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国土交通白書 2020

第1節 交通ネットワークの整備

■3 航空ネットワークの整備

(1)航空ネットワークの拡充

1)首都圏空港の機能強化

 「明日の日本を支える観光ビジョン」における訪日外国人旅行者数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人等の目標の達成、首都圏の国際競争力の強化、地方創生、東京2020大会の円滑な開催等の観点から、首都圏空港(東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港(成田空港))の機能強化は必要不可欠であり、年間約100万回の発着容量とするための取組みを進めているところである。

図表II-6-1-5 東京国際空港の概要
図表II-6-1-5 東京国際空港の概要

 具体的には、羽田空港について、令和2年3月29日から新飛行経路の運用を開始し、国際線の発着容量を年間約4万回拡大した。新飛行経路の運用にあたっては、これまで騒音・落下物対策を実施するとともに6巡にわたる住民説明会を開催してきたところであり、引き続き丁寧な情報提供に努めていくこととしている。また、今般の増枠分については、羽田空港未就航の大都市を多数抱える米国や中国に加え、昼間時間帯の新規就航となるロシアや豪州など、合計9カ国・地域に配分した。成田空港については、令和元年12月に高速離脱誘導路の整備が完了し、令和2年3月29日から空港処理能力を年間約4万回拡大したところである。また、更なる機能強化として、平成30年3月の国、千葉県、周辺市町、空港会社からなる四者協議会の合意に基づき、B滑走路延伸・C滑走路新設及び夜間飛行制限の緩和により、年間発着容量を50万回に拡大する取組みを進める。

図表II-6-1-6 羽田空港の旅客数・年間発着枠の推移
図表II-6-1-6 羽田空港の旅客数・年間発着枠の推移
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図表II-6-1-7 成田国際空港の概要
図表II-6-1-7 成田国際空港の概要
図表II-6-1-8 成田国際空港の旅客数・年間発着枠の推移
図表II-6-1-8 成田国際空港の旅客数・年間発着枠の推移
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2)関西国際空港・中部国際空港の機能強化

 関西国際空港においては、平成28年4月から運営の民間委託(コンセッション運営)を開始した。運営権者である関西エアポート(株)は、コンセッション運営開始後、第2ターミナル(国際線)の整備や「スマートセキュリティー」システム導入等の取組みを実施し、令和元年には、開港以来初の旅客数3,000万人超を達成した。今後も引き続き、民間の創意工夫により第1ターミナル改修等の同空港の機能強化を推進する。

 中部国際空港においては、令和元年の旅客数及び発着回数が過去最高を更新した。また、LCCの新規就航等に対応するためLCC専用ターミナルの整備を進め、元年9月20日に開業した。

図表II-6-1-9 関西国際空港「スマートセキュリティー」システム スマートレーン イメージ図
図表II-6-1-9 関西国際空港「スマートセキュリティー」システム スマートレーン イメージ図
図表II-6-1-10 中部国際空港LCC専用第2ターミナル チェックインロビー
図表II-6-1-10 中部国際空港LCC専用第2ターミナル チェックインロビー

3)地方空港の機能強化

 沖縄県と国内外とを結ぶ人流・物流の拠点として極めて重要な役割を果たしている那覇空港において、更なる沖縄振興を図るため、二本目の滑走路を令和2年3月26日に供用開始した。

 福岡空港については、令和2年3月下旬から1時間当たりの発着回数を35回から38回に拡大するとともに、慢性的に発生しているピーク時の航空機混雑を抜本的に解消するため、滑走路増設事業を引き続き実施している。

 新千歳空港については、令和2年3月下旬から1時間当たりの発着回数を42回から50回に拡大した。加えて国際線旅客の急速な拡大等に伴う施設の混雑を解消するとともに今後も見込まれる需要増に対応するため、国際線地区において、エプロンの拡張、誘導路の新設、ターミナルビルの機能向上(CIQ施設)に係る事業を実施した。その他の地方空港においては、航空機の増便や新規就航等に対応するため、エプロンの拡張やCIQ施設の整備等を実施している。

 また、航空機の安全運航を確保するため、老朽化が進んでいる施設について戦略的維持管理を踏まえた空港の老朽化対策を実施するとともに、地震災害時における空港機能の確保等を図るため、空港の耐震化を着実に推進している。

