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国土交通白書 2021

第1節 現在直面する危機

■2 災害の激甚化・頻発化

( 1 )災害が起こりやすい国土

 我が国は、地形・地質・気象等の国土条件により、従来から自然災害による甚大な被害に見舞われてきた。四方を海で囲まれ、海岸線が長く複雑であるため、地震の際は津波による被害が発生しやすい。また、国土の中央をせきりょう山脈注3が縦貫していることにより、ヨーロッパやアメリカの河川に比べると全体の長さが非常に短く急勾配で、大雨に見舞われると河川流量が増加し洪水等の災害が起こりやすい(図表Ⅰ-1-1-18)。

図表Ⅰ-1-1-18 我が国と諸外国の河川勾配比較
図表Ⅰ-1-1-18 我が国と諸外国の河川勾配比較

資料)国土交通省

さらに、山地が多いため、可住地は平地や盆地など国土のおよそ30%しかなく、東京や大阪は、河川水位より低い所に位置しているため、洪水時には被害が大きくなりやすい(図表Ⅰ-1-1-19)。加えて、日本列島には多くの活断層やプレート境界が分布しているため、世界の大規模地震(マグニチュード6以上)の約2割が発生する地震多発国でもある。

図表Ⅰ-1-1-19 川の水面よりも低い東京の住宅地
図表Ⅰ-1-1-19 川の水面よりも低い東京の住宅地

資料)国土交通省

( 2 )豪雨災害の激甚化・頻発化

 近年、我が国では豪雨災害が激甚化・頻発化し、各地で甚大な被害が発生している。例えば、2019年の水害被害額は、全国で約2 兆1,800 億円となり、1年間の津波以外の水害被害額が統計開始以来最大となった(図表Ⅰ-1-1-20)。

図表Ⅰ-1-1-20 津波以外の水害被害額の推移
図表Ⅰ-1-1-20 津波以外の水害被害額の推移

資料)国土交通省

 ここでは、近年甚大な被害を発生させた平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨について振り返る(図表Ⅰ-1-1-21)。

図表Ⅰ-1-1-21 近年の主な豪雨災害による被害
図表Ⅰ-1-1-21 近年の主な豪雨災害による被害

資料)国土交通省

(平成30年7月豪雨)

 2018年6月28日から7月8日に発生した「平成30年7月豪雨」は、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨をもたらした。

 総降水量は四国地方で1,800mm、東海地方で1,200mmを超えたところもあり、7月の月降水量平年値の2~4倍の大雨となったところがあった。また、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位となり、広い範囲における長時間の記録的な大雨となった。

 広島県では、広島市や呉市、坂町等において同時多発的に土石流等が発生した。岡山県では、小田川等の堤防決壊が生じ、倉敷市真備町を中心として大規模な浸水被害が発生した(図表Ⅰ-1-1-22)。愛媛県では、施設能力を上回る規模の大雨が降ったことにより河川氾濫や土石流等が発生し、浄水場等が土砂災害により破壊された。全国的にも、19都道府県88市町村で内水氾濫、1道2府29県において2,581件の土砂災害が発生した。これにより、死者・行方不明者が271人、家屋の全壊・半壊・一部損壊が22,218棟発生するなど、甚大な被害が発生した。

図表Ⅰ-1-1-22 平成30年7月豪雨による被害(岡山県倉敷市真備町の浸水状況)
図表Ⅰ-1-1-22 平成30年7月豪雨による被害(岡山県倉敷市真備町の浸水状況)

資料)国土交通省

【関連リンク】

平成30年7月豪雨に関する情報

URL:https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H30.taihuu7gou.html#3

動画

復旧・復興状況①(広島県坂町)

出典:広島県坂町

URL:https://www.youtube.com/watch?v=0cJbwAX9D7w

(令和元年東日本台風)

 2019年10月6日に南鳥島近海で発生した令和元年東日本台風(台風第19号)は、同月12日に伊豆半島に上陸、その後関東地方を通過し同月13日に日本の東で温帯低気圧に変わった。

