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国土交通白書 2023

第2節 新しい暮らしと社会の姿

■1 デジタル化による暮らしと社会の変化

(1)将来の暮らしと社会に対する意識の動向

(将来の社会に対する意識の動向)

 国土交通省「国民意識調査」において、デジタル化により実現され得る2050年の新たな社会像についてどの程度望んでいるかをたずねたところ、「災害リスク管理が高度化し、災害から人命と暮らしが守られる社会」、「一人ひとりのニーズにあったサービスを受けられる社会」、「住む場所や時間の使い方を選択できる社会」について、全世代の5人に4人以上の人が望んでいる(とても望んでいる、やや望んでいる)と回答した。

 世代別に見ると、「バーチャル空間の充実により、物理的な障害に制約されず活動できる社会」、「仮想空間とともにリアル空間の魅力も高まり、付加価値が向上する社会」の仮想空間の活用に関する2項目について、10代に特徴的な傾向が見られ、他の世代と比べて望んでいると答えた人の割合が高かった。

図表Ⅰ-2-2-1 デジタル化を通じて実現を図る2050年の新たな社会像
図表Ⅰ-2-2-1 デジタル化を通じて実現を図る2050年の新たな社会像

(注)各選択肢における括弧内の数値は、設問に対し、「望んでいる(とても望んでいる、やや望んでいる)」と回答した割合(全体、10代)。

資料)国土交通省「国民意識調査」

(将来の暮らしに対する意識の動向)

 また、デジタル化により実現され得る未来型のライフスタイルについてどの程度望んでいるかをたずねたところ、AI等の活用による災害や事故の「リスクを最小化できる暮らし」、自動運転機能などの技術により日々の事故リスクが減り、「次世代モビリティにより迅速に救急搬送される暮らし」の2項目について、全世代の4人に3人以上の人が望んでいる(とても望んでいる、やや望んでいる)と回答しており、デジタル化による安全・安心の向上に対する期待が高かった。

 世代別に見ると、10代については上記2項目の他、AI等により仕事や家事が効率化し、「働きやすくより多くの人の社会参加が可能となる暮らし」、テレワークや仮想空間(メタバース等)注1の活用により「住む場所を個人の嗜好に合わせて選べる暮らし」、AI・IoTや自動運転などの活用により「行きたい場所へのアクセスが可能となった暮らし」、デジタルツイン注2の活用による「新たな体験や創造的な活動が楽しめる暮らし」の4項目についても4人に3人以上が望んでいると回答しており、仮想空間の活用を含め、デジタル化による新しい暮らしへの期待が高いことがうかがえる。

図表Ⅰ-2-2-2 デジタル化を通じて実現を図る未来型のライフスタイル
図表Ⅰ-2-2-2 デジタル化を通じて実現を図る未来型のライフスタイル

(注)各選択肢における括弧内の数値は、設問に対し、「望んでいる(とても望んでいる、やや望んでいる)」と回答した割合(全体、10代)。

資料)国土交通省「国民意識調査」

(実現が望まれる将来の暮らしと社会)

 世代を問わず期待の高かった災害リスク管理等の安全・安心への取組みや一人ひとりのニーズにあったサービス、住む場所や時間の使い方を選択できる社会に向けた取組みを加速させるとともに、次世代を担う若者からの期待度が高い仮想空間の活用にも取り組み、デジタル技術を最大限活用したより良い社会の実現を図っていくことが重要である。

 以下では、デジタル化により一人ひとりのニーズにあったサービスが受けられ、住む場所や時間の使い方を選択できることに寄与する「時間的・空間的制約からの解放」とともに「デジタルインフラの充実」を見据えて、「リアル空間の質的向上」、「仮想空間の活用拡大」への取組みについて、(2)時間的・空間的制約からの解放を見据えたリアル空間の質的向上、(3)デジタルインフラの充実による仮想空間の活用拡大の順に記述する。

(2)時間的・空間的制約からの解放を見据えたリアル空間の質的向上

①デジタル化による時間的・空間的制約からの解放に対する意識の動向

 デジタル化は時間と空間の制約を取り払うこともあり、デジタル化により時間の使い方が変化するとともに、居住地に対する人々の潜在ニーズが顕在化し、これまでとは違った社会移動が生じる可能性も考えられる。

 国土交通省「国民意識調査」では、デジタル化により時間と空間の制約から解放された将来を想定し、人々の暮らしや社会に対するニーズについてたずねた。

(理想的な時間の使い方)

