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国土交通白書 2022

第2節 国際交渉・連携等の推進

■2 国際機関等への貢献と戦略的活用

(1)アジア太平洋経済協力(APEC)

 APECは、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、経済・技術協力等の活動を行う経済協力の枠組みであり、国土交通省では、APECの交通・観光分野に係る大臣会合及び作業部会に積極的に取り組んでいる。

 交通分野では、地域内のモノと人の流れを円滑化し貿易と投資を支えるべく交通大臣会合が開催されている。

 平成29年10月にパプアニューギニアで開催された第10回APEC交通大臣会合では、強靱的且つ持続可能な交通やイノベーションを通じた地域連結性をテーマとした議論が行われ、我が国からは、「インフラプロジェクトにおけるPPPの促進」のテーマでプレゼンテーションを行い、これらの議論が共同大臣宣言として取りまとめられた。

 また、APECの交通分野を取り扱う作業部会「APEC交通ワーキンググループ」については、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から対面での開催が見送られており、令和2年に第49回、3年に第50回がオンラインにて開催され、APEC域内の交通分野における強靭性・接続性、また、コロナからのより良い回復等について議論された。

 国内では、平成31年3月に開催した「APEC質の高いインフラ東京会議」における議論を踏まえ、APEC加盟国・地域における「質の高いインフラ」及びスマートシティの更なる理解の醸成や国際的スタンダード化の推進を図るため、令和3年度にAPEC加盟国・地域のインフラ所管省庁担当者を招聘し、「APEC質の高いインフラによるスマートシティ推進会議」を開催した。

(2)東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力

 国土交通省は、ASEANにおける「質の高い交通」をさらに推進するため、平成15年に創設された日本とASEANの交通分野の協力枠組みである「日ASEAN交通連携」の下、道路交通安全に関する共同調査、港湾技術に関する共同研究、マラッカ・シンガポール海峡における水路再測量・海図整備、航空セキュリティ向上の取組み等、陸上、海上、航空にわたる様々な協力プロジェクトを実施している。これらのプロジェクトの進捗状況を確認し、今後の方向性、新たなプロジェクトについて議論するため、「日ASEAN交通大臣会合」等の会合が毎年開催されている。令和3年11月には、「第19回日ASEAN交通大臣会合」がテレビ会議で開催され、我が国からは中山国土交通副大臣が出席した。本会合においては、「日ASEAN交通連携」の具体的実施計画である「日ASEAN交通連携ワークプラン2021-2022」とともに、新規協力プロジェクトとして「ビッグデータの活用によるモビリティの向上」が承認された。さらに、これまでのプロジェクトの成果物として、「過積載車両対策のためのICTソリューション実証実験報告書」と「日ASEAN コールドチェーン物流認証審査ガイドライン」の2つが承認された。また、本会合に引き続き日本を含むASEAN対話国等(米国、中国等)及び協力機関を含めた特別会合が開催され、主にASEAN地域における交通・物流のデジタル化の促進をテーマとして意見交換を行った。

 また、国土交通省では、ASEAN各国のスマートシティ実現に向けたプラットフォームである「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)」に対して関係府省とも連携して協力するため、令和3年10月、「第3回日ASEANスマートシティ・ネットワーク ハイレベル会合」を愛知県にて、オンラインとのハイブリッド形式で開催した。同会合において、我が国によるASEAN地域に対するスマートシティ海外展開に関する支援策- Smart City supported by Japan ASEAN Mutual Partnership -(Smart JAMP)の取組みなどが紹介され、ASEANでのスマートシティ実現に向けて、日本とASEAN各国が引き続き協力をしていくことなどを確認した。

(3)経済協力開発機構(OECD)

 国土交通省では、OECDの活動のうち、国際交通フォーラム(ITF)、造船部会(WP6)、地域開発政策委員会(RDPC)、開発センター(DEV)、観光委員会等における議論に参画している。

 ITFは、加盟64ヵ国が全交通モードを対象に交通政策に関する議論・研究を行っており、そのハイライトとして、各国の交通担当大臣が著名な有識者・経済人を交えてハイレベルな議論を行うITFサミットを年に1回開催している。「持続可能な発展のための交通イノベーション」をテーマとして令和3年5月に開催されたサミットには、我が国からは鳩山国土交通大臣政務官が首席代表として出席した。サミットでは、持続可能性の確保が鍵となるコロナ禍における交通分野のイノベーションについて議論が行われ、その重要性を確認する大臣宣言が採択された。

 また、ITFの調査研究部門である交通研究委員会(TRC)では、各国の学識経験者や実務者が様々な政策課題について調査・研究を行っている。例えば、「地方のモビリティ改善のためのイノベーション」作業部会では、多くの日本の専門家が知見を共有し、報告書の作成に貢献した。

