国土交通省ロゴ

国土交通白書 2020

第2節 環境変化に対する国土交通省の取組み

インタビュー 「新たなチャレンジ!暮らしを支える、未来を支える社会資本づくりへ」涌井史郎氏(東京都市大学・環境学部 特別教授)

 【これからの都市、国土づくり】

 地球は一定の環境容量しか持ち得ないにもかかわらず、人類は生存基盤である環境に対して無関心で、単なる資源としてしか見てきませんでした。こうした姿勢は必ず人類に災厄をもたらすと警鐘されてきました。その厄災のひとつは、自然災害の激甚化です。しかも、それだけでなくコロナウイルスまでが蔓延してきました。

 歴史を振り返ると、モンゴルがポーランド、ハンガリーに進出した時に、ペストが蔓延しました。人々のモノの見方、考え方が大きく変容し、やがて、中世の教会支配が終了してルネッサンスが起きました。コロナウイルスの蔓延は、長く続いてきた世界史の中で文明の潮流の転換点と考えることが重要だと思っています。

涌井史郎氏(東京都市大学・環境学部 特別教授)

 これまでは、国土づくりを考える時、どうしても経済が優先となりました。しかし、これからの国土像は、それぞれの地域が個性を豊かにしながら自立分節型の国土を地域圏で形成していくことが必要で、そこでは、エネルギーや物質も地産地消して循環的であるべきでしょう。これまで社会資本整備も進み、ある一定の安定した国土を構築してきたので、これからは、豊かさを追い求めるのではなく豊かさを深めることと、成熟の方向性をどう考えるかが重要ではないでしょうか。日本人のこれからの生き方は、自分らしく生きていく事に対していかに人生の時間を大切に使うか(コト消費)が重視されていきます(漫画で例えると「釣りバカ日誌」の浜ちゃんの生き方がいい事例です。)。

 ただし、激しくなるグローバリズム、国家間競争に打ち勝つには、やはり成長も必要であって、成長と成熟は並立していくべきです。幸いにして、高速交通網が仕上がってきたので、この利点を活かして、二地点居住を推進していけば、都市と地方の対流循環を引き起こすことができます。それに5G、6Gを上手く活用すればビジネスの発展にも大きく貢献できることになりましょう。スマートな国土の形成にもつながると期待されます。

 一方で、社会資本整備・運営はこれまで公共が担ってきましたが、自立型のコミュニティを重視していくとなると、公共に任せているべきではありません。地域住民が、個性を大事にした地域、自分たちのライフスタイルを守れる地域都市を求めることにより、積極的にインフラの整備・運営に関与する行為が生まれてくるだろうと考えています。関係各省庁で進めているグリーンインフラは、その入り口であって、グリーンコミュニティが出口と考えています。

 【国土交通省への要望】

 近年、コスト重視でない価値が生まれつつあります。国土交通省は、国民に対して新しいライフスタイルの提示を積極的に行うことが大事ではないでしょうか。例えばエリアマネジメント等で活躍しているサブカルチャーの方々のクリエイティブな発想を取り入れ、世界に向け創造的ライフスタイルを発信しコト消費を喚起してほしいと思います。

 一方、MaaSなど統合的なシステムが地域に浸透すると、地域特性を更に磨き上げる努力と成果が生まれることでしょう。国土交通省は全国民という大きなマーケットを抱えている省なのですから、今まさに社会的大変容が起きようとしていることも踏まえて、これまでの延長線上の施策ではなく、どのような地域や国土づくりをするのかを白紙で考え、新たなビジョンを掲げてしっかり行ってほしい。

 産業を支える社会資本はすでに出来ています。これからは暮らしを支える、未来を支える社会資本をどう創り出せるかが大事です。大いに時代を拓くチャレンジをしてほしいと思います。