第2節 技術の進歩

■1 情報通信技術(ICT)・省エネルギー化等の進展

(1)情報通信技術(ICT)の進展
(平成において進んだ技術)
 平成に大きく進歩した技術の一つとして、携帯電話やパソコン等のICTがある。ICTの進展の背景には、データの入力と出力をする「端末」、データを送受信する「ネットワーク」、データを蓄積し処理・解析する「コンピューティング」がそれぞれ発展するともに、生活における身近な製品にまで浸透したことにある。

■データの入力と出力をする「端末」の発展
 電池の小型化・低コスト化、小型の半導体の開発により、薄型の液晶ディスプレイと一体化した、スマートフォンが登場するなど、平成における「端末」に関する技術は大きく進展した。1985年に登場したショルダーフォンの重量は約3,000gであったが、近年のスマートフォンは300gを切っており、10分の1までに軽量化される一方、当初の通話機能に加え、撮影、インターネット検索、メールの送受信など、様々な情報通信機能を備えるに至っている(図表I-1-2-1)。
 
図表I-1-2-1 ショルダーフォンからスマートフォンへの変化
図表I-1-2-1 ショルダーフォンからスマートフォンへの変化

■データを送受信する「ネットワーク」の発展
 電話回線からはじまった家庭向けのインターネットサービス(固定通信)は、2000年(平成12年)頃にはADSL回線注3、2005年には、光ファイバー(FTTH注4)が主流となることにより、その通信速度は約1,000倍までに向上した。また、携帯電話の通信速度については、1990年に1G(第1世代移動通信システム)と呼ばれるアナログ式から2010年代に4G(第4世代移動通信システム)と呼ばれる高速通信へと変遷することで、その通信速度が約10,000倍以上に著しく向上した(図表I-1-2-2)。このような通信速度の向上により、大容量のデータを短時間に送受信することが可能となった。
 
図表I-1-2-2 家庭向け固定通信・携帯電話の通信速度の飛躍的上昇
図表I-1-2-2 家庭向け固定通信・携帯電話の通信速度の飛躍的上昇

■データを蓄積し処理・解析する「コンピューティング」の発展
 半導体の小型化など技術の発展により、データを蓄積し、処理・解析する「コンピューティング」の能力が大幅に増加した。例えば、パソコンや携帯に搭載されているデータ処理機能を持つ「CPU(中央演算処理装置)」の計算能力は、1997年(平成9年)から2015年の間で、約160倍になるなど、飛躍的に向上した。(いわゆる「ムーアの法則」注5)(図表I-1-2-3)。
 
図表I-1-2-3 CPU の処理速度の推移
図表I-1-2-3 CPU の処理速度の推移

(ICTの発展がもたらした社会への波及効果)
■固定電話から移動電話へ
 1990年(平成2年)から2015年までの通信サービス加入契約者数の推移を見ると、携帯電話とPHSを合わせた移動電話の件数は49万加入から15,514万加入に大きく増加したのに対して、固定電話は5,245万件から2,773万件と大きく減少し、2000年から2001年にかけて両者の件数は逆転している。2000年頃からは3G(第3世代移動通信システム)注6が開始されることで、通信プランが多様化するなど携帯電話市場におけるサービスが向上し、固定電話から移動電話への移行がさらに顕著となっている(図表I-1-2-4)。
 
図表I-1-2-4 通信サービス契約者数の推移
図表I-1-2-4 通信サービス契約者数の推移
Excel形式のファイルはこちら

■ICTの進歩に伴う情報量の増大とコミュニケーションの変化
 世界のインターネット上の情報量(1日当たり)は1992年(平成4年)に100GBであったが、2017年には40億GBとなるなど飛躍的に増大し、2022年には130億GBになると予想されている(図表I-1-2-5)。
 
図表I-1-2-5 急増するデータトラヒック量
図表I-1-2-5 急増するデータトラヒック量
Excel形式のファイルはこちら

 このような中、例えば、世界における写真の撮影枚数(年間)について見ると、2000年代から急激に増大している(図表I-1-2-6)。これは、カメラ付き携帯の普及によって、個人がいつでも手軽に写真を撮影し、データとして大量に保存できるとともに、SNSなどにより共有が可能となったこと等が要因であると推察される。
 
