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国土交通白書 2021

第1節 現在直面する危機

第1節 現在直面する危機
■1 新型コロナウイルス感染症

 新型コロナウイルス感染症は2019年12月に中国湖北省武漢市で感染者が報告されて以降、日本も含め世界中に感染が拡大し、2021年1月には累計の感染者数が1億人を超えた。各国では、感染拡大防止のため、ロックダウンなど人の動きを抑制しており、これにより、各国の経済面でも大きな影響が出ている。

 我が国でも2020年1月15日に初めての感染者が確認されて以降、感染が拡大し、国民の生命・身体に大きな被害を与えている。また、経済面においても、GDP が比較可能な1994年以降最低の下がり幅を見せるなど、大きな打撃を受けている。我が国においては、スペイン風邪(1918-1920)以来の大規模なパンデミックであり、多くの人が未経験であることからも、その影響は重大なものとなっている。

 以上の観点から、新型コロナウイルス感染症は、現在直面する危機であると言える。本節では、新型コロナウイルス感染症についてのこれまでの経緯や政府の対応状況、国土交通省所管業界への影響とその対応等を述べる。

( 1 )生命・身体への影響

(新型コロナウイルス感染症の健康リスク)

 「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」は、コロナウイルスの一つである。コロナウイルスには、一般の風邪の原因となるウイルスの他、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」や「中東呼吸器症候群(MERS)」ウイルスが含まれる。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策本部等によると、新型コロナウイルスに感染すると、発熱や咳などの風邪症状や嗅味覚障害が1週間程度続くことが多く、軽症の場合は経過観察のみで自然に軽快することが多いとされている(厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第3版」によると、感染者の約8割が軽症のまま治癒とされている)。ただし、高齢者や基礎疾患のある人は重症化リスクが高いとされており、重症化した場合には人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)等による集中治療を行うことがある。

 さらに、従来よりも感染しやすいまたは重症化しやすい可能性のある変異株や、ワクチンが効きにくい可能性のある変異株が世界各地で報告されている。我が国でもこれら変異株の感染者やクラスターの報告がされており、主流株としてまん延した場合には、これまで以上の患者数や重症者数の増加につながり、医療・公衆衛生体制を急速に圧迫するおそれがある。

 新型コロナウイルスは主に飛沫感染注1や接触感染注2によって感染し、①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、③密接場面(互いに手を伸ばしたら手が届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件(以下「三つの密」という。)の環境で感染リスクが高まるとされている。このほか、飲酒を伴う懇親会等、大人数や長時間に及ぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりといった場面でも感染が起きやすく、注意が必要とされている。

 国立感染症研究所によると、変異株であっても、個人の基本的な感染予防策としては、従来と同様に、特に「感染リスクが高まる「5つの場面」」など「三つの密」の回避、マスクの着用、手洗い等が有効であり、推奨されている。

(世界での感染状況と動向)

 世界全体での、新型コロナウイルスの感染者数は、累計で128,206,496人、死者数は、累計で2,805,906人(外務省4月1日11:00)となっている。

 また、2020年1月31日に世界保健機関(WHO)により、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に該当する」と発表された。2020年3月11日には、「新型コロナウイルスがパンデミックと形容される」と評価され、世界的な大流行になっているとの認識が示された。

 新型コロナウイルス感染症対策の切り札として期待されているワクチン接種については、2020年12月上旬の英国における接種開始を皮切りに、世界各国で接種が本格化した。世界全体の累計接種回数は、3月31日までに5億9899万回(Our World in Data(オックスフォード大学))を超えている。日本の累計接種回数は100万2739回となっている。(3月31日)

(日本での感染状況)

 我が国においては、2020年1月15日に最初の感染者が確認されて以降、都市部を中心に感染者数が増加し、地方においても急速に感染拡大する等、多くの感染者が生じることとなった。2021年1月8日には1日の感染者数が7,844人と過去最高を更新し(図表Ⅰ-1-1-1)、2021年3月末時点で累計470,420人、死亡者についても、2月13日に国内で最初の死亡者が確認されて以降、2021年3月末時点で累計9,159人となっている。

