第1節 技術の更なる進歩等がもたらす社会の変化

■1 新技術とその活用等による「時間的・場所的な制約」からの解放

(1)リニア中央新幹線
 リニア中央新幹線(以下、「リニア」という。)は、東京都と大阪市との間を新たに結ぶ次世代の新幹線鉄道であり、2037年の開通を目指し、現在、建設が進められている。リニアの開通により、東京都・大阪市間が約80分間短縮され、67分で結ばれることとなり、東京から大阪までの人口7千万人の巨大な都市圏(スーパー・メガリージョン)が生まれると言われている(図表I-3-1-3)。
 
図表I-3-1-3 スーパー・メガリージョン形成のイメージ
図表I-3-1-3 スーパー・メガリージョン形成のイメージ

 また、リニアの停車駅の建設が予定されている沿線都市では、東京・名古屋・大阪までの移動時間が大幅に短縮することとなり、例えば、長野県駅(仮称。現状の時間は飯田駅として算出。)から大阪駅までの移動時間は、約3時間短縮され、50分程度となることが想定される(図表I-3-1-4)。さらに、リニアの沿線都市のみならず、それ以外の地域への移動時間の大幅な短縮にもつながり、例えば、片道4時間で鉄道を利用して移動できる範囲(鉄道一日交通圏)は、大阪を出発地とすると、現在、福島や水戸は含まれないが、リニア開通後は、盛岡まで含まれることになる(図表I-3-1-5)。
 
図表I-3-1-4 リニアの開通による都市間の移動時間の短縮効果
図表I-3-1-4 リニアの開通による都市間の移動時間の短縮効果

 
図表I-3-1-5 東京・名古屋・大阪からの片道4時間交通圏の拡大(リニアの開通前後での比較)
図表I-3-1-5 東京・名古屋・大阪からの片道4時間交通圏の拡大(リニアの開通前後での比較)

 リニアの開通がもたらす効果としては、こうした移動時間の短縮のみならず、住居や企業の場所などにも影響を与えることが考えられる。例えば、これまでは、東京で働く人々は東京近郊に居住することが多かったが、リニアの開通により、大都市から地方へ移住するなど新たなライフスタイルを選択することも可能となりうる。
 このように、リニアの開通は、現在の「時間的・場所的な制約」から人々を解放し、多様な生活スタイル・ワークスタイルを選択することにつながっていくものと考えられる。
 現在においても、このような流れを受けて、既に、移住・定住者を増やそうとする取組みがリニア沿線自治体で行われている。例えば、山梨県甲府市は、現状では東京都心まで90分程度であるが、リニア開通後には、さいたま市や横浜市等と同じく東京都心まで25分程度となる(図表I-3-1-6)。そこで、甲府市では、リニア開通に伴う移住者を受け入れるため、豊かな緑地空間等を備えた良好な住環境を整備していくなど、ライフスタイルの多様化に対応しようとしている。
 
図表I-3-1-6 東京を起点とした時間圏の変化
図表I-3-1-6 東京を起点とした時間圏の変化

(2)自動運転
 近年、自動運転技術が注目を集めている。自動運転は、その技術段階に応じてレベル分けがなされており(図表I-3-1-7)、大きくは、システムが人間の運転を補助するもの(レベル1〜2)と、システムが運転操作をするもの(レベル3〜5)に分けられる。なお、政府の目標として、2020年を目途とした高速道路におけるレベル3の自動運転の実現や、2020年までの限定地域での無人自動運転移動サービスの実現等が掲げられているところである(図表I-3-1-8)。
 
図表I-3-1-7 自動運転のレベル区分
図表I-3-1-7 自動運転のレベル区分

 
図表I-3-1-8 自動運転に関する政府目標
図表I-3-1-8 自動運転に関する政府目標

 このような自動運転技術の進展により、将来の我々の暮らしは大きく変わると考えられる。例えば、我が国では現在、一人一日あたりの運転時間は平均約80分とされているが注4、このような移動時間は、今後、自由な時間へとつながっていく。
 また、現在の我が国は、人口減少・少子高齢化や地方の過疎化が進み、特に、地方における公共交通の衰退が課題となっている。例えば、2000年以降のバスの輸送人員を見ると、三大都市圏がほぼ横ばいであるにもかかわらず、それ以外の地域では、25%も減少しており(図表I-3-1-9)、また、高齢化が進む地域では自家用車を運転できない人も増えてきている。このような中、自動運転技術の導入は地方における交通課題の解決に重要な役割を果たすと期待されている。
 
