国土交通省ロゴ

国土交通白書 2022

第1節 わたしたちの暮らしの脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性

■1 住まい・建築物の脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性

 民生(家庭・業務)部門において温室効果ガス削減目標達成に向けて、住宅・ビル等での対策といったハード面とともに、住まい方といった運用面での対応も考慮した総合的な取組みが必要である。また、優良なストックを長く使うなど、ライフサイクルコストを見据えた中長期的な視点での取組みも重要である。

 ここでは、住まい・建築物について、特にわたしたちの暮らしに直結する住まいに焦点を当て、脱炭素化に向けた取組みの課題と方向性を整理する。

(1)民生部門のエネルギー消費の動向

①現状と課題

 第1章で記述したとおり、家庭部門のエネルギー消費量は住宅の省エネルギー化や高効率な省エネルギー機器の普及等により減少傾向にある。住まい・建築物の脱炭素化に向けて、以下、エネルギー消費の動向について、経年推移をみていく。

(エネルギー消費の経年推移)

 エネルギー消費(家庭部門・業務部門)は、対1990年度比で増加し、現在では全エネルギー消費量の約3割を占めている。

 このうち、家庭部門のエネルギー消費注1は、生活の利便性・快適性を追求する国民のライフスタイルの変化、世帯数増加などの影響を受け、1990年度以降拡大傾向が続き、同年度を100とした場合、2005年度には129.5となったものの、以降、省エネルギー技術の普及や東日本大震災以降の節電・省エネルギー意識の高まりもあって減少傾向となり、2019年度には108.1となっている。

 また、業務部門のエネルギー消費注2は、1980年代後半からのバブル経済期は増加傾向が続き、1990年度を100とした場合、2005年度には128.9となったものの、2000年代後半からはエネルギー価格の高騰などにより減少傾向となり、2019年度には109.9となっている注3

図表Ⅰ-2-1-1 二酸化炭素排出量、エネルギー消費、世帯数・床面積の推移(家庭部門、業務部門)
図表Ⅰ-2-1-1 二酸化炭素排出量、エネルギー消費、世帯数・床面積の推移(家庭部門、業務部門)

(注)1990年度を基準値100として算出
資料)一般財団法人日本エネルギー経済研究所「2020年度版エネルギー・経済統計要覧」(理工図書刊)より国土交通省作成

(エネルギー消費内訳の推移)

 エネルギー消費の内訳は、その用途別に、冷房、暖房、給湯、厨房、照明・動力等に分類され、推移の傾向は、家庭・業務部門で差異がある。

 家庭部門のエネルギー消費量は、家電製品の普及や生活様式の変化等により「照明・動力等」等が増加し、1960年代以降増加したものの、LED照明や省エネルギー家電の普及等により、近年、減少傾向にある注4

 一方で、業務部門のエネルギー消費量は、「照明・動力等」についてOA化の影響などによりエネルギー消費量全体に占める割合が高い状態が続き、2019年度には約5割となっている。「冷房」は空調機器の普及により拡大したものの、普及が一巡し、エネルギー消費効率も上昇したことにより、横ばいで推移している。また、「暖房」は1965年度時点ではエネルギー消費全体の約5割を占めていたが、省エネルギー対策の進展等により、2019年度には約1割にとどまっている。

図表Ⅰ-2-1-2 エネルギー消費量の推移(家庭部門、業務部門)
図表Ⅰ-2-1-2 エネルギー消費量の推移(家庭部門、業務部門)

資料)一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「2020年度版エネルギー・経済統計要覧」(理工図書刊)より国土交通省作成

②今後の方向性

 民生部門で一層の省エネルギー化を進めるためには、住宅・建築物の断熱性強化や冷暖房効率の向上、照明などの機器の効率化を行うとともに、更なるエネルギー管理が必要である。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

(効率的なエネルギー消費に向けて)

 省エネルギー化に向けては、断熱性・気密性を向上させ、エネルギー消費の抑制を図る必要がある。熱が伝わりにくい高性能断熱材や複層ガラスなどを用いることで、冬は熱を外に逃がさず、夏は外部から熱が入ってこないことから、快適な空間を維持することができる。

