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国土交通白書 2021

第1節 社会の存続基盤の維持困難化

インタビュー Afterコロナを見据えてビジネスモデルの変換「見える化・最適化・需要創造」と「ハブ&スポーク」により、持続可能なバス事業へ

谷島 賢氏(イーグルバス㈱ 代表取締役社長)

 イーグルバスは、ICTの活用と観光振興との連携により持続可能なバス事業を実現しています。谷島社長が考える「人口減少・高齢化に対応した経営改善手法」、「バス事業の未来」について紹介します。

――ICTを活用した持続可能な公共交通を実現されていますが、人口減少・高齢化に対応した御社の経営改善手法を教えてください。

「見える化」「最適化」「需要創造」が必要

 路線バス事業は、見えない事業、コストは固定費という特徴があります。従って改善に必要な要素は「見える化」「最適化」「需要創造」の3つです。

 まずは「見える化」を図る、つまり、バスの運行や利用に係る情報をデータ化し、関係者で共有することです。イーグルバスでは、バスの乗降口にセンサーを付与し、停留場の乗降人数、時刻、位置情報等の運行情報を蓄積し、自社で開発したソフトで現状の運行の見える化を行う事で、ニーズに合わない運行や、到着遅れ、鉄道接続状況を具体的に抽出する事が出来ました。次に問題ある運行の見直しを行うことで、利便性の向上、不要なコストの削減、チャンスの獲得を行います(最適化)。そして、運行の最適化に加えて新たな乗客を獲得するために、地域と協力して地域に人が集まるような仕掛けにより観光客を増やします(需要創生)。最適化はバス事業者単独でも行える個別施策ですが、最適化による改善には限界があり、地域と一緒になって観光客の取り込みを行う包括施策になることで、バス事業の改善ゴールはまちづくりのゴールと一体化します。川越の例が分かり易いですが、バス事業者の個別施策として、巡回バスの運行、ボンネットバス導入(シンボル化)、バスツアーの実施、羽田-川越路線の開設等を行ってまいりましたが、東日本大震災を機に地域と一緒になって川越きもの日や夜のイベント、国際観光都市(英語の通じる町)を目指す取組みも行っており、バス事業の改善はまちづくりという包括施策の中で可能となります。

蔵の街 川越を走るボンネットバス
蔵の街 川越を走るボンネットバス

ハブ&スポーク

 もう一つ重要な取組みは地域の中央にハブとなる停留所を設置し、全ての路線バスをそこで乗り換え可能にする、交通ネットワークの「ハブ&スポーク」化を図りました。東秩父村の例では、ハブの中にショッピングセンター、フードコート、観光案内所の施設を入れ、運行効率の向上と合わせて、観光客の取り込みにも成功しました。

 また、例えば、ハブを複数拠点化し、このハブをつなぐことで、医療サービスを始めとする巡回サービスを導入することで過疎化によって失われたサービスを取り戻せると思います。

東秩父村和紙の里のハブバスターミナル
東秩父村和紙の里のハブバスターミナル

――コロナ収束後のバス事業をめぐる状況についてどう考えるでしょうか。

生活路線バスの利用者数は戻らない

 観光バス事業者数は、現状は過剰であり、コロナ禍を機に淘汰が進み、優良事業者が残るのではないでしょうか。生活路線バスについては、コロナ収束後も新たな生活様式の定着で利用者数は以前と同等までは戻らず、路線撤退圧力は続くだろうと考えます。これを防ぐためには、公共による支援が必要です。ただし、改善努力をしたところを支援すべきです。

――コロナ収束後に向けて、バス事業にはどのような取組みが必要でしょうか。

運転手不足の解消が必要

 コロナ以前からの問題として、慢性的な運転手不足があり、自動運転バスの実証は行われていますが実現するためにはまだ時間がかかり、そこまで繋ぐ現実的な方法としては外国人運転士の導入が必要だと思います。一昨年導入された外国人労働者特定技能制度にバス運転手も入れるべきです。ラオスやカンボジアの運転士を教育してきましたが、彼らの技能は日本人にひけをとらないと思います。

 公共交通である路線バスは生活サポート輸送ですが、コストが高く制約が多いと感じています。日本のやり方は限界がきているのではないでしょうか。欧米では運行計画を自治体がつくり、運行をバス事業者に委託しています。公共交通の本来の役割としては、地域の活性化につながる内外交流ができるために準備しておくインフラです。

革新技術(自動運転、ITC、AI、5G、電気バス)を使って新しいモデルを

 革新技術(自動運転、ITC、AI、5G、電気バス)をうまく使ってバス業界の新しいモデルにしていく必要があります。

 完全自動運転の実装にはまだ環境整備の面で時間がかかるでしょう。一方、今後、地球温暖化対策のため、電気バスの導入が増えるでしょう。電気バスは高額ですが、燃料費、整備費の圧縮が図れるので、上下分離方式などにより電気バスを運行事業者に供与するのが現実的な方法と考えます。また自動運転システムとの相性はディーゼル車より良いと思います。

 運賃でバス事業のコストを支えるのは難しいですが視点を変えるだけで移動の足を確保することはできます。例えば、大型ショッピングモールが運行コストを負担して無料電気バスを運行し、ショッピングモールをハブとして駅、住宅を回る運行です。燃料の電気はショッピングセンターからでる生ゴミでバイオマス発電を使用すれば、CO2も出さず環境負荷を軽減できます。ショッピングセンターもバスの利用者情報を経営に活かす事もできます。路線バス事業が成立しない地域に対してはこのような形態を認めてもいいのではないでしょうか。このような形態においては、バス事業は運行を管理する事業に転換し、5G、6Gが普及すると、遠隔管理が主要業務になるかもしれません。

 現状を変えるのは難しいですが、ラオスで実施した「ハブ&スポーク」から、新規組織をパイロットとしてつくり既存路線からシフトしていくと、早い結果が得られるという事を学びました。日本においても可能だと考えています。

【関連リンク】

・イーグルバス㈱

http://www.new-wing.co.jp/