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国土交通白書 2020

第3節 産業の活性化

■9 持続可能な建設産業の構築

(1)建設産業を取り巻く現状と課題

 建設産業は、社会資本の整備を支える不可欠の存在であり、都市再生や地方創生など、我が国の活力ある未来を築く上で大きな役割を果たすとともに、震災復興、防災・減災、老朽化対策など「地域の守り手」としても極めて重要な役割を担っている。

 一方、建設業の現場では担い手の高齢化が進んでおり、将来的な担い手の確保が課題となっている。建設業をめぐる状況の変化をとらえ、建設業における働き方改革を推進するため、建設業の働き方改革の推進や生産性向上、災害時の緊急対応強化、持続可能な事業環境の確保を目的として、新・担い手3法(「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」及び「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第三十号)」)が第198回国会(常会)において成立した。

 また、平成28年12月に成立した「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」及び同法に基づく基本計画に基づき、安全衛生経費が下請まで適切に支払われるような施策の検討を進める。加えて、都道府県における建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する計画について、計画策定や計画に基づき実施する取組みの支援を行う。

 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移は図表II-6-3-15のとおりである。

図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移
図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移
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(2)建設産業の担い手確保・育成

 建設産業は、多くの「人」で成り立つ産業である。建設業就業者数は近年、横ばいで推移しているが、今後、高齢者の大量離職が見込まれており、建設産業が地域の守り手として持続的に役割を果たしていくためには、引き続き、若者をはじめとする担い手の確保・育成を図るとともに、働き方改革に取り組んでいくことが重要である。

 このため、令和元年6月に成立した新・担い手3法も踏まえ、長時間労働の是正を図るとともに、適切な賃金水準の確保や社会保険への加入徹底、建設キャリアアップシステムの活用等による処遇改善に取り組む。また、将来の労働力人口の減少を踏まえ、建設現場におけるi-Constructionや重層下請構造の改善、書類作成等の現場管理の効率化、地域建設産業の持続性確保等による生産性の向上も図っていく。

 加えて、若者の早期活躍を推進するため、技術検定制度の見直しを進めるとともに、教育訓練を充実強化することで建設業における円滑な技能承継を図るほか、さらに、建設産業における女性の定着促進に向けて、新計画に基づく取組みを推進する。

 こうした取組みを官民一体となって推進し、建設業への入職を促進し、誇りを持って仕事に打ち込めるような環境整備に取り組んでいく。

 このほか、東京2020大会等による当面の一時的な建設需要の増大に対応するための時限的措置として、平成27年4月1日より外国人建設就労者受入事業を実施しており、5,327人の外国人建設就労者が入国している(令和2年3月31日時点)。また、平成31年4月1日より新たな在留資格「特定技能」による外国人労働者の受入れが開始されたところであり、外国人材の適正な受入れ環境の確保に取り組んでいく。

(3)公正な競争基盤の確立

 建設産業においては、「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が成長していけるよう、建設業者の法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従前より下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進月間」の取組みを行っているほか、「建設企業のための適正取引ハンドブック」の作成、配布を通じて、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。

(4)建設企業の支援施策

1)地域建設業経営強化融資制度

 地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が工事請負代金債権を担保に融資事業者(事業協同組合等)から工事の出来高に応じて融資を受けることを可能とするものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化を推進している。本制度では、融資事業者が融資を行うにあたって金融機関から借り入れる転貸融資資金に対して債務保証を付すことにより、融資資金の確保と調達金利等の軽減を図っている。

 なお、本制度は平成20年11月から実施されており、令和2年度以降も引き続き実施することとした。

図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度
図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度

2)下請債権保全支援事業

 下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失の一部を補償することにより、元請建設企業の倒産等に伴う下請建設企業等の連鎖倒産を防止する事業である。

 なお、本事業は平成22年3月から実施されており、令和2年度においても引き続き実施することとした。

図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業
図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業

3)地域建設産業の事業継続支援事業

 地域建設産業事業継続支援事業は、建設産業の大宗を占める中小中堅企業では、経営者の高齢化に伴う持続性の確保や投資余力や人材が限られる中での生産性向上が課題であり、地域建設産業の持続性及び経営の効率化を図るために、事業承継や経営改善の足かせとなっている建設業特有の課題についての調査分析や、専門家によるコンサルティングのほか、セミナーや事例集を通じてノウハウの横展開を実施した。

(5)建設関連業の振興

 社会資本整備・管理を行う上で、工事の上流に当たる測量や調査設計の品質確保が重要であることから、令和元年6月の改正で新たに、広く公共工事品確法の対象として位置付けられたところであり、建設業だけでなく、建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)も重要な役割が求められている。

 国土交通省では、建設関連業全体の登録業者情報を毎月、その情報を基にした業種ごとの経営状況の分析を翌年度末に公表しており、また関連団体と協力し就職前の学生を対象に建設関連業の説明会を開催するなど、建設関連業の健全な発展と登録制度の有効な活用に努めている。

(6)建設機械の現状と建設生産技術の発展

 我が国における主要建設機械の保有台数は、平成29年度で約86万台であり、建設機械の購入台数における業種別シェアは、建設機械器具賃貸業が約49%、建設業が約24%となっている。

 i-Constructionの取組みの一環として、ICT施工の普及促進を推進しており、3次元データを活用した建設機械の自動制御等により高精度かつ効率的な施工を実現するマシンコントロール/マシンガイダンス技術等の積極的な活用を図っている。ICT施工の普及促進のためには、現状、ICT施工機器の普及が十分とは言えないことから、建設業とともに、建設機械の購入シェアの大きい建設機械器具賃貸業の健全な育成発展が欠かせないものとなっている。

(7)建設工事における紛争処理

 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成30年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では39件(仲裁12件、調停23件、あっせん4件)、都道府県建設工事紛争審査会では102件(仲裁18件、調停68件、あっせん16件)となっている。

  1. 注 他人が有する売掛債権の保証や債権の買取りを行い、その債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系・前払保証会社系・リース会社系など9社のファクタリング会社が、当事業を運営している。