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国土交通白書 2020

第2節 環境変化に対する国土交通省の取組み

■5 進歩する技術の取込み

(1)交通・都市分野への応用

(ICカードの相互利用)

 2001年(平成13年度)にSuicaのサービスが開始されてから、交通機関の決済手段として交通カードは我々の生活に急速に普及してきた。2007年には首都圏の私鉄、地下鉄等で使用可能なPASMOのサービスが開始された。当時は、鉄道等各社がそれぞれ独自に交通カードを発行しており、対応しているのは発行元の交通機関のみであったため、使用する交通機関毎に複数枚のカードを持つ必要があった。

 こうした状況を受けて、2013年に全国10種類の交通系ICカード注98の相互利用を開始し、1枚のカードで公共交通機関を利用できる範囲が大幅に拡大した。利便性の向上とともに、交通カードの利用は加速度的に増加し、主要9種類の交通系ICカードの月当たりの利用回数は、2019年12月には2.5億回を超えた(図表I-1-2-29)。

図表I-1-2-29 主要9社注97の交通カードの利用件数/月
図表I-1-2-25 主要9社<sup>注97</sup>の交通カードの利用件数/月

 2020年3月には、「交通政策基本計画」(2015年2月閣議決定)において定められた目標に基づき、相互利用可能な交通系ICカードを全都道府県で使えるようになり、我々の移動の利便性は大幅に向上している。

(先進安全自動車の推進)

 先進技術を利用してドライバーの安全運転を支援するシステムの開発が進んでいる。

 国土交通省では、交通事故の削減に向け、このようなシステムを搭載した先進安全自動車(ASV注99)の開発・実用化・普及を促進しており、自動車メーカーや関係団体等と連携し、1991年(平成3年)よりASV推進計画を策定し、取組みを推進してきた。

 第3期ASV推進計画を定めた2001年度からは、ASV装置を搭載した事業用車両の購入事業者への補助金の交付や、実証実験による技術開発支援等も行ってきた。

 これまでに前方障害物衝突被害軽減ブレーキや車線維持支援装置(レーンキープアシスト)といったASV技術が実用化されている。現行の第6期ASV推進計画注100では、自動運転の実現に向けたASVの推進を行っている(図表I-1-2-30)。

図表I-1-2-30 主なASV技術
図表I-1-2-30 主なASV技術

(自動運転の推進)

 我が国においては、交通事故の削減や、過疎地域等における高齢者等の移動手段の確保,ドライバー不足への対応等が喫緊の課題であり、自動運転車は、これらの課題解決に貢献することが期待されている。

 自動運転は、その技術段階に応じてレベル分けされている。大きくは、システムが人間の運転を補助するもの(レベル1~2)と、システムが運転操作するもの(レベル3~5)に分けられる。政府の目標として、2020年(令和2年)を目途とした高速道路におけるレベル3の自動運転の実現、また、2020年までの限定地域での無人自動運転移動サービスの実現及び高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術の実現等が掲げられている。

 自動運転の実現に向けた実証実験・社会実装については、最寄駅等と目的地を結ぶ自動運転移動サービスに関し、2019年6月より地域事業者による約6か月程度の長期移送サービスの実証評価を行うとともに、遠隔型自動走行システムを活用し遠隔操作者1名が3台を遠隔監視・操作する模擬実証などを行った。また、2020年度から5地域で中型自動運転バスを活用した実証を実施するための車両開発を行った(図表I-1-2-31)。さらに、中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスに関する長期間(1~2ヶ月)の実証実験を2018年11月から実施するとともに、ニュータウンにおける自動運転サービスの実証実験を2019年2月から実施している。このうち、2019年11月に道の駅「かみこあに」において、自動運転サービスを本格導入した(図表I-1-2-32)。

図表I-1-2-31 ラストマイル自動走行に関する遠隔型実証実験(永平寺町)
図表I-1-2-31 ラストマイル自動走行に関する遠隔型実証実験(永平寺町)
図表I-1-2-32 道の駅「かみこあに」を拠点とした自動運転サービス
図表I-1-2-32 道の駅「かみこあに」を拠点とした自動運転サービス

 加えて、2019年1月より新東名高速道路においてトラックの隊列走行における後続無人隊列システムの実証実験(後続有人状態)を引き続き実施した。

(ドローンの活用と安全性の確保)