 WP6は、造船に関する唯一の多国間フォーラムとして、国際造船市場に関する政策協調のための重要な役割を担っており、造船に関する公的支援の適正化や透明性確保、輸出信用等に関する議論を行っている。令和3年11月の第133回WP6では、従来から実施している各国の造船政策のレビューに加えて、造船需給予測及び船価モニタリングの実施に向けた具体的な作業を進めたほか、我が国が提案した各国公的支援措置の通報制度の強化に向け運用方法等について議論していくことを合意した。引き続き、このような造船市場に関する共通認識の醸成や、WP6加盟国間における相互監視機能の強化に向けた取組みを推進し、公正な競争条件の確保に努める。

 RDPCでは、国土・地域政策等に関する各加盟国の政策レビューや、土地利用のガバナンスに関する調査等に積極的に取り組んでいる。特に令和3年度より、国土交通省として、東南アジアでの都市インフラファイナンス調査と、「スマートシティと包括的成長に関するOECDプログラム」の一環としてのスマートシティのデータガバナンスに関する調査にOECDと共同で取り組んでいる。

 DEVは、開発にかかる様々な問題・経済政策に関する調査・研究、先進国、新興国及び途上国による対話やセミナーを通じた知見・経験の共有・普及、政策オプションの提供等を行う機関であり、今後の開発に関する議論を行うとともに、セミナー等により質の高いインフラの途上国への普及・実施についても取り組んでいる。令和3年11月には、政策対話の場において、質の高いインフラに資する能力開発等について議論が行われた。

 観光委員会では、各国の観光関連政策のレビューや、観光統計データの整備及び分析等を行っている。我が国は同委員会の副議長国として活動しており、同委員会と積極的に連携している。令和3年には、加盟国における観光産業のデジタル化に向けた労働力対応の課題や、グリーンツーリズムの取組み等に関するレポート作成の他、観光に関する統計・知見・施策を議論するグローバルフォーラムを開催、我が国も関連する施策等を共有した。

(4)国際連合(UN)

①国際海事機関(IMO)

 IMOは、船舶の安全・環境等に関する国際ルールを定めている国連の専門機関である。我が国は、世界の主要海運・造船国として同機関の活動に積極的に参加しており、環境関係の条約を採択する委員会の議長は日本人が務めている。

 特に、世界的に関心が高まっている気候変動対策を海運分野で強力に進めるべく、我が国は国際枠組みの整備を牽引している。令和3年度には、我が国主導でIMOに提案していた就航済み船舶への新たなCO2規制が採択された。さらに、「国際海運2050年カーボンニュートラル」を新たな目標として掲げることを、米国、英国等と共同でIMOに提案した。

 令和3年度には、我が国独自の衛星測位システム「みちびき」が、船舶で国際的に利用できる衛星航法システムとして、IMOで承認された。また、「全世界的な海上遭難・安全システム(GMDSS)注1」について、我が国の提案を反映した条約の改正案が承認された他、我が国がその策定に貢献した燃料電池船の安全要件に関するガイドライン案が最終化されるなど、IMOにおける安全に関する国際ルール作りに貢献した。

②国際民間航空機関(ICAO)

 ICAOは、国際民間航空の安全かつ秩序ある発達及び国際航空運送業務の健全かつ経済的な運営に向け、一定のルール等を定めている国連の専門機関の1つである。我が国は加盟国中第3位(令和3年)の分担金を負担し、また、第1カテゴリー(航空輸送において最も重要な国)の理事国として、ICAOの諸活動に積極的に参加し、国際民間航空の発展に寄与している。

③国連人間居住計画(UN-Habitat)

 UN-Habitatは、人間居住問題を専門に扱う国連の基金・計画の一つである。我が国は、設立以来の理事国としてUN-Habitatの諸活動に積極的に参加し、我が国の国土・地域・居住環境改善分野での経験、知見を活かした協力を通じ、世界、特にアジアでの人口爆発、急激な都市化に伴う人間居住問題の改善に貢献している。

 令和3年度は、UN-Habitat福岡本部(アジア太平洋担当)が令和3年10月に福岡市と共同で開催した第13回アジア太平洋都市サミット「特別版」(オンライン開催)に参加し、「日本とアジアにおける国土の長期展望」をテーマに講演を行うなど持続可能な都市化のための世界共通の目標である「ニュー・アーバン・アジェンダ」の達成に向け、「一極集中の是正を目ざした国土・地域の長期展望」を示すとともに、地方中核都市の重要性を述べた「多様な主体の参加による地方中核都市の戦略的な長期展望」を世界に発信した。

