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国土交通白書 2021

第5節 地球温暖化の進行

■2 近年の変化と課題

( 1 )パリ協定目標とのギャップ

 国連環境計画(UNEP)では、毎年、気候変動抑制のために必要な温室効果ガス排出削減量と現状の排出量のギャップを公表している。これによると、2020年は、新型コロナウイルス感染症の大流行の影響で経済活動が減衰したため、前年比7%減の見通しであるが、2050年までの温暖化に及ぼす影響はほとんどなく、また、現在の各国の削減目標が完全に達成されたとしても、今世紀中に世界の平均気温は3.2℃上昇すると予測している。さらに、パリ協定の目標である「世界の気温上昇を産業革命以前と比較して2℃以下」を達成するためには、現行の目標の3倍、努力目標である1.5℃以下を達成するためには5倍の温室効果ガス削減が必要であるとしている。また、パリ協定による各国の目標の強化に加えて、新たなカーボンニュートラル目標達成に向けた取組も含めた迅速かつ強力な行動により、1.5℃以下の達成が可能となるとしている(図表Ⅰ-2-5-5)。

図表Ⅰ-2-5-5 世界のGHG排出量と2030年の排出量ギャップの予測
図表Ⅰ-2-5-5 世界のGHG排出量と2030年の排出量ギャップの予測

資料) 環境省中長期の気候変動対策検討小委員会 第2回 参考資料集(出典UNEP(2020)Emissions Gap Report 2020)

( 2 )カーボンニュートラル

 「パリ協定」においては、「今世紀後半のカーボンニュートラルを実現」も目標とされているが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「IPCC1.5度特別報告書」によると、世界の気温上昇を工業化以前と比較して1.5℃以内に抑えるというパリ協定の努力目標を達成するためには、2050年近辺までのカーボンニュートラル注10の実現が必要とされている。

 こうした背景により、世界各国でカーボンニュートラルの実現を目指す取り組みが広がっている。2021年1月時点において、日本を含む121の国と1地域が2050年までのカーボンニュートラル実現を目指している注11。その中でも取り組みが先行しているのがヨーロッパ各国であり、イギリスは、世界に先駆けてカーボンニュートラルを法制化し、EUは、2050年までにカーボンニュートラルを実現するためのビジョンを発表した。アジアでは中国が、2020年9月の国連総会一般討論で「2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と表明している(図表Ⅰ-2-5-6)。

図表Ⅰ-2-5-6 我が国及び諸外国の温室効果ガス排出削減の目標
図表Ⅰ-2-5-6 我が国及び諸外国の温室効果ガス排出削減の目標

資料)環境省「中央環境審議会地球環境部会(第146 回)資料3 国内外の最近の動向及び中長期の気候変動対策について」により国土交通省作成

( 3 )グリーン・リカバリー

 コロナ禍により各国の社会経済は大きな影響を受けているが、それへの対応や復興において、単に以前の状況に戻るのではなく、より良い社会経済の実現に向けて、気候変動やその他の環境課題への対策を進めるのが、グリーン・リカバリーという考え方である。また、グリーン・リカバリーでは、地球温暖化対策を、コストや制約ではなく、経済成長のカギとしてとらえている。

 このような考え方は、ヨーロッパを中心に提唱され、各国際機関のトップもグリーン・リカバリーの必要性に言及している。EU では、7か年予算(多年度財政枠組)及び復興基金の計1.8兆ユーロのうち30%以上(約70兆円)を気候関連に充て、グリーン・ リカバリーを推進する。また、ドイツでは先端技術支援による景気刺激策の約4割2.1兆円を水素関連技術、グリーン技術開発等の気候変動関連に投入するとしている(図表Ⅰ-2-5-7)。

図表Ⅰ-2-5-7 欧州の取組事例
図表Ⅰ-2-5-7 欧州の取組事例

資料)環境省資料より国交省作成

 新型コロナウイルス感染症はいまだ収束していないが、すでに、国単位、世界的組織単位でグリーン・リカバリーへの取り組みや投資は始まっており、国際的潮流となっている。

( 4 )日本の地球温暖化対策の目標

 このような世界の動きの中、我が国は、成長戦略の柱として経済と環境の好循環を掲げ、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した注12(図表Ⅰ-2-5-8)。また、中期目標として、2030年度に、2013年度比46%減を目指すとしている。

図表Ⅰ-2-5-8 我が国の温室効果ガス中期目標と長期目標
図表Ⅰ-2-5-8 我が国の温室効果ガス中期目標と長期目標

資料)環境省データより国土交通省作成

 さらに、昨年12月に、「2050年カーボンニュートラル」に向けて、経済と環境の好循環につなげるための政策である「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。これは、14の重要分野ごとに目標、課題、今後の取組み、予算、規制改革等あらゆる政策を盛り込んだ実行計画となっている。

 我が国としても、温暖化対策を積極的に行うことは、産業構造や経済社会の変革をもたらす、大きな成長の機会ととらえている。

  1. 注10 企業や家庭が排出する温室効果ガスを省エネルギー化によって削減するとともに、削減しきれない分を、植林や森林保護といった「ほかの場所での吸収」によって正味でゼロにする取り組み
  2. 注11 2060年までのカーボンニュートラル実現を表明した中国も含めると、全世界の約 3 分の 2 を占める。
  3. 注12 令和2年10月26日第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説