 また、太陽光発電等の再生可能エネルギーを導入することで、創出した電力を利用することができるとともに、家庭用蓄電池を備えておけば発電した電気を蓄電することができる。電力を貯蔵することで、災害時など必要な際に利用が可能となり、エネルギーの自立度を高めることができる注5とともに、売電を行うことができる。

 住宅に関するエネルギーでは、HEMS(Home Energy Management System)注6を導入することにより、エネルギーの生産量、消費量の見える化が可能となり、照明や空調機器、給湯設備のエネルギー消費を抑え、効率的なエネルギー消費が可能となる。

 さらにIoT技術により、カメラ付きドアホンをインターネットと接続することによる、外出先での子どもや高齢者の見守りや、宅配事業者の対応が可能となることによる、不在時再配達の削減を図ることも可能となる。

 住宅・建築物における二酸化炭素排出量は、ライフスタイルの変化や省エネルギー技術の動向等も大きく関係することから、これらの動向を踏まえた対策を講じていくことが求められる。

図表Ⅰ-2-1-3 IoT技術を活用した住宅の例
図表Ⅰ-2-1-3 IoT技術を活用した住宅の例

資料)国土交通省 

(2)住まいの省エネルギー対策に向けた課題と方向性

①現状と課題

(省エネルギー基準)

 住宅の省エネルギー基準には、外皮基準(屋根や外壁などの断熱性能等に関する基準)、一次エネルギー消費量基準(住宅内で消費されるエネルギー量に関する基準)の2つの基準がある注7

 断熱材の使用等により外皮性能を上げる工夫を行うことで、冷暖房の効率的な使用を図ることができ、夏は涼しく冬は暖かい住まいが可能となる。また、エネルギー効率の良い空調設備や給湯器等により、一次エネルギー消費量を抑えた住まいが可能となる。

図表Ⅰ-2-1-4 住宅の省エネルギー基準
図表Ⅰ-2-1-4 住宅の省エネルギー基準

資料)国土交通省 

 また、住宅の省エネルギー基準は地域区分ごとに異なり、地域区分は市町村別にきめ細やかに定められている。例えば、北海道・東北地域では、求められる外皮性能の基準値が高く設定されている。

図表Ⅰ-2-1-5 住宅の省エネルギー基準における地域区分
図表Ⅰ-2-1-5 住宅の省エネルギー基準における地域区分

資料)一般社団法人日本サステナブル建築協会 

(住宅・建築物の省エネルギー基準の適合率)

 住宅・建築物の省エネルギー基準の適合率は、2019年度、非住宅建築物全体では98%、住宅では81%と8割を超えた。

図表Ⅰ-2-1-6 住宅・建築物の省エネルギー基準適合率の推移
図表Ⅰ-2-1-6 住宅・建築物の省エネルギー基準適合率の推移

資料)国土交通省 

②今後の方向性

 2021年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画等においては、現行の省エネルギー基準適合義務の対象外である住宅・小規模建築物(新築)の省エネルギー基準への適合を2025年度までに義務化することとしている注8

 2030年度以降に新築される住宅・建築物については、ZEH・ZEB注9基準の水準の省エネルギー性能が確保されることを目指す注10。さらに、2050年には住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指すこととしている。

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

 住まいの二酸化炭素排出量削減に向けて、省エネルギー性能・断熱性能の高い住宅の新築や既築住宅の断熱改修、省エネルギー型の設備の導入等により、暖房や冷房等に必要なエネルギー量を減少させることが重要である。また、断熱性能が高い住まいは、健康面でもメリットがある。

 例えば、住宅の断熱化による生活空間の温熱環境の改善が居住者の健康に与える影響を検証する調査・研究が実施されており、断熱改修後に起床時の血圧が有意に低下したことや、室温が18℃未満の住宅では18℃以上の住宅に住む人に比べてコレステロール値が基準値を超える人、心電図の異常所見がある人が有意に多いことを示す分析結果が得られている。

