第2節 インフラ整備の担い手確保、現場の生産性向上、新技術導入等

■2 現場の生産性向上

(1)「i-Construction」
 1で見たように、建設業の就業者は減少を続けており、今後、現場の労働力が減少傾向であることを考えれば、建設現場の生産性向上は、避けることのできない課題である。
 一方で、激甚化する災害に対する防災・減災対策や老朽化するインフラの戦略的な維持管理・更新、そして、強い経済を実現するためのストック効果を重視したインフラの整備や生産性の向上等、建設産業には、安全と成長を支える重要な役割が期待されている。
 建設業界の業績が回復し、安定的な経営環境が確保されつつある中で、生産性の向上に本格的に取り組むべき絶好の機会が到来したと言える。今こそ、我が国の建設現場が世界の最先端となるよう産学官が連携して、i-Constructionに取り組むべき時である。国土交通省は、「i-Construction」の実現に向けて、有識者で構成する「i-Construction委員会」(委員長:小宮山宏・三菱総合研究所理事長)を組織し、2016年4月に報告書をまとめた。
 「i-Construction」の取組みとして、国土交通省は、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」、「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)」、及び「施工時期の平準化」をトップランナー施策として進めることとしている。これらの取組みを通し、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新といった建設現場のプロセス全体の生産性の向上を図っていく。

(ICTの全面的な活用)
 国土交通省では、従来より「情報化施工注73」と「CIM注74」という2本の柱を掲げて、様々な検証・試行事業に取り組んできた。「i-Construction」の取組みの一つである「建設現場へのICTの全面的な活用」では、これらを含めて工事プロセスをより全体的・包括的に捉えたうえで、ドローン(無人航空機)や3次元測量データ、無人化・自動化施工技術など、従来よりも幅広く技術の活用を進める注75
 建設現場へのICTの全面的な活用のイメージは、図表3-2-20に示すように、1)ドローン等による3次元測量、2)3次元測量データによる設計・施工計画、3)ICT建設機械による施工、4)検査の3次元データを用いた大幅な省力化、の実現である。
 
図表3-2-20 i-Constructionによる建設現場でのICT活用イメージ
図表3-2-20 i-Constructionによる建設現場でのICT活用イメージ

■15の新基準を導入
 調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスにおいてICTを全面的に導入するため、3次元データを一貫して使用できるような新基準を導入することが必要である。そのため、国土交通省では、15の新基準を整備し、直轄事業に2016年4月より導入した(図表3-2-21)。これらの基準については、ICT建機やロボット技術を全面導入することで、大幅な生産性向上が期待される。
 
図表3-2-21 2016年度から導入する主な新基準の例
図表3-2-21 2016年度から導入する主な新基準の例

(全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等))
 現場打ちコンクリートは、気象条件によっては、計画的な施工が困難な特徴を有している。さらに、橋梁等の構造物では、高所作業が必要となり、危険が伴う労働環境での作業となることや、型枠の設置や鉄筋の組み立てなどが現場ごとに異なり、作業も複雑となることから、従事する技能者も一定程度のスキルが必要となる。一方で、プレキャスト製品を活用する場合注76でも、同サイズの製品を大量に使用する機会は限定的であり、スケールメリットが生じにくい特徴がある。また、受注を受けてから生産する工程にならざるを得ず、安定的な生産によるコストダウンが難しい環境にある。
 そこで、コンクリート工全体の生産性向上を図るため、全体最適の導入注77、現場打ちコンクリート、プレキャスト製品それぞれの特性に応じた要素技術の一般化及びサプライチェーンマネジメントの導入に向けた検討を進める注78(図表3-2-23)。また、現場打ちコンクリートについては、鉄筋の組立、コンクリートの打設等の現場作業の効率化に関する鉄筋の継手・定着方法の改善に向けた技術等の一般化について検討を進めていく。
 
図表3-2-23 コンクリート工の生産性向上に向けた取組み例
図表3-2-23 コンクリート工の生産性向上に向けた取組み例

(施工時期の平準化)
 公共工事は、年度ごとの予算に従って執行することが基本のため、4月から6月期は工事量が少なく、秋から年度末が繁忙期になるなど、工事量の偏りが大きい。月ごとの工事量を出来高ベースで見ると、繁忙期と閑散期の工事量の差は2014年度においては約1.8倍近くに及んでいる(図表3-2-24)。
 
図表3-2-24 月別出来高工事量の推移(建設総合統計)
図表3-2-24 月別出来高工事量の推移(建設総合統計)
Excel形式のファイルはこちら

 限られた人材を効率的に活用するためには施工時期を平準化し、年間を通して工事量を安定化することが望ましい。この施策は新たな投資が必要なく、発注者の仕事のやり方を変えることで対応できるため、各発注者において積極的に取り組むべき施策である。また、平準化の進展により建設企業の経営の健全化、労働者の処遇改善、稼働率の向上による建設企業の機材保有の促進等の効果も見込まれる。
 平準化は、各工事に必要な工期を確保した上で、必要に応じて早期発注や債務負担行為等の適切な活用により、施工時期や工期末の平準化を考慮した上で計画的な発注を実施していくこととする。また、無理に年度内に工事を終わらせることを避け、必要に応じて翌債(繰越)制度等を適切に活用するなど、年度末の繁忙期の解消を推進していく(図表3-2-25)。
 
