
国土交通白書 2020
第4節 交通政策の推進
MaaS注は、ICTやAI等の技術革新やスマートフォンの急速な普及を背景に、公共交通の分野におけるサービスを大きく変える可能性がある。MaaSは既存の公共交通の利便性の向上や、地域や観光地における移動手段の確保・充実に資するものであり、その普及により、免許を返納した高齢者、障害者の方々、更には外国人旅行者も含めて、自らの運転だけに頼ることなく、移動しやすい環境が整備されることが期待できる。令和元年度には、国土交通省及び経済産業省では、新たなモビリティサービスの社会実装を通じた移動課題の解決及び地域活性化を目指し、地域と企業の協働による挑戦を促すプロジェクトである「スマートモビリティチャレンジ」を開始し、全国各地での実証実験を支援するとともに、最新の知見の共有や地域の関係者の連携を深めることを目的に、全国8ヶ所でのシンポジウムを開催した。
国土交通省では「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」中間とりまとめ(平成31年3月)を踏まえ、地域特性に応じたMaaSのモデル構築を進めるため、令和元年6月に全国の牽引役となる先駆的な取組みを行う「先行モデル事業」を大都市近郊型・地方都市型で6地域、地方郊外・過疎地型で5地域、観光地型で8地域の19地域選定し、実証実験への支援を行った。また、MaaSが各地域に普及する中で、AIオンデマンド交通やグリーンスローモビリティといった新型輸送サービスの導入も図られつつある。
また、経済産業省では、「パイロット地域分析事業」を13地域で選定し、ベストプラクティスの抽出や横断的な課題の整理等を行った。
MaaSを提供するためには、フィジカル空間における交通結節点の整備等、多様な交通モードの接続の強化を推進するとともに、交通事業者等によるデータが連携されることが不可欠であり、これらのデータが円滑に連携されることが重要となる。このため、国土交通省では令和元年9月に有識者等から構成される検討会を開催し、2年3月に「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」を策定した。
また、MaaSにおいては複数の交通事業者間において、柔軟に運賃等を設定し、さらに目的地における観光・小売・医療・福祉・教育等の交通以外の幅広い分野における関係者との連携を促進することが重要であることから、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」の改正法(令和2年5月成立)に基づく、「認定新モビリティサービス事業計画」及び当該計画に基づく交通事業者の運賃設定に係る手続きをワンストップ化する特例措置や、幅広い関係者の協議・連携を促進するための「新モビリティサービス協議会(MaaS協議会)」の活用を図っていくことが求められる。
今後は、MaaSによる付加価値をさらに高めるため、モビリティと幅広い分野との連携を深め、地域課題の解決に資するMaaSのモデル構築及び横展開を推進するとともに、交通機関におけるキャッシュレス化や交通情報のデータ化等のMaaSの基盤づくりを行い、早期の全国普及を目指す。

- 注 MaaS(マース:Mobility as a Service)…スマホアプリ又はwebサービスにより、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス。新たな移動手段(AIオンデマンド交通、シェアサイクル等)や関連サービス(観光チケットの購入等)も組み合わせることが可能。