 時間の使い方は時代によって変化しており、総務省「社会生活基本調査」によると、1986年と2021年を比較すると、仕事や通勤、家事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動時間(2次活動時間)は減少傾向にあり、各人が自由に使える時間における活動時間(3次活動時間)は増加傾向にある。

 このような中、国土交通省「国民意識調査」では、今後の理想的な時間の使い方をたずねたところ、2次活動より3次活動を増やしたいという傾向が示されたとともに、このうち最も増加した項目は「社会参加・会話・行楽・趣味・学習」であった。

図表Ⅰ-2-2-3 理想的な時間の使い方
<時間の使い方の推移(15歳以上、週全体)と今後の時間の使い方に対する意向>
<時間の使い方の推移(15歳以上、週全体)と今後の時間の使い方に対する意向>
<現在の1日の時間の使い方と今後の意向>
<現在の1日の時間の使い方と今後の意向>

(注1)左図:1986年より2021年までは社会生活基本調査に基づくもの。2023年及び2050年は国土交通省「国民意識調査」に基づく集計結果(社会生活基本調査の集計区分に合わせて計上)。
右図: 国土交通省「国民意識調査」に基づく集計結果。

(注2)国土交通省「国民意識調査」では、「平日と休日の1日の時間の使い方について、現状の時間の使い方はどのような割合ですか。今後、デジタル化による効率化により時間の使い方の選択肢が増えた場合、理想的な時間の使い方はどのような割合ですか。」と聞いている。

資料)国土交通省「国民意識調査」、総務省「社会生活基本調査」に基づき国土交通省推計

 今後、デジタル技術の進展により、従来は場所や時間の制約で実現できなかった新たなサービスや活動が可能となり、私たちの時間の使い方が多様化していくことが期待される。

(住みたいと思う都市の規模)

 将来、デジタル技術の発達により、住む場所の選択肢が増え、多様な暮らし方ができる社会が実現した場合、これまでとは違った社会移動が生じる可能性も考えられる。国土交通省「国民意識調査」では、そのような社会が実現した場合に人々が住みたいと思う都市の規模についてたずねた。本調査結果で示された人々の社会移動の希望を加味し、国立社会保障・人口問題研究所「地域別将来推計人口」をもとに簡易なシミュレーションを行ったところ、県庁所在地や中核市での居住に対する潜在ニーズがうかがえた。

図表Ⅰ-2-2-4 時間的・空間的制約から解放された社会が実現した場合に住みたいと思う都市の規模への意向を加味した人口分布(シミュレーション)
図表Ⅰ-2-2-4 時間的・空間的制約から解放された社会が実現した場合に住みたいと思う都市の規模への意向を加味した人口分布(シミュレーション)

(注1)地域分類
1.関東1都3県の市区部:東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の政令指定都市を含む市区部
2.近畿2府1県の市区部:大阪府・兵庫県・京都府の市区町村の政令指定都市を含む市区部
3.政令指定都市:東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪府・兵庫県・京都府以外の道県の政令指定都市
4.県庁所在市・中核市:東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪府・兵庫県・京都府以外の道県の県庁所在市・中核市
5.その他の市部:全国の都道府県うち上記1~4に属さない市
6.町村部:市に属さない町村

(注2)「 ②将来推計人口分布(2045年)」は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」における市区町村別人口推計を上記地域分類ごとに振り分けたもの(「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」は、地域毎の過去の人口動態に基づき、出生・死亡・人口移動といった人口変動に関する仮定値を用いて推計したもの)。

(注3)「 ③デジタル化を加味した将来人口分布」は、「②将来推計人口分布(2045年)」に、今回の国民意識調査の結果(現在の居住地域と将来移住を希望する地域)を上乗せしてシミュレーションしたもの。将来人口の代替として、「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」による2045年の将来推計人口を用い、「②将来推計人口分布(2045年)」の人口規模を所与とした上で、将来時点の社会経済要因(デジタル化)及びこれに伴う意識の変化による社会移動を加味すべく、国民意識調査の結果を踏まえて簡易なシミュレーションを実施(当該シミュレーションでは移動希望のみを加味しており、出生や死亡による人口変動を考慮せず、現在人口を基準人口とした推計を行っていない)。