図表Ⅰ-1-1-1 新型コロナウイルス感染症の国内陽性者数(短日、累計)の推移
図表Ⅰ-1-1-1 新型コロナウイルス感染症の国内陽性者数(短日、累計)の推移

資料)厚生労働省発表に基づき国土交通省作成

(日本政府及び国土交通省の対応)

 2020年1月30日、世界中での新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況を鑑み、政府として総合的かつ強力に対策を推進するため、新型コロナウイルス感染症対策本部(以下、政府対策本部)が設置された。国土交通省においても、同日「国土交通省新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置し、水際対策や国内の感染防止対策等に取り組んできた。

 翌31日から出入国管理及び難民認定法に基づき、水際対策(特定の地域や船舶を指定し、対象者の上陸を拒否する対策)が実施され、以降、順次指定地域等が拡大されている。これを受け国土交通省としては、航空会社・空港関係者や外航旅客船事業者等に、機内や船内における健康カードの配布、入国拒否措置等の旅客への周知やパスポートの確認等の実施を要請した。また、感染拡大防止のため、鉄道会社やバス事業者に対し、従業員の感染症対策の徹底等に加え、テレワークや時差出勤等を要請してきた。

 上記の取り組みにも関わらず、感染が拡大していたことから、政府は、2020年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条第1項に基づき、緊急事態を宣言した。当初、対象期間を5月6日まで、対象地域を埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県としていたが、感染拡大が続いたことから、対象期間を5月31日まで延期し、対象範囲を全国へと拡大した。5月14日以降、新規感染者数の減少等を踏まえ、順次対象範囲を縮小し、5月25日には全都道府県の緊急事態解除を宣言した。

 緊急事態宣言期間中の感染拡大抑制のため、国土交通省では、鉄道会社や高速道路会社、港湾管理者等に対し、対象地域からの越境移動の自粛に向けた呼びかけについて協力を依頼した。さらに、ゴールデンウィーク期間中の地方部に適用される高速道路料金の休日割引の適用除外や、高速道路のSA・PAのレストラン等の営業自粛の協力要請等を行った。また、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者においては、緊急事態宣言時においても、事業の継続を図ることが求められた。国土交通分野においては、鉄道、バス、航空等の公共交通分野、トラック、海運等の物流分野、河川・道路の管理や公共工事等の安全安心に必要な社会基盤分野等の事業者が、新型コロナウイルス感染症が拡大する環境の中にあっても、その機能維持のため、職務に従事してきた。

 緊急事態の解除後も第2波、第3波と言われる感染拡大期が発生しており、国土交通省としては、その都度、関係業界に対し、感染拡大防止対策の徹底、ガイドラインの遵守、テレワーク等を要請してきた。

 2020年の年末から感染が急拡大したことを背景に、2021年1月7日に、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県を対象に、2度目の緊急事態宣言が発令された(1月13日に栃木県、愛知県、岐阜県、大阪府、京都府、兵庫県、福岡県を追加)。2月8日以降、新規感染者数の減少等を踏まえ、順次対象地域が縮小され、3月21日に、全都道府県において緊急事態解除が宣言された(図表Ⅰ-1-1-2)。国土交通省では、夜間の外出自粛を推進する観点から、鉄道会社へ終電繰り上げを依頼し、終電の繰り上げが実施されることとなった。

図表Ⅰ-1-1-2 新型コロナウイルス感染症の国内陽性者数の推移と政府の動き
図表Ⅰ-1-1-2 新型コロナウイルス感染症の国内陽性者数の推移と政府の動き

資料)厚生労働省発表に基づき国土交通省作成

( 2 )経済への影響

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、(1)に記載した通り、政府は、水際対策、緊急事態宣言、感染防止のための「新しい生活様式」の普及等の対策を行ってきた。これらの対策により、人流が抑制されるなど、社会経済の前提に急激な変化が生じ、我が国経済に対しても大きな打撃を与えている。このため、政府として、雇用調整助成金の特例措置や資金繰り支援、感染防止対策のための助成金など、様々な経済対策を講じてきた。

(日本経済への影響)

