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国土交通白書 2023

第1節 直面する課題とデジタル化の役割

■3 担い手不足の解消に資する生産性向上・働き方改革の促進

(1)社会経済の課題

①労働生産性及び労働市場の動向と担い手不足

(労働生産性の動向)

 我が国の労働生産性(全産業平均)は、2002年以降増加傾向にある。建設業及び運輸・郵便業の労働生産性(分野別)を見ると、全産業平均より低い水準で推移しており、労働生産性の向上を図ることが課題である。

図表Ⅰ-1-1-14 我が国の労働生産性の推移
図表Ⅰ-1-1-14 我が国の労働生産性の推移

(注)下式により労働生産性を算出

労働生産性 = 産出量(output) 投入量(input) = 付加価値額 労働者数×労働時間

資料)内閣府「2021年度(令和3年度)国民経済計算年次推計」、総務省「労働力調査」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」より国土交通省作成

(労働市場の動向)

 我が国の就業者はここ20年で急速な高齢化が進行している。建設業及び運輸業について見ると、就業者のうち55歳以上の占める割合が全産業平均より高い水準で増加傾向にある一方、就業者のうち29歳以下の占める割合の増加は緩やかであり、今後、高齢就業者の大量退職が見込まれることから、将来の担い手不足が懸念される注12

図表Ⅰ-1-1-15 産業別就業者の年齢構成の推移
図表Ⅰ-1-1-15 産業別就業者の年齢構成の推移

資料)総務省「労働力調査」より国土交通省作成  

②就業者構成の変化による新たな課題

 我が国の生産年齢人口は、少子高齢化に伴い、1995年の8,726万人をピークに減少に転じ、2020年に7,511万人へと減少している一方、全就業者数は1995年の6,457万人から2020年の6,710万人へ増加した。これには女性及び高齢者(65歳以上)の就業者数の伸びが寄与している注13

 また、就業率注14で見ると、女性、高齢者共に上昇傾向にあり、女性就業率は1995年の48.4%から2020年には51.8%へ、高齢者就業率は1995年の24.2%から2020年には25.1%へと上昇した。年齢別では、30歳から34歳の女性就業率は、同期間で51.1%から75.3%へと大きく上昇し、高齢者就業率は、60歳から64歳は53.4%から71.0%へ、65歳から69歳は38.9%から49.6%へと大きく上昇した。

 今後、就業者の多様化が進む中、女性及び高齢者も含めた、様々な就業者にとって働きやすい職場環境の創出が重要である。

(2)デジタル化の役割

 デジタル化による生産性向上や働き方改革の促進により、担い手不足の解消を図ることが求められる。

①生産性向上

 デジタル化による機械化・自動化等により効率化を図り、生産性を向上させていくことが重要である。特に、担い手不足の進行が懸念される国土交通分野の業種注15において、デジタル化により単位当たりの生産に必要な労働力を削減し、労働生産性の向上を図ることが必要である。

 例えば、物流倉庫内の作業のうち、ピッキング(出荷するための商品を倉庫の棚から取り出す作業)やパレタイズ(箱や袋等に梱包された荷物をパレットに積み付ける作業)といった作業も現状多くの人手が必要であり、機械化・自動化等により物流業務の効率化注16を図ることが効果的である。

 また、住宅やビル等の建設時に必要な作業のうち、鉄筋の溶接や左官作業、内装施工といった多くの人手がかかる作業について、ロボット等による代替が可能な作業の機械化・自動化等を図ることが考えられる。

②働き方改革の促進

 デジタル技術を活用した機械化・自動化等による働き方改革により、新たな労働参加を促進することが期待される。

 国土交通省「国民意識調査」によれば、デジタル技術を活用した機械化・自動化等による働き方の変化として、「危険な作業の削減」、「長時間労働の削減・自由時間の増加」、「労働環境の改善による担い手不足の解消」への期待が高かった。

図表Ⅰ-1-1-16 DX(デジタル・トランスフォーメーション)による働き方の変化に対する期待
図表Ⅰ-1-1-16 DX(デジタル・トランスフォーメーション)による働き方の変化に対する期待

(注)n=3,000人の複数回答

資料)国土交通省「国民意識調査」

 高架道路やビル等における高所作業、災害時の被災現場での応急工事など、危険を伴う作業の遠隔操作が可能なロボットや重機等を活用することにより、人々が苦渋作業や危険作業から解放されるとともに、事故の削減を図ることが期待される。

 また、デジタル化を通じて就業場所や働き方の多様化など就業環境の改善を図り、新たな労働参加を促進することが期待される。例えば、テレワークの導入により、多様で柔軟な働き方を選択することが可能となれば、子育て世代の女性や高齢者等の取込みにつながることが見込まれる。

 また、デジタル化の進展により、現場作業を遠隔操作へ移行することにより、担い手の多様化や作業の効率化を図ることが考えられる。

 今後、担い手不足の深刻化が懸念される国土交通分野の業種注17において、技術の継承を図り、将来を担う若者の入職・定着を促すためにも、働き手にとって魅力ある産業となるよう、就業環境の改善や先進技術の取込みなどにより、働き方改革を促進することが求められる注18

  1. 注12 建設業就業者は、55歳以上が35.3%、29歳以下が12.0%(2021年)、運輸業就業者は、55歳以上が32.1%、29歳以下が11.9%(2021年)と高齢化している(出典:総務省「労働力調査」)。
  2. 注13 総務省「労働力調査」によると、女性就業者は、1995年の2,614万人から2020年の2,986万人に、高齢者は、1995年の438万人から2020年の903万人に増加した。
  3. 注14 総務省「労働力調査」より。
  4. 注15 第Ⅰ部第1章第1節2の脚注8参照。
  5. 注16 QRコード等を活用した荷役作業時の物品認証、配送におけるAIを活用した最適な配達ルートの自動作成なども含む。
  6. 注17 第Ⅰ部第1章第1節2の脚注8参照。
  7. 注18 国土交通省「国民意識調査」によれば、DXによる働き方の変化として、特に若年層において「多様な働き方の実現」への期待が高かった。