(注4)国土交通省「国民意識調査」では、「デジタル化を通じて住む場所の選択肢が増え、多様な暮らし方ができる社会が実現した場合、あなたはどの程度の規模の都市に住みたいとお考えですか。2050年になると、30年歳をとっていることは想定せず、今のあなたが2050年の未来社会にタイムワープしたと想定してお答えください。」と聞いている。

資料)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「地域別将来推計人口」、国土交通省「国民意識調査」に基づきシミュレーション

 前述のシミュレーション結果を現在居住する都市の規模別に見ると、県庁所在地や中核市での居住希望を持つ人は、その他の市部・町村部に加え、関東圏・近畿圏の市部等の居住者にも一定数存在している注3

図表Ⅰ-2-2-5 時間的・空間的制約から解放された社会が実現した場合に住みたいと思う居住地への流出入(現在の居住エリア別の集計)
図表Ⅰ-2-2-5 時間的・空間的制約から解放された社会が実現した場合に住みたいと思う居住地への流出入(現在の居住エリア別の集計)

(注)地域分類は図表1-2-2-4 と同じ

資料)国立社会保障・人口問題研究所「地域別将来推計人口」、国土交通省「国民意識調査」に基づきシミュレーション

(将来の居住地に求めるもの)

 国土交通省「国民意識調査」において、デジタル化が進んだ将来の居住地選定にあたって重視するものをたずねたところ、「日常の買い物の利便性」、「生活コストが安い」、「公共交通の利便性」、「病院や介護施設、公共施設が整っている」などを重視すると答えた人の割合が高く、居住地へのニーズとして、総じて、日常生活の利便性や生活コストの安さが重視されていることがうかがえる。

図表Ⅰ-2-2-6 将来の居住地選択で重視するもの
図表Ⅰ-2-2-6 将来の居住地選択で重視するもの

(注)重視する項目(上位3つ)の複数選択

資料)国土交通省「国民意識調査」

 また、生活コストの安さについては、可処分所得から基礎支出を除いた余剰分で比較すると、三大都市圏より地方圏の方が優位にあることがうかがえる。地方での暮らしは、こうした面において、経済的豊かさの優位性が認められる。

図表Ⅰ-2-2-7 可処分所得から基礎支出を除いた余剰分の指数(全国平均値を100とした場合の指数)
図表Ⅰ-2-2-7 可処分所得から基礎支出を除いた余剰分の指数(全国平均値を100とした場合の指数)

(注1)三大都市圏とは、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)及び大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)を指し、地方圏とは、それ以外の道県を指す。

(注2)基礎支出=食料費+水道・光熱費+家賃・地代+持ち家の帰属家賃

(注3)2014年以前は各年9月~11月3か月間の収支、2019年は同年10月及び11月2か月間の収支を基に算出

資料)総務省「全国家計構造調査」(旧全国消費実態調査)より国土交通省作成

②リアル空間の質的向上に向けて進められている取組み

 デジタル化は、時間と空間の制約を取り払うこともあり、地域が直面する課題を解決する可能性を飛躍的に増大させる注4とともに、データ収集、アイデアや手法の共有、さらにはそれらの全国展開を容易にする力を持っている。今後、国民や政策ニーズの変化に迅速に対応すべく、効果的にデータを収集・活用し、デジタル化により暮らしやすさを実現していくことが求められる。

 各地やそれぞれが解決すべき課題を整理し、地域の活力を高め、心豊かな暮らしを実現すべく、デジタル化の力を活用した地域活性化を図っていくことが必要である。特に、人口減少が進む地方において、デジタル技術を活用し、生活サービス提供の効率化等を図るとともに、これまでは場所や時間の制約で実現できなかった生活サービスの実現可能性を高めるなど、リアルの地域空間の生活の質の維持・向上を図ることが期待される。

 また、持続可能で活力ある地域づくりを目指すにあたっては、地域が主体となって、自らの地域ビジョンを描き、そこに向けた地域活性化の取組みを進めていくことが重要である。

 ここでは、これからの地域づくりについて、既に取組みが進んでいるデジタル化を取り込みながらの地域づくりの事例を紹介する。

(集約型で暮らしやすいまちづくり)

 前述の通り、日常生活の利便性や生活コストに対する人々のニーズや、県庁所在地・中核市等への潜在的な居住ニーズがうかがえる中、例えば、地方圏の県庁所在地や中核市において、住民の生活に身近な課題をデジタル化により解消する取組みから先端技術サービスの実装まで、生活の利便性を向上する取組みを加速化することが重要である。その際、リアルの地域空間において、デジタル活用を図りつつ、地域空間の機能集約によるコンパクト化と地域公共交通の再構築の有機的連携を一層推し進めることが必要である。

