第1節 インフラシステム海外展開の促進

■2 国土交通省における取組み

 国土交通省においても、同戦略に基づき、かつ上記制度改善を最大限活用し、国土交通分野におけるインフラシステム海外展開を強力に推進する。競合する諸外国との競争に勝ち抜き、我が国企業が受注を獲得するためには、ハードとソフトが一体となって安全で信頼性の高いシステムを構築するなど、我が国の強みを発揮しつつ、相手国のニーズにも柔軟に対処していくことが必要である。そのため、以下のとおり1)「川上」からの参画・情報発信、2)ビジネスリスク軽減、3)ソフトインフラの展開の3つを施策の柱として推進を図っている。

1)「川上」からの参画・情報発信
 プロジェクトの構想段階(川上)からの参画を推進するため、我が国技術によりもたらされる安全性や信頼性、運営段階も含めトータルで見て優れた費用対効果について、官民一体となったトップセールスや、在京大使等を対象とした「シティツアー・カンパニーツアー」の実施、国際会議の機会等を活用した情報発信に取り組んでいる。

2)ビジネスリスク軽減
 巨額の初期投資や長期にわたる整備、需要リスクといった交通・都市インフラ分野において川下(管理・運営)に進出する企業の事業リスクを軽減するため、平成26年10月、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)を設立した。また、海外で事業展開する企業のトラブル等の解決を支援するために相談窓口「海外建設ホットライン」を設置しているほか、中堅・中小ミッション派遣、海外建設・不動産市場データベース等を通じた最新情報の発信、海外展開セミナーの開催、知的財産を活用した海外展開支援等、我が国企業のインフラシステム海外展開を多角的に支援する取組みを行っている。

3)ソフトインフラの海外展開
 我が国企業がプロジェクトに参画しやすい環境を整備するための我が国技術・システムの国際標準化や相手国でのデファクト・スタンダード化、我が国企業の事業環境を改善するための相手国の制度整備支援、相手国における持続的なインフラの運営・維持に資する技術者・技能者層の育成支援等の取組みを行っている。

(1)トップセールスの推進
 トップセールスについて、平成27年度において、国土交通大臣は、韓国、トルコ、フィリピン、マレーシア、ラオスを歴訪し、相手国のトップや国土交通分野を担当する閣僚との協議・意見交換を行うことにより、我が国インフラシステムのトップセールスに取り組んだ。また、副大臣・大臣政務官においては、アフリカ・中南米を含む合計15か国を訪問し、インフラニーズの見込める国に対して、我が国インフラシステムのアピールを行った。このほか、諸外国の大臣等要人の来日・表敬といった機会、セミナーの開催等を通じ、我が国インフラシステムの優位性に関する発信に積極的に取り組んだ。

(2)国土交通省インフラシステム海外展開行動計画の策定
 近隣のASEAN諸国をはじめとして諸外国のインフラ需要は急速に拡大し、競合国との獲得競争は熾烈化している。我が国は、安倍総理が発表した「質の高いインフラパートナーシップ」を実現すべく、受注を目指した抜本的な制度拡充を行う等、政府を挙げた取組みを強化している。我が国のインフラ海外展開における国土交通省の占める役割は極めて大きく、現行の取組みを継続、強化しつつ、この制度拡充を最大限活用する等、現下の状況変化に応じた新たな取組みも行っていく必要がある。このため、今般、国土交通省としての行動計画(「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画」)を策定した。本行動計画は、分野別ではなく、地域・国ごとに整理された分野横断的な計画であり、重点プロジェクトの明確化、取り組む時期の明確化等、より具体化・詳細化を行うとともに、国際標準化、人材育成・制度構築支援等のソフトインフラ支援、官民連携事業への参入促進、戦略的プロモーションの充実、中小企業の海外展開等の具体的施策も盛り込んだものである。今後、国土交通省として、本行動計画に沿って「質の高いインフラシステム海外展開」を最も効果的なタイミングで戦略的に行っていく。

