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国土交通白書 2021

第1節 危機による変化と課題への対応

第1節 危機による変化と課題への対応
■1 社会の存続基盤の持続可能性確保

 第2章第1節の通り、人口減少・高齢化に加え、新型コロナウイルス感染症によって、生活必需サービスを支える公共交通や、我が国・地域にとって重要な産業である観光産業は、大きな打撃を受けており、これらの社会の存続基盤と言える産業の持続が困難なものとなるおそれがある。本節では、これらの社会の存続基盤及び地域の持続性を確保するための取組みについて記載する。

( 1 )地域公共交通の維持と利便性の向上

(航空業への支援)

 第2章第1節の通り、航空業については、コロナ禍による人流の減少やインバウンドの消失により、経営環境が悪化し、非常に深刻な状況である。この状況を受け、国土交通省では、国民の移動の基礎的なインフラである航空ネットワークを適切に維持するため、2020年10月28日に『コロナ時代の航空・空港の経営基盤強化に向けた支援施策パッケージ』を取りまとめた(同年12月21日に新たな追加支援策を盛り込み改定)。このパッケージによる支援の具体的な内容は下記のとおりである。

・着陸料や空港使用料・航空機燃料税の更なる減免など、航空ネットワーク維持・確保のための施策

・危機対応融資等の活用による資金繰り支援など、資金需要への対応、雇用維持のための施策

・地域航空における感染防止対策支援やGoToトラベル事業の延長と適切な運用など、感染拡大防止と航空需要回復の両立に向けた取組

・コンセッション空港・会社管理空港(成田)の空港施設の整備に対する無利子貸付など航空ネットワークの基盤を支える空港関連企業の経営基盤の維持・強化を支援するための施策 等

(鉄道事業への支援)

 第2章第1節の通り、地域公共交通については、人口減少や都市集中の影響によりその維持が困難となっていたところ、コロナ禍による利用者の減少により、一層困難な状況となっている。

 国土交通省では、JR北海道、JR四国(以下、JR二島)及びJR貨物に対しては、経営自立に向けた支援を行ってきた。しかし、JR二島は、我が国でも特に人口減少や都市集中が進んでいる北海道と四国における鉄道旅客運送を担っており、JR貨物は、全国のJR路線での貨物輸送を担うが、その大部分は人口減少が進行する地域である。このため、人口減少や他の交通機関の発達、コロナ禍による更なる需要減少等の影響により、経営環境は、非常に厳しい状況となっている。

 このため、現行の支援は2020年度末で期限を迎えるが、我が国及び地域の基盤として重要な、これら3社による鉄道旅客運送事業と貨物輸送事業を維持するため、今後とも継続した支援が必要と判断し、下記の支援を行うこととしている(図表Ⅰ-3-1-1)。

・JR二島の経営安定基金注1について一定の運用益確保や、JR二島及びJR貨物への助成金の交付期限の延長

・青函トンネル・本四連絡橋に係る改修費用への支援

・線路や旅客駅など鉄道施設の整備や、特急気動車の新製等に必要な資金の出資

・管理が大きな負担となっている不要土地(廃線跡地、貨物駅跡地等)の引取り 等

図表Ⅰ-3-1-1 JR二島・貨物への経営支援
図表Ⅰ-3-1-1 JR二島・貨物への経営支援

資料)国土交通省

(地域公共交通計画の高度化)

 国土交通省では、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成19年法律第59号。以下「地域公共交通活性化再生法」という。)に基づき、地域にとって望ましい地域旅客運送サービスの姿を明らかにするマスタープランである地域公共交通計画について、交通圏単位で、全ての地方公共団体での策定を推進している。地域公共交通計画においては、従来のバスやタクシーといった既存の公共交通サービスを最大限活用した上で、必要に応じて自家用有償旅客運送注2やスクールバス、福祉輸送など地域の多様な輸送資源を総動員することで、持続可能な交通サービスを確保することを求めている(図表Ⅰ-3-1-2)。