(活力があり魅力あふれる都心の形成)

 (第Ⅰ部第2章第1節コラム「街の価値の向上に向けたスマートシティの取組み(大手町・丸の内・有楽町地区)」参照)

(持続可能な生活サービスの確保)

 地方圏の市部など人口減少・少子高齢化が進む地域では、持続可能で活力ある地域づくりに向けて、デジタル技術を幅広い政策分野で横断して利用する仕組みなどにより、異なる分野での共通の課題に対して、各自が有する資源を融通・共有しあうことで、地域課題を解決できる可能性を広げていくことが重要である。

 分野の垣根を超えたデータ連携を促進しつつ、その基盤を活用したデジタル技術の社会実装を加速化し、これとあわせて、地域経営の仕組みの再構築や交通等の国土基盤の高質化を通じて、デジタルでは代替できないリアルの地域空間における利便性の向上に取り組んでいくことが重要である。

(個性あふれる地域)

 我が国は、国土に占める森林面積の割合が高く、特に町村部においては、緑と自然が豊かであるとともに、農山漁村を含め多様な地域が広がっている。豊かな地域資源を活用して、観光業や農林水産業など多様な分野における連携により、交流人口や関係人口の増加を図るとともに、デジタル化を取り込みつつ、個性あふれる地域を形成し、ワーケションや田園回帰の動きも踏まえ、都市との相互貢献による共生を目指すことが重要である。

(3)デジタルインフラの充実による仮想空間の活用拡大

①仮想空間への意識の動向

(メタバースをはじめとする仮想空間の進展)

 仮想空間では、各人がどこにいても実際に一つの場所にいるかのような体験ができることなどの特徴がある。例えば、メタバースはインターネット上の仮想空間であり、利用者はアバターを操作して他者と交流するほか、仮想空間上での商品購入等の試験的なサービスも行われており、メタバースを活用したサービスの市場規模は拡大傾向にある。

 メタバース(Metaverse)は「Meta(超越)」+「Universe(世界)」を組み合わせた造語であり、オンライン上の仮想空間を意味している。メタバースは、特定の機能を特定のプロセスに用いるための要素技術というよりも、様々な活動のあり方を変え得る仮想空間上のプラットフォームとしての役割が大きいと考えられる。例えば、現実世界を模したメタバース上の店舗において商品を販売する、店舗従業員がメタバース上のアバターとして接客をするなど新たなサービス提供の機会を創出することが可能となる。

図表Ⅰ-2-2-8 メタバースの例
<αU metaverseと関連サービス>
アバターを通して渋谷での回遊体験が可能(αU metaverse)
アバターを通して渋谷での回遊体験が可能(αU metaverse)
360度・自由視点映像で、リアルなライブ体験が可能(αU live)
360度・自由視点映像で、リアルなライブ体験が可能(αU live)
再現性の高い店舗空間と商品展示によるショッピング体験が可能。
リアル店舗のスタッフから接客を受けることもできる。(αU place)
再現性の高い店舗空間と商品展示によるショッピング体験が可能。リアル店舗のスタッフから接客を受けることもできる。(αU place)

資料)KDDI(株)

 また「Project PLATEAU」では、まちづくりや地域活性化・観光等の様々な分野において、都市のデジタルツインによるメタバース空間を活用したソリューションを開発している。このような幅広い活用事例や既存技術との関係を踏まえると、メタバースは、これまでに全く存在していなかった概念ではなく、複数の既存の概念を一段と抽象化した上位概念として捉えることができる。

 メタバースによって新たな市場が創出、拡大していくことは新たなサービスの創出への機会となる。一方で、メタバースによって、時間や空間の制約が取り払われ、仮想空間において価値が生み出され、移動をせずとも目的を達成できるようになることは、現実空間や移動の価値について再定義が求められているとも考えられ、その特性を捉えていくことが必要である。

(メタバースをはじめとする仮想空間の利用意向)

 ここでは、将来、技術の進展により十分なリアリティを持つ仮想空間が普及した場合、「現地に行く」ための移動需要が変わり得る中、このような仮想空間(メタバース等)の利用意向について見ていく。