(3)官民連携事業(PPP事業)への積極的取組み
 世界のインフラ市場は、新興国の急速な都市化と経済成長等により、今後の更なる拡大が見込まれているが、とりわけ民間の資金を活用する官民連携(PPP:Public-Private Partnership)方式でのインフラ整備や既設の公共交通サービスの運営へのコンセッション方式の導入等の事例が多く見られるようになってきており、これが民間企業にとって大きな事業機会となっている。しかしながら、交通や都市開発のプロジェクトは、長期にわたる整備、運営段階の需要リスク、現地政府の影響力といった特性があるため、民間だけでは参入が困難な状況にある。
 このため、国土交通省では、我が国の民間企業による交通事業・都市開発事業の海外市場への参入促進を図るため、平成26年10月、需要リスクに対応し「出資」と「事業参画」を一体的に行う株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)を設立した。JOINはこれまで3案件について支援を決定し、27年9月には、国土交通省及び国際協力銀行(JBIC)との共催で「第1回インフラ事業の海外展開に関する国際セミナー」を開催した。28年度は、財政投融資を900億円(産業投資380億円、政府保証520億円)計上しており、引き続き、JOINを積極的に活用していく。

(4)戦略的広報の推進
 インフラシステム海外展開の一層の推進のため、日本のインフラシステムの特長である「質の高いインフラ」を分かりやすく伝える広報コンテンツを作成し、効果的なプロモーションを行っていくなど、戦略的広報のための取組みを推進する。「質の高いインフラ」を具体的に伝える内容の映像作成を行い、相手国政府要人へのトップセールス、要人訪日、セミナー等の際に活用するとともに、ネット放送・配信等の媒体を活用し、相手国民等により広範に訴求していく。

(5)各国・地域における取組み
 上記の取組み以外にも、二国間において次官級会合の開催、大臣間の協力覚書の署名等を進めているほか、官民が連携してインフラシステム海外展開を進めていく場として、我が国が提唱する「質の高いインフラ投資」の理解促進等を図る官民インフラ会議を開催するとともに、エコシティ、水、道路、防災、鉄道、港湾、航空といったそれぞれのインフラ分野において海外官民協議会を設置し、我が国インフラについての情報発信を行っている。
 例えば、防災面での課題を抱えた新興国等を対象に、両国の産学官で協働し、解決策を追求する「防災協働対話」の展開に当たり、平成26年6月に設立した産学官の協力体制を構築する組織である「日本防災プラットフォーム」と連携し、我が国技術の相手国政府への紹介、提案等を行っている。また、ミャンマー、ケニア及びモザンビークでの港湾整備・運営参画、ミャンマーでの海外港湾EDIシステムの導入、ベトナムでの港湾技術基準の導入等のプロジェクトを推進するため、人材育成の充実、「海外港湾物流プロジェクト協議会」を通じた意見・情報交換等を実施しているほか、都市開発の海外展開を推進するための「(一社)海外エコシティプロジェクト協議会」等による官民連携の取組みや、国際的な不動産見本市である「MIPIM」の日本版である「MIPIM JAPAN - ASIA PACIFIC 2016」(28年9月に大阪で開催予定)の開催支援等を行っている。
 27年度に、各地域・国との間で行われたインフラシステム海外展開を促進する対話、協力等の取組みは下記のとおりである。