図表Ⅰ-2-1-7 住宅の断熱改善による健康への効果
図表Ⅰ-2-1-7 住宅の断熱改善による健康への効果

資料)一般社団法人日本サステナブル建築協会 

 また、断熱改修により寒暖差によるヒートショックや結露によるカビやダニの発生予防も期待される注11

 自治体独自の取組みにより、住まいの省エネルギー化に向けた社会実装が進展している地域もある。鳥取県では、県民の健康の維持・増進、省エネルギー化の推進及び二酸化炭素排出削減を図ることを目的として、戸建住宅を新築する際の県独自の省エネルギー基準を策定している。具体的には、住宅の断熱・気密性能が、省エネだけでなく血圧改善など健康にも効果があることから、「とっとり健康省エネ住宅」(ZEHを上回る断熱性能をもつ住宅であり、欧米の基準まで引き上げているもの)の普及促進を図っている。

図表Ⅰ-2-1-8 とっとり健康省エネ住宅性能基準
図表Ⅰ-2-1-8 とっとり健康省エネ住宅性能基準

資料)鳥取県

(3)ネットゼロエネルギーハウス・ビル(ZEH・ZEB)の普及に向けた課題と方向性

①現状と課題

(ゼッチ:ZEH、ゼブ:ZEB)

 住宅・建築物の脱炭素化に向けては、高断熱・高気密な住宅や建築物で高効率な設備を用いることにより省エネルギー化を図るとともに、住宅や建築物内で消費するエネルギーを創ることで、エネルギー収支ゼロを目指すことが重要である。

 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)とは、省エネルギー対策により省エネルギー基準から20%以上の一次エネルギー消費量を削減したうえで、再生可能エネルギー等の導入により、100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅である注12

図表Ⅰ-2-1-9 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)
図表Ⅰ-2-1-9 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)

資料)国土交通省

 ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)とは、省エネルギー対策により省エネルギー基準から、50%以上の一次エネルギー消費量を削減したうえで、再生可能エネルギー等の導入により、100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす建築物である注13

 ZEH住宅の実績を見てみると、2016年度の供給数約3.5万戸、2020年度の供給戸数は約6.3万戸となっており、着実に増加している。また、新築注文戸建住宅におけるZEHの割合は、ハウスメーカー注14に限れば約56%であるものの、全体では約24%にとどまっている。

図表Ⅰ-2-1-10 新築戸建てZEHの戸数の推移、ZEH化率の推移
図表Ⅰ-2-1-10 新築戸建てZEHの戸数の推移、ZEH化率の推移

(注)ハウスメーカーとは、全国各地に営業拠点を有し規格住宅を提供するZEHビルダー・プランナーをいう
資料)一般社団法人 環境共創イニシアチブ「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2021」より国土交通省作成

(太陽光発電設備等の再生可能エネルギー導入に向けた課題)

 2050年カーボンニュートラル実現に向けて、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱等の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である。2019年度までに住宅用太陽光発電は累計約267万6,000件に導入されている。

図表Ⅰ-2-1-11 住宅用太陽光発電の導入件数推移
図表Ⅰ-2-1-11 住宅用太陽光発電の導入件数推移

資料)経済産業省「第62回調達価格等算定委員会」(一般社団法人 太陽光発電協会)より国土交通省作成

②今後の方向性

 2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画等においては、2050年において導入が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備等の再生可能エネルギーが導入されていることが一般的となることを、これに至る2030年において新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目標としている。

 これらの目標達成に向けて、関係省庁においてあらゆる支援措置を検討していくこととしている。例えば、政府が保有する建築物及び土地について再生可能エネルギーの最大限の導入拡大を率先するとともに、ZEH・ZEB の普及拡大や既存ストック対策の充実等を進めることにより、太陽光発電設備導入を進めていく。また、中小工務店等では省エネルギー技術が充分に浸透していない場合もあることから、技術力向上や人材育成等による省エネルギー住宅の生産体制の整備・強化を図る注15

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

 ニアリー・ゼッチ・マンション(Nearly ZEH-M)の取組み事例については、第Ⅰ部第3章第1節参照。

(4)住宅のライフサイクルを通じた脱炭素に向けた課題と方向性

①現状と課題

(住宅のライフサイクルアセスメント)