図表Ⅰ-3-1-2 地域交通維持に向けた取組
図表Ⅰ-3-1-2 地域交通維持に向けた取組

資料)国土交通省

 さらに、2020 年11月に、乗合バス事業者等の共同経営が可能となる独占禁止法特例法注3が施行された。同法に基づく共同経営等に係る特例も活用しつつ、地域公共交通活性化再生法の地域公共交通利便増進事業と併せて、路線、ダイヤ、運賃等の面からの利用者目線でのサービス改善を図っている。また、まちづくり施策等と連携した地域公共交通ネットワークの形成が重要であり、地域公共交通計画注4と立地適正化計画を連携して策定する地域も増加している。2021 年3月時点で、地域公共交通計画については618市町村、立地適正化計画については383市町村が作成し、その両方を作成した市町村は257まで増加している(図表Ⅰ-3-1-3)。

図表Ⅰ-3-1-3 地域公共交通計画・立地適正化計画の策定状況
図表Ⅰ-3-1-3 地域公共交通計画・立地適正化計画の策定状況

資料)国土交通省

( 2 )観光需要の回復

(Go To トラベル事業)

 第2章第1節の通り、観光産業は、我が国経済及び地域の活力・経済等の面から非常に重要な産業であるため、コロナ禍により大きく減少した観光需要を回復させることは、非常に重要である。

 Go To トラベル事業は、コロナ禍において国民の命と暮らしを守り抜くため、安全で安心な新しい旅のスタイルを普及・定着させることを目的とした事業であり、事業を実施するに当たり、観光関連事業者と旅行者の双方において、互いに着実に感染拡大防止策を講じることを求めている。

 Go To トラベル事業は、今後の感染状況等を踏まえて、取扱いを判断することとし、宿泊施設・観光地等での感染拡大防止策を徹底した上で、地域観光事業支援を実施する。また、ワーケーションや休暇取得促進等により旅行需要平準化を図り、混雑を低減させる。

図表Ⅰ-3-1-4 Go To トラベル事業及び平日への旅行需要の分散化のロゴ
図表Ⅰ-3-1-4 Go To トラベル事業及び平日への旅行需要の分散化のロゴ

資料)国土交通省

【関連リンク】

「新しい旅のエチケット」動画※複数の動画を掲載したページへのリンク 出典:Go To トラベル運営事務局 URL:https://goto.jata-net.or.jp/info/2020091001.html

分散型旅行のススメ※複数の動画を掲載したページへのリンク 出典:Go To トラベル運営事務局 URL:https://biz.goto.jata-net.or.jp/moviedownload_smalltravel.html

(既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業)

 観光施設を再生し、地域全体で魅力と収益力を高める事業について、短期集中で強力に支援する(図表Ⅰ-3-1-5)。

図表Ⅰ-3-1-5 既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業の施策例
図表Ⅰ-3-1-5 既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業の施策例

資料)国土交通省

・土産物屋や飲食店など、観光施設の改修等支援

・跡地の観光目的での活用を前提とした廃屋の撤去

・公的施設の観光目的での利活用のための民間活力の導入支援 等

(国内外の観光客を惹きつける滞在コンテンツ充実や、インバウンドの段階的復活)

 上記に加え、国内外の観光客を惹きつける魅力的な滞在コンテンツの造成や観光地等の受入環境整備等を支援する。また、観光地等の受入環境整備等を促進しながら、インバウンドを段階的復活させていく。

・スノーリゾートやアドベンチャーツーリズム等の高付加価値・滞在型コンテンツの造成

・城や社寺、古民家、グランピング等の個性ある宿泊施設整備

・観光地等における多言語対応、無料Wi-Fi等の整備等の促進

・国内外の感染状況等を見極めつつ、感染状況が落ち着いている国・地域から、防疫措置を徹底の上、小規模分散型パッケージツアーを試行的に実施

・我が国の観光資源を含む多様な魅力や安全・安心への取組に関する情報等の発信による訪日プロモーションの実施 等

( 3 )まちの機能、活力の維持・向上

(コンパクト+ネットワークの推進等による多角連携型の国土づくり)

 人口減少・高齢化が進行する中、「コンパクト+ネットワーク」の推進により、各地域の各種サービス機能をコンパクトに集約するとともに、各地域を交通や情報通信等のネットワークでつなげることにより一定の圏域人口を確保し、生活に必要な機能を維持することを図っている。

(二地域居住、地方移住の推進)