 この台風の接近や通過により、静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨となった。同年10月10日から13日までの総降水量は、神奈川県箱根町で1,000ミリに達し、東日本を中心に17地点で500ミリを超えた。特に静岡県や新潟県、関東甲信地方、東北地方の多くの地点で3、6、12、24、48時間降水量の観測史上1位の値を更新するなど記録的な大雨となった。

 これにより、広い範囲で河川の氾濫が相次いだほか、浸水害、土砂災害等が発生し、死者105名、行方不明者3名、重傷者43名、軽傷者332名となった。住家被害については、全壊が3,229棟、半壊・一部損壊が68,319棟、浸水が29,073棟であった(図表Ⅰ-1-1-23)。また、関東甲信越地方、東北地方を中心に停電や断水が相次ぎ、停電が約52万戸(最大)、断水が約16.8万戸(最大)で発生するなど、ライフラインにも大きな被害が生じた。

図表Ⅰ-1-1-23 令和元年東日本台風による被害(長野県長野市の住宅浸水状況)
図表Ⅰ-1-1-23 令和元年東日本台風による被害(長野県長野市の住宅浸水状況)

資料)国土交通省

 令和元年東日本台風による被害額は約1兆8,800億円となり、津波以外の単一の水害による被害としては、水害統計開始以来最大であった。

(令和2年7月豪雨)

 2020年7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で大雨となった。気象庁は、熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県の7県に大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけた。同期間の総降水量は、長野県や高知県の多い所で2,000ミリを超えたところがあり、九州南部、九州北部、東海、及び東北の多くの地点で、24、48、72時間降水量が観測史上1位の値を超えた。また、球磨川や筑後川など国が管理する8河川、都道府県が管理する194河川で氾濫などの浸水被害が発生した。土砂災害発生件数は961件、高速道路等16路線25区間、直轄国道10路線29区間、都道府県等管理道路725区間で被害が発生した。鉄道においては、13事業者20路線で土砂流入、線路冠水等の被害が発生、うちJR九州久大線、肥薩線及びくま川鉄道では橋梁が流失した(図表Ⅰ-1-1-24)。

図表Ⅰ-1-1-24 令和2年7月豪雨による被害(球磨川の堤防決壊)
図表Ⅰ-1-1-24 令和2年7月豪雨による被害(球磨川の堤防決壊)
図表Ⅰ-1-1-24 令和2年7月豪雨による被害(球磨川の堤防決壊)

資料)国土交通省

 この豪雨により、死者84名、行方不明者2名、住家の全半壊等6,129棟、住家浸水6,825棟の極めて甚大な被害が広範囲で発生した。

動画

【消防庁動画チャンネル】令和元年東日本台風から学ぶ(全編)

出典:消防庁

URL:https://www.youtube.com/watch?v=a8cZIpcaNIY

動画

令和2年7月豪雨への対応 ~九州地方整備局~

URL:https://youtu.be/QE_cIO7UeaU

 被害が集中した熊本県では、球磨川流域の人吉市や八代市、芦北町、球磨村、相良村において未曾有の災害となった。特に、球磨村の特別養護老人ホームでは、浸水によって14人の尊い人命が失われた。

 球磨川においては、甚大な被害が発生したことを受け、国、県、市町村等が連携し、被災した箇所で、河道掘削、堤防整備、遊水池整備等の取組みを集中的に実施することにより、流域における浸水被害の軽減を図る「球磨川水系緊急治水対策プロジェクト」が進められている。現在は、本年の出水期に向けて、堆積土砂の撤去、堤防決壊箇所の本復旧等が進められている。道路についても、道路の応急復旧、流失した橋桁の撤去、仮橋の設置等が進められている(図表Ⅰ-1-1-25)。

図表Ⅰ-1-1-25 球磨川における復旧工事の状況
上)堤防損壊復旧工事
下)仮橋設置工事  
図表Ⅰ-1-1-25 球磨川における復旧工事の状況 上)堤防損壊復旧工事