 ドローンは、一般向けの空撮等に用いられているのみならず、産業用途でも開発が進められ、物流や農業等の様々な分野での活用が試みられている。

 物流分野では、まずは生活物資等の災害時を含めた新たな配送手段としての活用が期待されることから、国土交通省は2018年度に山間部や離島等の5地域注101で実施された検証実験に対して支援を行った(図表I-1-2-33)。検証実験の結果を踏まえ、有識者等の検討会を開催し検討を行った結果、2019年6月に、導入コストの低廉化を図った上で、配送の多頻度化や物流以外の用途への活用により収益性を向上することで、事業採算性を確保できる旨とりまとめた。これを踏まえて、2020年度からは、導入コストの低廉化を通じた普及を促進するため、機材購入等に対する補助制度を創設した。

図表I-1-2-33 ドローン物流の検証実験(埼玉県秩父市)
図表I-1-2-33 ドローン物流の検証実験(埼玉県秩父市)

 ドローンの利活用が拡大する中で、主に一般向けドローンにおいて、飛行中の落下や重要施設上空への侵入などの問題が発生するようになった。こうしたことを受け、2015年12月には、航空法を改正し、ドローンを「無人航空機」として新たに定義し、飛行禁止区域や飛行方法等の基本的なルールを整備した。2016年4月には、小型無人機等飛行禁止法が施行され、内閣総理大臣官邸をはじめとする国の重要施設、外国公館や原子力事業所などの周辺地域の上空でドローン等を飛行させることが禁止された。ラグビーワールドカップ2019大会や東京2020大会を控えた2019年には、危機管理等の観点から小型無人機等飛行禁止法等が改正され、大会施設の周辺上空や防衛関係施設の周辺上空での飛行が禁止された。

 ドローン等の利活用が進む一方で、航空法に違反する事案・事故が頻発するようになった。しかし、こうした事故発生時に所有者が分からないために原因究明や安全確保のための措置を講じさせることができない場合も存在した。また、空港周辺での無人航空機らしき物体の目撃情報が原因で滑走路を閉鎖しなければならない事案等が発生し、空港利用者や経済活動に多大な影響が及ぶこともあった。こうした課題に対処するため、無人航空機の登録制度の創設や主要空港周辺上空での飛行禁止等を定めた航空法等の改正案を令和2年度通常国会に提出した。

(スマートシティの推進)

 「スマートシティ」という言葉は、2010年(平成22年)頃から社会に浸透し始めた。当初は、「スマートシティ」に係る取組みは、都市におけるエネルギーの効率的な利用など、都市の特定の分野に特化した取組みが多かったが、IoT、ロボット、AI、ビッグデータといった新たな技術の開発が進んだことを踏まえ、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018-「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革-」では、“まちづくりと公共交通・ICT活用等の連携によるスマートシティとして、『まちづくりと公共交通の連携を推進し、次世代モビリティサービスやICT等の新技術・官民データを活用した「コンパクト・プラス・ネットワーク」の取組みを加速するとともに、これらの先進的技術をまちづくりに取り入れたモデル都市の構築に向けた検討を進める』ことが盛り込まれた。国土交通省では、2018年に公表したスマートシティの実現に向けた中間とりまとめの中で、スマートシティを『都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区』と定義した。2019年には、全国の牽引役となる先駆的な取組みとして15の「先行モデルプロジェクト」や、国が重点的に支援を実施する23の「重点事業化促進プロジェクト」を選定し、全国各地での展開を推進している(図表I-1-2-34)。

図表I-1-2-34 スマートシティプロジェクト箇所図
図表I-1-2-34 スマートシティプロジェクト箇所図

 また、国土交通省では、内閣府、総務省、経済産業省と共同で、スマートシティの取組みを官民連携で加速するため、企業、大学・研究機関、地方公共団体、関係府省等を会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を2019年8月に設立した。このプラットフォームを通じて、事業支援、分科会の開催、マッチング支援、普及促進活動等を実施することにより、スマートシティの取組みを支援している。

(MaaSの取組み)

 第1章第1節9に示すとおり、近年、民間企業を中心にMaaSの取組みが進められているが、国土交通省においても早期の全国普及を目指して推進を行っている。

 2019年3月に開催した「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」において、MaaSを含む新たなモビリティサービスの推進のための取組み等について中間とりまとめを行った。この中間とりまとめを踏まえ、地域特性に応じたMaaSのモデル構築を進めるため、2019年6月に全国の牽引役となる先駆的な取組みを行う「先行モデル事業」を19事業選定し、実証実験への支援を行った(図表I-1-2-35)。

図表I-1-2-35 新モビリティサービス推進事業先行モデル事業
図表I-1-2-35 新モビリティサービス推進事業先行モデル事業

 また、MaaSを提供するためには、交通事業者等によるデータが連携されることが不可欠であり、MaaSに関連するデータの連携が円滑に行われることを目的として、2020年3月に「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」を策定した。