 第2章第1節の通り、テレワークの普及に伴い、主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点を設ける暮らし方である「二地域居住」や、「地方移住」への関心が高まっている。多様な価値・魅力を持ち、持続可能な地域の形成を目指すためには、地域づくりの担い手となる人材の確保を図る必要がある。このため、二地域居住や地方移住に関心を有する人の誘致・移動を図ることが重要である。国土交通省では、二地域居住等の推進を図るための情報発信(図表Ⅰ-3-1-6)や、関係省庁協力のもと、地方公共団体・関係団体・関係事業者からなる全国二地域居住等促進協議会(図表Ⅰ-3-1-7)との連携等により、二地域居住等を推進している。

図表Ⅰ-3-1-6 二地域居住推進の取組事例集
図表Ⅰ-3-1-6 二地域居住推進の取組事例集

資料)国土交通省

図表Ⅰ-3-1-7 全国二地域居住等促進協議会
図表Ⅰ-3-1-7 全国二地域居住等促進協議会

資料)国土交通省

(「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくり)

 国土交通省では、多様な人々の出会い・交流を通じたイノベーションの創出や人間中心の豊かな生活を実現し、まちの魅力や国際競争力を向上し、内外の多様な人材、関係人口を更に惹きつけるという好循環の確立に向けて、「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりを推進している。詳細は、第3章第1節3.多様化への対応に記載している通りである。

動画

仕事も暮らしも地方移住で充実!

出典:政府広報オンライン

URL:https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/chihou-ijyu/index.html

( 4 )地域の防災力の維持・向上

 第1章第1節の通り、我が国では、巨大地震のリスクや豪雨災害の激甚化・頻発化など、災害リスクが増大しており、地域の持続可能性確保のためには、地域の防災力を維持・向上することが非常に重要である。

 国土交通省では流域治水の推進や、防災・減災のための住まい方や土地利用の推進、予防保全による持続可能なインフラメンテナンスへの転換等に取り組んでいる。詳細は、第3章第1節2.災害リスクの増大や老朽化インフラの増加への対応に記載している通りである。

 また、国土交通省では、インフラ分野のDXも推進している。これにより、人材不足の地方においても、適切なインフラメンテナンスが可能となり、地域防災力の維持・向上が期待できる。詳細は、第3章第1節4.DXの推進等による成長の実現に記載している通りである。

( 5 )物流サービスの維持

 物流サービスは生活上の基盤的サービスとして重要である。しかし、地方部では、人口減少や地形的要因によるコストの上昇、人手不足により、物流サービスの維持が困難化している。

 物流サービスの維持に向けて、2017年6月より、旅客自動車運送事業者がバスやタクシーを用いて貨物を運送することや、貨物自動車運送事業者がトラックを用いて旅客を運送する貨客混載を可能としている。さらに、コロナ禍で、この需要がさらに高まったため、第1章第1節の通り、タクシーによる飲食運送も可能としている。国土交通省としては引き続き、地域の交通機関の輸送力や経営状況、貨物自動車運送事業の供給力などの状況も勘案しながら、貨客混載の適切な展開を図っていく。(図表Ⅰ-3-1-8)。

図表Ⅰ-3-1-8 貨客混載の事例(バス事業者による貨物運送)
図表Ⅰ-3-1-8 貨客混載の事例(バス事業者による貨物運送)

資料)国土交通省

 また、国土交通省は、自動配送ロボットによるラストマイル配送を推進している。自動配送の実現は、運送コストの低減、人手不足の解消、利便性向上に繋がり、地域の物流サービスの維持に資するものである。詳細は、第3章第1節4.DXの推進等による成長の実現の通りである。

  1. 注1 国鉄改革時に、JR北海道・JR四国がその運用益により営業損失を補填し得るよう設置された基金
  2. 注2 バス・タクシー事業が成り立たない場合であって、地域における輸送手段の確保が必要な場合に、必要な安全上の措置をとった上で、市町村や NPO 法人等が、自家用車を用いて提供する運送サービス。
  3. 注3  地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律(令和2年法律第 32号)
  4. 注4 地域公共交通計画は、「地域にとって望ましい公共交通網の姿」を明らかにするマスタープランとしての役割を果たすものである。令和 2 年の地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の改正により、地域公共交通網形成計画に代わる、新たな法定計画として地域公共交通計画の作成が努力義務化された。なお、同法の改正前に策定された地域公共交通網形成計画は、同法の改正後は、地域公共交通計画とみなされる。