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国土交通白書 2023

第1節 直面する課題とデジタル化の役割

■2 競争力の確保に向けた新たな付加価値・イノベーションの創出

(1)社会経済の課題

①経済成長の維持・向上

 我が国経済は、成長を維持しているものの近年伸び悩んでおり、例えば、実質GDPの成長率については、他の主要先進国と比べ緩やかに推移している注7。デジタル化による付加価値の向上等により、イノベーションを促進し、経済成長の維持・向上を図ることが課題である。

②競争力の確保

 経済成長の維持・向上には、デジタル化により新製品・サービスの創出等に取り組むなど、我が国産業の競争力を高めていくことが重要である。

 デジタル化の急速な進展により、新製品・サービスが提供されている中、個人のライフスタイルのみならず、産業分野においてもビジネスモデルの変革が誘発されている。

 総務省「令和3年版情報通信白書」によると、デジタル・トランスフォーメーションは、デジタル

 技術の活用による新たな商品・サービスの提供、新たなビジネスモデルの開発を通して、社会制度や組織文化なども変革していくような取組みを指す概念とされている。

 日本・米国・ドイツの企業を対象としたデジタル・トランスフォーメーションに取り組む目的についての調査によると、日本企業は「業務効率化・コスト削減」と答えた割合が高かったのに対し、「新製品・サービスの創出」、「新規事業の創出」などの目的については、米国やドイツと比較すると低かったとの指摘がある。

図表Ⅰ-1-1-13 デジタル・トランスフォーメーションの目的(2020年度)
図表Ⅰ-1-1-13 デジタル・トランスフォーメーションの目的(2020年度)

資料)総務省「令和3年版情報通信白書」(デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究)

 また、国土交通省「国民意識調査」において、国土交通分野注8のデジタル化による産業競争力や付加価値の向上への期待についてたずねたところ注9、特に若年層で、「新技術(3Dプリンタ等)を活用した施工方法による自由度が高く、デザイン性の高い空間の創出」、「研究機関との連携やスタートアップの育成によるイノベーションの創出」に期待していると答えた割合が約7割と高く、若い世代を中心に、次世代技術による産業競争力や付加価値の向上への期待が高いことがうかがえる。

 今後、我が国の産業競争力を確保すべく、デジタル化を単に業務効率化や省人化のための手段として活用するにとどまらず、デジタル化による組織、文化、働き方の変革に取り組み、新製品・サービスや新たなビジネスモデルを生み出し、新たな付加価値・イノベーションを創出していくことが重要である。

(2)デジタル化の役割

 デジタル化による新たな付加価値・イノベーションの創出により、競争力の確保を図ることが求められる。

①新たな付加価値の創出

 近年、AI、IoT、ロボット、センサなどのデジタル技術の開発・実装が世界的に進展し、生産や消費といった経済活動を含め経済社会のあり方が大きく変化しつつある中、デジタル化を通じ、新たな付加価値の創出を図っていくことが必要である。

 国土交通分野では、例えば、ドローンやセンサ等を活用したインフラ点検といった新たなサービスが考えられるとともに、3Dプリンタなど新技術を活用した施工方法により、自由度が高くデザイン性の高い空間の創出が可能となるなど、新たな付加価値につながることなどが期待される。

②イノベーションの創出

 AI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を取り込み、従来の枠組みにとらわれないイノベーションの創出を図っていくことが必要である。例えば、インフラ分野や不動産分野のデジタル・トランスフォーメーションなどビジネスモデルの変革に向けた取組みや、空飛ぶクルマなど次世代モビリティの開発・実装を通じて実現する新たなサービスなど、新たな価値の創造に結び付くイノベーションの創出が求められる。

  1. 注7 我が国の実質GDPは、1990年代半ば頃までは他の主要先進国と比べて増加テンポに大きな差はないが、その後は成長率に顕著な差が現れ、我が国の経済成長は緩やかに推移してきた(内閣府「令和4年度年次経済財政報告」より)。
  2. 注8 国土交通省「国民意識調査」では、国土交通分野の業種を次のように例示:宿泊・旅行、運輸業(バス、タクシー、航空、鉄道、トラック運送、倉庫等)、不動産業、建設産業、住宅産業、都市開発
  3. 注9 全年代を通じて、「交通事故や災害リスクの予測・予防等によるレジリエントで安全な暮らしの創出」や「倉庫内作業の自動化や、次世代モビリティによるラストワンマイル輸送実現による、効率化・省人化された物流サプライチェーンの創出」、「高齢者や女性、若者など多様な担い手の活躍機会の創出」に対して期待していると答えた人が約7割を占めており、高付加価値化や省人化、担い手確保、働き方多様化に対する期待が高いことがうかがえる。