
国土交通白書 2022
第5節 危機管理・安全保障対策
(1)テロ対策の推進
テロの未然防止措置として、原子力発電所や石油コンビナート等の重要インフラ施設に対して、巡視船艇・航空機による監視警戒を行っているほか、旅客ターミナル、フェリー等のいわゆるソフトターゲットにも重点を置いた警戒を実施している。

ソフトターゲットに対するテロ対策は、それら施設の運営者等の事業者と連携して未然防止策を推進することが不可欠である。このため海上保安庁では、平成29年度から海事・港湾業界団体と関係機関が参画する「海上・臨海部テロ対策協議会」を定期的に開催し、旅客船を使用した実動訓練を実施するなど、官民一体となったテロ対策を推進してきた。
また、新たなテロの脅威として、ドローンを使用したテロの発生も懸念されていることから、関係機関と連携して不審なドローン飛行に関する情報を把握するとともに、ドローン対策資機材を活用するなど複合的な対策を講じている。
令和3年7月から9月にかけて開催された「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」では、選手村や競技会場等の多くが臨海部に位置するほか、いくつかの競技が海上で実施されたため、全国から勢力を集結させ、過去最大規模の体制でこの海上警備に臨んだ。今後も、大阪・関西万博等大規模行事を見据え、引き続き官民連携のうえテロ対策を推進していく。
(2)不審船・工作船対策の推進
不審船・工作船は、我が国領域内における重大凶悪な犯罪に関与している疑いがあり、その目的や活動内容を明らかにするため、確実に停船させ、立入検査を実施し、犯罪がある場合は適切に犯罪捜査を行う必要がある。このため、不審船・工作船への対応は、関係省庁と連携しつつ、警察機関である海上保安庁が第一に対処することとしている。
海上保安庁では、各種訓練を実施するとともに、関係機関等との情報交換を緊密に行うことにより、不審船・工作船の早期発見及び対応能力の維持・向上に努めている。
(3)海上犯罪対策の推進
最近の海上犯罪の傾向として、国内密漁事犯では、密漁者と買受業者が手を組んだ組織的な形態で行われる事犯や、暴力団が資金源として関与する事犯などが見受けられるほか、海上環境事犯では、処理費用の支払いを逃れるために廃棄物を海上に不法投棄する等の事犯も発生している。また、外国漁船による違法操業事犯でも取締りを逃れるために、夜陰に乗じて違法操業を行うものなどが発生している。違法薬物の密輸事犯では、一度に大量の覚醒剤を海上コンテナ貨物に隠匿して密輸する事件が相次いでおり、密航事犯では、貨物船、訪日クルーズ船を利用した数名規模の不法上陸やブローカーが関与する事件などが発生している。このような各種海上犯罪については、その様態は悪質・巧妙化しており、依然として予断を許さない状況にあり、海上保安庁では、巡視船艇・航空機を効率的かつ効果的に運用することで監視・取締りや犯罪情報の収集・分析、立入検査を強化するとともに、国内外の関係機関との情報交換等、効果的な対策を講じ、厳正かつ的確な海上犯罪対策に努めている。