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国土交通白書 2020

第3節 産業の活性化

■8 不動産業の動向と施策

(1)不動産業の動向

 令和2年地価公示(2年1月1日時点)によると、全国の地価は、商業地は5年連続、住宅地は3年連続、工業地は4年連続で上昇しており、特に、地方圏における札幌市・仙台市・広島市・福岡市の主要4市を除いた地域についても、商業地が28年ぶりに上昇し、住宅地は下落から横ばいとなり、工業地は2年連続で上昇するなど、地価の回復傾向が全国に広がっている。

(2)不動産業の現状

 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、平成30年度末において124,451業者となっている。国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、30年度の監督処分件数は182件(免許取消125件、業務停止31件、指示26件)となっている。

 また、マンションの適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業者数は、30年度末において1,989業者となっている。マンション管理業者に対しては、不正行為の未然防止等を図る観点から、立入検査を実施するとともに、必要な指導監督に努めている。

 さらに、「住宅宿泊事業法」(平成30年6月施行)に基づき、住宅宿泊管理業を営む者の登録業務を推進したほか、住宅宿泊管理業者に関係法令等の遵守徹底を求めるなど、同事業の適正な運営の確保に努めている。

 加えて、賃貸住宅管理業の適正化及びサブリース契約に係る家賃保証を巡るトラブルの防止等を図るため、令和元年12月に賃貸住宅管理業者、家主、入居者を対象としたアンケート調査を実施するとともに、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」を令和2年3月に国会に提出した。

(3)市場の活性化のための環境整備

1)不動産投資市場の現状

 我が国における不動産の資産額は、2018年末現在で約2,658兆円となっている注1

 国土交通省では、未来投資戦略2017において、2020年頃にリート等注2の資産総額を約30兆円にするという目標を掲げているが、不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、2019年度の1年間で新たに1件の新規上場が行われた。2020年3月末現在、64銘柄が東京証券取引所に上場されており、2020年3月末現在で対象不動産の総額は約21.9兆円、私募リートと不動産特定共同事業と併せて26.5兆円注3となっている。

 Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、良好な不動産市況や国内外の長期金利が低下したことなどを背景に、2019年7月にリーマンショック後初めて2,000ポイントを超え、2019年10月には、2,200ポイント超えるなど、大幅に上昇した。その後、年末にかけては、米中貿易協議の進展期待による投資家のリスク回避姿勢の後退等により、2,100ポイント台前半まで低下した。

 2020年2月には2,250ポイント台まで回復したものの、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し始めると、一時急落した後、2020年3月末において1,595ポイントとなった。

 また、Jリートにおける2019年の1年間における資産取得額は、約1.4兆円となった。

2)不動産特定共同事業の推進

 不動産特定共同事業について、個人投資家が安心して不動産投資を行うことができる環境を整備するため、より投資家保護の図られたスキームの促進並びにブロックチェーン等の新技術及びESG等の新たなグローバルスタンダードといった不動産投資市場の新たな潮流への対応等について、今後の制度改正の方向性を検討し、中間とりまとめを行った。

 また、小規模不動産特定共同事業等の不動産証券化を活用したモデル事業の支援等、民間の資金・アイデアを活用した老朽不動産の再生の推進に向けた取組みを実施した。

3)環境不動産の普及促進

 我が国不動産へのESG投資を促進する上での留意点や方向性について検討を行い、中間とりまとめを行った。また、耐震・環境不動産形成促進事業においては、令和元年度には7.2億円の出資を決定するとともに、耐震診断義務付け対象建築物の建替え事業に係る出資等の新要件を創設した。

4)不動産に係る情報の環境整備

 国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、以下の通り、不動産に係る情報を公表している。

(ア)不動産取引価格情報

 全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等を公表している(令和2年3月末現在の提供件数は、約391万件)。

(イ)不動産価格指数

 IMF等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、不動産価格指数(商業用不動産・試験運用段階)を四半期毎に公表している。

図表II-6-3-14 土地総合情報システム
図表II-6-3-14 土地総合情報システム

5)「不動産最適活用」に向けた市場環境の整備

 平成31年4月には、不動産業の持続的な発展を確保するための官民共通の指針として、「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」を策定し、官民共通の目標として「ストック型社会」の実現や安全・安心な不動産取引の実現等を掲げた。また、既存住宅の流通促進を図るため、「安心R住宅」制度の運用や、建物状況調査(インスペクション)の活用促進など、消費者が安心して既存住宅を取引できる市場環境整備の推進を図っている。さらに、「全国版空き家・空き地バンク」の機能拡充を行うとともに、不動産団体等による空き家等の利活用に向けた先進的な取組みに対する支援を実施する等、空き家等に係るマッチング機能の強化を図った。加えて、個人を含む売買取引におけるITを活用した重要事項説明(IT重説)等に係る社会実験を開始するなど、不動産業分野における新技術の活用を推進した。

6)土地税制の活用

 令和2年度税制改正においては、譲渡価額が500万円以下で都市計画区域内の低額な一定の低未利用土地等を譲渡した場合に、長期譲渡所得から100万円を控除する、低未利用地の適切な利用・管理を促進するための特例措置を創設する。本特例措置の創設により、低未利用のまま保有されていた土地が、新たな利用意向のある者に譲渡され、活用されることを促すとともに、本特例措置の活用などを通じた地域活性化の実現や、所有者不明土地の発生予防が期待される。このほか、長期保有土地等に係る事業用資産の買換特例、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例、工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置等の適用期間を延長した。

7)不動産市場を支える制度インフラの整備

 不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対する立入検査などを内容とする鑑定評価モニタリングを実施した。また、不動産鑑定評価基準等について、社会ニーズや環境の変化に的確に対応していくための検討を実施した。

  1. 注1 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
  2. 注2 Jリート、私募リート、不動産特定共同事業
  3. 注3 不動産特定共同事業については、平成30年度末時点の数値を使用