70年代前半以前のマクロ計量モデルでは供給ブロックや金融ブロックの重要性は認識されておらず、物価上昇や金融面からの乗数抑制は全く生じないモデル構築が行われていた」、「80年代と90年代について同一構造モデルの乗数比較を行い、乗数は概ね変化無しという結果が得られた」(旧経済企画庁によるモデルの開発当事者らの論文注2)と指摘されています。
注1 投資がある産業部門に行われた場合、当該産業部門の生産が増加するだけでなく、原材料、設備の調達などを通じ、他の産業部門にも直接間接に波及し、その生産の増加がもたらされる効果
注2 堀雅博、鈴木晋、萱園理(1998)「短期日本経済マクロ計量モデルの構造とマクロ経済政策の効果」『経済分析』第157号、経済企画庁経済研究所