図表I-1-2-6 世界全体で撮影された写真の枚数の推移
図表I-1-2-6 世界全体で撮影された写真の枚数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 実際に、我が国の代表的なSNSであるLINE、Facebook等の利用率について見ると、2012年では41.4%であったが、2016年には71.2%と急増した注7。SNSは、これまでのメディアとは異なり、個人が情報の発信者となること、また、従来では想定できなかったような人とつながり、新たなコミュニティを形成することが可能である。このように、ICTの進歩は、我々のコミュニケーションを変化させ、社会に大きな影響を与えている。

■インターネットによる購買プロセス(方法)の変化
 ICTの進展により、インターネットショッピングが広く普及した。例えば、インターネットショッピングの際に必要となる宅配便の取扱個数は、1989年(平成元年)には10億個程度であったが、2017年には約4倍の40億個を越えるまで増大した。また、インターネットショッピングを利用した(インターネットを通じて注文した)世帯の割合は、2002年には5.3%であったが、2017年には34.3%まで上昇し、6.5倍となった(図表I-1-2-7)。
 
図表I-1-2-7 宅配便の取扱個数とインターネットショッピングの利用世帯の推移
図表I-1-2-7 宅配便の取扱個数とインターネットショッピングの利用世帯の推移
Excel形式のファイルはこちら

 なお、郵便物の配達数に関して、電子メールやSNS等通信手段の発展により、年賀状の発行枚数は、2003年(平成15年)の44.6億枚から2017年には29.7億枚と3割以上減少している(図表I-1-2-8)。
 
図表I-1-2-8 年賀状の発行枚数の推移
図表I-1-2-8 年賀状の発行枚数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 また、ICTの進展は、映画など映像コンテンツの入手方法に関しても大きな影響を及ぼしている。レンタルビデオの市場規模(DVD等を含み、ネット動画配信サービスは除く。)は、2006年から2017年にかけて3,431億円から1,659億円と半分以下に減少している。一方で、有料動画配信市場は、2013年から2017年にかけて、597億円から1,510億円に増加しており(図表I-1-2-9)、これは映像コンテンツの入手が短時間で可能になったことやそれに合わせた定額制のプランができたことなどが理由であると推察される。実際に、90分の動画データをダウンロードする時間について、2000年では66分であったものが、2018年には4秒と大きく短縮されている。
 
図表I-1-2-9 映像ソフトの市場の推移
図表I-1-2-9 映像ソフトの市場の推移

 また、ICTの進展に伴い、シェアリングエコノミー注8の拡大という新たな流れも生まれている。国内の市場規模は、2016年度には約540億円であったが、2022年度には約1,386億円まで拡大することが予測されている(図表I-1-2-10)。この背景には、ICTの発展により、それまで見えなかった個人のモノ等に関する情報がリアルタイムに共有され、利用者が容易に検索できるようになったことや注文、決済などのサービスの利便性が高まってきたこと等が挙げられる。このような中、シェアリングエコノミーは、ホームシェアや育児支援など遊休資産の有効活用や社会課題解決への寄与が期待されている。
 
図表I-1-2-10 シェアリングエコノミー(共有経済)サービス市場規模推移・予測
図表I-1-2-10 シェアリングエコノミー(共有経済)サービス市場規模推移・予測

(2)省エネルギー化等の進展
(平成において進んだ省エネルギー化、環境技術)
■自動車の省エネルギー化・環境技術の進展
 平成において、自動車の省エネルギー化・環境技術が大きく進んでいる。その背景には、ガソリン車のエンジンの効率性の向上、ディーゼル車の排出ガスを浄化する技術の進展、ハイブリット自動車(電気自動車)の登場などがある。特に、ハイブリッド自動車(電気自動車)の開発は、古くは1940年代から始まり、電池の技術の進歩や低コスト化などにより、走行距離を伸ばすことが可能となり、1990年代には実用化されるに至っている(図表I-1-2-11)。
 
図表I-1-2-11 電池の体積エネルギー密度注9の推移
図表I-1-2-11 電池の体積エネルギー密度の推移
Excel形式のファイルはこちら

■発光ダイオード(LED)注10の実用化
 LEDは、平成において照明分野等で大きく進歩した技術と言える。LEDは、従来の白熱ランプと比較して、消費電力を約9割削減することができるなどの省エネルギー技術である注11。LEDそのものは1906年には発明されていたが、白色、フルカラーで表示するためには、青色LEDが必要であった。このような中、1993年に輝きが非常に強い青色のLEDが開発され、実用化されることとなった(図表I-1-2-12)。
 