図表I-3-1-9 バスの輸送人員と人口の推移
図表I-3-1-9 バスの輸送人員と人口の推移
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 以上を踏まえると、自動運転の推進は、現在の我々の生活における「時間的・場所的な制約」からの解放につながっていくと考えられる。自動運転の実用化に向け、現況においても既に様々な取組みがなされている。
 国土交通省では、日常の足や物流の確保が喫緊の課題となっている中山間地域において、行政窓口等の生活に必要なサービスが集積しつつある道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実現に向けて、2017年度より実証実験を実施している。
 直近の2018年度は、持続可能なサービスを提供するためのビジネスモデルの構築等のため、長期間(1〜2ヶ月)の実験を中心に実施した。このうち、道の駅「かみこあに」(秋田県上小阿仁村)を拠点とした自動運転サービスについては、のべ約300人の地域住民が乗車し、仮設信号の設置等による専用走行区間の構築や、運行管理センターにおける予約管理や運行モニタリング、地域の方のボランティア参加など、将来の運営体制を想定した実験等を行った。
 これらの取組みを引き続き推進し、道の駅等を拠点とした自動運転サービスの2020年までの社会実装を目指している。
 
図表I-3-1-10 「道の駅等を拠点とした自動運転サービス」長期実験の実施状況
図表I-3-1-10 「道の駅等を拠点とした自動運転サービス」長期実験の実施状況

 また、2016年から2018年にかけて、最寄り駅と最終目的地(自宅・病院等)を自動運転で結ぶ「ラストマイル自動運転」の実証実験を全国4箇所で行った。直近の2018年は、離れた場所にいる1人の操作者が2台の車両をモニター越しに監視・操作するという公道での実証実験を世界で初めて福井県永平寺町にて実施するなど、着実に取組みを進めている。
 今後も、無人での移動サービスの将来的な実現に向けて、更なる技術開発等を進めていくことにより、交通事故の削減や高齢者等の移動支援等の課題解決につながることが期待される。
 
図表I-3-1-11 1対2の遠隔型自動運転の実証実験
図表I-3-1-11 1対2の遠隔型自動運転の実証実験

(3)スマートシティ
 スマートシティとは、エネルギー、移動、防災、観光、医療等の複数分野を対象に、AI、IoT、ビッグデータといった新技術や官民データをまちづくりに取り入れ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区のことを指す。我が国では、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」において、Society 5.0の実現のため、まちづくりと公共交通・ICT活用等の連携によるスマートシティの取組みを推進することとされている。(図表I-3-1-12)。
 
図表I-3-1-12 スマートシティのイメージ
図表I-3-1-12 スマートシティのイメージ

 スマートシティが実現した社会では、分野間のデータや技術の連携により、都市の全体最適化が進むと考えられる。データの連係基盤となるプラットフォームが構築され、プラットフォーム上の情報の利活用により、一人一人は、必要なサービスやおすすめの情報(リコメンド情報)をAIから自動的に(即座に)受けとることが可能になり、情報アクセスや選択が容易化し、個人のより効率的な生活が実現することが期待される。また、まちづくりにおいては、都市の利便性、効率性、生産性の向上等へとつながることで、都市や地域の抱える諸課題解決への寄与が期待される。
 現在、既に行われているスマートシティへの取組みとしては、福島県会津若松市の例が挙げられる。会津若松市は、2015年より、行政機関としては全国で初めて、Webサイト上でID登録を行った市民に対し、その属性に合わせた情報提供(子供の予防接種情報、小学校の行事予定等)などを行うことにより、必要な情報が即座に手に入るサービスを実現している。
 また、2018年からは、市民からよくある問合せや各種申請手続きの仕方などについて、AIを活用した対話形式により、24時間365日自動応答で対応するサービスを開始している。このAI自動応答サービスについては、利用者の約80%から好意的な反応が得られており、これらのサービスを通じて、今後も、より多くの市民の効率的な生活の実現が期待される。
 