4)航空自由化の戦略的推進による我が国の国際航空網の拡充

 世界的な航空自由化注1の動向に対応しつつ、我が国の国際航空網の拡充を図るため、航空自由化を推進中である。我が国の航空自由化は、首都圏空港の厳しい容量制約を背景に、成田空港からの第3国輸送と羽田空港を対象外とするほか一部制約が残るが、近年、関西国際空港や中部国際空港における国際旅客便の大幅な伸びを背景に、我が国を発着する国際旅客便数は過去10年でおよそ2倍注2に増加している。

 国際航空網の更なる拡充を図る上で、首都圏空港の航空自由化の在り方や、発着枠の調整の在り方が今後の課題となっている。令和元年度は、成田空港への乗入れ便数に制約が残る中国との間で、中国企業の乗入れ便数を段階的かつ大幅に緩和すること等で合意した。

5)航空機操縦士等の養成・確保

 我が国の航空業界においては、国際線を中心とする航空需要の大幅な増大や、現在主力となっている50歳前後の操縦士の将来における大量退職が見込まれている。

 平成26年7月には、交通政策審議会航空分科会基本政策部会技術・安全部会の「乗員政策等検討合同小委員会」において、今後講じていくべき具体的施策の方向性がとりまとめられたほか、平成28年3月には、訪日外国人旅行者数の目標を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人等とする「明日の日本を支える観光ビジョン」がとりまとめられる等、航空需要の増加に対応した操縦士・整備士の養成・確保が益々重要となっている。

図表II-6-1-11 我が国主要航空会社操縦士の年齢構成
図表II-6-1-11 我が国主要航空会社操縦士の年齢構成
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図表II-6-1-12 我が国LCC操縦士の年齢構成
図表II-6-1-12 我が国LCC操縦士の年齢構成
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 これらを踏まえ、操縦士については、平成30年度入学生から開始した航空大学校の養成規模拡大(72名→108名)に対応した訓練を着実に進めるほか、自衛隊操縦士の民間活躍等にも取組む。整備士については、新たな在留資格(特定技能)による外国人材の活用等に向けて取組む。

(2)空港運営の充実・効率化

1)空港経営改革の推進

 国管理空港等において、「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律(民活空港運営法)」を活用し、地域の実情を踏まえつつ民間の能力の活用や航空系事業と非航空系事業の一体的経営等を通じた空港経営改革を推進し、空港を活用した内外の交流人口拡大等による地域活性化を図っていくこととしている。

 こうした中、平成28年7月から国管理空港の第1号案件として、仙台空港の運営委託を開始したところである。仙台空港に続いて、平成30年4月に高松空港、平成31年4月に福岡空港の運営委託が開始され、熊本空港、北海道内7空港及び広島空港においても手続が進められている。

2)LCCの持続的な成長に向けた取組み

 平成24年3月に本邦初となるLCCが就航した。以降、令和2年1月時点で、ピーチ・アビエーションは国内21路線、国際19路線、ジェットスター・ジャパンは国内23路線、国際7路線、春秋航空日本は国内3路線、国際6路線、エアアジア・ジャパンは国内2路線、国際1路線へネットワークを展開している。

 LCC参入促進により、訪日外国人旅行客の増大や国内観光の拡大等、新たな需要の創出が期待されている。政府は「2020年の航空旅客のうち、国内線LCC旅客の占める割合14%、国際線LCC旅客の占める割合17%」を目標とし、LCC参入を促進させるため、我が国及び各空港では様々な施策を行ってきている。

図表II-6-1-13 我が国のLCC旅客数の推移
図表II-6-1-13 我が国のLCC旅客数の推移
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 国の施策としては、主に1)料金体系の変更、2)空港経営改革、3)受入環境整備の3つの観点から検討・実施している。まず、1)料金体系については、LCC就航促進のため、LCCの拠点空港となっている成田国際空港及び関西国際空港においては、着陸料を含む空港使用料の引き下げ・見直しを実施しているほか、平成29年度から、この2空港に加えて、中部国際空港を含む3空港発地方空港着の国内線の着陸料軽減措置の拡充を実施している。また、29年7月より、訪日客誘致や就航促進の取組みを行う地方空港を「訪日誘客支援空港」に認定し、LCCを含む国際線の新規就航・増便への支援や旅客受入環境高度化等、国による総合的な支援を実施している。次に、2)空港経営改革については、民間事業者による滑走路等と空港ビルの運営の一体化などにより、戦略的な料金体系や営業活動等を可能とする、民間の知恵と資金を活用した空港の活性化を図るため、積極的に推進しており、令和元年度は、熊本空港、北海道内7空港、広島空港において、民間運営委託の実現のため必要な手続きを実施している。さらに、3)LCCの受入環境整備としては、LCC専用ターミナルの整備の他、地方空港における滑走路増設等の整備を進めている。