 住宅建築後の運用時の二酸化炭素排出量削減とともに、新築時・改修時等の二酸化炭素排出量削減に取り組むことが重要である。

 住宅の新築から廃棄までの二酸化炭素排出量を各段階で評価する「ライフサイクルアセスメント」によれば、運用時(居住時)の二酸化炭素排出量はライフサイクル全体の約4分の3(75%)を占めており、前述((2)(3))の通り、住まいの省エネルギー対策に取り組むことが重要である。

 一方で、運用時以外の排出量も約4分の1(25%)を占めていることから、例えば、新築時等に地域材を使用することや、環境性能に優れた住宅・建築物の長寿命化を図ることなど、住宅のライフサイクル全体を考慮した対応が求められる注16

図表Ⅰ-2-1-12 ライフサイクルアセスメントによる二酸化炭素排出評価
図表Ⅰ-2-1-12 ライフサイクルアセスメントによる二酸化炭素排出評価

(注)
1 運用は標準的な値、運用以外はLCCM住宅による値  
2 延床面積145.68㎡、供用期間60年での試算
資料)国土交通省

(住宅の寿命)

 現状、我が国の滅失住宅の平均築後経過年数(いわゆる住宅の寿命)は、約38年とされており、米国の約56年や英国の約79年と比較すると短い。

②今後の方向性

(ライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)住宅の導入促進)

 住宅における脱炭素化を推進するため、先導的な取組みであるライフサイクルカーボンマイナス住宅(LCCM住宅)の普及が必要である。

 LCCM住宅とは、建設時、運用時、廃棄時において可能な限り二酸化炭素排出削減に取り組み、さらに太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出により、住宅建設時の二酸化炭素排出量も含め、ライフサイクルを通じての二酸化炭素排出量をマイナスにする住宅である注17

 今後、2030年度以降に新築される住宅についてZEH基準の水準の省エネルギー性能を確保していくため、LCCM住宅のストックを蓄積し、住宅市場の脱炭素化をけん引していくことが必要である。このため、国土交通省としてはLCCM住宅整備推進事業による支援措置により、戸建て住宅や集合住宅を対象とした、LCCM住宅の更なる普及を図っていく。

 また、LCCM住宅やZEHの断熱性能の向上や燃料電池の普及等により、再生可能エネルギーの利用を促進し、関連市場の拡大を通じた経済成長の実現を図る。

図表Ⅰ-2-1-13 減失住宅の平均築後経過年数の国際比較
図表Ⅰ-2-1-13 減失住宅の平均築後経過年数の国際比較

(注)滅失住宅について、滅失までの期間を推計したもの
資料) 国土交通省 

図表Ⅰ-2-1-14 ライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)住宅
図表Ⅰ-2-1-14 ライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)住宅

資料)国土交通省

図表Ⅰ-2-1-15 LCCM住宅の例(上)、LCCM・ZEH・一般住宅の累積二酸化炭素排出量(下)
図表Ⅰ-2-1-15 LCCM住宅の例(上)、LCCM・ZEH・一般住宅の累積二酸化炭素排出量(下)

資料)
上:国立研究開発法人建築研究所、国土技術政策総合研究所、一般社団法人日本サステナブル建築協会「ライフサイクルカーボンマイナス住宅」より国土交通省作成
下:一般社団法人ZEH推進協議会より国土交通省作成

(長期にわたり使用可能な住宅や地域の気候風土に適応した木造住宅の普及促進)

 住宅の長寿命化を図り、脱炭素社会の実現にも貢献するため、多世代にわたり引き継がれる良質な住宅の普及・定着を図ることが重要である。住宅の構造や設備について、一定以上の耐久性や維持管理のしやすさ等の要件を備えた長期優良住宅注18の普及促進を図っている。