令和3年4月7日

図表Ⅰ-1-1-25 球磨川における復旧工事の状況 下)仮橋設置工事

令和3年2月5日

資料)国土交通省

( 3 )大規模地震のリスク

 日本列島には多くの活断層やプレート境界が分布しており、地震が発生しやすい国土条件にある。さらに、南海トラフ地震、首都直下地震や日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震といった大規模地震の発生確率が高まっている。これらの大規模地震は、いずれも国民のいのちと暮らしに対し極めて甚大な被害を与えると想定されている(図表Ⅰ-1-1-26)。

図表Ⅰ-1-1-26 大規模地震による被害想定
図表Ⅰ-1-1-26 大規模地震による被害想定

(注)被害が最大となるケース
資料)国土交通省

(南海トラフ地震)

 駿河湾から日向灘沖にかけてのフィリピン海プレート及びユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域を「南海トラフ」と言い、この南海トラフ沿いを震源域とする地震が南海トラフ地震である。

 地震調査研究推進本部地震調査委員会では、次の地震の発生可能性等を評価し、随時公表している。南海トラフ地震については、マグニチュード8~9クラスの地震の30年以内の発生確率が70~80%と予測している(2021年1月13日時点)。なお、同委員会は、南海トラフでは過去1,400年間に約90~150年の間隔で大地震が発生していることから、次の地震までの間隔を88.2年と予測している。前回の南海トラフ地震(1944年の昭和東南海地震及び1946年の昭和南海地震)が発生してから約75年が経過しており、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まっている。

 政府の中央防災会議は、南海トラフ地震が発生した際の被害想定を取りまとめている。南海トラフ地震の震度は、2012年度に公表された南海トラフ巨大地震に係る被害想定によると、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになると想定されている(図表Ⅰ-1-1-27)。さらに、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の襲来が想定されている。

図表Ⅰ-1-1-27 南海トラフ地震の震度分布
図表Ⅰ-1-1-27 南海トラフ地震の震度分布

(注)強震波形4ケースと経験的手法の震度の最大値の分布
(一つの地震でこのような震度分布が生じるものではない)
資料)内閣府「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」

 また、南海トラフ地震の被害は、最大で死者が約32.3万人、建物の全壊及び焼失棟数が約238.6万棟と想定されている。被災地の経済被害は最大で約169.5兆円と試算されており、東日本大震災(16.9兆円)をはるかに超えるものと想定されている(いずれも2012年度時点)。

(首都直下地震)

 地震調査研究推進本部地震調査委員会では、首都直下のマグニチュード7程度の地震(首都直下地震)の30年以内の発生確率は、70%程度と予測している(2021年1月13日時点)。

 首都直下地震の震度は、2013年12月に公表された内閣府「首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震等の震源断層モデルと震度分布・津波高等に関する報告書」によると、最大震度が7となる地域がある他、広い地域で震度6強から6弱の強い揺れになると想定されている(図表Ⅰ-1-1-28)。ただし、発生場所の特定は困難であり、どこで発生するかわからないため、想定されるすべての場所において、最大の地震動に備えることが必要である。なお、東京湾内の津波高さは1m以下とされている。

図表Ⅰ-1-1-28 首都直下地震の震度分布
図表Ⅰ-1-1-28 首都直下地震の震度分布

(注)震度推計に用いた19ケースの最大震度の重ね合わせ
(一つの地震でこのような震度分布が生じるものではない)
資料)内閣府「首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いの
M8クラスの地震等の震源断層モデルと震度分布・津波高等に関する報告書」

 また、首都直下地震の被害は、2013年12月に公表された首都直下地震に係る被害想定によると、最大で死者が約2.3万人、建物の全壊及び焼失棟数が約61万棟、経済被害は、建物等の直接被害だけで約47兆円と試算されている。

動画

【首都直下地震編】全体版

出典:内閣府防災

URL:https://youtu.be/Tnxww93PgPc

  1. 注3 大陸や半島を分断する山脈