3)ビジネスジェットの受入れ推進

 ビジネスジェットとは、数人から十数人程度を定員とする小型の航空機であり、利用者のスケジュールに応じた時間設定や、プライバシーが確保されるため搭乗中に商談等が可能であることから、時間価値の高いビジネスマン等が利用の対象となっている。

 欧米では既にビジネスジェットがグローバルな企業活動の手段となっている。我が国においても、経済のグローバル化に伴い、従来より東京国際空港・成田国際空港の両空港を中心にアジア地域における経済成長の取り込みの観点から、その振興は重要な課題であったが、近年は富裕層旅客の取込み等インバウンド振興の観点からも重要性が増している。

 そこで、我が国では首都圏空港を中心にビジネスジェットの受入環境の改善を図っている。例えば、東京国際空港においては、駐機スポット増設や既存スポット運用の工夫により最大駐機可能機数を拡大するとともに、成田国際空港においても、利便性を向上させるため関係者に対しスポット情報の見える化を図っている。また、地方空港においても、ビジネスジェットの受入環境整備を進めている。

4)地方空港における国際線の就航促進

 平成28年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」において掲げられている、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人という目標の実現に向けては、国際線就航による地方イン・地方アウトの誘客促進が大変重要になる。

 国が管理する空港については、国際線の着陸料を定期便は7/10、チャーター便は1/2に軽減しており、平成28年度より、地方空港において国際旅客便の新規就航又は増便があった場合に、路線誘致等にかかる地域の取組みと協調して、更に着陸料を1/2軽減する措置を行っている。更に、平成29年7月より、訪日客誘致や就航促進の取組みを行う地方空港を「訪日誘客支援空港」に認定し、当該空港に対して、着陸料やグランドハンドリング経費等の新規就航・増便への支援やボーディングブリッジやCIQ施設の整備等の旅客受入施設整備への支援等を実施し、各地における国際線就航に向けた取組みを促進している。

(3)航空交通システムの整備

 長期的な航空交通需要の増加やニーズの多様化に対応するとともに、国際民間航空機関(ICAO)や欧米等の動向も踏まえた世界的に相互運用性のある航空交通システムの実現のため、平成22年に「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」を産学官の航空関係者により策定し、ICAOの「世界航空交通計画(GANP)」と協調しつつ、その実現に向けた検討を進めている。

 令和元年度の取組みとしては、新技術や新方式の導入に関して、GPSを利用した航法精度の高い高規格進入方式(RNP AR)について導入を進め、現在までに33空港に計65方式を設定した。今後も継続的に設定を行うとともに、世界的に進められている更なる高規格な進入方式の開発の動向を注視、導入を図ることで、航空機の運航効率の向上や悪天候時における就航率の向上等を図っていく。さらに、航空情報や運航情報など航空交通管理に必要な情報を世界的に共有するための新たな情報共有プラットフォームの導入についての検討も引き続き実施している。

(4)航空インフラの海外展開の戦略的推進

 アジア・太平洋地域は、近い将来世界最大の航空市場に成長するとされている。同地域の航空ネットワークの強化に貢献するとともに、数多くの航空インフラプロジェクトが進行中である新興国の成長を我が国に積極的に取り込むことが、成長戦略として重要な課題である。

 令和元年度においては、航空インフラ国際展開協議会の活動としてポーランドの継続調査を実施し、更なる情報収集を行った。この他、モンゴルの新ウランバートル国際空港の運営事業権契約締結(元年7月)、バングラデシュのハズラット・シャージャラール国際空港拡張工事受注(2年1月)、シンガポールのチャンギ国際空港第2ターミナル拡張工事受注(2年1月)、そして、ミャンマーの航空機監視システム改良事業の受注(元年11月)等が行われた。

  1. 注1 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を二カ国間で相互に撤廃することをいう。
  2. 注2 新型コロナウィルス感染拡大による影響を受ける前。