図表3-2-25 複数年契約のイメージ
図表3-2-25 複数年契約のイメージ

 また、平準化の取組みは、国のみならず、公共工事全体の約7割を占める地方公共団体等、すべての発注者が一体となって取り組んでいくことが重要である。このため、地域発注者協議会(国や都道府県、すべての市町村等から構成し、都道府県ごとに設置)を通じて、国や地方公共団体等の発注機関が連携して平準化を推進していく。また、入札契約適正化法等により、国から地方公共団体に平準化の推進を必要に応じて要請することとしている。

(2)ロボット新戦略の推進
 政府は「日本再興戦略」に基づき「ロボット新戦略」(2015年2月10日 日本経済再生本部決定)を策定した。これは少子高齢化等の課題先進国として、「ロボットによる新たな産業革命」の実現を目指すものである。担い手の不足、老朽化の進行、多発する災害等を背景に、2020年までのアクションプラン(目指す姿と重点実施分野)が示されている。建設分野の目指すべき姿として「ロボット技術の一つでもある情報化施工技術の施工現場への大胆な導入」、「前工程・後工程を含む全体工程をシステムとしてとらえた生産性向上・省力化の推進」等が示されている。目標達成に向けては、1)技術開発、2)現場導入、3)市場環境整備、を通した一貫性のある施策の推進が求められている。
 我が国は、産業用ロボットの年間出荷額3,400億円、国内稼動台数約30万台を誇る世界一のロボット大国である。建設現場にある油圧ショベルは、世界シェアの80%以上が日本モデルであると言われており、3次元設計データによるマシンコントロール技術を搭載したICT建機は、無人化施工や情報化施工とともに日本が誇るべき建設技術である。
 ロボット新戦略では、建設一般、インフラ維持管理、災害対応の3分野をロボット推進の重点分野とした(図表3-2-26)。
 
図表3-2-26 建設一般分野・インフラ分野・災害分野におけるロボット事例
図表3-2-26 建設一般分野・インフラ分野・災害分野におけるロボット事例

 国土交通省においても、技術革新に力を注ぐ様々な分野の有識者と力を合わせ、建設生産分野においては、前述した「i-Construction」の実現を、インフラ維持管理と災害対応においては、「次世代社会インフラ用ロボットの開発・導入」を推進していく。

(次世代社会インフラ用ロボットの開発・導入)
 ロボットの認識力は現時点では人間と比較して、まだまだ不完全な部分もあるが、いずれは人による点検作業を代替する日が来ると期待されている。
 国土交通省では、膨大なインフラ点検を効果的・効率的に行い、また、人が近づくことが困難な災害現場の調査や応急復旧を迅速かつ的確に実施するための「次世代社会インフラ用ロボット」の開発・導入を推進している。重点分野とした橋梁・トンネル・ダム・水中構造物等を対象に、2014〜2015年度の2箇年で実用性に優れたロボットを公募し、試行的導入に向けた実用性を確認するための現場検証と評価を実施した(図表3-2-27)。これらの情報は公開サイトで検証状況の動画を含め公開している(図表3-2-28)注79。2016年度からは、現場検証の結果を踏まえたロボットの試行的導入を段階的に進め、実際の現場業務での試行を通じて、利用手順などを整理していく予定である。
 
図表3-2-27 次世代社会インフラ用ロボットの検証事例(一部)
図表3-2-27 次世代社会インフラ用ロボットの検証事例(一部)

 
図表3-2-28 公開中の次世代社会インフラ用ロボット現場実証ポータルサイト
図表3-2-28 公開中の次世代社会インフラ用ロボット現場実証ポータルサイト


注73 建設事業の調査、設計、施工、監督・検査、維持管理という建設生産プロセスのうち「施工」に注目して、ICTの活用により各プロセスから得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現し、さらに施工で得られる電子情報を他のプロセスに活用することによって、建設生産プロセス全体における生産性の向上や品質の確保を図ることを目的としたシステム
注74 計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルに連携・発展させ、あわせて事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより、一連の建設生産システムの効率化・高度化を図るものである。
注75 ドローンの普及や高性能化が進む3次元計測技術、データ処理技術等を取り込み、これまで3次元データの利用がMC/MG建機(マシンコントロール/マシンガイダンス ブルドーザ等)とTSを用いた出来形管理(道路、河川土工における現行の出来形管理方法(巻尺、レベル、トランシット等)に加えて、トータルステーション(測量機器の一つで、現在、あらゆる測量の現場で最もよく使用されているものである。距離を測る光波測距儀と、角度を測るセオドライトとを組み合わせたものであり、従来は別々に測量されていた距離と角度を同時に観測できる)を用いた出来形管理手法)への適用に止まっていた情報化施工を、調査・測量、設計、施工・検査及び維持管理・更新のあらゆるプロセス全体に適用することで、一貫した3次元データ活用による生産性向上を目指している。
注76 コンクリートの構造物を造る場合、現地で型枠を組み、コンクリートを打設するのが一般的だが、あらかじめ工場でコンクリート部材を製造し、現地に運搬してこれを組み立てる工法をとる場合
注77 「i-Construction委員会」報告書によれば、「コンクリート工において全体最適の考え方を導入することにより、構造物の設計、発注、材料の調達、加工、組立等の一連の生産工程や、さらには維持管理を含めたプロセス全体の最適化を目指し、サプライチェーンの効率化、生産性の向上を図る。」とされている。
注78 具体的には、部材の規格(サイズ等)の標準化を行うことにより、工場製作化が進み資機材の転用等によるコスト削減、生産性の向上が見込まれることから、プレキャスト製品について、大型構造物への適用範囲の拡大等を中心とした検討を進める。
注79 http://www.c-robotech.info/


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む