④国連における水と防災に関する取組み

 令和2年7月の国連の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラムにおいて、赤羽国土交通大臣は日本政府を代表し、流域のあらゆる関係者が協働し治水を進める「流域治水」や新型コロナウイルス感染症禍における水災害リスク低減を通じ、SDGsの達成に貢献していくことをビデオスピーチを通じ発信した。3年3月には、「SDGs水関連目標の実施に関する国連ハイレベル会議」において、赤羽国土交通大臣は水・衛生目標であるSDG6に加え、災害被害の削減を目指すSDG ターゲット11.5を重点的にフォローアップするために必要な進捗管理に貢献していくことをビデオメッセージを通じ発信した。また、「水と災害ハイレベルパネル」の第15・16回会合に参加し、新型コロナウイルス感染症禍での水関連災害に関する国際社会の取組みを議論した。

⑤国連における地理空間情報に関する取組み

 国土地理院は、国連経済社会理事会に設置されている「地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会(UN-GGIM)」に防災WG共同議長として、また、UN-GGIMの地域委員会の1つである「国連地球規模の地理空間情報管理に関するアジア太平洋地域委員会(UN-GGIM-AP)」に副会長として、また、「国連地名専門家グループ(UNGEGN)」に参加し、我が国で培った技術や経験を活かして、地球規模の測地基準座標系(GGRF)の普及や防災など多分野での地理空間情報の利活用推進、地名標準化の促進等に貢献している。令和4年1月には、UN-GGIM防災WG及びUN-GGIM-APと共催で「Geospatial Capacity Development Conference on GNSS Applications and DRR」を開催(オンライン)し、4日間で約400名の参加者を得て能力開発に貢献した。

(5)G7交通大臣会合

 英国が議長国を務めるG7交通大臣会合が、令和3年5月及び同年9月に開催され、コロナ禍における国際的な人の往来の再開についての議論が行われた。

 第1回会合では英国より、国際的な人の往来の再開に向けた留意点を示した原則の案が提示され、各国間で議論が行われた。

 また、第2回会合は、保健担当大臣との合同会合となり、我が国からは赤羽国土交通大臣及び山本厚生労働副大臣が出席した。会合では、新型コロナの影響を受けた国際的な人の往来を安全かつ持続可能な形で再開するため、往来再開に用いるワクチン接種証明書や交通乗組員の公正な扱いに関する取組みに関して議論し、本会合の成果として、「国際的な往来の安全で持続可能な再開のためのハイレベル原則」が採択された。

(6)世界経済フォーラム(WEF)

 世界経済フォーラム(WEF)は、年次総会である「ダボス会議」に代表される活動を通じ、産官学の各分野のリーダーが連携し、地球規模の課題の解決に取組む組織である。

 交通分野については、WEFにおける取組全体の目標設定、戦略的な助言等を行う会議体であるモビリティ・スチュワード(Mobility Stewards)が設置されており、令和3年5月に開催された会合には、赤羽国土交通大臣が出席し、交通分野の脱炭素化に関する取組みについて世界各国の官民トップと議論を行った。

 また、同年4月、WEFは第4次産業革命の技術の開発と実装に向けた議論を行うため、ダボス会議と並ぶハイレベルな会合としてグローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)の第1回会合を、日本をホスト国として開催した。GTGSにおいては、赤羽国土交通大臣が「経済復興とスマートシティ」と題するセッションへ出席し、スマートシティ及びスマートモビリティに関する日本の事例を紹介した。

(7)世界銀行(WB)

 国土交通省は、「質の高いインフラ投資」の情報発信のため、世界銀行が実施する各国の住宅・都市開発担当者を対象とした招聘事業(令和元年6月及び2年2月)及び現地でのワークショップ(2年3月:於ケニア)において、日本の住宅供給及び都市開発に関する知見を紹介した。

(8)アフリカ開発会議(TICAD)

 アフリカにおける「質の高いインフラ投資」を推進するために、「アフリカ・インフラ協議会(JAIDA)」と連携し、官民インフラ会議の開催等の取組みを進めてきたところ、令和4年8月にチュニジアにて第8回アフリカ開発会議(TICAD8)の開催が予定されていることから、これに向けて、アフリカ各国関係者と我が国企業の対話など、「質の高いインフラ投資」に対する理解を促進し具体的な案件受注につなげる取組みを加速していく。

(9)アジア欧州会合(ASEM)

 ASEMは、アジア・欧州関係の強化を目指して平成8年に発足した対話と協力の場であり、アジア側参加メンバー(21か国と1機関)、欧州側参加メンバー(30か国と1機関)の合計51か国と2機関によって構成されている。

 令和元年12月に開催された第5回ASEM交通大臣会合では、交通のデジタル化に向けた技術開発の重要性、交通の脱炭素化、環境に優しい交通の重要性などに関する議論が行われた。我が国からは、和田国土交通大臣政務官が出席し、MaaSや自動運転など交通のデジタル化に関する取組みや、交通分野における脱炭素化に向けた取組みを紹介した。

  1. 注1 全世界をカバーする遭難信号の送受信や海上安全情報を自動で受信できる通信システム