図表Ⅰ-2-1-16 長期優良住宅の認定基準
図表Ⅰ-2-1-16 長期優良住宅の認定基準

資料)国土交通省

 我が国の伝統的な工法で丁寧に建てられた木造住宅の中には、その後も大事に手入れされ、極めて長い期間にわたって使用されてきたものもある。通風の確保など地域の気候・風土・文化を踏まえた工夫の活用により優れた居住環境の確保を図る伝統的構法による住まいづくりの重要性に配慮し、地域の気候及び風土に応じた住宅については、国が定める要件、又は所管行政庁において各地域の自然的社会的条件を踏まえ定めた要件に適合する場合は、省エネ基準を合理化している。

図表Ⅰ-2-1-17 通風や日射を考慮した木造住宅の例
図表Ⅰ-2-1-17 通風や日射を考慮した木造住宅の例

資料)住友林業株式会社

 伝統的な木造住宅の普及や工法の継承を進めていくとともに、耐久性、耐震性に優れるなど、現在の住宅に要求される性能を満たし、長期にわたり使用可能な木造住宅の開発・普及に取り組んでいくことも重要である。

(炭素貯蔵効果の高い木材の利用拡大)

 木材は成長時に二酸化炭素を吸収することから、住宅・建築物の素材として使われることにより吸収源対策として効果がある。また、新築時における二酸化炭素排出量削減のため、木材の輸送時の排出抑制の観点では地域材の利用が効果的であると考えられる。

 我が国の木材需要における住宅・建築物分野が占める割合は全体の約4割となっており、吸収源対策としての木材利用の拡大に向けた取組みが必要である注19 。このため、国や地方自治体が建築する公共建築物において、率先して、木造化・木質化を推進する。

 また、民間建築物においては、新築建築物に占める木造建築物の割合について、低層住宅では約8割が木造となっている一方で、低層非住宅は約2割、4階建以上については住宅、非住宅ともに1割未満となっている。このため、今後は中高層住宅及び非住宅分野への木材利用を拡大していく必要がある。

図表Ⅰ-2-1-18 新築建築物に占める木造建築物の割合
図表Ⅰ-2-1-18 新築建築物に占める木造建築物の割合

(注)
1 新築のみを対象とし、増改築は含まない  
2 住宅には「居住専用建築物」「居住専用準住宅」「居住産業併用建築物」を含む
資料)国土交通省 

 これらを通じた住宅・建築物の木造化・木質化の取組みにより、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用に寄与するとともに、吸収源として木材利用の拡大に向けて取り組むことが重要である。

図表Ⅰ-2-1-19 中高層住宅及び非住宅分野への木材利用イメージ
図表Ⅰ-2-1-19 中高層住宅及び非住宅分野への木材利用イメージ

資料)国土交通省

③技術革新・社会実装に向けた足元の動き

 木造化などの建築技術・工夫等による低炭素化等に係るリーディングプロジェクトを促進し、その建築技術・工夫等に関する先導的な取組みについて広く普及を図っていくことにより、技術革新・社会実装に向けて取り組んでいくことが重要である。

 例えばCLT(Cross Laminated Timber)注20などの新しい木質建材の利用が進展している。CLTは耐震性が高い特徴があり、また、鉄筋コンクリートと比較すると建物の重量が軽くなり、基礎工事の簡略化が図れるメリットもある。

