国土交通白書 2021
第2節 災害リスクの増大や老朽化インフラの増加
インタビュー リアル寡黙なヒーロー 第1回 TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)
掛田信男氏(九州地方整備局企画部技術管理課課長補佐)
国土交通省のミッションを簡単に表現すると、「社会と暮らしをデザインすること」です。国土交通省のウェブマガジンGraspでは、そんな国土交通省のミッションの一部を、黙々とミッションを遂行する「寡黙なヒーロー」として擬人化し紹介しています。このインタビューでは、寡黙なヒーローの実態や未来の展望を紹介します。
リアル寡黙なヒーロー 第1回は、「TEC-FORCE」です。TEC-FORCEは、大規模自然災害が発生し、自治体職員だけでは対応が困難な場合に、いち早く被災地へ出向き、被災自治体を支援しています。現役のTEC-FORCEとして活躍されている九州地方整備局の掛田氏にお話を伺いました。
――TEC-FORCEとして、具体的にどのような活動をされていますか。
具体的な活動として、被災地にいち早く向かい、被災状況の把握注1や被災地への支援を行いますが、最も重要なことは、「被災した市町村等に寄り添い、ニーズを汲み取ること」であると常に心がけています。国土交通省の職員は、全国規模で多様な災害を経験しているため、被災した現場に何が必要か、何が求められるかを予測し提案できることが強みの一つです。この強みを活かし、市町村のニーズを先読みし、こちらから支援メニューを提供しつつ、様々な支援を行っていきます。このマインドは、東日本大震災の経験から受け継がれているものです。
――この活動において大変だったこと、苦労したことを教えてください。
令和2年7月豪雨で、私が向かった熊本県球磨村は、特に甚大な被害が発生した自治体です。役場庁舎がある地域は、庁舎に至る道路が寸断し、役場機能が維持できないため、村長はじめ役場の職員の方々が、球磨村総合運動公園内の「さくらドーム」という場所に移動していました。
しかしながら、この「さくらドーム」も、水道、通信等のライフラインが寸断しているため、電話もつながりません。現地の状況を伝達するにも、電波が入る場所まで移動するなど、かなり苦労しました。また、「さくらドーム」と言っても、屋根があるだけで、地面にブルーシートを敷いただけの状態です。断続的に雨が降り気温も湿度も高い環境の中、村長をはじめ村の方々が、深夜にブルーシートの上で仮眠を取るという状況を見て、胸が締め付けられました。この状況を何とかできないかと考え、九州地方整備局が保有している災害対策車を派遣し、それを休憩室とすることで、少しでもゆっくり休んでいただける環境を整えました。皆様に喜んでいただき、とても嬉しかったです。
また、人命救助と復旧活動において最も重要なのは、輸送ルートの確保です。水・食料等の物資の輸送や、復旧工事をする重機と作業員の移動にも必要となるためです。令和2年7月豪雨では、球磨村役場までの幹線道路は土砂崩れなどにより何か所も寸断されていたため、徒歩で移動し、時には危険と思われるような場所もよじ登って、被災箇所の調査・把握をしました。非常にハードな調査でしたが、被災から約2週間という短い期間で、役場までの幹線道路の経路確保につなげることができました。
――未来に向けた展望を教えてください。
「TEC-FORCE」は、技術力、調整力、そして地域に対する思いなど、国土交通省職員として身につけた力を短期に集中して発揮することが求められます。私は、様々な被災地で活動しましたが、被災地の方のお役に立てることが何よりの励みになります。
例えば、応急復旧活動をパートナーである建設会社やコンサルタント等とワンチームで取り組み、道路が復旧・開通し地元の方々の笑顔が見られた時は、涙が出るほど嬉しい。技術者冥利に尽きる瞬間でもあります。
災害が起こらないこと、もし起こったとしても被害を最小限にできるよう国土を強靱化することが重要であることは言うまでもありませんが、仮に災害が起こった際に、いち早く現地に行き、被災地を支援する「TEC-FORCE」の活動をこれからも続けていきたいです。
Graspでは他のヒーローも紹介しています。
- 注1 被災状況の把握は、被災した道路、河川等に徒歩で分け入ってゆき、被災箇所、被災規模等を速やかに調査し、被災の全貌を把握する。