図表I-1-2-12 信号機の変化
図表I-1-2-12 信号機の変化

(省エネルギー技術等がもたらした社会への波及効果)
■自動車の省エネルギー化とCO2排出量の減少
 運輸部門のCO2総排出量は2001年度(平成13年度)頃をピークに2017年度までの間に約20%減少しており、自家用自動車関連は約半分を占めている。特に、自動車の燃費は平成に著しく向上し、ガソリン車の平均燃費(JC08モード)注12は1993年に11.1km/L注13であったのに対し、2017年には22.0km/Lと2倍近くとなった(図表I-1-2-13)。
 
図表I-1-2-13 ガソリン乗用車平均燃費の推移
図表I-1-2-13 ガソリン乗用車平均燃費の推移
Excel形式のファイルはこちら

 さらに、自動車業界は、従来のガソリン車やディーゼル車よりも燃費性能が高くCO2排出を削減できるハイブリッド自動車や電気自動車等の次世代自動車も実用化し、普及拡大を進めた。この結果、それらの乗用車の新車販売に占める割合は、2009年度に11.0%であったものが、2017年度年には36.7%注14となるなど大きくなり、CO2の削減量は加速度的に増加している(図表I-1-2-14)。
 
図表I-1-2-14 電気自動車等のCO2排出削減量の推移
図表I-1-2-14 電気自動車等のCO2排出削減量の推移
Excel形式のファイルはこちら

■照明器具の省エネルギー化の進展
 近年、照明器具全体に占める、LED照明器具のシェアが一気に拡大した。LED照明器具のシェアは、2010年(平成22年)には7%であったが、2017年には91%に急増した。一方で、従来の蛍光灯器具は65%から4%、白熱灯器具は12%から1%未満と急激に低下した(図表I-1-2-15)。この背景には、LED照明は寿命が長いため取り替え不要であること、器具の普及等に伴い、初期コストもおさえられてきたことなどが挙げられる。LEDはそれ自身が発光することで見やすくなるため、安全性が高まることなども理由に信号機へ使用されるなど、公共の設備へも浸透してきている。
 
図表I-1-2-15 照明器具の国内出荷数量の推移
図表I-1-2-15 照明器具の国内出荷数量の推移
Excel形式のファイルはこちら

(3)地震対策技術の進展
(平成に進んだ地震対策技術)
■免震技術の進歩
 平成において地震に対応する技術(免震技術)の大きな進歩が見られた。コンピューターの解析能力が向上したため、過去の地震の動きの再現や建物の柱や壁の揺れの大きさや圧力等についての計算等が短時間で詳細に行うことが可能になった。このことにより、建物の揺れを小さくする装置である「ダンパー」や「積層ゴム」といった技術が進み、地震時の建物の揺れを3分の1から5分の1に低減させることが可能になった(図表I-1-2-16)。さらに、「免震レトロフィット工法」と呼ばれる、既存の建物の基礎等に免震装置を新たに設け、建物のデザインや機能を損なうこと無く地震に対する安全性を確保する補強工法が、新技術として現れた。
 
図表I-1-2-16 免震構造の仕組み
図表I-1-2-16 免震構造の仕組み

■緊急地震速報の整備
 地震が起こると、震源から揺れが地震波となって伝わるが、地震波には速度が速いP波と、速度は遅いが強い揺れによる被害をもたらすS波がある。緊急地震速報は、先に伝わるP波を検知した段階でS波の揺れの強さを予測し、危険が迫っていることを可能な限り迅速に知らせようとするものである。緊急地震速報の実用化に向け、1990年代以降に気象庁や鉄道総合技術研究所、防災科学技術研究所等で本格的な検討・開発を進めてきた。1995年(平成7年)兵庫県南部地震を契機に観測網が整備され注15(図表I-1-2-17)、震源推定の技術や、情報通信技術の開発が進んだことにより、2007年から広く提供を開始した。さらに、気象庁では、2011年東北地方太平洋沖地震を契機に、同時多発地震や巨大地震に対応するため、2016年には従来の予測手法を高度化し、2018年には新しい予測手法を導入した注16。これらの手法を組み合わせ、同時多発時の予測精度の向上と、巨大地震においても震源から遠い地域に従来よりも適切に警報を発表できるよう改善を図った。
 
