
国土交通白書 2021
第7節 海洋の安全・秩序の確保
( 1 )近年の現況
尖閣諸島周辺海域においては、ほぼ毎日、中国海警局に所属する船舶による接続水域での活動が確認され、領海侵入する事案も発生しており、令和2年には、尖閣諸島周辺の接続水域での中国海警局に所属する船舶の年間確認日数が過去最多となり連続確認日数も過去最長を更新した。また、同年5月以降、中国海警局に所属する船舶が日本漁船へ接近しようとする事案が繰り返し発生し、これに伴い、領海侵入時間も過去最長を更新するなど、情勢は依然として予断を許さない状況となっている。また、昨今では、中国海警局に所属する船舶の大型化、武装化、増強が確認されており、平成30年7月には、中国海警局が人民武装警察部隊(武警)に編入されるなど、中国の動向を引き続き注視していく必要がある。
海上保安庁では、現場海域に巡視船を配備するなど、我が国の領土・領海を断固として守り抜くという方針の下、事態をエスカレートさせないよう、冷静に、かつ、毅然として対応を続けている。また、東シナ海等の我が国排他的経済水域においては、外国海洋調査船による我が国の事前の同意を得ない調査活動等も確認されており、海上保安庁では、関係機関と連携しつつ、巡視船等による警戒監視等、その時々の状況に応じて適切に対応をしている。さらに、大和堆周辺海域では、北朝鮮漁船や中国漁船による違法操業が後を絶たず、北朝鮮公船も同海域で確認されるとともに、日本海沿岸部への北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が相次いで確認される等、我が国周辺海域を巡る状況は、一層厳しさを増している。


( 2 )海上保安体制強化の推進
厳しさを増す我が国周辺海域を巡る情勢を踏まえ、平成28年12月21日に開催された「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」において、「法執行能力」、「海洋監視能力」及び「海洋調査能力」の強化を図るため、以下5つの柱からなる「海上保安体制強化に関する方針」が決定され、海上保安庁では、同方針に基づき、海上保安体制の強化を進めてきたところである。
~海上保安体制強化の5つの柱~
①尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備
②広大な我が国周辺海域を監視できる海洋監視体制の強化
③テロ対処や離島・遠方海域における領海警備等の重要事案への対応体制の強化
④我が国の海洋権益を堅守するための海洋調査体制の強化
⑤以上の体制を支える人材育成などの基盤整備。
令和2年12月21日、5回目となる「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」が開催され、平成28年12月の同会議において決定された「海上保安体制強化に関する方針」に基づく取組みの進捗状況を確認するとともに、尖閣領海警備のための大型巡視船等の整備のほか、人材の確保・育成のため、大型練習船の整備等、教育訓練施設の拡充も着実に進めるとともに、関係国の人材育成への貢献など、海洋秩序の維持強化のための取組を推進していくことが確認された。
また、令和2年度は、同方針に基づき整備を進めてきたヘリコプター搭載型巡視船を含む大型巡視船3隻、大型測量船1隻、中型飛行機(測量機)1機が就役したほか、海洋監視体制強化の取組として、無操縦者航空機の国内飛行実証を行った。


( 3 )「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて
我が国は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP=Free and Open Indo-Pacific)の実現に向け、①基本的原則の定着とそれに基づく秩序形成(法の支配、航行の自由、自由貿易の普及・定着)、②平和と安定の確保(海上法執行能力の向上、人道支援、災害救援、海賊対策などでの協力)、③経済的繁栄の追求(連結性、EPAや投資協定を含む経済連携強化)の3点を「三本柱の施策」と定め、地域全体の平和と繁栄を確保するため、各種取組みを推進している。
海上保安庁では、この「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、多国間及び二国間の連携・協力の取組みを強化するとともに、シーレーン沿岸国等の海上保安機関の能力向上を支援し、年々深化・多様化する国際業務に適切に対応する体制を構築している。
多国間の連携・協力については、グローバル化あるいはボーダレス化する傾向にある国際犯罪への対応や、大規模化する事故や災害への対応、環境汚染への対応について、各国で連携していくことが重要という認識の下、いずれも日本のイニシアチブのもとでスタートし、平成12年から開催されている北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)や16年から開催されているアジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)のほか、29年から開催されている世界海上保安機関長官級会合(CGGS)を通じて、海上保安機関間の連携・協力を積極的に推進している。最近では、令和元年11月に第2回CGGSを東京で開催し、これまで海上保安庁が主催した国際会議の中で史上最大となる、世界75か国、84の海上保安機関等が参加した。
一方、二国間の連携については、地政学上重要なシーレーン沿岸国と、事案対応時に迅速かつ的確な連携・協力を行うために覚書や協定を締結して二国間の枠組を構築している。
また、増加する諸外国からの海上保安能力向上支援の要望に応えるため、平成29年に発足した能力向上支援の専従部門である「海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)」を、令和2年度末までに、14か国へ合計51回派遣(令和2年度は8か国に10回のオンライン研修を実施)するほか、各国海上保安機関等の職員を日本に招聘して各種研修を実施するなど、各国の海上保安能力向上を支援した。
さらに、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進を通じて、各国の連携協力と法の支配の重要性について認識の共有を図るため、平成27年10月、政策研究大学院大学と連携の上、海上保安政策に関する修士課程「海上保安政策プログラム」を開設し、アジア諸国の海上保安機関の若手幹部職員を受入れており、これまで8か国から40名が修士号を取得した。
このように、海上保安庁では、「自由で開かれたインド太平洋」の推進という政府方針の下、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持のための取組みを推進している。