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国土交通白書 2023

第1節 直面する課題とデジタル化の役割

■1 暮らしを支える生活サービス提供機能の維持・向上

(1)社会経済の課題

①人口減少の加速化と生活サービス提供機能の低下・喪失のおそれ

 我が国では人口減少・少子高齢化が進行しており、今後、地方都市の人口減少の加速化が見込まれる。2050年時点における市区町村の人口減少率の推計によれば、人口規模が小さい市区町村ほど人口減少率が高くなる傾向にあるとともに、人口10万人以上30万人未満の市区町村に居住する人口についても約2割減少することが見込まれている。

 今後、人口減少の大波は、これまでの小規模都市のみならず、地方において日常生活の中心的な役割を担う中規模都市へも拡大することが見込まれ、暮らしを支える中心的な生活サービス提供機能の低下・喪失が懸念される。

図表Ⅰ-1-1-2 2050年時点における市区町村の人口規模別人口減少率の推計
図表Ⅰ-1-1-2 2050年時点における市区町村の人口規模別人口減少率の推計

(注)数値(%)は2015年時点の人口との比較

資料)国土交通省「メッシュ別将来人口推計(2018年推計)」

②地域の足の衰退と買物弱者の懸念

(買い物や公共交通の利便性への重要度の高さ)

 暮らしを支える生活サービスが多岐にわたる中、ここでは、まず暮らしや生活環境に対し、人々が重要視している項目や満足している項目を見ていく。

 国土交通省では国民の意識に関する調査注1(以下、国土交通省「国民意識調査」)を実施し、居住する地域での暮らしや生活環境に関する10項目について重要度をたずねたところ、「自然災害等に対する防災体制」に加え、「日常の買い物の利便性」、「公共交通の利便性」について「とても重要である」と答えた人が4割を超えており、「やや重要である」と答えた人を含めると8割を超えた。防災体制に加え、買い物や公共交通の利便性が重視されていることがうかがえる。一方、満足度については、公共交通の利便性について、「全く満足していない」と答えた人が約1割となっており、他の項目より高かった注2

図表Ⅰ-1-1-3 暮らしや生活環境の重要度・満足度
図表Ⅰ-1-1-3 暮らしや生活環境の重要度・満足度

資料)国土交通省「国民意識調査」

(高齢者等の買い物等の移動手段として必要とされる公共交通)

 前述の暮らしや生活環境に関する10項目に関する重要度と満足度について、調査結果を年代別で見ると、高齢者(60歳以上)ほど公共交通の重要度が高いものの、満足度は低い結果となった。

 また、国土交通省「国民意識調査」では、移動手段が減少して困ることについてたずねたところ、「買い物」、「通院」と答えた人の割合が高かった。年代別で見ると、高齢者ほどその傾向がより一層強く、高齢者の買い物・通院の移動手段として公共交通が欠くことができないことがうかがえる。

図表Ⅰ-1-1-4 暮らしや生活環境の重要度・満足度(年代別)
図表Ⅰ-1-1-4 暮らしや生活環境の重要度・満足度(年代別)

(注)図表では選択肢を省略して示している。
自然の豊かさ:自然の豊かさや環境保全の状況防災体制:自然災害等に対する防災体制
働く場:雇用機会や働く場(やりたい仕事に就く機会があるかどうか)
買い物の利便性:日常の買い物の利便性
公共交通:公共交通(鉄道・バス等)の利便性
子育て:子供の遊び場や保育所など子育てのための施設やサービスの状況

資料)国土交通省「国民意識調査」

図表Ⅰ-1-1-5 公共交通の減便・廃線等により移動手段が減少して困ること
図表Ⅰ-1-1-5 公共交通の減便・廃線等により移動手段が減少して困ること

(注)n=3,000人の複数回答

資料)国土交通省「国民意識調査」

 これに関連し、食料品アクセス困難人口の推計結果(農林水産省)によると、65歳以上の4人に1人の割合でアクセス困難者(店舗まで500m以上かつ自動車利用困難な65歳以上高齢者)が存在するとの推計もあり、その割合は三大都市圏より地方圏で高くなっているとともに、三大都市圏では、その伸び率が全国より高くなっているとの指摘もある。

図表Ⅰ-1-1-6 食料品アクセス困難人口の推計・割合(2015年)
図表Ⅰ-1-1-6 食料品アクセス困難人口の推計・割合(2015年)

