
国土交通白書 2022
第9節 土地政策の推進
土地政策は、高度成長期からバブル期にかけては、地価高騰による住宅取得の困難化、社会資本整備への支障等の当時の社会的問題への対応を背景に、投機的取引の抑制等により地価対策を図ることが主眼であり、平成元年に制定された土地政策の基本理念を示す土地基本法(平成元年法律第84号)も、それに対応するものであった。しかしながら、同法制定後バブル崩壊、その後の長期にわたる地価の下落、グローバル化の進展など経済社会の構造変化等を経て、今日、人口減少、少子高齢化が進む中、相続件数の増加、土地の利用ニーズの低下と所有意識の希薄化が進行しており、不動産登記簿などの公簿情報等を参照しても所有者の全部又は一部が直ちに判明せず、又は判明しても所有者に連絡がつかず、円滑な土地利用や事業実施の支障となる土地、いわゆる所有者不明土地や、適正な利用・管理が行われず草木の繁茂や害虫の発生など周辺の地域に悪影響を与える土地の増加が懸念されている。
この課題に対し、政府は、平成30年に「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議(主宰:内閣官房長官)」を立ち上げ、関係省庁が一体となって取り組んできた。
平成30年には、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年法律第49号)(以下「所有者不明土地法」という。)が制定され、所有者不明土地の利用の円滑化を図るための仕組みとして、同法に規定された要件を満たす所有者不明土地について、公共的な目的のために利用することができる制度(地域福利増進事業)や、公共事業において所有者不明土地を収用する際に収用委員会の審理手続を省略する制度(土地収用法の特例手続)が創設された。また、所有者の探索を合理化するための仕組みとして、探索に必要な場合には、公的書類(固定資産課税台帳や地籍調査票等)を調査することができる制度等が創設された。
令和2年には、平成元年の制定時以来約30年ぶりに土地基本法が改正され、土地に関する基本理念として土地の適正な「管理」に関する土地所有者等の「責務」が規定されたほか、所有者不明土地の円滑な利用及び管理の確保に関する規定が追加された。また、改正土地基本法に基づき、土地政策の総合的な推進を図るための具体的施策の方向性を示す「土地基本方針」(令和2年5月26日閣議決定)を策定し、令和3年5月には、土地に関する施策の進捗、社会情勢の変化を踏まえた変更を行った。
令和3年には、所有者不明土地の発生予防・利用の円滑化を目的として、民事基本法制の総合的な見直しが行われた。相続登記等の申請を義務化することとされたほか、相続等により土地所有権を取得した者が一定の要件の下でその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が創設された。また、個々の所有者不明土地や管理不全土地について、裁判所が管理人を選任して管理を命ずることができる制度等が創設された。これらの施策は、令和5年4月から段階的に施行される。
このように、政府一丸となって所有者不明土地に対する取組を進めてきたところであるが、今後も引き続き所有者不明土地の更なる増加が見込まれ、その利用の促進を求める声や、管理がされていない所有者不明土地がもたらす悪影響を懸念する声が高まる中、「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」(令和3年6月7日所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議決定)において、制度見直しの内容を令和3年中目途でとりまとめ、令和4年通常国会に必要となる法案を提出することとされた。これを受け、国土審議会土地政策分科会企画部会において議論、検討を重ね、令和3年12月24日にはその内容を整理した「所有者不明土地法の見直しに向けた方向性のとりまとめ」が公表された。これを踏まえ、喫緊の課題である所有者不明土地の利用の円滑化の促進と管理の適正化を図るため、市町村をはじめとする関係者による対策のための手段を充実させる「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律案」(令和4年2月4日閣議決定)を令和4年通常国会に提出した。
さらに、地籍調査は、土地に関する基礎的情報(境界、面積、地目、所有者等)を調査し明確にすることで、災害後の迅速な復旧・復興やインフラ整備の円滑化等のほか、所有者不明土地等の発生抑制にも貢献するものであり、その推進は重要である。
令和2年には、地籍調査の促進を図るため、土地基本法とともに国土調査法(昭和26年法律第180号)等が改正され、この法改正により導入された土地所有者が不明な場合に筆界案を公告して行う調査、都市部において街区境界(官民境界)を先行して行う調査、山村部において航空機に搭載したレーザ機器等を活用して行う調査等、新たな調査手続・調査手法の活用促進等を盛り込んだ第7次国土調査事業十箇年計画(令和2年5月26日閣議決定)が策定された。
令和3年には、同計画に基づき、地籍調査を行う市町村等への財政支援のほか、調査事例の蓄積・横展開等による新たな調査手続・調査手法の普及の促進等に取り組み、市町村等が行う地籍調査の現場において、その活用が進展してきている。
【関連リンク】
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律案の概要
URL:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001462673.pdf