国土交通省ロゴ

国土交通白書 2022

1 気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化

(地球温暖化の状況)

 地球は、近年、温暖化が進んでおり、2011年~2020年の世界の平均気温は、工業化以前(1850年~1900年)と比べ、1.09℃高かった注1。1850年~2020年の期間における温暖化は紀元後(直近2000年以上)前例のないものであり、このままの状況が続けば、更なる気温上昇が予測される。

図表Ⅰ-0-1-1 世界年平均気温の変化
図表Ⅰ-0-1-1 世界年平均気温の変化

資料)IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 図SPM.1 及び図SPM.8(気象庁訳)より国土交通省作成
(注)1 左図:復元値(1~2000年)及び観測値(1850~2020 年)
  2 右図:観測値(1950~2014 年)及び予測値(2015~2100 年)

 また、これら気候の変化の要因について、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないことが指摘注2されている。長期的な世界の平均気温について、観測値と自然起源の要因のみを考慮したシミュレーション結果との差異から、人為起源の要因による温暖化の進行がうかがえる。

図表Ⅰ-0-1-2 地球温暖化と人為的影響
図表Ⅰ-0-1-2 地球温暖化と人為的影響

資料)IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 図SPM.1(気象庁訳)より国土交通省作成

(地球温暖化がもたらす異常気象の激甚化・頻発化)

 近年、異常気象は激甚化・頻発化しており、水害・土砂災害等の気象災害をもたらす豪雨には、雨の強度や頻度などに特徴があり、長期的な傾向として雨の降り方が変化しているといえる。気象庁の観測によれば、1日の降水量が200ミリ以上の大雨を観測した日数は、1901年以降の統計期間において有意な増加傾向にあり、その最初の30年と直近の30年とを比較すると、約1.7倍に増加している注3。また、1時間降水量50ミリ以上の短時間強雨の発生頻度は、1976年以降の統計期間において有意な増加傾向にあり、その最初の10年と直近の10年を比較すると、約1.4倍に増加している注4

 このような気象災害をもたらす大雨・短時間強雨の頻発化の背景には、自然変動の影響による異常気象に加え、地球温暖化の影響があると考えられている。

 気象庁では、気候モデルによる数値シミュレーションを用いて、温暖化が極端な気象現象の頻度や激しさをどの程度変化させたかを定量的に推定するイベントアトリビューション注5に取り組んでいる。この結果、近年の顕著な災害をもたらした異常気象について、一定程度、地球温暖化の影響があったことが指摘されている。例えば、「令和元年東日本台風」については、1980年以降の気温上昇(約1℃)により、総降水量が10.9%増加したものと評価されている。また、「平成30年7月豪雨」については、50年に1度の大雨の発生確率が地球温暖化によって約3.3倍になったことによるものであり、同月の猛暑(高温・熱波)については、温暖化が無ければ起こりえなかったものと評価されている。

図表Ⅰ-0-1-3 地球温暖化の影響が評価された異常気象による気象災害
図表Ⅰ-0-1-3 地球温暖化の影響が評価された異常気象による気象災害

左:「平成30 年7月豪雨」による被害状況(岡山県倉敷市真備町)
右:「令和元年東日本台風」による被害状況(長野県長野市)
資料)国土交通省

(気象災害の激甚化・頻発化)

 近年、世界中で災害をもたらす異常気象が毎年のように発生し、これにより、世界各地で豪雨災害等の気象災害による大きな被害がもたらされている。

 我が国でも、「平成30年7月豪雨」、「令和元年東日本台風」や「令和2年7月豪雨」をはじめ、毎年のように豪雨災害による被害が生じている。諸外国でも、台風・サイクロンや豪雨による洪水被害、異常高温による干ばつ・森林火災の被害が生じている。

 2021年の年平均気温は、世界の陸上の広い範囲で平年より高く、世界各地で異常高温が発生し、我が国でも全国的に気温の高い状態が続いた。このなかで、我が国では2021年8月の大雨により、西日本から東日本は記録的な大雨に見舞われ、甚大な被害が発生した。また、南アジア及びその周辺では、5月~11月の大雨により合計で2,200人以上が死亡するなど甚大な被害が発生し、ドイツ及びベルギー周辺では、7月中旬の大雨により240人以上が死亡し、417億米国ドルにのぼる経済被害が発生したと伝えられた。

図表Ⅰ-0-1-4世界の主な異常気象・気象災害(2015年~ 2021 年発生)
図表Ⅰ-0-1-4 世界の主な異常気象・気象災害(2015年~ 2021 年発生)

(注)2015 年から2021 年までの主な異常気象・気象災害を抜粋して掲載(気象庁「世界の年ごとの異常気象」)。
資料)気象庁公表資料をもとに国土交通省作成

 今後、地球温暖化の傾向が続いた場合、気象災害の更なる激甚化・頻発化が予測される。近年、大雨や台風等によりもたらされる気象災害により、我が国でも甚大な人的被害・物的被害が既に発生し、国民の生命・財産が脅かされている中、今後の気象災害リスクの更なる高まりに適切に備えていくためにも、気候変動とその影響を予測し、科学的知見を蓄えていくことが重要である注6

  1. 注1 IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約A.1.2の記述による。
  2. 注2 IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約A.1の記述による。
  3. 注3 全国51の観測地点。
  4. 注4 全国約1,300の観測地点。
  5. 注5 イベントアトリビューションは異常気象の原因を特定するものではなく、気候変動の影響を評価するもの。
  6. 注6 気候変動の適応策を検討するため、将来の予測が不可欠である。気象庁では気候モデルを用いて将来予測を提供するとともに、その検証や改善に必要となる気候・海洋や温室効果ガス等の観測を行なっている。