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国土交通白書 2020

第7節 海洋の安全・秩序の確保

第7節 海洋の安全・秩序の確保

(1)近年の現況

 尖閣諸島周辺海域においては、ほぼ毎日、中国公船による接続水域での活動が確認され、領海侵入する事案も発生しており、令和元年の尖閣諸島周辺の接続水域での中国公船の確認日数と延べ隻数はいずれも過去最多となるなど、情勢は依然として予断を許さない状況となっている。また、昨今では、中国公船の大型化・武装化・増強が確認されており、平成30年7月には、中国海警局が人民武装警察部隊(武警)に編入されるなど、中国の動向を引き続き注視していく必要がある。

図表II-2-7-1 領海警備を行う巡視船
図表II-2-7-1 領海警備を行う巡視船

 海上保安庁では、現場海域に巡視船を配備するなど、我が国の領土・領海を断固として守り抜くとの方針の下、事態をエスカレートさせないよう、冷静に、かつ、毅然とした対応を続けている。また、東シナ海等の我が国排他的経済水域においては、外国海洋調査船による我が国の事前の同意を得ない調査活動等も確認されており、海上保安庁では、関係機関と連携しつつ、巡視船等による警戒監視等、その時々の状況に応じて適切に対応をしている。さらに、大和堆周辺海域における多数の外国漁船の違法操業が確認されるとともに、日本海沿岸部への北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が増加する等、我が国周辺海域を巡る状況は、一層厳しさを増している。

図表II-2-7-2 中国公船による接続水域入域・領海侵入件数
図表II-2-7-2 中国公船による接続水域入域・領海侵入件数
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(2)海上保安体制強化の推進

 厳しさを増す我が国周辺海域を巡る情勢を踏まえ、平成28年12月21日に開催された「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」において、「法執行能力」、「海洋監視能力」及び「海洋調査能力」の強化を図るため、以下5つの柱からなる「海上保安体制強化に関する方針」が決定され、海上保安庁では、同方針に基づき、海上保安体制の強化を進めてきたところである。1)尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備、2)広大な我が国周辺海域を監視できる海洋監視体制の強化、3)テロ対処や離島・遠方海域における領海警備等の重要事案への対応体制の強化、4)我が国の海洋権益を堅守するための海洋調査体制の強化、5)以上の体制を支える人材育成などの基盤整備。

図表II-2-7-3 海上保安体制強化に関する関係閣僚会議
図表II-2-7-3 海上保安体制強化に関する関係閣僚会議

 令和元年12月20日、4回目となる「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」が開催され、平成28年12月の同会議において決定された「海上保安体制強化に関する方針」に基づく取組みの進捗状況を確認するとともに、尖閣領海警備のための大型巡視船、新型ジェット機、海洋監視のための大型無人機の国内飛行実証、教育訓練施設の拡充など、海上保安体制の強化を引き続き進めていくことが確認された。加えて、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、諸外国との連携を通じた法の支配に基づく国際的な海洋秩序を維持・強化することの重要性が確認された。

 また、令和2年1月以降、同方針に基づき整備を進めてきたヘリ搭載型巡視船を含む大型巡視船3隻、大型測量船1隻、新型ジェット機1機が就役した。

図表II-2-7-4 進水式の様子
図表II-2-7-4 進水式の様子

(3)「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて

 我が国は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP=Free and Open Indo-Pacific)の実現に向け、1)基本的原則の定着とそれに基づく秩序形成(法の支配、航行の自由、自由貿易の普及・定着)、2)平和と安定の確保(海上法執行能力の向上、人道支援、災害救援、海賊対策などでの協力)、3)経済的繁栄の追求(連結性、EPAや投資協定を含む経済連携強化)の3点を「三本柱の施策」と定め、地域全体の平和と繁栄を確保するため、各種取組みを推進している。

 海上保安庁では、この「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、多国間及び二国間の連携・協力の取組みを強化するとともに、シーレーン沿岸国等の海上保安機関の能力向上を支援し、年々深化・多様化する国際業務に適切に対応する体制を構築するため、令和元年7月、国際戦略官を新設した。

 多国間の連携・協力については、グローバル化あるいはボーダレス化する傾向にある国際犯罪への対応や、大規模化する事故や災害への対応、環境汚染への対応など、各国で連携していくことが重要という認識の下、いずれも日本のイニシアチブのもとでスタートし、平成12年から開催されている北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)や16年から開催されているアジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)を通じて、海上保安機関間の連携・協力を積極的に推進している。

 さらに、このような地域の枠組を超え、世界の海上保安機関が法の支配に基づく海洋秩序の維持など基本的な価値観を共有し、力を結集して地球規模の課題に取り組むため、29年9月、世界で初めて世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団と共催した。令和元年11月には、これまで海上保安庁が主催した国際会議の中で史上最大となる、世界75か国、84の海上保安機関等の長官級をはじめ約190名以上が参加した「第2回世界海上保安機関長官級会合」を東京で開催した。

 一方、二国間の連携については、地政学上重要なシーレーン沿岸国と、事案対応時に迅速かつ的確な連携・協力を行うために覚書や協定を締結して二国間の枠組を構築しており、令和元年6月には、インドネシア海上保安機構との間で、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした長官級の協力覚書に署名した。

 また、増大する諸外国からの海上保安能力向上支援の要望に応えるため、平成29年10月、海上保安国際協力推進官を責任者とする能力向上支援の専従部門「海上保安庁モバイルコーポレーションチーム:MCT」を立ち上げ、令和元年度末までに、MCT職員を14か国へ合計30回派遣し、各国の海上保安能力向上を支援した。

 さらに、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進を通じて、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、そして「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化の重要性について認識の共有を図るため、平成27年10月、政策研究大学院大学と連携の上、海上保安政策に関する修士課程「海上保安政策プログラム」を開設し、アジア諸国の海上保安機関の若手幹部職員を受入れており、これまで7か国から32名が修士号を取得した。

 このように、海上保安庁では、「自由で開かれたインド太平洋」の推進という政府方針の下、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持のための取組みを推進している。