第1節 予想される未来の社会環境

第1節 予想される未来の社会環境

(1)2050年を見据えた国土・地域づくり
 国土交通省では、第1章で概観したような急激な人口減少・少子化や巨大災害の切迫等、国土を取り巻く厳しい状況変化に対応するため、国民と危機感を共有し、中長期(おおむね2050年)を見据えた国土・地域づくりの理念を示す「国土のグランドデザイン2050」を、2014年7月に発表した。これを踏まえ、2015年8月に、2015年からおおむね10年間を計画期間とする国土形成計画(全国計画)の変更について閣議決定した。
 第二次国土形成計画(全国計画)では、地域の多様な個性に磨きをかけ、地域間のヒト、モノ、カネ、情報の活発な動き(対流)を生み出す「対流促進型国土」の形成を国土の基本構想としており、対流を生み出すための国土構造、地域構造として、医療、商業等の生活サービス機能をはじめとした各種機能を一定の地域にコンパクトに集約し、各地域をネットワークで結ぶ「コンパクト+ネットワーク」を提示している。(図表3-1-1)
 
図表3-1-1 コンパクト+ネットワーク
図表3-1-1 コンパクト+ネットワーク

(2)交通インフラの整備の進展
 コンパクト+ネットワークによる国土づくりの基盤を支えるのものとして、交通インフラがある。2050年までには、首都圏の3環状やリニア中央新幹線注67、整備新幹線等、基幹的な交通インフラの整備が大きく進展することが見込まれている。

(高規格幹線道路)
 高速道路ネットワークの活用により近接する都市圏が連携すると、人口減少下でも一定の人口規模を確保することが可能である。また、高規格幹線道路等(図表3-1-2)の幹線道路ネットワークの整備は、高速道路のインターチェンジ周辺での工場や大型物流施設の立地を促すなど、雇用や税収の増加を通じて、地域経済の活性化に大きく寄与するとともに、地方部における広域的な医療サービスの享受、災害等で幹線道路が途絶した場合の広域的な迂回ルートの確保等が可能となるなど、国民生活の質や安全の向上にも大きく貢献する。
 
図表3-1-2 高規格幹線道路等
図表3-1-2 高規格幹線道路等

(スーパー・メガリージョンの形成)
 東京、名古屋及び大阪を結ぶリニア中央新幹線の開業注68は、大都市圏と地方圏のアクセスの利便性を飛躍的に向上させ、東海道新幹線と同様に国土に大きな影響を与える可能性が高い。リニア中央新幹線の開業により、三大都市圏が1時間で結ばれ、時間的にはいわば都市内移動に近いものとなるため、三大都市圏がそれぞれの特色を発揮しつつ一体化し、4つの主要国際空港、2つの国際コンテナ戦略港湾を共有し、世界からヒト、モノ、カネ、情報を引き付け、世界を先導するスーパー・メガリージョンの形成が期待される(図表3-1-3)。これにより、人口7,000万人の世界最大の巨大な都市圏が形成され、東京と大阪を大きなハブとしながら、全国を一つの経済圏に統合する地方創生回廊を整えることが可能となり、国際競争力の向上が図られるとともに、その成長力が全国に波及し、日本経済全体を発展させるものとなる。
 
図表3-1-3 リニア中央新幹線整備による波及効果のイメージ
図表3-1-3 リニア中央新幹線整備による波及効果のイメージ

 また、リニア中央新幹線中間駅の活用により、これまで大都市から短時間でのアクセスが困難だった地域と大都市との間の対流が活発になり、都市生活と大自然に囲まれた環境が時間的に近接する新しいライフスタイル(二地域居住を含む)や、大都市以外での企業立地を促進する可能性がある(図表3-1-4)。
 
図表3-1-4 リニア中央新幹線整備による鉄道日帰り交通圏の拡大
図表3-1-4 リニア中央新幹線整備による鉄道日帰り交通圏の拡大

(3)ICTの劇的な進歩による技術革新の進展
 技術革新は、これまでも人々の暮らしや社会に大きな変革と進歩をもたらしてきた。特に、近年その進化が著しいAI、ロボット、IoT等の分野では、経済社会に大きなインパクトをもたらすことが予想されている。(株)野村総合研究所におけるコンピュータ化に伴う雇用への影響を対象とした研究によれば、我が国の労働人口の49%が技術的に代替可能とされている(図表3-1-5)。また、我が国のロボット市場は2025年に5.3兆円、2035年には9.7兆円になると予測されており、製造分野以外でのサービス分野の伸びが特に著しいと予測されている(図表3-1-6)。
 
図表3-1-5 人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合(日本、英国、米国の比較)
図表3-1-5 人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合(日本、英国、米国の比較)
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図表3-1-6 我が国のロボット市場規模推計
図表3-1-6 我が国のロボット市場規模推計
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(建設分野における技術革新の進展)
 建設業に従事する技能労働者は、高齢化に伴う高齢者の大量離職の可能性に直面しており、老朽化したインフラの維持管理および災害対応は遠隔操作による監視あるいはロボットによる調査が普及していることが予測される。モニタリング技術が著しく向上したことから補修すべき個所の特定は容易になっており、少人数で効率の良い作業が可能となり、工期も大幅に短縮される(図表3-1-7)。
 
図表3-1-7 トンネル点検用ロボット技術の活用展望イメージ
図表3-1-7 トンネル点検用ロボット技術の活用展望イメージ

(交通、物流分野における技術革新の進展)
 自動運転技術が実用化されれば、安全運転を確実に行う熟練ドライバー以上の安全走行が確保され、交通事故がほとんど起こらない社会が実現される。少子高齢化に伴って、公共交通の衰退が危ぶまれていた地域においては、高齢者等の移動手段が確保される。基幹交通インフラの結節点や地方都市においては、必要に応じて自動運転も活用した公共交通網が整備され、自動車を自由に運転できない人でも、必要な生活サービスを享受できる環境が実現していることが期待される。また、自動運転技術によるトラック隊列走行が実現することで、トラックドライバー1人当たりの輸送量が向上し、ドライバー不足解消に貢献する(図表3-1-8)。
 
図表3-1-8 トラック隊列走行のイメージ
図表3-1-8 トラック隊列走行のイメージ


注67 電導磁気浮上方式(超電導リニア)を使った最高速度505km/時の新幹線。東京−名古屋間を40分、東京―大阪間を67分で結ぶ。
注68 国土交通大臣が営業主体及び建設主体としてJR東海を指名し、品川・名古屋間を2027年に開業予定としており、現在、品川駅や南アルプストンネルの工事等を進めているところである。さらに、品川・名古屋間の工事に財政投融資を活用することにより、大阪までの全線開業を2045年から最大8年間前倒すこととしている。


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