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国土交通白書 2022

第3節 産業の活性化

■8 不動産業の動向と施策

(1)不動産業の動向

 不動産業は、全産業の売上高の3.3%、法人数の12.4%(令和2年度)を占める重要な産業の1つである。令和4年地価公示(令和4年1月1日時点)によると、全国の地価動向は、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年ぶりに上昇に転じた。景況感の改善を背景に、住宅地では、低金利環境の継続、住宅取得支援施策等による下支えの効果もあり、住宅需要は回復し、地価は上昇に転じており、商業地では、都心近郊部において、店舗やマンション用地に対する需要が高まり、上昇に転じた地点が多く見られる。既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)における令和3年度の成約件数が18.6万件(前年度比0.8%減)となった。

(2)不動産業の現状

 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、令和2年度末において127,215業者となっている。国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、2年度の監督処分件数は161件(免許取消122件、業務停止19件、指示20件)となっている。

 また、マンションの適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業者数は、令和2年度末において1,957業者となっている。マンション管理業者に対しては、不正行為の未然防止等を図る観点から、立入検査を実施するとともに、必要な指導監督に努めている。

 さらに、「住宅宿泊事業法」に基づき、住宅宿泊管理業を営む者の登録業務を推進したほか、住宅宿泊管理業者に関係法令等の遵守徹底を求めるなど、同事業の適正な運営の確保に努めている。

 加えて、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」に基づき、マスターリース契約を巡るトラブルの未然防止を図るため、マスターリース契約のルールについて、建設・不動産などの関係業界や賃貸住宅のオーナーの方々への周知を徹底するとともに、賃貸住宅の適正な管理を図るため、令和3年6月に施行された賃貸住宅管理業登録制度について、適切な運用を通じて賃貸住宅管理業の適正な運営の確保に努めている。

(3)市場の活性化のための環境整備

①不動産投資市場の現状

 我が国における不動産の資産額は、令和2年末現在で約2,838兆円となっている注8

 国土交通省では、令和12年頃にリート等注9の資産総額を約40兆円にするという目標を新たに設定したところ、不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、令和4年3月末現在、61銘柄が東京証券取引所に上場されており、同年3月末現在で対象不動産の総額は約21.5兆円、私募リートと不動産特定共同事業と併せて約26.9兆円注10となっている。

 Jリート市場全体の値動きを示す東証REIT指数は、令和2年11月から上昇傾向であり、令和3年6月には2,100ポイント台まで回復したが、米金利上昇への警戒感や新型コロナウイルス感染症の再拡大等による投資家心理の悪化やロシアによるウクライナ侵略が影響し、令和4年2月末には1,800ポイント台まで下落した。そこからウクライナ情勢についての改善期待や米金融政策に係る警戒感の後退から、同年3月末には2,000ポイント台まで回復した。

 また、Jリートにおける令和3年の1年間における資産取得額は、約1.6兆円となった。

②不動産特定共同事業の推進

 不動産特定共同事業の意義・活用のメリットや好事例、成功のポイントをまとめた「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」を作成・周知した。

 また、不動産特定共同事業等の不動産証券化を活用したモデル事業の支援等、民間の資金・アイデアを活用した老朽・遊休不動産の再生の推進に向けた取組みを実施した。

③ESG投資等による良好な不動産の形成促進

 我が国不動産へのESG投資を促進するため、不動産のE(環境課題)分野についてTCFD対応ガイダンスの周知を行うとともに、S(社会課題)分野における評価項目等を検討する有識者会議を開催し、中間とりまとめを行った。

 また、環境不動産等の良質な不動産の形成を促進するため、耐震・環境不動産形成促進事業においては、令和3年度には約100億円の出資を決定した。

④不動産に係る情報の環境整備

 国土交通省では、不動産市場の透明化、不動産取引の円滑化・活性化等を図るため、以下の通り、不動産に係る情報を公表している。

図表Ⅱ-6-3-13 土地総合情報システム
図表Ⅱ-6-3-13 土地総合情報システム

(ア)不動産取引価格情報

 全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、国土交通省ホームページ(土地総合情報システム)で、取引された不動産の所在、面積、価格等を四半期ごとに公表している(令和4年3月末現在の提供件数は、約457万件)。

(イ)不動産価格指数

 IMF等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、不動産価格指数(商業用不動産・試験運用)を四半期毎に公表している。即時的な動向把握を可能とするため、令和2年6月より、季節調整を加えた指数の公表を開始した。

(ウ)既存住宅販売量指数

 令和2年4月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記個数をもとに、個人が購入した既存住宅の販売量に係る動向を指数化した「既存住宅販売量指数」の公表(試験運用)を開始した。

(エ)法人取引量指数

 令和4年3月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記件数をもとに、法人が購入した既存建物の取引量に係る動向を指数化した「法人取引量指数」の公表(試験運用)を開始した。

⑤安心・安全な不動産取引環境の整備

 既存住宅の流通促進を図るため、「安心R住宅」制度の運用や、インスペクション(建物状況調査等)の活用促進など、消費者が安心して既存住宅を取引できる市場環境整備の推進を図っている。さらに、地方公共団体が把握・提供している空き家・空き地の情報について、横断的に簡単に検索することを可能とする「全国版空き家・空き地バンク」の活用促進を通じて、空き家等に係るマッチング機能の強化を図っている。加えて、不動産売買取引におけるオンラインによる重要事項説明の本格運用を開始するとともに、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により改正される宅地建物取引業法の令和4年5月までの施行に向け、書面の電磁的方法による交付に係る社会実験を引き続き実施し、オンラインでの不動産取引実現に向けた環境整備を推進した。

⑥土地税制の活用

 景気回復に万全を期すため、土地に係る固定資産税及び都市計画税の負担調整措置について、激変緩和の観点から、令和4年度に限り、商業地等における課税標準額の上昇幅を評価額の2.5%(現行:5%)とする。

 このほか、所有者不明土地法に基づく地域福利増進事業に係る特例措置の対象事業等の拡充や、工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置の適用期間の延長といった措置を講じた。

⑦不動産市場を支える制度インフラの整備

 不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対し、法令及び不動産鑑定評価基準の遵守状況を検査する鑑定評価モニタリングを実施した。また、不動産鑑定評価基準等について、社会ニーズや環境の変化に的確に対応していくための検討を実施した。

  1. 注8 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
  2. 注9 Jリート、私募リート、不動産特定共同事業
  3. 注10 不動産特定共同事業については、令和2年度末時点の数値を使用