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国土交通白書 2020

第2節 持続可能なインフラメンテナンスサイクルの実現のために

■3 今後の取組みの方向性

(1)予防保全の徹底

(「事後保全」から「予防保全」への転換)

 インフラメンテナンスについては、施設に不具合が生じてから対策を行う「事後保全」から、施設に不具合が生じる前に対策を行う「予防保全」への転換や新技術の導入等により、今後増加が見込まれる維持管理・更新費の縮減を図ることが重要である。

 国土交通省が所管するインフラを対象に将来の維持管理・更新費を推計したところ、「事後保全」の場合、1年当たりの費用は2048年度(令和30年度)には2018年度の約2.4倍となった。一方、「予防保全」の場合、1年当たりの費用は2048年度には「事後保全」の場合と比べて約5割減少し、30年間の累計でも約3割減少する見込みとなった(図表I-3-2-8)。

図表I-3-2-8 将来の維持管理・更新費の推計結果
図表I-3-2-8 将来の維持管理・更新費の推計結果

 これまで、道路施設、河川管理施設など様々な分野で点検を行っており、早急に対策を実施する必要があるインフラが多数存在していることが判明している。まずはこれらの施設の機能を回復させることが予防保全への本格転換の第一歩である。

(200年以上供用可能な重要構造物)

 本州四国連絡高速道路は、瀬戸内海に世界最大規模の橋梁群を有する重要な社会資本であり、神戸淡路鳴門自動車道、瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)、西瀬戸自動車道(瀬戸内しまなみ海道)により構成されている。瀬戸大橋が開通した1988年(昭和63年)から31年間の経済効果額の累計は約41兆円となっており、瀬戸内だけでなく全国にも経済波及効果をもたらす重要な社会インフラである。これらの橋梁群は構造物が巨大で代替が困難であるため、200年以上の長期にわたって供用するために、綿密な維持管理計画が必要である。

 このため、本州四国連絡高速道路では、維持管理において「アセットマネジメント」の考え方を導入し、体系的かつ確実な予防保全を行っている。その一例として、点検が困難な桁や床版下面部分を見ることができる専用の橋梁点検作業車を有し、作業の効率化を図っている。また、重要部材の一つである吊橋のケーブル部分は、取替えが困難であり腐食が起きると重大な損傷につながる。そのため、ケーブル送気乾燥システムにより、ケーブル内の湿度を60%以下に管理し、腐食を防止している。橋梁点検作業車が届かない主塔等は、高画質カメラや主塔点検ロボット(試行)を用いて点検を実施している。構造物を守る塗装の点検に関しては、近赤外線カメラにより上塗塗膜厚を測定することで、劣化箇所を発見する技術開発を行うなど、塗替え時期の最適化を図っている(図表I-3-2-9)。また、塗替えなどの計画を定期的に立て維持管理を実施することで、補修費の急激な増加を抑え、長期にわたって予防保全の効果を保つこととしている。

図表I-3-2-9 本州四国連絡橋における予防保全実施例
図表I-3-2-9 本州四国連絡橋における予防保全実施例

(2)新技術の活用

 今後の技術者の減少や維持管理・更新費の増加などに対応するためには、新技術を活用した維持管理・更新の高度化・効率化が重要である。例えばドローン等を活用した計測に関する技術の進歩は近年著しく、風速20m程度の強風下でも飛行可能な全天候型のものや、3次元データを出力できる陸上・水中ドローンが登場しており、測量・調査の高度化が進んでいる。

 さらに、新技術活用により得られたデータの整備・活用も行われている。国土交通省では、測量・調査から設計、施工、維持管理に至る建設生産プロセス全体で得られたデータを集約・共有し、地方公共団体のデータとも連携の上、サイバー空間上に国土を再現する「インフラデータプラットフォーム」の構築を進めている(図表I-3-2-10)。インフラデータプラットフォームと交通や気象等のデータとの連携により、災害時の避難シミュレーションや最適なヒートアイランド対策の実現等、行政サービスの高度化や新しい産業やサービスの創出を実現することが可能になると考えられる。

図表I-3-2-10 インフラデータプラットフォームの構築
図表I-3-2-10 インフラデータプラットフォームの構築

(3)多様な主体による連携・協力・支援

(地方公共団体間の連携や国による地方公共団体への支援)

 地方公共団体の技術職員が減少する中で老朽化した大量のインフラを維持管理するためには、地方公共団体間の連携や、国から地方公共団体への支援が必要である。

 例えば、道路や河川の維持管理を包括的民間委託として実施することや、都道府県と市区町村の業務を共同発注することなどにより、契約の合理化や地方公共団体間の連携の強化が可能である。また、国土交通省では、地方公共団体からの要請に基づき技術者を派遣するなど、人的支援を行っている。

 また、インフラメンテナンスに社会全体で取り組むことが必要との認識から、2016年(平成28年)に、産学官民が有する技術や知恵を総動員するためのプラットフォームとして、「インフラメンテナンス国民会議」を立ち上げた。その中で、インフラの維持管理における分野横断的な連携や、多様な主体との連携等を推進し、産学官民の技術や知識を総動員するプラットフォームを形成している。

(住民の理解・協力)

 管理者や専門家だけでなく、日常的にインフラを利用する住民も、メンテナンスの必要性を理解し、インフラの点検等に協力することも有効である。福島県平田村では、専門家が住民に対して点検のポイントをわかりやすく整理・共有することで、住民が日常点検や排水枡の清掃に参加する地域活動を行っている(図表I-3-2-11)。このような取組みの展開を促進することも必要である。

図表I-3-2-11 インフラメンテナンスへの住民参加の例(橋のセルフメンテナンスふくしまモデル)
図表I-3-2-11 インフラメンテナンスへの住民参加の例(橋のセルフメンテナンスふくしまモデル)

(維持管理・更新の費用負担のあり方)

 予防保全への転換を実現したとしても、維持管理・更新費は2018年度よりさらに増加することから、費用面でも更なる工夫が必要となる。しかし、国民意識調査注3によると、「社会資本の適切な維持管理・更新が現状のままでは困難となった場合の対応の方向性」について「サービス水準の引下げ」、「利用料金の引上げ・増税」、「廃止・縮小」の順に反対が多い結果となっている。今後も持続的に適切な維持管理・更新を行なっていくためには、費用負担のあり方も含め、議論を深めていく必要がある。

  1. 注3 図表I-3-2-7