①人出の減少

 2020年4月7日からの緊急事態宣言や不要不急の外出自粛要請を受け、小売り施設や公共交通機関を中心に人出が大幅に減少した。Googleコミュニティ モビリティ レポートによると、2020年1月3日~2月6日の人出と比較して、小売りや娯楽施設では最大で4割程度、公共交通機関では最大で6割程度の人出が減少している(図表Ⅰ-1-1-3)。

図表Ⅰ-1-1-3 我が国の人出の減少
図表Ⅰ-1-1-3 我が国の人出の減少

(注)対象は全国、2020 年1 月3 日~ 2 月6 日の曜日別中央値と比較
資料)Google コミュニティ モビリティ レポートより国土交通省作成

動画

そこが知りたい!新型コロナワクチンQ & A 忽那医師に聞きました

出典:政府広報オンライン

URL:https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/coronachishiki/index.html

②国際的な往来の減少

 世界各地での感染拡大を受け、我が国でも水際対策を強化してきた結果、我が国の出入国者数は大幅に減少した。法務省「出入国管理統計」によると、2020年1月までは前年同月比で99%の出入国者数があったが、4月以降には1%程度と、国際的な往来がほぼ皆無となった。国際的な往来の減少は、インバウンド、技術者の往来、国際的な商談等が減少しているということであり、日本経済へ大きな影響を与えている。(図表Ⅰ-1-1-4)。

図表Ⅰ-1-1-4 出入国者数(総数、前年同月比、2021年3月は速報値)
図表Ⅰ-1-1-4 出入国者数(総数、前年同月比、2021年3月は速報値)

資料)法務省「出入国管理統計」より国土交通省作成

③日本経済の動向

 前述のとおり、国内の人出や国際的な往来の減少等により、日本経済は大きな打撃を受けている。実質GDP成長率は、2020年4-6月期は前期比-8.1%と比較可能な1994年以降最低の下げ幅を記録した。(図表Ⅰ-1-1-5)。内閣府によると、民間需要の動向として、「外食、旅客輸送、娯楽サービス、宿泊等が減少に寄与」、輸出入の動向として、「旅行(訪日外国人の国内消費)等が減少に寄与」したとみられると発表されている。この下げ幅は、リーマンショックの影響が見られた2009年1-3月期における前期比-4.8%よりもずっと大きく、今回の影響の大きさがわかる。

図表Ⅰ-1-1-5 2021年1~3月期四半期別GDP速報(1次速報値)
図表Ⅰ-1-1-5 2021年1~3月期四半期別GDP速報(1次速報値)

(注)実質GDP成長率(季節調整済前期比)
資料)内閣府「2021年1~3月期四半期別GDP速報(1次速報値)

④少子化が加速する可能性

 我が国は少子化とそれによる人口減少が進行しているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、少子化を加速する可能性がある。厚生労働省「人口動態統計速報(令和3年3月分)」によると、2020年5月以降出生数が全年同月比を下回っており、2021年1月には、全年同月比で約15%減少の約6万4千人となっている(図表Ⅰ-1-1-6)。この要因としては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う人出の減少や対面接触の回避などにより、妊娠や婚姻の動向に影響を与えた可能性がある。この傾向が継続すると、少子化と人口減少がさらに加速する可能性がある。

図表Ⅰ-1-1-6 出生数(月別、前年同月比)
図表Ⅰ-1-1-6 出生数(月別、前年同月比)

資料) 厚生労働省「人口動態統計速報(令和3年3月分)」より国土交通省作成

(国土交通分野への影響)

 新型コロナウイルス感染症の影響で、観光関係業界、交通関係業界等を中心に、利用者数や予約が大幅に減少し、経営に極めて大きな影響が出ている。国土交通省においては、こうした各業界における実情を把握するため、アンケートや聞き取り等の調査を実施した。この調査により把握した新型コロナウイルス感染症の感染拡大による各産業への影響(売上げや輸送人員、予約状況等)のうち、特に影響が大きなものの概況は以下の通りである。なお、以下の調査結果はすべて2021年3月31日時点までのとりまとめ結果であり、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年同月と比較を行ったものである。