1)ASEAN地域
 27年末にASEAN経済共同体(AEC)が発足し、巨大な単一市場が実現されようとしている同地域において、地域の連結性強化等が重要となっている。27年度は、我が国の質の高い物流システムの海外展開に向け、アジア物流パイロット事業として、メコン地域における陸上ハブ・アンド・スポーク物流システム導入に向けた実証事業をはじめ、3件の実証事業を実施した。
 また、日ASEAN交通連携の枠組みを活用し、ASEAN地域への日本企業が進出しやすい土壌を形成するため、国際的な道路網を支える舗装技術や過積載管理技術の共同研究を、27年11月に開催された日ASEAN交通大臣会合の承認を経て開始した。さらに、我が国の優れたインフラ関連技術等の普及を見据え、交通安全、環境舗装等の基準類作成に関するインドネシア及びベトナムとの共同研究等を行っており、27年度はその一環として、インドネシアにおいて共同ワークショップを開催し、技術的討議、研究協力に関する意見交換を行った。
・インドネシア
 平成27年3月、日インドネシア首脳会談において、「PROMOSI:日インドネシア投資・輸出促進イニシアティブ」という新たな協力枠組みを立ち上げることが合意された。これを踏まえて、6月には第1回インフラ整備委員会が開催され、両国間における今後のインフラ整備案件について意見交換を行った。
 同年6月には土地・建設産業分野における関係企業の海外進出に対する支援を目的として、「第9回日本・インドネシア建設会議」を開催した。
 同年12月には名古屋市において「第6回日インドネシア交通次官級会合」を開催し、両国間における鉄道、自動車、港湾、海上交通、航空等の各交通分野の協力と最近の諸課題について、課題に対する解決策や今後の協力の方向性等の意見交換を行った。インドネシアから、新しい海上交通網の構想と港湾整備についての紹介がなされるとともに、大都市圏における持続可能な交通網、交通へのIT技術活用とそれに関する日本の知見等に関し高い関心が示され、両国は、今後も緊密な協力・連携を図っていくことを確認した。
 28年2月、東京において「第3回日インドネシア建設次官級会合」を開催し、全体会合で「戦略的な国土・インフラ整備」、「PPPの戦略的な活用」及び「地盤沈下と持続的かつ統合的な水資源管理」の3つのテーマについて、また、個別のワーキングで道路、水資源、下水道、住宅、都市の各分野について、両国における取組みや課題、技術等に関する情報交換を行った。同年3月には、防災協働対話の一環として、インドネシアとの官民ワークショップを開催した。また、日本の道路管理技術の普及促進を目的として、アセットマネジメントに関するパイロットプロジェクトを実施した。更に、ジャカルタ首都特別州における渋滞緩和に向けて、交通実態調査を通じてソリューション提案型の協力を行った。
・タイ
 平成27年5月、太田国土交通大臣はプラジン運輸大臣と会談し、バンコク〜チェンマイ間の高速鉄道計画について、我が国の新幹線技術を導入する方針、その早期実現に向け詳細な事業性調査や事業スキーム等の協議を開始すること等の内容を盛り込んだ覚書に署名した。また、11月、石井国土交通大臣はアーコム運輸大臣と会談し、南部経済回廊の鉄道施設の整備・改良、貨物鉄道輸送、人材育成等の内容を盛り込んだ覚書に署名した。
・ベトナム
 平成27年3月、ベトナム測量・地図作成局と国土地理院との間で協力覚書を締結し、地理空間情報分野の技術協力を強化することとした。
 同年6月には、ベトナム建設省との間で、「第1回日ベトナム建設副大臣級会合」を開催し、都市開発、人材育成、品質管理に係る発表・討議を実施したほか、22年に締結した下水道分野に関する協力覚書(26年3月更新)に基づき、27年10月に第8回政府間会議を開催するとともに、下水道推進工法の規格策定や下水道関連法制度整備及び管路更生工法の普及を支援している。
 さらに、同年10月、ホーチミン近郊のチーバイ港整備・運営事業につき、JOINが支援決定した。
 同年12月には、防災協働対話の一環として、ベトナムとの官民ワークショップを開催した。
 28年3月には、「第9回ベトナム高速道路セミナー」を開催し、我が国の道路技術をPRした。
・マレーシア・シンガポール
 平成27年5月には、マレーシアのナジブ首相夫妻、リオ運輸大臣他が訪日し、首脳会談を実施するとともに、新幹線への乗車を体験した。
 また、同年7月には、マレーシアのハミド陸運公共交通委員会議長が訪日し、太田国土交通大臣から新幹線システムの導入に向けた働きかけを行った。
 そして、同年11月に石井国土交通大臣がマレーシアを訪問し、ナジブ首相・ハミド議長・リオ運輸大臣・ワヒド首相府大臣及びシンガポールのコー運輸大臣等と会談し、高速鉄道計画についてのトップセールスを実施した。
・ミャンマー
 平成28年1月、「第3回日ミャンマー建設次官級会合」を開催し、道路、都市、建築住宅及び建設産業に係る、両国の取組みや課題、技術等に関する情報交換を行った。あわせて、ミャンマー国建設省と、住宅都市政策に関する包括的な協力覚書に署名した。
・カンボジア
 平成27年6月及び11月、新興国における建設・不動産企業のビジネス環境の整備のため、日本の関連制度・事例の紹介等を目的として、カンボジアにおいて政府間対話を開催した。
 同年6月には、カンボジアからの要請による「公営住宅セミナー」を開催し、JICA国別研修の実施に向けた調整を実施した。
 同年8月には、都市交通システムの海外展開を推進するため、カンボジアにおいて「都市交通セミナー」を開催したほか、同年12月には、日本の高速道路の経験・技術を紹介する「日・カンボジア高速道路セミナー」を開催した。
 また、カンボジアから要請のあったJICA「車両登録・車検制度の行政制度改革プロジェクト」の実施に向けた27年度の詳細計画策定調査に参加した。

