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国土交通白書 2022

第5章 心地よい生活空間の創生

第1節 豊かな住生活の実現
■1 住生活の安定の確保及び向上の促進

 令和3年3月に閣議決定した、3年度から12年度を計画期間とする住生活基本計画(全国計画)において、「社会環境の変化」の視点から1)「新たな日常」や DXの進展等に対応した新しい住まい方の実現、2)頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保、「居住者・コミュニティ」の視点から、3)子どもを産み育てやすい住まいの実現、4)多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり、5)住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備、「住宅ストック・産業」の視点から、6)脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成、7)空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進、8)居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展という8つの目標と基本的な施策を位置づけており、この計画に基づき、社会環境の大きな変化や人々の価値観の多様化に対応した豊かな住生活の実現に向けて、施策を推進している。

図表Ⅱ-5-1-1 新たな住生活基本計画
図表Ⅱ-5-1-1 新たな住生活基本計画

(1)目標と基本的施策

①「新たな日常」や DXの進展等に対応した新しい住まい方の実現

 働き方改革の進展やコロナ禍を契機として、多様な住まい方、新しい住まい方への関心が高まる中、地方、郊外、複数地域での居住など、国民の新たな生活観をかなえる居住の場の多様化を推進している。また、家族構成、生活状況、健康状況等に応じて住まいを柔軟に選択できるよう、既存住宅市場・賃貸住宅市場の整備を推進している。

 さらに、社会経済のDXの進展等を踏まえ、住宅分野においても、契約・取引プロセスのDXや生産・管理プロセスにおけるDXを推進している。

②頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保

 安全な住宅・住宅地の形成に向けて、ハザードマップの整備・周知をはじめとする災害リスク情報の提供、防災・まちづくりと連携し、ハード・ソフト組み合わせた住宅・住宅地の浸水対策の推進とともに、地震時等に著しく危険な密集市街地の解消、住宅・住宅地のレジリエンス機能の向上等に取り組んでいる。

 また、災害発生時には、今ある既存住宅ストックの活用を重視して被災者の住まいを早急に確保することとしている。

③子どもを産み育てやすい住まいの実現

 子どもを産み育てやすく良質な住宅が確保されるよう、子育てしやすく家事負担の軽減に資するリフォームの促進とともに、若年世帯・子育て世帯のニーズにあわせた住宅取得の推進、子どもの人数、生活状況等に応じた柔軟な住替えの推進に取り組んでいる。また、良質で長期に使用できる民間賃貸住宅ストックの形成と賃貸住宅市場の整備を推進している。

 あわせて、子育てしやすい居住環境の実現とまちづくりに向けて、住宅団地の建替えや再開発等における子育て支援施設・公園・緑地、コワーキングスペースの整備など、職住・職育が近接する環境の整備とともに、地域のまちづくり方針と調和したコンパクトシティの推進等を行っている。

④多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり

 高齢者、障害者等が健康で安心して暮らせる住まいの確保に向けて、バリアフリー性能や良好な温熱環境を備えた住宅の整備・リフォームを促進するとともに、サービス付き高齢者向け住宅等について、地方公共団体の適切な関与を通じての整備・情報開示を推進している。

 また、三世代同居や近居、身体・生活状況に応じた円滑な住替えが行われるとともに、家族やひとの支え合いで高齢者が健康で暮らし、多様な世代がつながり交流するミクストコミュニティの形成等を推進している。

⑤住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備

 住宅確保要配慮者(低額所得者、高齢者、障害者、外国人等)の住まいの確保に向けて、公営住宅の計画的な建替え等やストック改善を推進するとともに、住宅確保要配慮者の入居を拒まないセーフティネット登録住宅(令和3年度末時点で734,218戸登録)の活用を進め、地方公共団体のニーズに応じて家賃低廉化等の支援を行っている。

 また、住宅確保要配慮者の入居・生活支援として、地方公共団体の住宅・福祉・再犯防止関係部局、居住支援協議会(令和3年度末時点で114協議会(47都道府県、72市区町村)が設立)、居住支援法人(令和3年度末時点で511法人を指定)等が連携して、住宅確保要配慮者に対する入居時のマッチング・相談、入居中の見守り・緊急時対応や就労支援等を行っている。

 さらに、高齢者の居住を安定的に確保する観点から、賃借人の死亡時に残置物を処理できるよう、賃貸借契約の解除と残置物の処理を内容とする契約条項を策定し、普及啓発を進めている。

⑥脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成

(ア)既存住宅流通の活性化

 既存住宅流通の活性化に向けて、基礎的な性能や優良な性能が確保された既存住宅の情報が購入者に分かりやすく提示される仕組みを改善し、購入物件の安心感を高めていく。具体的には、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、住宅の構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備えた住宅(「長期優良住宅」)の普及を図ってきたところである(認定長期優良住宅のストック数(令和2年度末時点):124万戸)。また、既存住宅に関する瑕疵保険の充実、既存住宅状況調査や安心R住宅制度の普及、紛争処理体制の拡充等により、購入後の安心感を高めるための環境整備に取り組んでいる。

