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国土交通白書 2021

第1節 社会の存続基盤の維持困難化

■1 公共交通への深刻な影響

( 1 )航空等への影響

 公共交通のうち航空、高速バス等の長距離輸送交通は、国外及び地域外との対流・交流を生み、観光業等様々な産業の基盤になっていることから、重要な社会の存続基盤である。

 我が国においては、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、外出抑制、国際的往来制限等を実施しており、これに伴って、人流の減少、インバウンドの消失などの経営環境の激変が生じている。これにより、航空業においては、第1章第1節のとおり、利用者が大きく減少したことで経営環境が悪化し、非常に深刻な状況となっている(図表Ⅰ-2-1-1)。「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」の調査結果によれば、国内線の2020年の輸送人員については、緊急事態宣言が発出された5月は前年同月比で93%減少、Go Toトラベル事業の効果等で11月は前年同月比44%減まで回復したものの、2021年1月には75%減少と、非常に大きな影響を受けている。さらに、国際線に至っては、2020年4月以降95%以上減少しており、非常に大きな影響を受けている。また、高速バス(図表Ⅰ-2-1-2)、新幹線(図表Ⅰ-2-1-3)等、他の長距離輸送についても、コロナ禍により利用者が大きく減少しており、深刻な状況である。

図表Ⅰ-2-1-1 航空の2020年輸送人員(2019年同月比)
図表Ⅰ-2-1-1 航空の2020年輸送人員(2019年同月比)

資料)国土交通省

図表Ⅰ-2-1-2 乗合バス(高速バス)の2020年輸送人員(2019年同月比)
図表Ⅰ-2-1-2 乗合バス(高速バス)の2020年輸送人員(2019年同月比)

資料)国土交通省

図表Ⅰ-2-1-3 東海道新幹線の2020年輸送人員(2019年同月比)
図表Ⅰ-2-1-3 東海道新幹線の2020年輸送人員(2019年同月比)

資料)東海旅客鉄道株式会社発表資料より国土交通省作成

 このような状況は、コロナ禍における突発的な影響によるものであるが、前述の通り非常に大きな打撃を受けており、このままでは事業の維持が困難になるおそれがある。社会の存続基盤である航空等の長距離輸送交通を維持するため、コロナ禍による影響を乗り越えるための対策が必要である。

( 2 )地域公共交通への影響

 公共交通のうち、一般路線バス等の地域公共交通は、医療、福祉、買い物、教育など、地域住民の生活上の移動のために欠かせないインフラである。さらに、地域外からの来訪者の移動等にも必要であるため、地域外との対流・交流にも必要なインフラである。このため、地域公共交通は、地域の存続基盤として特に重要である。

 しかし、地域公共交通の経営は非常に厳しい状況にある。地域公共交通の代表格である乗合バスについて見ると、コロナ禍以前の2019年において、全国のバス事業者のうち約7割が赤字であり、特に地方圏のバス事業者は約9割が赤字である。輸送人員の変化について見ると、3大都市圏以外については平成12年から大きく減っており、厳しい状況であることがわかる(図表Ⅰ-2-1-4)。この輸送人員の減少には、地方圏における人口減少と都市集中の進行が要因であると考えられる。

図表Ⅰ-2-1-4 バスの輸送人員(乗合バス(平成12年を100とした輸送人員))
図表Ⅰ-2-1-4 バスの輸送人員(乗合バス(平成12年を100とした輸送人員))

資料)国土交通省

 このような状況に加え、第1章第1節の通り、コロナ禍によって、感染拡大防止のための外出抑制、国際的往来制限等を実施しており、これに伴って、人流の減少やインバウンドの消失など経営環境の激変が生じている。この影響で、地域公共交通は、利用者がさらに減少し、極めて深刻な状況に陥っている。「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」の調査結果によれば、乗合バス(一般路線バス)の輸送人員(2019年同月比)は、緊急事態宣言期間の2020年4・5月は前年比50%程度も減少し、緊急事態宣言解除後の11月以降においても、前年比20%程度の減少が継続していることがわかる(図表Ⅰ-2-1-5)。このため、コロナ禍収束後においても、輸送人員はコロナ禍以前と同等には回復しない可能性がある。このことから、一般路線バスについては、コロナ禍以前から人口減少等の影響により厳しい経営環境だったところ、コロナ禍により、その状況が加速したと言える。

図表Ⅰ-2-1-5 乗合バス(一般路線バス)の輸送人員(2019年同月比)
図表Ⅰ-2-1-5 乗合バス(一般路線バス)の輸送人員(2019年同月比)

資料)国土交通省

 このように、地域公共交通の維持は一層困難になっている。前述の通り、地域公共交通は地域の存続基盤として特に重要であるため、コロナ禍による影響を乗り越えるとともに、コロナ禍収束後において持続的な経営を確保するための対策が必要である。

動画

徳光・木佐の知りたいニッポン!~暮らしの足 地域を支える公共交通

出典:政府広報オンライン(BS-TBS 平成31年1月27日放送)

URL:https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg18333.html?nt=1

( 3 )公共交通の持続可能性に対する国民の懸念の高まり

 地域公共交通の持続可能性に関して、国民意識調査を行ったところ、約4割の方がコロナ禍を契機として、その持続可能性に対する懸念が高まったと回答している(図表Ⅰ-2-1-6)。公共交通機関はコロナ禍においても、エッセンシャルワーカーとしてその機能維持のため業務を継続していたことで、その重要性が再認識されると同時に、利用の減少による経営の悪化が懸念されたため、このような結果となったと考えられる。

図表Ⅰ-2-1-6 公共交通の持続可能性について
図表Ⅰ-2-1-6 公共交通の持続可能性について

資料)国土交通省「国民意識調査」