(2)インフラ整備への技術の活用

 国土交通省では、道路施設の定期点検の高度化・効率化を一層推進していくため、2019年2月に点検に活用可能な新技術を取りまとめた「点検支援技術性能カタログ(案)」を新たに作成した。本カタログ(案)にはドローンをはじめとする様々な新技術が掲載されるとともに、技術の進展に応じ、掲載技術の拡充を毎年度実施していく予定である(図表I-1-2-36注102)。

図表I-1-2-36 定期点検の作業過程における新技術による支援イメージ
図表I-1-2-36 定期点検の作業過程における新技術による支援イメージ

(3)気象分野への応用

 豪雨や台風等による被害が相次ぐ中、気象現象の観測・分析を行う体制の強化は、一層重要性が増している。

 気象現象の観測については、2008年(平成20年)に新アメダス(アメダスデータ等統合処理システム)を導入したことで、従来は10分おきに観測していた気温を10秒おきに観測することが可能となった。気象レーダーについては、2009年に観測頻度を従来の10分間隔から5分間隔に短縮するとともに、従来よりも16倍詳細に観測可能なレーダーであるXRAINを2010年に導入した結果、局地的な大雨等の観測精度が向上した。

 また、気象衛星についても、2014年にひまわり8号を打ち上げ、現在観測運用中であり、2.5分毎に日本域を観測する機能を追加するとともに、観測する画像の種類を大幅に増加し、解像度も2倍に向上させた。また、2016年にはひまわり9号を打ち上げ、現在待機運用を行っており、2022年には観測運用を交代する計画である(図表I-1-2-37)。気象庁ではこれらの観測で得られた膨大なデータを、スーパーコンピューターを用いた分析にも活用しており、これらは気象現象の監視・予測に役立てられている。

図表I-1-2-37 ひまわり8号・日本の気象衛星のあゆみ
図表I-1-2-37 ひまわり8号・日本の気象衛星のあゆみ

(4)行政手続きの効率化

 従来、行政手続きの多くは、紙面で行われており、申請のためには基本的に担当機関まで出向く必要があった。

 例えば、自動車については、車庫証明の申請は警察署、検査登録の申請や自動車重量税の納付は運輸支局、自動車税(環境性能割及び種別割)の納付は県税事務所と担当が異なり、それぞれ出向く必要がある。こうした煩雑さをなくすために、関係省庁と連携し、自動車の新規登録を対象として、2005年(平成17年)にインターネット上で一元的に手続きを行うことができる「自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)」を開始した。2017年には、保安基準適合証等が電子化され、OSSの対象を継続検査手続き等に拡大した。また、新規登録手続きにおいてOSSが利用可能な地域は2017年以前の11都府県から、2020年3月時点で44都道府県に拡大しているほか、継続検査手続きに係るOSSの利用が伸長している(図表I-1-2-38)。

図表I-1-2-38 継続手続きにおけるOSSを利用した申請件数・申請率の推移
図表I-1-2-38 継続手続きにおけるOSSを利用した申請件数・申請率の推移

 しかしながら、継続検査については、OSSを利用した場合でも自動車検査証の受取のために運輸支局等への来訪が必要となっており、更なる利用促進の課題となっている。このため、2019年5月に道路運送車両法を改正し、自動車検査証をICカード化するとともに、自動車検査証への記録等の事務を国から委託する制度を創設し、運輸支局への出頭を不要とすることとした。現在、2023年1月を想定し、IC自動車検査証の導入に向けた準備を進めている。

  1. 注97 Kitaca(北海道旅客鉄道(株))、PASMO((株)パスモ)、Suica(東日本旅客鉄道(株))、manaca((株)名古屋交通開発機構及び(株)エムアイシー)、TOICA(東海旅客鉄道(株))、ICOCA(西日本旅客鉄道(株))、はやかけん(福岡市交通局)、nimoca((株)ニモカ)、SUGOCA(九州旅客鉄道(株))の加盟店における各交通系電子マネーの利用件数の合計値。
  2. 注98 Kitaca(北海道旅客鉄道(株))、PASMO((株)パスモ)、Suica(東日本旅客鉄道(株))、manaca((株)名古屋交通開発機構及び(株)エムアイシー)、TOICA(東海旅客鉄道(株))、PiTaPa(スルッとKANSAI)、ICOCA(西日本旅客鉄道(株))、はやかけん(福岡市交通局)、nimoca((株)ニモカ)、SUGOCA(九州旅客鉄道(株))の10社。
  3. 注99 「Advanced Safety Vehicle」の略
  4. 注100 2016~2020年度
  5. 注101 福島県南相馬市・浪江町、埼玉県秩父市、長野県白馬村、岡山県和気町、福岡県福岡市の5地域
  6. 注102 当該図表は、参考イメージです。