資料)農林水産政策研究所ホームページ

【関連リンク】食料品アクセス困難人口の推計結果の公表及び推計結果説明会の開催について
URL:https://www.maff.go.jp/primaff/koho/hodo/180608.html

(地域の足の衰退に伴う買物弱者の増加の懸念)

 前述の通り、暮らしを支える生活サービス提供機能のうち、人々が買い物や公共交通の利便性を重視しており、特に高齢者の日々の生活において地域公共交通が欠かせないものであることがうかがえた。

 一方で、近年、地域公共交通の維持が特に地方圏において困難化している。

 我が国の人口は近年減少しているが、都市圏別に見ると、2000年と比較して、三大都市圏では増加傾向にある一方、三大都市圏以外では減少している。

 地域公共交通のうち、乗合バスについて見ると、輸送人員は、2000年度と比較して、三大都市圏では2019年度まで増減があり、2020年度はコロナ禍の影響により3割弱減少した。地方圏における人口減少等に伴い、三大都市圏以外については2000年度以降、輸送人員の減少傾向が続き、2019年度には3割弱、2020年度にはコロナ禍の影響もあって約5割減少しており、極めて厳しい状況となった。乗合バス事業者の収支については、コロナ禍以前は、赤字率が約7割であったが、コロナ禍で一層深刻化した。

 地域の足を支える乗合バスについて、特に人口減少が進展する三大都市圏以外で、輸送人員の減少、収支の悪化といった厳しい状況にあり、今後人口減少が進む中、その維持がさらに困難となることが想定される。このままの状況が続けば、暮らしを支える生活サービス提供機能の低下・喪失のおそれがあり、買物弱者の増加などが懸念される中、地域の足の確保が課題である。

図表Ⅰ-1-1-7 乗合バスの輸送人員の推移及び事業者の収支状況
図表Ⅰ-1-1-7 乗合バスの輸送人員の推移及び事業者の収支状況

(注1)ここで「三大都市圏」とは、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の集計値である。

(注2)輸送人員の数値は2000年度を、人口の数値は2000年をそれぞれ100とした場合の指数である。

(注3)ここで「赤字率」とは、乗合バスの調査対象事業者(保有車両数30両以上の233事業者)のうち、当該年度を赤字と答えた割合である。

(注4)人口については年集計、その他の輸送人員と赤字率については年度で集計したものである。

資料)総務省「人口推計」、国土交通省「自動車輸送統計年報」より国土交通省作成

(鉄道・電車利用率と人口密度の関係)

 また、地域公共交通のうち、鉄道について、総務省「令和2年国勢調査」に基づき人口集中地区における人口密度と「鉄道・電車注3利用率注4」との関係について見ると、人口密度が高い地域において「鉄道・電車利用率」が高い傾向にあり、人口密度が低い地域において、「鉄道・電車利用率」が低い傾向にある。

 これまで人口増加局面において、モータリゼーションとともに都市の郊外部などへの拡散が進行した一方、今後、人口減少加速化が見込まれる中、鉄道・電車利用率や人口密度からの観点など公共交通・まちづくり一体となった視点も必要である。

図表Ⅰ-1-1-8 全国の市区町村(人口10万人以上)における鉄道・電車利用率と人口集中地区人口密度(2020年)
図表Ⅰ-1-1-8 全国の市区町村(人口10万人以上)における鉄道・電車利用率と人口集中地区人口密度(2020年)

資料)総務省「令和2年国勢調査」より国土交通省作成

③都市における課題

(都市における暮らしや生活環境)

 前述の国土交通省「国民意識調査」の居住する地域での暮らしや生活環境に関する10項目について、重要度と満足度を都市規模別に見ると、特に「公共交通の利便性」での満足度が都市規模による差が大きく、都市規模が大きいほど重要度とともに満足度が高く、その他の多くの項目でも都市部において満足度が相対的に高かった。暮らしや生活環境の面で、都市部の人々は、相対的に満足していることがうかがえる。

図表Ⅰ-1-1-9 暮らしや生活環境の重要度・満足度(都市規模別)
図表Ⅰ-1-1-9 暮らしや生活環境の重要度・満足度(都市規模別)