①宿泊への影響

 宿泊については、業界団体等経由で宿泊事業者に対し調査を行った。

 宿泊予約が7割以上減少したと回答した事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響がみられた3月は27%であったが、緊急事態宣言が出された5月には89%に上り、極めて厳しい状況であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、Go Toトラベル事業の効果も重なり、11月には6%となったが、再度の緊急事態宣言を受けて、2月には52%まで増加した。(図表Ⅰ-1-1-7)。

図表Ⅰ-1-1-7 宿泊の予約状況
図表Ⅰ-1-1-7 宿泊の予約状況

資料)国土交通省

②旅行への影響

 旅行については、日本旅行業協会、全国旅行業協会経由で、大手10者、中小47者に対し調査を行った。

 大手旅行会社の予約人員(国内旅行)については、新型コロナウイルス感染症の影響がみられた3月は74%減であったが、緊急事態宣言が出された5月には99%減と非常に厳しい状況であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、Go Toトラベル事業の効果も重なり、11月には18%増となったが、Go To トラベル事業の全国一律の一時停止等の影響を受け、12月には20%減と再びマイナスに転じ、さらに、再度の緊急事態宣言を受けて、2月には91%減、3月には82%減と、非常に厳しい状況となっている。

 中小旅行会社の予約人員についても、5月に90%減、11月には59%減、3月は85%減と、非常に厳しい状況が継続している。(図表Ⅰ-1-1-8)

図表Ⅰ-1-1-8 旅行の予約状況
図表Ⅰ-1-1-8 旅行の予約状況

資料)国土交通省

③貸切バスへの影響

 貸切バスについては、業界団体を通して貸切バス事業者に対し調査を行った。

 運送収入が5割以上減少したと回答した事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響がみられた3月は90%であったが、緊急事態宣言が出された5月には97%と極めて厳しい状況であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、秋の行楽期やGo Toトラベル事業を背景に11月には39%となったが、再度の緊急事態宣言を受けて、2月には87%、3月には72%まで増加し、依然非常に厳しい状況が継続している。(図表Ⅰ-1-1-9)。

図表Ⅰ-1-1-9 貸切バスの収入状況
図表Ⅰ-1-1-9 貸切バスの収入状況

資料)国土交通省

④乗合バスへの影響

 乗合バスについては、業界団体を通して乗合バス事業者に対し調査を行った。

 高速バス等の運送収入が7割以上減少したと回答した事業者は、緊急事態宣言が出された5月には95%と極めて厳しい状況であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、11月には33%となったが、再度の緊急事態宣言を受けて、2月に74%、3月に65%と増加し、非常に厳しい状況が継続している。

 一般路線バスについても、運送収入が3割以上減少したと回答した事業者は、5月93%、11月11%、3月42%と厳しい状況が継続している(図表Ⅰ-1-1-10)。

図表Ⅰ-1-1-10 乗合バスの収入状況
図表Ⅰ-1-1-10 乗合バスの収入状況

資料)国土交通省

⑤タクシーへの影響

 タクシーについては、業界団体を通してタクシー事業者に対し調査を行った。

 運送収入が3割以上減少したと回答した事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響が見られた3月は59%であったが、緊急事態宣言が出された5月には99%に増加し、極めて厳しい状況であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、11月には44%となったが、再度の緊急事態宣言を受けて、2月に82%、3月に65%と増加し、引き続き厳しい状況となっている(図表Ⅰ-1-1-11)。

図表Ⅰ-1-1-11 タクシーの収入状況
図表Ⅰ-1-1-11 タクシーの収入状況

資料)国土交通省

⑥航空への影響

 航空については、本邦航空運送事業者に対してヒアリング調査を行った。

 国内線の輸送人員については、新型コロナウイルス感染症の影響が見られた3月は50%減、緊急事態宣言が出された5月には93%減であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、11月には44%減であったが、再度の緊急事態宣言を受けて、2月に75%減、3月に52%減と厳しい状況が続いている。国際線の輸送人員については、4月以降95%以上減となっており、極めて厳しい状況が続いている。(図表Ⅰ-1-1-12)。

