
国土交通白書 2023
第2節 デジタル実装の現在地と今後への期待
コラム 私たちが手がける暮らしやすいまち
(市民中心のスマートシティ・地域の見守り支援、兵庫県加古川市)
加古川市は、人口約25万人、一級河川「加古川」を囲む兵庫県南部の都市である。大阪府や神戸市・姫路市への通勤の利便性が高いことからベッドタウンの側面も有しており、「夢と希望を描き 幸せを実感できるまち 加古川」を目指している。
加古川市は特に、安全・安心のまちづくりに注力してきた。これは、かつては刑法犯認知件数の水準が県内でも高く、市民に漠然とした不安感が広がった点に加え、登下校の安全確保に対する高いニーズ、さらに認知機能低下のおそれのある高齢者の捜索に行政としてマンパワーを要していたことなどから、子育て世代が安心して暮らしながら子育てができるまちづくり、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられることができるまちづくりが望まれていたことが背景事情として挙げられる。
課題解決のため、加古川市では、2017年度から小学校の通学路や学校周辺、公園周辺(1校区50台程度、全28校区)を中心に、住民のプライバシーに配慮しながら、「見守りカメラの設置及び運用に関する条例」を制定し、見守りカメラ約1,500台を設置し、地域総がかりで子どもや高齢者を見守る地域コミュニティの強化に取り組んできた。電柱にはカメラの設置位置を明示し犯罪抑止につなげ、犯罪発生時は捜査協力として撮影画像を警察に提供した。また、小学1年生及び認知機能の低下により行方不明となるおそれのある高齢者などに向けたBLEタグの費用を市(小学1年生は市と事業者)が全額負担し、見守りカメラにBLEタグ検知器を内蔵することで、BLEタグ所有者がカメラ付近を通過したことを家族などが確認できる民間サービス(企業3社が全国展開する既存事業)がより効果的に市内で普及するよう環境を整備した。BLEタグは、見守りカメラに加えて市公式アプリ「かこがわアプリ」、公用車及び郵便車両など移動体(アプリユーザーは4,500人程度)でも検知させ、面的な見守り機能を強化した。このような地域との連携や官民連携の強化、デジタル活用も功を奏し、取組み前と比較して刑法犯認知件数が半減したとともに県内水準を下回るようになるなど、安全・安心のまちづくりの進展に寄与した。


また、新たな展開に向けて、「PLATEAU」と連携し、市が設置する見守りカメラの照射範囲を3Dで可視化し、犯罪発生箇所と重ね合わせた地図を作成した。デジタル技術活用によるスマートプランニングとして、犯罪抑止の観点からカメラの最適配置を検証し、既存の見守りカメラの更新などに活用している。さらに、AIを活用した高度化見守りカメラを市内に150台設置し、従来の見守りに加えて、異常音検知や車両接近を検知して注意を促すなどにより、犯罪や交通事故の未然防止を図ることや、人流測定を行い、加古川駅周辺の周遊性向上など、データを活用したまちづくりを深化させるため、見守りカメラの多機能化を進めている。
他にも、加古川市では、「参加することではじめるまちづくり」(Make our Kakogawa)として、市民中心のスマートシティに向けた議論を深める場として市民参加型合意形成プラットフォーム「加古川市版Decidim」を2020年に国内初導入した。市民の多様なニーズやアイデアを取り入れ、市民の幸福感が向上するまちづくりの実現に向けて、ワークショップなど既存のオフラインイベントに参加できない働き盛りの層や10代の学生など若者の声をオンライン上で補完的に取り込み、市の施策に反映する取組みを進めている。例えば、「かわまちづくり」や加古川駅周辺のまちづくりへの意見募集、「加古川市スマートシティ構想」の着想から実施段階での意見募集、これら意見の市政への反映などに取り組んでいる。施策に反映されたものの例としては、サイクルポート設置希望が取り入れられたことが挙げられる。これにより、行政内部でのスマートシティのアイデアに限らず、より多くのアイデアをもとに、「市民中心の課題解決型スマートシティ」を目指した取組みを進めている。加えて高校などと連携し、若者の声を市の施策で実現するよう取り組むことで若者の加古川市への愛着形成を図り、ひいては就職後のUターンへの素地作りとするなど、より多面的で中長期的な視野でのまちづくりにも取り組んでいる。


資料)加古川市