  1. 注1 ここでの家庭部門のエネルギー消費は自家用自動車等を除く家庭におけるエネルギー消費を対象としている。
  2. 注2 ここでの業務部門のエネルギー消費は事務所・ビル、ホテル・旅館等のエネルギー消費を対象としている。
  3. 注3 2020年度の二酸化炭素排出量については、第Ⅰ部第1章第1節3参照。
  4. 注4 第Ⅰ部第1章第1節3で記述したとおり、2020年度の家庭部門の二酸化炭素排出量は増加している。
  5. 注5 【関連リンク】なるほど省エネ住宅
    出典:一般社団法人 住宅生産団体連合会
    URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou_assets/img/library/naruhodosyouenejuutaku.pdf
  6. 注6 HEMSとはHome Energy Management System(ホームエネルギーマネジメントシステム)のことであり、家庭でのエネルギー使用状況の把握や、エネルギー使用の最適化を図るための仕組み。
  7. 注7 省エネルギー基準とは、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律で定められた「建築物エネルギー消費性能基準」を指す。建築物が備えるべき省エネルギー性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準であり、断熱性能等に関する「外皮基準」及びエネルギー消費に関する「一次エネルギー消費量基準」からなる。住宅部分については「外皮基準」「一次エネルギー消費量基準」の双方が、非住宅部分については「一次エネルギー消費量基準」のみが適用。
  8. 注8 住宅・建築物の省エネ性能の向上に関する具体的な取組みは、第Ⅱ部第8章第1節2(7)参照。
  9. 注9 ZEH・ZEBについては、第Ⅰ部第2章第1節1(3)参照。
  10. 注10 住宅について、強化外皮基準への適合及び再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネルギー基準値から20%削減。建築物について、再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネルギー基準値から用途に応じて30%または40%(小規模建物については20%)削減。
  11. 注11 【関連リンク】なるほど省エネ住宅
    出典:一般社団法人 住宅生産団体連合会
    URL:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou_assets/img/library/naruhodosyouenejuutaku.pdf
  12. 注12 ZEHは、省エネルギー対策により省エネルギー基準から20%以上の一次エネルギー消費量を削減したうえで、再生可能エネルギー等の導入により、
    ①100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅を「ZEH」
    ②75%以上100%未満の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅を「Nearly ZEH」
    ③再生可能エネルギー等を除き、20%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅を「ZEH Oriented」と定義している。また集合住宅についてはゼッチ・マンション(ZEH-M)の定義が行われている。
  13. 注13 ZEBは、省エネルギー対策により省エネルギー基準から50%以上の一次エネルギー消費量を削減したうえで、再生可能エネルギー等の導入により、
    ①100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす建築物を「ZEB」
    ②75%以上100%未満の一次エネルギー消費量削減を満たす建築物を「Nearly ZEB」
    ③再生可能エネルギー等を除き、50%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす建築物を「ZEB Ready」
    ④延べ床面積が1万平米以上の建築物のうち、事務所や工場、学校など40%以上の一次エネルギー消費量削減、ホテル、病院、百貨店、集会所などで、30%以上の削減を満たし、かつ、省エネ効果が期待されている技術であるものの、建築物省エネ法に基づく省エネ計算プログラムにおいて現時点で評価されていない技術を導入している建築物を「ZEB Oriented」と定義している。
  14. 注14 全国各地に営業拠点を有し、規格住宅を提供しているZEHビルダー/プランナーをハウスメーカーとしている。
  15. 注15 住宅・建築物の省エネ性能の向上に関する具体的な取組みについては、第Ⅱ部第8章第1節2(7)参照。
  16. 注16 地域材を使用することで資材の輸送に関する二酸化炭素の排出量を抑制するとともに、長く使うことで、新築・廃棄処分回数を低減させることにより、住宅のライフサイクルコストが削減される。
  17. 注17 LCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅とは、使用段階の二酸化炭素排出量に加え資材製造や建設段階の二酸化炭素排出量の削減、長寿命化により、ライフサイクル全体(「建設」、「居住」、「修繕・更新・解体」の各段階)を通じた二酸化炭素排出量をマイナスにする住宅のこと(「建設」:新築段階で使う部材の製造・輸送、施工、「居住」:居住時のエネルギー・水消費、「修繕・更新・解体」:修繕・更新段階で使う部材の製造・輸送、および解体段階で発生する解体材の処理施設までの輸送)。
  18. 注18 長期優良住宅とは、長期優良住宅の普及の促進に関する法律に基づき、長期にわたり良好な状態で使用するための措置がその構造及び設備に講じられた優良な住宅のこと。長期優良住宅の建築および維持保全の計画を作成して所管行政庁に申請することで、基準に適合する場合には認定を受けることが可能。
  19. 注19 2020年の木材需要の割合は製材用材33%、合板用材12%、パルプ・チップ用材35%、燃料材17%、その他2%となっており、住宅・住宅建築物分野である製材用材及び合板用材の合計は木材需要全体の約4割となる。
  20. 注20 CLTとは、ひき板(ラミナ)を並べたあと、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料である。