図表I-3-1-13 福島県会津若松市におけるスマートシティの取組み
図表I-3-1-13 福島県会津若松市におけるスマートシティの取組み
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 神奈川県川崎市は2017年11月より、民間企業・大学との共同プロジェクト注5において、AIを用いて南海トラフ地震等による津波を発生直後に予測し、将来、防災に生かすことを目指した取組みを行っている。これは、川崎市で想定される無数の津波パターンを事前にAIに学習させ、実際に津波が発生した場合に、沖合の波浪計の観測データと事前シミュレーションの結果から、津波の浸水域を高精度に予測するものである。こうしたリアルタイムでの予測結果が地域ごとに最適な避難ルートを作り出し、それがスマートフォン等を通じて一人一人に伝わることによって、避難に要する時間の短縮など、災害に強い地域社会の実現が期待されている。
 
図表I-3-1-14 神奈川県川崎市におけるAIを活用した津波予測の取組み
図表I-3-1-14 神奈川県川崎市におけるAIを活用した津波予測の取組み

 千葉県柏市では、2011年から公・民・学の連携をベースにした、課題解決を加速するオープンなプラットフォームの構築を目指した取組みを行っている。エネルギーを街区間で相互に融通するために、蓄電及び送電システムを導入し、ピーク時の電力需要を地域レベルで約26%削減した。また、このシステムでは、災害時においてもエレベータや地下水ポンプ等の重要なライフラインへの電力共有を優先して確保することで、ライフラインの復旧までの時間を不要にし、生活の継続を可能にする効果も期待される。
 さらに、エネルギー・健康・防災の共通統合プラットフォームを構築し、利用者の共通IDにより、自身が利用可能な行政サービス情報へのアクセス時間が容易になるとともに、地域ポイント制度注6との連携等のサービスが受けられるシステムの実証を実施している。
 
図表I-3-1-15 千葉県柏市におけるスマートシティの取組み(エネルギー管理システム)
図表I-3-1-15 千葉県柏市におけるスマートシティの取組み(エネルギー管理システム)

(4)VR/AR
 VR(Virtual Reality、仮想現実)は、利用者がその空間(場所)にいないにもかかわらず、あたかもそこにいるような感覚(没入感)を味わうことのできる技術である。例えば、ゴーグル上に、遠隔地の風景を投影することや、現実には存在しない世界をコンピュータ・グラフィックス(CG)により作り出すことにより、その空間にいるかのように感じること等があげられる。一方、AR(Augmented Reality、拡張現実)は、利用者がその空間(場所)に存在するとともに、実際に見ている現実世界に対して、コンピュータで作られた映像や画像を重ね合わせることで、現実世界を拡張する技術である。これらの技術は、ビジネスやエンターテインメント等、様々な場面での活用が浸透しつつあり(図表I-3-1-16、図表I-3-1-17、図表I-3-1-18)、その市場規模は、国内においては2016年の192億円から、2025年には4,136億円まで拡大することが予想されている注7。VR/ARの活用そのものが、「時間的・場所的な制約」からの解放につながるものであり、今後の我々の働き方、暮らし等を大きく変革するものとして注目されている。
 
図表I-3-1-16 VRの利用例(不動産内見サービス)
図表I-3-1-16 VRの利用例(不動産内見サービス)

 
図表I-3-1-17 ARの利用例(ポケモンGO)
図表I-3-1-17 ARの利用例(ポケモンGO)

 
図表I-3-1-18 VR/ARの主な利用シーン
図表I-3-1-18 VR/ARの主な利用シーン

 このような流れの中、観光分野においては、既にVRを活用していこうとする動きが見られる。2018年9月には、東京にいる参加者が専用の機器(ディスプレイとグローブ等)を装着して、約1,000km離れた小笠原諸島に置かれたロボットを操縦するという遠隔観光の体験イベント注8が行われた。このイベントでは、例えば、機器を通じて現地のウミガメとの接触を感じることができるなど、参加者が視覚的な情報のみならず、感触までも体験でき、あたかも自分が小笠原諸島にいるかのような高い臨場感を味わうことができるというものであった(図表I-3-1-19)。
 