(注)図表では選択肢を省略して示している。
自然の豊かさ:自然の豊かさや環境保全の状況
防災体制:自然災害等に対する防災体制
住宅の状況:お住まいの住宅の状況(敷地や住居の広さ、快適さ)
働く場:雇用機会や働く場(やりたい仕事に就く機会があるかどうか)
買い物の利便性:日常の買い物の利便性
文化・レジャー:文化や教養活動・レジャーのための施設やサービスの状況
公共交通:公共交通(鉄道・バス等)の利便性
子育て:子供の遊び場や保育所など子育てのための施設やサービスの状況
情報通信基盤:情報通信基盤の状況 都市間交通:高速道路、新幹線、空港など都市間交通へのアクセス

資料)国土交通省「国民意識調査」

(都市の公共交通機関における利便性)

 前述の通り、都市規模が大きいほど公共交通の利便性に対する満足度は高い一方、都市の公共交通機関においても利便性や混雑緩和などの課題がある。

 例えば、複数の鉄道事業者が乗り入れている結節駅では、列車の行き先表示や列車種別が多様化・複雑化しており、乗り入れる鉄道事業者ごとに車内の路線図が統一されていないなど、鉄道利用者にとっては、わかりにくい運行サービスとなっている場合がある。国土交通省が実施した鉄道利用者を対象とした意識調査(2022年2月実施)で、駅の案内サイン・案内ツールにおける利用頻度と利用しやすさについてたずねたところ、回答者平均と比べて、駅利用時に支援・介助を伴う人の方が、「乗り換えアプリ」や「地図アプリ」などデジタル技術に関するものをはじめとして、利用しやすい、また、高い頻度で利用していると答えた割合が高かった。

図表Ⅰ-1-1-10 駅の案内サイン・案内ツールにおける利用頻度と利用しやすさ
図表Ⅰ-1-1-10 駅の案内サイン・案内ツールにおける利用頻度と利用しやすさ

(注)対象者:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県に居住する者
サンプル数:945(通勤で鉄道を利用する方:717人、通勤で鉄道を利用しない方:228人)
抽出方法:東京・神奈川・千葉・埼玉に居住する10万人を対象としてアンケートを配信し、1万人の回答を集めた段階でアンケート回収を締め切り
スクリーニング条件:満20歳以上かつ、直近1か月において東京都23区内の駅を週1回以上利用する者

資料)国土交通省

 また、利用者がより自主的に、正しく混雑を回避して公共交通機関を利用するよう行動変容を促すためには、利用者側の判断に必要となる混雑情報等を積極的に提供していくことが重要である。例えば、公共交通機関のリアルタイム混雑情報提供、バリアフリー移動経路案内など、利用者一人一人に個別化された情報提供を行うことが必要である。

図表Ⅰ-1-1-11 公共交通機関におけるリアルタイム混雑情報提供システム
図表Ⅰ-1-1-11 公共交通機関におけるリアルタイム混雑情報提供システム

資料)国土交通省

(都市の災害への脆弱性)

 我が国における少子高齢化の進行に伴い、高齢人口(65歳以上の人口)が増加する地域での災害に対する脆弱性が懸念される中、高齢人口の将来推計を都市規模別に見ると、人口規模の大きい都市で高齢人口の増加率が高い。

 また、都市部において、地震時等に著しく危険な密集市街地が集中しており、防災・居住環境上の課題を抱えている。都市部居住者の高齢化に伴い、今後、地域防災力が低下することも懸念される中、防災公園や周辺市街地の整備改善などのハード対策に加え、ソフト対策なども含めたまちづくり全体での対策が課題である。

図表Ⅰ-1-1-12 都市規模別にみた65歳以上人口指数(2015年=100)
図表Ⅰ-1-1-12 都市規模別にみた65歳以上人口指数(2015年=100)

(注1)国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」をもとに作成

(注2)カテゴリーごとに総計を求め、2015年の人口を100とし、各年の人口を指数化した。

(注3)「大都市」は、東京都区部及び政令指定都市を指す。

(注4)福島県のデータは含まれていない。

資料)内閣府「令和4年版高齢社会白書」

(2)デジタル化の役割

 デジタル化による生活サービス提供機能の維持・向上により、暮らしを支えていくことが求められる。

①次世代型の交通システムへの転換

 人口減少に伴い地域公共交通の衰退が懸念される中、地域公共交通のあり方を検討し取組みを強化するとともに、デジタル化を通じて新たな手段での解決を図り、利便性・持続可能性・生産性の高い地域公共交通ネットワークへの「リ・デザイン」(再構築)を推進していくことが重要である。

