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国土交通白書 2023

第2節 デジタル実装の現在地と今後への期待

■2 デジタル田園都市国家構想と国土交通分野における取組み

(1)デジタル田園都市国家構想の実現に向けて

(デジタル田園都市国家構想)

 近年、テレワークの普及や地方移住への関心の高まりなど、社会情勢がこれまでとは大きく変化している中、地方における仕事や暮らしの向上に資する新たなサービスの創出、持続可能性の向上、Well-beingの実現等を通じて、デジタル化の恩恵を国民や事業者が享受できる社会、いわば「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指す「デジタル田園都市国家構想」を政府の重要な柱としている。本構想の実現に向け、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(2022年12月) 注3に基づき、東京圏への過度な一極集中の是正や多極化を図り、地方に住み働きながら都会に匹敵する情報やサービスを利用できるようにすることで、地方の社会課題を成長の原動力とし、地方から全国へとボトムアップの成長につなげていくこととしている。また、デジタルは、地域社会の生産性や利便性を飛躍的に高め、産業や生活の質を大きく向上させ、地域の魅力を高める力を持っており、地方が直面する社会課題の解決の切り札となるだけではなく、新しい付加価値を生み出す源泉として、官民双方で地域におけるデジタル・トランスフォーメーションを積極的に推進することとしている。

(2)地域におけるデジタル実装の現在地

 技術の進歩は、これまでも人間の生活や社会を大きく変革してきた。デジタル化による社会課題の解決に向けて、ICT(情報通信技術)の進展による変化や関連する先端技術の動向を踏まえつつ、デジタル化の特性を踏まえ目的に応じて効果的に取り込んでいくことが重要である。

 ここでは、デジタル技術に焦点を当て、地域におけるデジタル実装の現在地について、国土交通分野を中心に整理する。

(地域課題の解決に向けたデジタル技術活用の機運の高まり)

 内閣官房が実施した調査では、デジタル技術を活用した地域課題の解決・改善に向けて、取組みを推進していると答えた自治体は2019年度の約15%から、2021年度には約45%へ増加した注4。自治体において、地域課題の解決に向けたデジタル技術活用の機運が高まっていることがうかがえる。

(進展するデジタル技術)

 ICTの進展により、コンピュータやスマートフォン同士をインターネットで接続することによって「オンライン化」が進み、これまで多くの変化がもたらされた。例えば、SNSの普及により、これまでのメディアと異なり個人が情報発信者となることが可能となり、従来では想定されなかったような人とのつながりや新たなコミュニティが形成され、コミュニケーションのあり方が変わるなどの変化がもたらされた。また、コロナ禍を契機にテレワークやeコマースが広く普及するなど、働き方や購買方法が大きく変化した。

 IoT(Internet of Things)の進展により、車や家電等の日用品を含め、様々なものがインターネットにつながることが可能となった。また、相互情報交換や、遠隔制御を通じ、個々の機器により得られたものをはじめ多くの情報収集が可能となり、ビッグデータ化が容易になるなどの変化がもたらされた。このIoTやビッグデータの進展により、様々な分野で新しいサービスが創出されている。

 また、AI(人工知能)は、コンピュータやスマートフォン、インターネットの普及とも相まって、交通・物流、医療、災害対策など様々な分野において活用されており、私たちの身近な生活にも既に浸透している。例えば、スマートフォンのカメラは、AIの画像認識の能力向上に伴い、持ち主の顔を認証することによりロックの解除などが可能となり、AIの音声認識の能力向上に伴い、音声入力によるインターネット検索なども可能となった。また、AIが自らインターネット上にあふれた膨大な情報を学習・推論する「ディープラーニング」も可能となっている。さらに、AIやセンサが搭載された産業用ロボットの導入も進むとともに、一般家庭用の掃除ロボット等の普及についても広がりを見せている。

 以上のように、AI(人間の脳に相当)、IoT(人間の神経系に相当)、ロボット(人間の筋肉に相当)、センサ(人間の目に相当)といった第4次産業革命注5における技術革新は、私たちの暮らしや経済社会を画期的に変えようとしている。国土交通分野においても、技術革新を積極的に取り入れ、国民一人ひとりの暮らしを豊かにするとともに、経済社会を支えていくことが求められている。

 以下では、AI、ドローン、ロボット、自動運転技術の順に足元の動きをみていく。

(AIの活用による移動サービスの多様化)

 AIは、従来型の公共交通サービスを効率化・多様化させており、例えば、AIオンデマンド交通は、AIを活用し利用者予約に対しリアルタイムに最適配車を行うシステムである。これにより、限られたリソースが効率的に活用でき、例えば地方部の需要が少なく採算の得にくい地域における移動手段の確保につながっていくことや、都市部を含め、交通サービスの多様化により私たちの暮らしの利便性が向上することが期待される。

図表Ⅰ-1-2-4 AIオンデマンド交通
<概念図>
図表Ⅰ-1-2-4 AIオンデマンド交通

資料)国土交通省

(AIの活用による防災・減災対策の高度化)

 AIにより、気象や災害等に関する膨大なデータを収集・解析し、浸水状況やインフラ・建物の損傷状況等を把握することが可能となった。AIによる被災状況等の把握は、災害時の意思決定支援などに用いられ、社会の安全性の向上につながっていくことが期待される。

