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国土交通白書 2021

第5節 地球温暖化の進行

■1 これまでの取組みと現状

 ここでは、世界、日本における地球温暖化対策のこれまでの取組み、近年の変化と課題について整理する。

( 1 )これまでの取組み

 1970年代、科学の進歩に伴い地球の大気の仕組みが明らかになり、地球温暖化が深刻な問題として科学者の中で注目されるようになった。1985 年にオーストリアで開催されたフィラハ会議をきっかけに、地球温暖化問題に対する危機感が国際的に広がった。1988 年には、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立され、その後、IPCC の最初の報告書「第1次評価報告書注7」が発表された。この報告では、「過去100 年間に地球の平均気温は0.3 ~ 0.6 度上昇した。人間の産業活動等により排出される温室効果ガスの増大が地球温暖化の主な原因と見られる」等と指摘され、地球温暖化問題に対処するための国際的な条約が必要だという認識が高まった。これらの動きを受け、1992 年に国連気候変動枠組条約が採択された。この条約は、世界各国が協力して地球温暖化問題に対処することに合意した初めての国際的な約束で、190 カ国以上が加盟している。

 しかし、国連気候変動枠組条約に掲げられた目標は努力目標であったこともあり、その後も世界の温室効果ガスの排出量は増え続けた。このため、国連気候変動枠組条約第1回締約国会議(COP1)において、それまでの条約は気候変動問題の解決に不十分であるとされ、第3回締約国会議(COP3)までに新たな国際約束を合意すべきとされた。これを受けて、1997 年、京都で開催されたCOP3において、新たな国際約束となる京都議定書注8が採択された。京都議定書は、温室効果ガスの排出に初めて国際的に数値目標を設定して、その排出削減を法的に義務づけた画期的なものである。

 これを受け、1998年に我が国においても、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むための枠組みを定めた地球温暖化対策推進法が制定され、我が国の地球温暖化対策が具体的に始まった。(図表Ⅰ-2-5-1)

図表Ⅰ-2-5-1 地球温暖化対策に関する主な動向
図表Ⅰ-2-5-1 地球温暖化対策に関する主な動向

資料)国土交通省

( 2 )パリ協定の目標

 2015年、フランス・パリにおいて開催された 国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、新たな法的枠組みとなる「パリ協定注9」が採択された。パリ協定は、「京都議定書」の後継となるもので、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みである。世界共通の目標として①世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする ②そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる、という目標を掲げている。京都議定書では、温室効果ガス排出削減が一部の先進国に限られていたのに対し、パリ協定は、途上国を含む全ての参加国・地域に排出削減の努力を求める枠組みであり、気候変動問題に関する歴史上最も画期的な枠組みと言える。(図表Ⅰ-2-5-2)

図表Ⅰ-2-5-2 パリ協定に基づく主要国の目標
図表Ⅰ-2-5-2 パリ協定に基づく主要国の目標

資料) 経済産業省「環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会(第1回)」より抜粋

( 3 )地球温暖化対策の現状

 世界の温室効果ガス排出量は増加し続けており、2019年は、CO2換算で591億tと過去最大を更新した。世界の平均気温については、長期的に100年あたり0.75℃のペースで上昇している(図表Ⅰ-2-5-3)。

図表Ⅰ-2-5-3 世界温室効果ガス排出量の推移と世界の年平均気温偏差
図表Ⅰ-2-5-3 世界温室効果ガス排出量の推移と世界の年平均気温偏差

資料)環境省中長期の気候変動対策検討小委員会 第2回 参考資料集(出典UNEP(2020)Emissions Gap Report 2020)

 我が国のパリ協定に基づく温室効果ガス排出削減の目標は、「地球温暖化対策計画」(2016年閣議決定)において、2030年度の中期目標として、2013年度比で26%削減、長期目標として、2050年までに、80%の削減を目指すとした。我が国の温室効果ガス排出量は、減少傾向であるものの、日本人一人当たりの温室効果ガス排出量は世界平均よりも多く、主要国で見るとアメリカ、ロシアに次ぎ3番目となっている(図表Ⅰ-2-5-4)。

図表Ⅰ-2-5-4 主要国の温室効果ガス排出量の推移と一人当たりの温室効果ガス排出量の推移
図表Ⅰ-2-5-4 主要国の温室効果ガス排出量の推移と一人当たりの温室効果ガス排出量の推移

資料)環境省中長期の気候変動対策検討小委員会 第2回 参考資料集(出典UNEP(2020)Emissions Gap Report 2020)

  1. 注7 各国政府を通じて推薦された科学者が参加し、5~7年ごとにその間の気候変動に関する科学研究から得られた最新の知見を評価し、評価報告書(assessment report)にまとめている。現在、第5次報告書(2013~2014年)が公表されている。
  2. 注8 先進国の拘束力のある削減目標(2008年~2012年の5年間で 1990年に比べて日本-6%、米国-7%、EU-8%等)を明確に規定した。
  3. 注9 パリ協定の発効には 55ヵ国以上が批准し、その排出量が世界の温暖化ガス排出量の55%に達する必要があり、採択の翌年2016年10月5日にこの条件を満たし、同年11月4日に発効。