図表Ⅰ-1-1-12 航空の輸送人員状況
図表Ⅰ-1-1-12 航空の輸送人員状況

資料)国土交通省

⑦鉄道への影響

 鉄道については、地方運輸局経由で旅客運送を行う鉄軌道事業者(175者:JR旅客会社6者、大手民鉄16者、公営11者、中小民鉄142者)に対し調査を行った。

 中小民鉄では、輸送人員が5割以上減少したと回答した事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響がみられた3月は10%、緊急事態宣言が出された5月には59%であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、11月には4%となったが、再度の緊急事態宣言を受けて2月に13%、3月に9%となっている。(図表Ⅰ-1-1-13)。

図表Ⅰ-1-1-13 鉄道の輸送人員状況
図表Ⅰ-1-1-13 鉄道の輸送人員状況

資料)国土交通省

⑧内航・外航旅客船への影響

 内航旅客船については、内航海運(旅客)事業者に対し、外航旅客船については定期航路事業者及びクルーズ船事業者全者に対し、業界団体・各地方運輸局等より調査を行った。

 観光船の運送収入が3割以上減少したと回答した事業者は、新型コロナウイルス感染症の影響が見られた3月は80%、緊急事態宣言が出された4・5月は100%と極めて厳しい状況であった。緊急事態宣言の解除後から回復傾向が見られ、11月には56%となったが、再度の緊急事態宣言を受けて、2月に89%まで増加し、引き続き厳しい状況である。(図表Ⅰ-1-1-14)。

図表Ⅰ-1-1-14 内航旅客船の収入状況
図表Ⅰ-1-1-14 内航旅客船の収入状況

資料)国土交通省

 外航旅客船の定期航路事業については、日中航路(1者)は1月26日以降、日韓航路(3者)は3月9日以降、旅客輸送を休止している。クルーズ船事業(邦船社)については、2020年3月~2021年3月は全事業者が運休している(外航クルーズ)。2020年10月下旬より、国内クルーズを順次再開しているものの、運送収入の見込みは立っていない。

⑨その他の分野への影響

 「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」では、上記分野の他に、貨物自動車運送業、内航貨物船、造船業、道の駅、不動産業、建設産業、住宅産業、建築設計業についても調査を行っている。観光分野や交通分野ほどではないが、これらの分野についてもコロナ禍の影響が見られる(図表Ⅰ-1-1-15)。

図表Ⅰ-1-1-15 その他業種の調査結果
図表Ⅰ-1-1-15 その他業種の調査結果

資料)国土交通省

(影響を受ける産業への対応)

 上記の国土交通省所管業界を含め、新型コロナウイルス感染症により影響を受ける分野への支援のため、政府としても様々な対策を講じてきた。これまで取りまとめられた支援策について、主なものを以下に記載する。

・新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策-第1弾-(2020年2月13日)

海外からの帰国者等への支援(チャーター便や受け入れ態勢の整備等)や、新型コロナウイルス感染症の検査法、抗ウイルス薬、ワクチン等の開発といった国内感染対策の強化、水際対策の強化などの対応策をとりまとめた。

・新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策-第2弾-(2020年3月10日)

PCR検査体制の強化・医療提供体制の整備、学校の臨時休業に伴って生じる課題への対応、雇用調整助成金の特例措置の拡大などの措置をとりまとめた。

・生活不安に対応するための緊急措置(2020年3月18日)

個人向け緊急小口資金等の特例の拡大、公共料金の支払の猶予、国税・社会保険料の納付の猶予、地方税の徴収の猶予などの措置をとりまとめた。

・新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~(2020年4月7日とりまとめ、4月20日変更)

緊急支援フェーズ、V字回復フェーズの2段階の時間軸を十分意識しながら、各施策を戦略的に実行することにより、感染症の影響をしのぎ、その後の経済のV字回復につなげ、日本経済を持続的な成長軌道へ戻すことを確実に成し遂げるとして、以下の対策等をとりまとめた。

緊急支援フェーズ

マスク・消毒液等の確保、検査体制の強化、医療提供体制の強化などの、感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発のための施策、雇用の維持、資金繰り対策、税制措置などの、雇用の維持と事業の継続のための施策

