第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

3 高潮災害リスクの増大

(1)高潮の被害を受けやすい国土
 海に囲まれている我が国は高潮の被害を受けやすい状況にある。特に、三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)に面して広がるゼロメートル地帯には人口・資産が集積しており、高潮による浸水が起これば深刻な被害が予想される。

(2)海面水位の上昇と熱帯低気圧の強度の増大による将来の高潮災害リスクの増大
 高潮による浸水は、熱帯低気圧等に伴う気圧降下による海面の吸い上げ、強風による海水の吹き寄せによって、海面の水位が護岸より高くなること等により発生する。地球温暖化は、長期的には海面水位の上昇とともに熱帯低気圧の強度の増大をもたらすと予測されており、将来の高潮による浸水被害に大きな影響を与える可能性がある。

(海面水位の上昇)
 IPCCによると、世界平均の海面水位は温暖化に伴う海水膨張等により、1961年(昭和36年)から2003年(平成15年)にかけて1年当たり約1.8mm上昇しており、特に、1993年(平成5年)から2003年(平成15年)にかけては1年当たり約3.1mm上昇している。また、21世紀末(2090〜2099年)の海面水位は、1980(昭和55)〜1999(平成11)年の平均に対して最大59cm上昇すると予測されている。
 一方、気象庁によれば、我が国の海面水位は、過去約100年の間に約20年周期で上昇と下降を繰り返してきた。しかし、1980年代半ば以降、海面水位は上昇を続け、2004年(平成16年)には、1971(昭和46)〜2000(平成12)年の平均値より71mm高く、1960年(昭和35年)以降の最高記録を更新した。
 
図表I-1-2-10 世界平均の海面水位の推移

図表I-1-2-10 世界平均の海面水位の推移

(熱帯低気圧の強度の増大)
 気象庁では、1951年(昭和26年)から2006年(平成18年)までの台風の発生数、我が国への接近数、上陸数には、長期的な傾向は見られないとしている。熱帯低気圧の発生・発達には様々な要因が影響するが、例えば、今後、気温の上昇に伴って海面温度も上昇することから、熱帯低気圧のエネルギー源となる大気下層の水蒸気量も増加すると見込まれる。
 気象庁気象研究所等の研究グループが「地球シミュレータ」(注1)を用いて解析したところ、今後、熱帯低気圧の発生数は、全世界平均で30%程度減少する一方で、最大風速45m/sを超えるような非常に強い熱帯低気圧の出現頻度は増加する傾向があることがわかった。
 
図表I-1-2-11 全世界の熱帯低気圧の強度(最大風速)別年平均出現数

図表I-1-2-11 全世界の熱帯低気圧の強度(最大風速)別年平均出現数
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(高潮災害リスクの増大と砂浜の消失)
 このような海面水位の上昇や熱帯低気圧の強度の増大は高潮災害の危険性を高めることになる。仮に海面が59cm上昇した場合には、三大湾のゼロメートル地帯の面積、人口は約5割増加すると見込まれる。そのような状況において、例えば、室戸台風級の台風が首都圏を襲った場合の高潮浸水をシミュレーションすると、大きな被害が想定される。
 また、海面水位の上昇や熱帯低気圧の強度の増大により、砂浜の消失など海岸侵食の増加が想定される。30cmの海面水位の上昇により、我が国の砂浜の約6割が消失するとの予測もある(注2)
 
図表I-1-2-12 海面水位の上昇後の三大湾におけるゼロメートル地帯

図表I-1-2-12 海面水位の上昇後の三大湾におけるゼロメートル地帯
 
図表I-1-2-13 東京港における高潮浸水想定(試算)

図表I-1-2-13 東京港における高潮浸水想定(試算)


(注1)地球シミュレータとは、2002年(平成14年)に日本が開発した当時世界最速のスーパーコンピュータ。地球温暖化等の地球規模でのシミュレーションに利用され、IPCC第4次評価報告書の作成にも大きく貢献した。
(注2)環境庁「地球温暖化の日本への影響1996」

 

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