 近年、発災直前・発災直後において、AIなどの技術を活用して地域の被害状況を迅速に見える化し、起こりうるリスクを予測することにより、命を守る行動をとる上で重要な初動・応急対応へAIを活用していく動きがみられる。

(AIの活用によるインフラメンテナンスの高度化・効率化)

 インフラの維持・管理にもAIの活用が進んでいる。インフラの膨大な点検画像をもとにAIが迅速に補修の必要性等を判断するなど、日常的な調査点検等の業務効率の改善が可能となっている。また、目視など人の目では確認できない損傷等を含め定量的に把握することが可能となっており、最新技術を活かしたインフラメンテナンスの高度化を図る動きがみられる。

 近年、公共インフラの老朽化が進行しており、インフラメンテナンスにおいては、技術的知見を持つ人材不足やメンテナンス費用の継続的な確保が課題とされ、予防保全に向けた取組みも求められている中、AIを取り入れて効率化・高度化を図ることが期待される。

(ロボットの活用による生産性向上・働き方改革)

 ロボットは、各種作業の支援・補完に加え、自動化・遠隔制御化等を通じ、省人化を可能とする。国土交通分野において、ロボットを様々な場面で取り入れることにより、人々の業務が支援・補完されるとともに、生産性向上や労働環境の改善等の社会課題の解決に資することが期待される。

 例えば、ロボットを物流分野で活用し、これまで人手に頼っていた荷物のピッキング作業等を機械化・自動化することにより既存のオペレーションを改善し、物流業務の生産性向上を図っていく動きがみられる。

(ドローンの活用による生産性向上・新たな輸配送の実現)

 ドローンは、カメラや輸送用のボックスを搭載することで活用の幅が広がり、様々な産業・分野において導入が進んでいる。人が直接出向くことが難しい、あるいは危険が伴うような場所での撮影・点検などでの活用のほか、人手不足が進行する建設業界や物流業界において生産性向上に寄与することが期待されている。

 物流分野では、山間部や離島等の生活物資等の災害時を含めた新たな配送手段としての活用が期待されている。前述のロボットとドローンとを連携して活用することで、それぞれの利点を活かした取組みを進める動きもみられる。

 また、建設分野においても、ドローンを用いた3次元観測とともに自動制御されるICT建設機械や拡張現実技術等を用いることにより、新技術を活用したインフラ整備・維持管理の高度化を図り、生産性を向上していくことが重要である。

(自動運転技術により変わる暮らしと社会)

 AI、IoT、ロボット、センサなどの技術を活用した取組みとともに、これらを総合的に活用した自動運転技術については、私たちの暮らしを大きく変えていくことが期待されている。また、自動車の普及により道路交通網が発展し、近代のまちのあり方が変化したように、今後の新技術の進展・普及は、私たちの暮らしとともにインフラやまちの形を大きく変えていく可能性も考えられる。

 自動運転技術とは、乗り物や移動体の操縦を人の手によらず、機械が自立的に行うシステムのことであり、技術段階に応じてレベル分けされている。大きくは、システムが人間の運転を補助するもの(レベル1~2)と、システムが運転操作するもの(レベル3~5)に分けられる。

図表Ⅰ-1-2-5 自動運転のレベル
図表Ⅰ-1-2-5 自動運転のレベル

【レベル1~2】アクセルやブレーキ、ハンドルなど、一部のみが自動化された運転手操作が主となる車で、運転支援車と呼ばれる。

【レベル3~5】自動運転システムが運転の主体となり、特定の走行条件の必要性や運転者操作が必要になる可能性、完全に自動運転システムにゆだねられるかどうかなどを考慮し、人の関与が減るごとにレベルが高くなる。

資料)国土交通省

 我が国では、交通事故の削減や過疎地域等における高齢者等の移動手段の確保、ドライバー不足への対応等が喫緊の課題であり、自動運転車はこれらの課題解決に貢献することが期待されている。これまで人が運転する自動車を前提に道路・街路等を含めたまちづくりが展開されてきたが、自動運転技術等を活用した次世代モビリティを想定した際に必要なインフラのあり方を検討する必要があり、自動運転技術の活用に向けてインフラ側からの自動運転車の走行支援が求められる注6

 なお、諸外国では、自動運転を取り込んだ貨物専用システムの構築など自動運転技術の貨物輸送への活用を検討する動きや、自動運転サービスを移動支援等に活用するための実証実験を実施する動きもみられる。

  1. 注3 【関連リンク】デジタル田園都市国家構想総合戦略
    URL:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/sougousenryaku/index.html
  2. 注4 内閣官房「未来技術を活用した地域課題の解決・改善の取組等に関する調査結果概要(令和3年度)」より。
  3. 注5 第4次産業革命とは、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く、ビッグデータ、AI、IoT、ロボット等のコア技術の革新を指す(出典:内閣府「日本経済2016-2017」)。
  4. 注6 例えば、車載センサで把握が困難な交差点等において、道路交通状況を検知して自動運転車や遠隔監視室へ提供するインフラからの支援などが考えられる。