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国土交通白書 2020

第3節 国際環境に関する予測

インタビュー 「国土の高度利用、住みやすいまちづくりのための仕組みに期待」八代英輝氏(弁護士)

 【成熟した日本の未来へ】

 将来の日本の社会について考えてみると、環境面では気候変動等により自然災害の頻発化や激甚化が進むことが予想されます。また、超高齢化や居住スタイルの変化に伴い、空き家、耕作放棄地、森林荒廃などが進むことが懸念されます。このように自然災害の激甚化や人口の偏在化が進む中で老朽化する社会・公共インフラをどのように維持・管理していくかが重要課題となると思われます。技術的にはICTによる情報の集約や、AIを搭載したドローンやロボットを活用することなどがポイントとなっていくのではないでしょうか。

社会・公共インフラをどのように維持・管理していくかが重要課題

 一方、今後、日本が世界の中で成長を続けていくためには、ASEAN、インド、アフリカ、中国等の今後も人口増や経済成長が見込まれる地域への支援ビジネス、中でも、都市開発、高速鉄道建設、物流、観光等へのシステム輸出や技術支援が有望な分野であり続けると思われます。

 例えば、海外に滞在した経験から、物が壊れずに届くということ、一見当たり前のことが実はいかにありがたいことかをよく実感しました。その点、日本の物流システムは、RFIDタグを活用することによって、荷物や在庫を一元管理し、指定された日時に正確に配送する細やかなサービスを常態化しており、これは上記の各国の流通改革にも大きく役立つものと感じます。また、素人考えですが、観光庁や京都などの一部の自治体が行っている観光客誘致のノウハウや観光産業を育てる支援ビジネス等も有望だと考えます。

 変化する国際情勢の中で日本が引き続き成長を続けていくためには、二国間・多国間での外交努力によるわが国の存在感の維持も必要で、これを補うプレゼンテーション・営業能力の向上もポイントです。例えば、今日では日本版「新幹線」の売り込みに際しては、車両や軌道、信号、運行管理、保守点検なども含めた一つのシステムを一体としてセールスワンストップ化が常識となっていますが、日本製品の魅力向上のために民間をリードすることにつながる施策は課題となっている防衛装備品の輸出においても有効と考えます。

 【国土交通省への要望】

 弁護士として国土交通行政で気になるところは、冒頭で触れた空き家、空き地問題における権利関係処理の課題です。日本の私有財産保障は手厚く、それ自体は素晴らしいことですが、超高齢化社会において、国土の高度利用、住みやすいまちづくりのために、空き家問題を含め、権利の放棄、価格賠償等を簡単にできる仕組みが必要であると考えます。例えば、一定期間公示しても所有者が判明せず、納税もされていない土地や建物は行政が利用できるようにする。所有者が現れて自ら所有権を証明すれば、その時点の土地価格に沿った賠償や補償をして行政は免責されるというシステムです。使われていない土地は緑地などに利用するとともに、まちをコンパクトにしていく必要があるでしょう。そうしなければ今後同じレベルのインフラサービスを維持していくことは難しくなってくるのではないでしょうか。

 また、将来的には、川の利用に対する施策に期待したいです。例えば、現在、日本橋川の上に首都高速都心環状線が通っているため、周辺のビルは川に対して背を向けて建てられていますが、このような景観は日本だけです。地価の高い東京ではハードルが高くなりますが、世界では、川を交通として利用するだけでなく、川辺の遊歩道の整備やカフェの設置等、景観を整えることによって地域を魅力的な空間としています。観光立国という意味においても、将来、そのような魅力ある都市が形成されることを望んでいます。