2)インド
 平成27年10月、官民が連携した鉄道セミナーを開催し、同年12月には、総理訪印時に日印共同声明「日印ビジョン2025」が両国間で合意されるとともに、「高速鉄道に関する日本国政府とインド共和国政府との間の協力覚書」、「鉄道分野における技術面での協力に関する日本国国土交通省とインド共和国鉄道省との間の協力覚書」が締結され、ムンバイ〜アーメダバード間に新幹線技術を導入することにつきインド政府と合意した。
 また、同年5月に「第2回日印道路交流会議」を開催し、山岳道路に関する政策・技術を議論した。

3)米国
 平成27年4月、カリフォルニア州において官民が連携した鉄道セミナーを開催し州知事に新幹線シミュレーターを体験してもらったほか、同年11月にはテキサス州のダラス〜ヒューストン間で建設が進められている高速鉄道事業につき、JOINが支援決定した。同月には、米国フォックス運輸長官が来日しリニア試乗を行うとともに日米鉄道協力会議を立ち上げが合意され、米国内においてもメリーランド州によるMDP(Maglev Deployment Program)補助金申請が連邦政府に認可される等、米国内における高速鉄道計画に関する取組みが進展した。
 また、28年3月、米国政府・企業等と連携したインフラ分野での第3国展開等を促進するため、フィリピンにおいてインフラセミナーを開催した。

4)中東
 防災協働対話の一環として、平成27年5月に日本・トルコ防災協働技術フェアを開催し、両国の民間企業が防災技術を展示・発表した。
 また、28年1月には、トルコにおける橋梁プロジェクトの実施に向けた日本の橋梁技術のPR等を図る「日・トルコ橋梁技術セミナー」を開催した。さらに、同年3月には「日・トルコ耐震建築セミナー」を開催し、免震・制振構造技術の普及を図った。

5)ロシア
 国土交通省とロシア運輸省との間で署名した運輸分野における協力覚書を踏まえ、ロシアにおける鉄道をはじめとする運輸インフラの改善・近代化や北極海航路の通航安全対策等について、平成27年11月に日露運輸作業部会第2回次官級会合を開催し、意見交換を実施した。同国の都市環境問題に関しては、「日露都市環境問題作業部会」を通じて協力を進めており、同年6月に第3回総括会合、12月に第4回総括会合を開催し、両国で合意した「フラッグシップ事業」等について共同で支援していくこととした。また、都市開発事業に関する情報共有と日露企業のマッチングを行う場として「日露都市開発プラットフォーム」を設置した。

6)中央アジア
 平成27年10月の総理の中央アジア地域訪問の前後、同年9月にウズベキスタンにおいて、同年11月にカザフスタンにおいて「官民インフラ会議」を開催し、中央アジア地域を対象に、「質の高いインフラ投資」の理解を促進するとともに、我が国インフラ関連企業による現地進出や事業展開を支援する取組みを進めている。また、同月、石井国土交通大臣は、カザフスタン投資発展省との交通分野全般にわたるインフラ整備、技術協力、民間ビジネスの促進を目的とした協力覚書に署名した。

7)中南米
 平成27年12月、ブラジルの3都市(リオデジャネイロ、サンパウロ、ゴイアニア)における都市鉄道整備・運営事業につき、JOINが支援決定した。

8)アフリカ
 平成28年夏のTICAD VI開催を睨み、27年7月にエチオピア及びケニアにおいて、28年1月にモザンビーク及びタンザニアにおいて「官民インフラ会議」を開催し、「質の高いインフラ投資」の理解を促進するとともに我が国インフラ関連企業による現地進出や事業展開を支援する取組みを進めている。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む