 こうした中、長期優良住宅の普及促進、既存住宅に係る紛争処理機能の強化等を通じ、優良なストックの形成と住宅の円滑な取引環境の整備を図ることにより、質の高い既存住宅の流通を促進するため、「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が令和3年5月28日に公布され、一部の規定を除き、令和3年9月30日及び令和4年2月20日に施行された。

 加えて、既存住宅流通の活性化には、良質な既存住宅が適正に評価される環境を整備することも重要である。そのため、宅地建物取引業者や不動産鑑定士の適正な評価手法の普及・定着を進め、建物の性能やリフォームの状況が評価に適切に反映されるよう取り組んでいる。また、住宅ストックの維持向上・評価・流通・金融等の仕組みを一体的に開発・普及等する取組みに対し支援を行っている。

(イ)長寿命化に向けた適切な維持管理・修繕、老朽化マンションの再生円滑化

 適切な維持管理・修繕がなされるよう、住宅の計画的な点検・修繕と履歴情報の保存を推進している。加えて、耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー性能等を向上させるリフォームや建替えに対して補助・税制面での支援を行い、安全・安心で良好な温熱環境を備えた良質な住宅ストックへの更新を図っている。

 また、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づく管理計画認定制度等により、マンション管理の適正化や長寿命化、再生の円滑化を推進している。

(ウ)世代をこえて既存住宅として取引されうるストックの形成

 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、長期優良住宅ストックやZEHストックの拡充等に取り組むとともに、住宅の省エネルギー基準の義務づけを含めた更なる対策の強化を検討することとしている。

 また、炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT等を活用した中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵を促進している。

⑦空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進

 平成27年5月に全面施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、空き家の所有者等による適切な管理の促進とともに、周辺の居住環境に悪影響を及ぼす管理不全空き家の除却等や、特定空家等に係る対策の強化を進めている。また、立地・管理状況の良好な空き家の多様な利活用を推進している。

⑧居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展

 居住者の利便性や豊かさを向上させるために欠かせない住生活産業については、その担い手の確保・育成を図るとともに、更なる成長に向けて新技術の開発や新分野への進出等による生産性向上や海外展開しやすい環境の整備に取り組んでいる。

(2)施策の総合的かつ計画的な推進

①住宅金融

 消費者が、市場を通じて適切に住宅を選択・確保するためには、金利や家賃等に関する理解を深め、短期・変動型や長期・固定型といった多様な住宅ローンが安定的に供給されることが重要である。

 民間金融機関による相対的に低利な長期・固定金利住宅ローンの供給を支援するため、独立行政法人住宅金融支援機構では証券化支援業務(フラット35)を行っている。証券化支援業務の対象となる住宅については、耐久性等の技術基準を定め、物件検査を行うことで住宅の質の確保を図るとともに、耐震性、省エネルギー性、バリアフリー性及び耐久性・可変性の4つの性能のうち、いずれかの基準を満たした住宅の取得に係る当初5年間(長期優良住宅等については当初10年間)の融資金利を引き下げるフラット35Sを実施している。

 また、同機構は、高齢者が安心して暮らすことができる住まいを確保するため、住宅融資保険を活用したリバースモーゲージ注1型住宅ローンの供給の支援(リ・バース60)を行っている。

さらに、災害復興住宅融資やサービス付き高齢者向け賃貸住宅融資等、政策的に重要でかつ民間金融機関では対応が困難な分野について、直接融資業務を行っている。

②住宅税制

 令和4年度税制改正において、住宅ローン減税については、適用期限を4年間延長した上で、控除率を0.7%、控除期間を原則13年として子育て世帯等中間層への支援を充実させるとともに、既存住宅を含めた借入限度額の上乗せにより環境性能等の優れた住宅への誘導機能を強化した。住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置については、令和4年1月から5年12月末までに贈与を受けた場合に最大1,000万円の非課税限度額を措置した。新築住宅に係る固定資産税の減額措置については、適用期限を2年間延長した上で、土砂災害特別警戒区域等の区域内で、都市再生特別措置法に基づく市町村長による適正な立地を促すための勧告に従わないで建設された一定の住宅を適用対象から除外した。

  1. 注1 所有する住宅及び土地を担保に融資を受け、毎月利息のみを支払い、利用者(高齢者等)の死亡等で契約が終了したときに、担保不動産の処分等によって元金を一括して返済する金融商品。住宅金融支援機構の住宅融資保険制度を活用する場合は、住宅の建設・購入等に関する融資に限られる。