 デジタル化により、需要が供給に合わせる(乗客がバス停でバスを待つなど)のではなく、供給が需要に合わせる(車両が乗客の望む時間・場所に迎えに行くなど)ことが可能となる。例えば、AIオンデマンド交通注5については、需要に応じた効率的な配車により、従来の公共交通の路線網以外の出発地・目的地間の乗客輸送を含めた柔軟な移動が可能となり、利便性向上による利用者の増加や効率的な公共交通網の維持などが期待される。また、今後、自動運転技術の実装が公共交通の持続性を更に高めることも期待される。

②人口減少下でも持続可能で活力ある地域づくり(地域生活圏の形成)

 人口減少、少子高齢化が加速する地方部において、人々が安心して暮らし続けていけるよう、地域の文化的・自然的一体性を踏まえつつ、生活・経済の実態に即し、市町村界にとらわれず、官民のパートナーシップにより、暮らしに必要なサービスが持続的に提供される地域生活圏注6を形成し、地域の魅力向上と地域課題の解決を図ることが求められる。

 このためには、デジタル技術が不可欠であり、デジタル技術を活用した生活サービスの効率化・自動化等による、リアル空間の生活の質の維持・向上を図り、生活者、利用者目線でサービスの利便性を向上させる取組みを加速化することが重要である。

 また、地域を共に創るという発想により、主体、事業、地域の境界を越えた連携・協調の仕組みをボトムアップで構築することが求められる。

③デジタル活用による新たなまちづくり

 都市や地方など地域における様々な社会課題の解決等に向け、デジタル技術やデータの活用により、従来のまちづくりの仕組みそのものを変革する「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション」が可能となる。例えば、都市では、デジタル技術を活用し、混雑緩和に向けた都市空間再編や防災面でのエリアマネジメントの高度化に取り組むことや、地方における多様な暮らし方や働き方への支援を図ることなどが考えられる。こうした取組みを官民の幅広いプレイヤーが協働して進めていくことで、「持続可能な都市経営」、「Well-beingの向上」、「機動的で柔軟な都市」に重点をおいた新たな都市経営への転換を通じて、都市部でも地方部でもその特性や利点を活かした、「人間中心のまちづくり」の実現が期待される。

  1. 注1 2023年1月に全国に居住する18歳以上の個人3,000人を対象とし、インターネットを通じて実施(性別:男・女の2区分で均等割り付け、年齢:~30代、40代~50代、60代~の3区分で均等割り付け、居住地:大都市、中都市、小都市の3区分※の人口構成比で割り付け)。

    ※大都市:東京都区部、横浜市、名古屋市、大阪市、政令指定都市
    (札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、京都市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市)

     中都市:人口10万人以上の市

     小都市:人口10万人未満の市及び町村部

  2. 注2 「自然災害等に対する防災体制」や「お住まいの住宅の状況(敷地や住居の広さ、快適さ)」について「全く満足していない」「あまり満足していない」(以下、満足していない)と答えた人の割合はいずれも約3割であったのに対し、「公共交通(鉄道・バス等)の利便性」について満足していないと答えた人の割合は約4割となっており、「雇用機会や働く場(やりたい仕事に就く機会があるかどうか)」について満足していないと答えた人の割合(約5割)等とともに高く、公共交通の利便性の確保が重要な政策課題であることがうかがえる。
  3. 注3 鉄道・電車とは、電車・気動車・地下鉄・路面電車・モノレールなどを指す。
  4. 注4 当該市区町村の通勤者・通学者数のうち、鉄道・電車を利用する人の割合。
  5. 注5 AIオンデマンド交通とは、AIを活用した効率的な配車により、利用者予約に対し、リアルタイムに最適配車を行うシステムである(第Ⅰ部第1章第2節2参照)。
  6. 注6 デジタル活用等を図ることにより、より大きな人口集積での様々な機能のフルセット型の従来の生活圏の発想にこだわらず、より小さな集積でも質の高いサービスの維持・向上が可能となる生活圏(生活圏内人口10万人以上を目安)。