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国土交通白書 2022

2 気候変動に伴う気象災害リスクの高まり

(1)気候変動による気象災害リスクへの影響

 地球温暖化等の気候変動により、将来的にも世界的に異常気象が増加する可能性が指摘されている。

 気象庁によれば、今後、温室効果ガスの排出が高いレベルで続く場合、我が国において、1日の降水量が200ミリ以上となる日数や短時間強雨の発生頻度は、全国平均で今世紀末には20世紀末の2倍以上になると予測されている。

 また、気候変動により、気温上昇、雨の降り方の変化、海面水位上昇等が生じ、熱中症や気象災害等のリスクが高まっていくことが懸念されている。

 近年、我が国における熱中症による死者は年間1,000人を超えているが、「日本の気候変動2020」注7によれば、猛暑日注8・熱帯夜注9の日数は、過去約100年間で増加した注10と指摘されている。また、21世紀末の日本を20世紀末と比べた場合、年平均気温の上昇、猛暑日・熱帯夜の日数の増加注11、日本沿岸の海面水位の上昇、激しい雨の増加、日本付近における台風の強度の強まりが予測されている。

図表Ⅰ-0-1-5 気候変動の影響の将来予測
図表Ⅰ-0-1-5 気候変動の影響の将来予測

資料)文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」より国土交通省作成

 また、「日本の気候変動2020」によれば、平均海面水位の上昇が浸水災害のリスクを高めるとともに、東京湾、大阪湾及び伊勢湾の高潮の最大潮位偏差が大きくなることが予測されている。

 今後、気候変動が進行し、それに対する十分な対策が講じられない場合、気象災害による人的・物的被害等の気象災害リスクの高まりが懸念される。

(2)気象災害リスクの現状と課題

 気候変動により我が国においても気象災害リスクが高まっているところ、当該リスクは、ハザード(自然現象による災害外力)、脆弱性、曝露の3要素注14が相互に作用して決定するという考え方がある。

 従来の災害対策は、脆弱性を減少させる対策、すなわち、堤防整備や防災教育など災害発生前にハード・ソフト両面の備えを充実させるとともに、災害発生後に救援活動を行うこと等に重点が置かれてきた。他方、ハザードについては、気候変動の影響により、雨の降り方が変化し、海面上昇が進展することにより、例えば、破壊力のある高潮の発生頻度が高まるなどの懸念がある。今般、都市化の進展によりハザードに晒される(曝露対象の)人口や資産が増大するなどの状況下、従来型の脆弱性対策に加え、気候変動の影響がもたらす気象災害リスクに適切に対応していくためには、曝露対象となるいわゆるリスクエリアについての現状も考察する必要がある。

図表Ⅰ-0-1-6 気候変動のリスク
図表Ⅰ-0-1-6 気候変動のリスク

資料)IPCC 第5次評価報告書 第2作業部会報告書 政策決定者向け要約 図SPM.1(環境省訳)

(洪水・土砂災害のリスクエリア)

 国土が急峻な我が国では、洪水・土砂災害リスクの高いエリアに多くの人々が居住しており、人々が洪水・土砂災害へのリスクに晒されている。また、我が国では、65歳以上の単独世帯が増加傾向にあり、今後も増加するとの推計がある。近年、コミュニティの機能低下など地域の防災力の低下が指摘されている中、65歳以上の単独世帯の増加は、避難の遅れなど社会的な課題も懸念される。

図表Ⅰ-0-1-7 リスクエリア面積・居住人口割合と65歳以上の単独世帯数の推移・予測
図表Ⅰ-0-1-7 リスクエリア面積・居住人口割合と65歳以上の単独世帯数の推移・予測

資料)
左:国土交通省
右:総務省「平成30年版情報通信白書」

(高潮リスクエリア)

 近年、高潮被害が発生しているとともに、気候変動により今後、平均海面水位の上昇等による高潮リスクが高まることが予測されている。東京湾、伊勢湾、大阪湾などは高潮が起こりやすい地形的条件を有しているとともに、首都圏、中部圏、近畿圏には海抜ゼロメートル地帯が広がっており、人口も集中していることから、多くの人々が高潮災害へのリスクに晒されていることがわかる。また、東京湾、伊勢湾、大阪湾に立地する港湾において高潮浸水被害が発生した場合、物流や立地企業の生産活動の停滞など経済活動への影響の懸念もある。

図表Ⅰ-0-1-8 三大都市圏におけるゼロメートル地帯
三大都市圏におけるゼロメートル地帯

資料)国土交通省

  1. 注7 【関連リンク】「日本の気候変動2020」
    出典:文部科学省・気象庁
    URL:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/index.html
  2. 注8 猛暑日とは、日最高気温が35℃以上の日のこと。
  3. 注9 熱帯夜は夜間の最低気温が25℃以上のことを指すが、ここでは日最低気温が25℃以上の日を便宜的に熱帯夜と呼んでいる。
  4. 注10 全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数は統計期間1910~2021年で100年あたり1.9日増加、熱帯夜の年間日数は100年あたり18日増加している。
  5. 注11 猛暑日・熱帯夜の年間日数は、2℃上昇シナリオによる予測で約2.8日・約9.0日増加し、4℃上昇シナリオによる予測で約19.1日・約40.6日増加することが予測されている。
  6. 注14 ハザード(Hazard)とは極端に暑い日、強い台風、豪雨の頻度などを指し、脆弱性(Vulnerability)とはハザードに対する感受性の高さや適応能力の低さを指し、曝露(Exposure)とはハザードの大きな場所に人や資産が存在していることなどを指す。