第3節 産業の活性化

■9 持続可能な建設産業の構築

(1)建設産業を取り巻く現状と課題
 建設産業は、社会資本の整備を支える不可欠の存在であり、都市再生や地方創生など、我が国の活力ある未来を築く上で大きな役割を果たすとともに、震災復興、防災・減災、老朽化対策、メンテナンスなど「地域の守り手」としても極めて重要な役割を担っている。
 一方、建設業の現場では担い手の高齢化が進んでおり、将来的な担い手の確保が課題となっている。建設業をめぐる状況の変化をとらまえ、建設業における働き方改革を推進するため、平成30年7月には政府として「適正な工期設定等のためのガイドライン」を改訂(平成29年8月策定)した。
 また、建設業の働き方改革や生産性の向上を加速化させるため、第198回通常国会に「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を提出した。
 平成28年12月に成立した「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」及び同法に基づく基本計画に基づき、安全衛生経費が下請まで確実に支払われるような施策のフォローアップや、安全衛生経費の算出等を支援する施策として、安全衛生経費の算出手順書の作成・民間発注者向けの安全衛生経費の目安の提示を行う。
 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移は図表II-6-3-15のとおりである。
 
図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移
図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移
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(2)建設産業の担い手確保・育成
 建設産業は、多くの「人」で成り立つ産業である。建設業就業者数は近年、横ばいで推移しているが、今後、高齢者の大量離職が見込まれており、建設産業が地域の守り手として持続的に役割を果たしていくためには、引き続き、若者をはじめとする担い手の確保・育成を図るとともに、働き方改革に取り組んでいくことが重要である。
 このため、平成30年3月に策定した「建設業働き方加速化プログラム」を踏まえ、長時間労働の是正を図るとともに、適切な賃金水準の確保や社会保険への加入徹底、建設キャリアアップシステムの構築等による処遇改善に取り組む。また、将来の労働力人口の減少を踏まえ、建設現場におけるi-Constructionや重層下請構造の改善、書類作成等の現場管理の効率化、多能工化の推進等による生産性の向上も図っていく。
 加えて、若者の早期活躍を推進するため、技術検定制度の見直しを進めるとともに、建設業における円滑な技能承継を図るため、教育訓練の充実強化を図り、さらに、建設業における女性の更なる活躍を推進する。
 こうした取組みを官民一体となって推進し、建設業への入職を促進し、誇りを持って仕事に打ち込めるような環境整備に取り組んでいく。
 このほか、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等による当面の一時的な建設需要の増大に対応するための時限的措置として、平成27年4月1日より外国人建設就労者受入事業を実施しており、4,505人の外国人建設就労者が入国している(31年1月31日時点)。

(3)公正な競争基盤の確立
 建設産業においては、「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が成長していけるよう、建設業者の法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従前より下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進月間」の取組みを行っているほか、「建設企業のための適正取引ハンドブック」の作成、配布を通じて、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。

(4)建設企業の支援施策
1)地域建設業経営強化融資制度
 地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が工事請負代金債権を担保に融資事業者(事業協同組合等)から工事の出来高に応じて融資を受けることを可能とするものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化を推進している。本制度では、融資事業者が融資を行うにあたって金融機関から借り入れる転貸融資資金に対して債務保証を付すことにより、融資資金の確保と調達金利等の軽減を図っている。
 なお、本制度は平成20年11月から実施されており、31年度以降も引き続き実施することとした。
 
図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度
図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度

2)下請債権保全支援事業
 下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失の一部を補償することにより、元請建設企業の倒産等に伴う下請建設企業等の連鎖倒産を防止する事業である。
 なお、本事業は平成22年3月から実施されており、31年度においても引き続き実施することとした。
 
図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業
図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業

3)地域建設産業における多能工化の推進
 地域社会を支える中小・中堅建設企業の生産性向上を図るために、技能者間連携・企業間連携により専門技能の幅を広げる技能者の多能工化に取り組む企業について後押しをするモデル事業の実施や、多能工化の現状や有効性についての調査・検討を行い、セミナーやハンドブックを通じて建設企業に多能工化の推進に関するノウハウの横展開を実施した。

(5)建設関連業の振興
 建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)全体の登録業者情報を毎月、その情報を基にした業種ごとの経営状況の分析を翌年度末に公表しており、また関連団体と協力し就職前の学生を対象に建設関連業の説明会を開催するなど、建設関連業の健全な発展と登録制度の有効な活用に努めている。

(6)建設機械の現状と建設生産技術の発展
 我が国における主要建設機械の保有台数は、平成27年度で約94万台であり、建設機械の購入台数における業種別シェアは、建設機械器具賃貸業が約49%、建設業が約27%となっている。
 i-Constructionの取組みの一環として、ICT施工の普及促進を推進しており、3次元データを活用した建設機械の自動制御等により高精度かつ効率的な施工を実現するマシンコントロール/マシンガイダンス技術等の積極的な活用を図っている。ICT施工の普及促進のためには、現状、ICT施工機器の普及が十分とは言えないことから、建設業とともに、建設機械の購入シェアの大きい建設機械器具賃貸業の健全な育成発展が欠かせないものとなっている。

(7)建設工事における紛争処理
 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成29年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では34件(仲裁9件、調停19件、あっせん6件)、都道府県建設工事紛争審査会では96件(仲裁23件、調停53件、あっせん20件)となっている。


注 他人が有する売掛再建の保証や債権の買取りを行い、その債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系・前払保証会社系・リース会社系など10社のファクタリング会社が、当事業を運営している。


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