
国土交通白書 2022
第12節 公共工事の品質確保と担い手の確保・育成
建設業の働き方改革、生産性向上、災害時の緊急対応強化等を目的として、令和元年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(公共工事品確法)、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(入札契約適正化法)及び「建設業法」を改正する「新・担い手3法」が成立した。同改正を受け、同年10月には、「公共工事品確法」第9条に基づく「基本方針」及び入札契約適正化法第17条に基づく「適正化指針」の改正が閣議決定された。さらに、2年1月に「公共工事品確法」第7条に規定された「発注者の責務」を果たすため、発注関係事務を適切かつ効率的に運用することができるよう、同法第22条に基づき「発注関係事務の運用に関する指針(運用指針)」(公共工事の品質確保の促進に関する関係省庁連絡会議申合せ)が策定された。
国土交通省では、新・担い手3法の本格運用を受けて、市町村をはじめとするすべての公共工事の発注者が本指針等を踏まえた具体的な取組みを進めるよう求めている。
(1)発注者責務を果たすための取組み
国土交通省では、「適正化指針」や「運用指針」を踏まえた発注関係事務の適切な運用に向けて様々な取組みを行っている。また、各発注者においてこれらの指針を踏まえた発注関係事務が適切に実施されているかについて、毎年、「入札契約適正化法に基づく実態調査」等を行うとともに、その結果を取りまとめ、公表している。
①予定価格の適正な設定
公共工事の品質確保と担い手の育成・確保に必要な適正利潤の確保を図るため、予定価格の設定にあたっては、適切に作成された設計図書に基づき、賃上げの状況や資機材価格の高騰などを含む市場における労務・資材等の最新の実勢価格を反映するよう、様々な機会を通じて地方公共団体に対して働きかけを行っている。適正な積算に基づく設計書金額の一部を控除して予定価格とするいわゆる「歩切り」の根絶に向けては、令和2年度に5年ぶりとなる悉皆調査を実施したところ、歩切りを行っているおそれがある団体が複数あることが判明した。これらの団体に対し、直接是正の働きかけを行い、歩切りを行わないことを確認し、「歩切り根絶」を再度徹底した。また、公共建築工事積算基準とその運用に係る各種取組みをとりまとめた「営繕積算方式活用マニュアル」を令和3年4月に改訂するなど、積算に係る最新の各種基準・マニュアル類の整備・周知にも努めている。
②ダンピング対策
ダンピング受注は建設業の健全な発達を阻害することから、国土交通省では低入札価格調査制度及び最低制限価格制度をいずれも未導入の地方公共団体に対して、早急に導入に向けた検討を行うようあらゆる機会を通じて求めてきた。この結果、令和元年11月時点で95団体あった未導入団体は、3年10月時点で84団体まで減少した。また、地方公共団体に対して調査基準価格及び最低制限価格の見直しやその適切な実施によるダンピング対策の実効性の確保を要請するとともに、3年10月には、各市区町村のダンピング対策の取組状況を把握・公表する「見える化」等 により、ダンピング対策の取組みの適切な見直しを求めている。
③適切な設計変更
設計図書に施工条件を適切に明示するとともに、必要があると認められたときは、適切に設計図書を変更することとし、設計変更業務の円滑化を図るため、「設計変更ガイドライン」を策定し、地方公共団体に対しても策定を求めている。
④施工時期等の平準化
繰越明許費や国庫債務負担行為の活用により、やむを得ず年度内に工事の完了が困難となった際には翌年度にわたる工期設定等の取組みについて国土交通省の事業において実施するとともに、地方公共団体に対して地域の実情等に応じた支援を行っている。また、施工時期の平準化の取組みの意義についての周知や好事例の収集・周知、発注者ごとの施工時期の平準化の進捗・取組状況を把握・公表する「見える化」により、施工時期の平準化の促進を図っている。さらに、令和3年11月には、施工時期の平準化の促進に向けては議会の理解も不可欠であることから、市議会議長や町村議会議長に対して取組みの重要性などについて働きかけを行った。
⑤適正な工期設定
新・担い手3法では、適正な工期設定が発注者の責務とされるとともに、著しく短い工期での契約締結の禁止が新たに規定されている。国土交通省では、直轄工事において適正な工期を設定するための具体的かつ定量的な工期設定指針を策定している。また、令和2年7月には、中央建設業審議会において「工期に関する基準」が作成・勧告され、同基準においては、週休2日の確保等、適正な工期設定にあたって考慮すべき事項が記載されており、その周知に努めている。
⑥多様な入札契約方式の活用
「公共工事品確法」では、多様な入札契約方式の選択・活用、段階的選抜方式、技術提案・交渉方式、地域における社会資本の維持管理に資する方式(複数年契約、包括発注、共同受注による方式)等が規定されている。国土交通省では、事業の特性等に応じた入札契約方式を各発注者が選定できるよう、「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」を策定している。
(2)発注者間の連携・支援
国土交通省では、公共工事の品質確保等に資する各種取組みについて、「地域発注者協議会」、「国土交通省公共工事等発注機関連絡会」、「地方公共工事契約業務連絡協議会」や「都道府県公共工事契約連絡協議会」等を通じて、情報共有を実施し、発注者間の一層の連携に努めている。
(3)受発注者間の意思疎通の緊密化等
「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」等による公共工事の円滑な施工確保を図るため、地域の受発注者間の連携・意思疎通を促すとともに、都道府県公共工事契約連絡協議会等との更なる連携体制の強化を通じて、市町村等に対して直接入札制度の改善の働きかけを行っている。