図表I-1-2-17 緊急地震速報に活用している地震観測点(2019年3月現在)
図表I-1-2-17 緊急地震速報に活用している地震観測点(2019年3月現在)

(地震対策技術がもたらした社会への波及効果)
■免震構造の広がり
 建物への免震構造の採用は、平成において、広がりを見せ、例えば、マンションなどの集合住宅は、阪神・淡路大震災があった1995年(平成7年)以降、増加しており、特に、新潟中越地震や東日本大震災等、大規模な災害が発生した翌年にはその数は大きいものとなっている(図表I-1-2-18)。なお、免震構造を取り入れたマンションでは、東日本大震災や熊本地震の際には、大きな被害は見られなかった。
 
図表I-1-2-18 免震建築物計画の推移
図表I-1-2-18 免震建築物計画の推移
Excel形式のファイルはこちら

 また、2011年に発生した東日本大震災を受け、特に、災害拠点となる大型病院等における免震構造の採用が進んだ。さらに、免震構造は、国立西洋美術館や国会図書館国際子ども図書館等に取り入れられるなどにより、歴史的・文化的価値のある公共建築物の耐震化が進んだ(図表I-1-2-19、図表I-1-2-20)。
 
図表I-1-2-19 免震構造を採用した庁舎の推移
図表I-1-2-19 免震構造を採用した庁舎の推移
Excel形式のファイルはこちら

 
図表I-1-2-20 免震構造を採用した件数の割合
図表I-1-2-20 免震構造を採用した件数の割合
Excel形式のファイルはこちら

■緊急地震速報の社会への波及効果
 緊急地震速報は、2007年に一般向けに提供され、携帯電話の普及と相伴って、メディアのみならず個々人まで緊急地震速報を直接受け取ることが可能となり、強い揺れが到達する前に危険回避行動を取るなど、有効に利用されるようになってきている。
 気象庁の「緊急地震速報の利活用状況調査」によると、緊急地震速報を見聞きした際、「何らかの行動を取った」割合は、2008年は47%だったが、東日本大震災後である2012年では72%と大きく増大した(図表I-1-2-21)。2012年に緊急地震速報を見聞きして実際にとられた行動の内容は、「家具や棚などから離れた」、「机の下などにもぐった」等「屋内で危険回避」が最も多かった。
 
図表I-1-2-21 緊急地震速報を見聞きした際の行動状況
図表I-1-2-21 緊急地震速報を見聞きした際の行動状況


注3 Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称型デジタル加入回線と呼ばれるデジタル加入者線の一つ。
注4 Fiber to the Home:通信事業者の設備から利用者までを光ファイバーケーブルでつなぐアクセス方式。
注5 世界最大の半導体メーカーIntel社の創設者の一人であるゴードン・ムーア博士が1965年に経験則として提唱した「半導体の集積密度は18〜24か月で倍増する」という法則。
注6 2000年に登場した高速データ通信が可能な第3世代移動通信システム。
注7 総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を参照。
注8 個人等が保有する活用可能な資産等を、インターネット上のマッチングプラットホームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動
注9 電池の性能指標の一つ。単位容積当たりの電池の容量を意味し、この数値が大きいほど小型化しやすい。
注10 Light Emitting Diode
注11 パナソニック(株)ホームページより。白熱灯器具(NL78857WK)からLED器具(XNDO630SNLE9(4.6W))に替える場合、消費電力は54Wから6.5Wに約88%削減されるとなっている。
注12 1リットルの燃料で何キロメートル走行できるかをいくつかの自動車の走行パターンから測定する燃費測定方法の一つ。実際の走行に近いとされている。
注13 10・15モード燃費値をJC08モード燃費値に換算した値
注14 (一財)自動車検査登録情報協会のホームページより(https://www.airia.or.jp/publish/statistics/trend.html
注15 2019年3月現在、気象庁が約690箇所、防災科学技術研究所が約800箇所に設置した地震計・震度計を活用している。
注16 2016年にはIPF(Integrated Particle Filter)法、2018年にはPLUM(Propagation of Local Undamped Motion)法を導入した。前者は、同時多発的に発生した地震を個別に把握する手法で京都大学防災研究所の技術協力による成果。後者は震源を推定せずに、観測された揺れの強さから直接、その周辺の震度を予測する手法である。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む