V字回復フェーズ

観光・運輸業、飲食業等に対する支援、地域経済の活性化などの、官民を挙げた経済活動の回復のための施策、サプライチェーン改革、リモート化等によるデジタル・トランスフォーメーションの加速などの、強靭な経済構造の構築のための施策

また、地域経済、住民生活の支援など地方公共団体が地域の実情に応じてきめ細やかに必要な事業を実施できるよう、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を創設した。

国土交通省に関連した、Go To キャンペーン事業(後述)についてもここで取りまとめられた。

・国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策(2020年12月8日)

雇用を維持し、経済を回復させ、新たな成長の突破口を切り開くべく、予算・規制・税制、さらには財政投融資を含むあらゆる政策手段を総動員した力強い経済対策として、以下の対策等をとりまとめた。

医療提供体制の確保、感染症防止対策の徹底など新型コロナウイルス感染症の拡大防止策

デジタル改革、グリーン社会の実現、企業の事業再構築等の支援、イノベーション等による生産性向上によりポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現のための施策

防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策など安全・安心の確保のための施策

 この他、国土交通省として、新型コロナウイルス感染症で影響を受けた産業への様々な支援を実施してきたが、その主なものを以下に述べる。

・Go To トラベル事業

国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の35%を割引

宿泊・日帰り旅行代金の15%相当分の旅行先で使える地域共通クーポンを付与。

 新型コロナウイルス感染症により失われた旅行需要の回復と旅行中における地域の観光関連消費の喚起を図り、コロナ禍における「安全で安心な旅のスタイル」を普及・定着させることを目的として2020年7月22日より事業を開始した。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止が大前提となるため、関係業界のガイドラインの順守やチェックイン時などの感染予防策の徹底を事業参加の条件としている。

 また、旅行者が安全安心に旅行できる環境を整備するため、6月19日に、旅行者視点での感染防止の留意点等をまとめた「新しい旅のエチケット」(発行元:旅行連絡会(交通機関や宿泊・観光施設等の旅行関係業界の業界団体等で構成)、協力:国土交通省・観光庁)を公表した(図表Ⅰ-1-1-16)。

図表Ⅰ-1-1-16 新しい旅のエチケット
図表Ⅰ-1-1-16 新しい旅のエチケット

資料)国土交通省

・タクシーによる飲食運送の特例

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、食料・飲料の運送に係るニーズの増加を踏まえ、貨物運送の原則にのっとり、貨物自動車運送事業法の許可の取得や一定の安全管理等に係る措置を講じることを前提として、タクシー事業者が食料・飲料の運送ができるよう措置した。

・沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用許可基準の緩和

飲食店等を支援するための緊急措置として、十分な歩行空間の確保など歩行者等の安全を確保した上で、沿道店舗前の歩道等を利用してテイクアウトやテラス営業等ができるよう、道路占用の許可基準を緩和した(2021年9月30日まで)(図表Ⅰ-1-1-17)。

図表Ⅰ-1-1-17 テラス営業の様子(長野県松本市)
図表Ⅰ-1-1-17 テラス営業の様子(長野県松本市)

資料)国土交通省

・国直轄工事及び業務の取扱い

国直轄の工事や業務について、感染防止対策の徹底や受注者の希望に応じた一時中止等を行い、発注者が適切に費用負担することとし、地方公共団体等にもこれを周知した。

動画

「新しい生活様式」を身につけましょう。外出編

出典:政府広報オンライン

URL:https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/newlifestyle/popup/J00020828.html

動画

「新しい生活様式」を身につけましょう。家庭編

出典:政府広報オンライン

URL:https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/newlifestyle/popup/J00020830.html

動画

「新しい生活様式」を身につけましょう。職場編

出典:政府広報オンライン

URL:https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/newlifestyle/popup/J00020829.html

  1. 注1 感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の人がそのウイルスを口や鼻などから吸い込んで感染する現象である。
  2. 注2 感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後にその手で周りのものに触れるとウイルスが付き、他の人がそれを触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触ることにより粘膜から感染する現象である。