図表I-3-1-19 観光分野での利用例
図表I-3-1-19 観光分野での利用例

 また、建設業では、計画・工事・検査等の各工程においてARと類似した技術注9を用いて業務の効率化を図る取組みが行われはじめている。具体的には、CGを用いて建設プロセスの各段階を可視化するとともに、実際の建設機械や人員などを指により配置し、シミュレーションをすること等も可能となる。この技術により、技術者の熟練度を問わず、施工イメージを事前共有することで、安全性が高まるとともに、手戻り注10が減り施工時間が縮減するといった効果が期待されている(図表I-3-1-20)。
 
図表I-3-1-20 建設分野での利用例
図表I-3-1-20 建設分野での利用例

(5)テレワーク
 政府では、働き方改革の一環として、「テレワーク」の推進を行っている。テレワークとは、ICTを利用した在宅勤務やサテライトオフィスにおける勤務等を指しており、通勤時間の短縮、勤務時間や勤務地の柔軟化など、多様な働き方が可能になる。今後、テレワークがさらに進められることによって、現状の「時間的・場所的な制約」からの解放がなされ、多様な生活スタイル・ワークスタイルの選択が可能となっていく。
 テレワークの具体的な効果については、既に社会実験がなされている。例えば、和歌山県白浜町にサテライトオフィスを設けて行われた取組み注11では、仕事以外の自由時間が1人月平均64時間増加するとともに、仕事に対する集中力や効率性なども増したことから、契約金額が63%増加したといった成果も得られている。
 なお、全国の通勤時間を見ると、約20〜30分程度(片道)の地域が多いが、首都圏及び近畿圏は長くなっていることから、テレワークの導入が進展すれば、特に、これらの地域において通勤時間が短縮されるなどの効果が期待される。
 
図表I-3-1-21 テレワーク(サテライトオフィスでの勤務)の風景
図表I-3-1-21 テレワーク(サテライトオフィスでの勤務)の風景

 
図表I-3-1-22 都道府県別通勤時間
図表I-3-1-22 都道府県別通勤時間

(6)長寿命化
 これまでは、新技術等を活用した「時間的・場所的な制約」からの解放について考察してきた。これらの変化に加え、我が国においては、今後も長寿命化が進むとともに、健康寿命注12も伸びると考えられることから、新たに自由な時間が創出される。
 日本人の平均寿命は、2017年において男性が81.09歳、女性が87.26歳で過去最高となっており、これを基に計算すると、退職後の自由時間は、既に、現役時の労働時間とほぼ等しくなっており、今後、さらに長くなると考えられる(図表I-3-1-23)。また、健康寿命も直近の15年間で約2.5歳延びており、自由に活動できる時間は増加していくことから、それらを活かした、充実したヒューマンライフの実現がますます重要になっていく。
 
図表I-3-1-23 現役時代と退職後の自由時間の比較
図表I-3-1-23 現役時代と退職後の自由時間の比較

 
図表I-3-1-24 平均寿命及び健康寿命の推移
図表I-3-1-24 平均寿命及び健康寿命の推移
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注4 (独)製品評価技術基盤機構によるアンケート調査(平成27年2月実施)
注5 東北大学災害科学国際研究所、東京大学地震研究所、富士通(株)、川崎市による、川崎市臨海部を対象とした津波被害軽減に向けた津波の予測や事前対策の技術検討に関して、それぞれの防災技術やAI・スパコンなどのICTを活用し、連携・協力して進めているプロジェクト
注6 健康増進や地域活性化につながる活動を行った際に付与されるポイントで、たまったポイントは地域での活動や買い物などに使用できる。
注7 (株)富士キメラ総研による調査(専用ディスプレイ等のAR/VR表示機器の国内市場が対象)
注8 KDDI(株)と(株)JTBにより「世界初の遠隔旅行体験イベント」として開催された。
注9 MR(Mixed Reality、複合現実)。CGなどで作られた人工的な仮想世界に現実世界の情報を取り込むことで、CGと実物を重ね合わせての確認や操作を可能とする技術。
注10 手戻りとは、作業手順のミス等による工程のやり直しのことを指す。
注11 総務省による実証事業で、株式会社セールスフォース・ドットコムが参加した。
注12 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間


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