 国土交通省「国民意識調査」では、仮想空間の普及によって、仮に「現地に行かなくてもあらゆることが体験できるようになる」としたら、仮想空間をどのように活用したいかをたずねたところ、「日常的な買い物をデジタル仮想空間上で商品を確認し、オンラインで購入する」、「引っ越しや住宅見学など、住まいに直結する空間をデジタル仮想空間上で確認する」について、全世代の過半数の人が利用したい(とても利用したい、やや利用したい)と回答した一方で、「懇親会やデートなど人との交流」について、利用したいと答えた人は3割程度にとどまり、交流目的の場合はリアルで交流したいと望む人が一定程度存在することがわかった。

 世代別で見ると、10代の半数以上の人がすべての項目について利用したいと回答しており、ほかの世代と比較して出勤や出張、家事、観光体験など様々な場面での「仮想空間の活用」への期待度が相対的に高いことが明らかになった。

図表Ⅰ-2-2-9 仮想空間の利用意向
図表Ⅰ-2-2-9 仮想空間の利用意向

(注)各選択肢における括弧内の数値は、設問に対し、「利用したい(とても利用したい、やや利用したい)」と回答した割合(全体、10代)。

資料)国土交通省「国民意識調査」

(メタバースをはじめとする仮想空間によるリアルの代替性と移動需要)

 国土交通省「国民意識調査」では、「今までリアルで対応しなければいけなかったものも、デジタル仮想空間上で対応すれば、わざわざ移動する必要がない将来」における考え方についてたずねたところ、全世代の5人に4人以上の人が「デジタル仮想空間では代替できないことがある」、現地の状況を「直接五感で感じたい」について、そう思う(とてもそう思う、ややそう思う)と回答した。

 世代別に見ると、「デジタル仮想空間では代替できないことがある」について、60代・70代の約9割の人がそう思うと回答した一方で、10代・20代は約7割程度と、高齢者と比較して若年層では仮想空間でも代替可能とする傾向がうかがえたものの、国民の多くは、仮想空間では代替できないリアルに対する価値を認識していることがうかがえる。

 仮想空間の充実により、例えば自宅にいながら仕事・買い物などが可能となり、物理的な障害に制約されず活動できるとともに、移動を余儀なくされる機会が減少することも考えられる一方で、人との交流や現地の状況を五感で感じるなど、リアルに対する価値が存在し、「現地に行く」ための移動需要は存続することが予想される。

図表Ⅰ-2-2-10 仮想空間によるリアルの代替性
図表Ⅰ-2-2-10 仮想空間によるリアルの代替性

資料)国土交通省「国民意識調査」

 仮想空間の活用により、移動時間の短縮など効率化のみならず、物理的制約のために普段訪れることのできない観光地や商業施設を体験することなどが可能となることや、旅行意欲・消費意欲が誘発されて交流人口の拡大が図られるなど、多様な効果も考えられる。また、物理的制約のために連携できなかった主体とコミュニケーションを図ることが可能となり、創造的な製品・サービスの開発も期待される。

②仮想空間の活用に向けて進められている取組み

 近年、IoT等により現実空間の情報を取得し、仮想空間内に現実空間の環境を再現するデジタルツイン注5や3Dモデルの活用が進んでいる。

 例えば、仮想空間においてシミュレーションや分析ツールが提供されることにより、実証試験やサービスの企画、社会課題の解決のための研究開発等が仮想空間で可能となることから、従来、製造業における業務効率化を中心に活用されてきたデジタルツインについて、まちづくりや防災等への活用など、より広範な領域で付加価値向上に活用が図られる注6など、広がりが見られる。前述のとおり、次世代を担う若年層を中心に仮想空間への利用意向が示されている中、仮想空間の充実とともにその活用拡大が期待される。

 また、仮想空間と現実空間とを高度に融合させたシステムを前提として、新しい価値を創出していくことが可能となる。仮想空間と現実空間の相互作用により、新たなサービスが創出され、より暮らしやすい社会の実現が図られることが考えられる。

 さらに、仮想空間でシミュレーション・分析を行い、その結果を現実空間にフィードバックすることにとどまらず、現実空間において自動運転やドローンなどデジタル技術の実証等に3D都市モデル等を用いて取り組み、市民参加型で技術をより良いものとし、現実空間で得られたデータ等を再度仮想空間にフィードバックすることで、実際の生活における現実空間を新技術の実験場としたサービス・商品の研究・開発を行うリビングラボ注7といった取組みとの連携も考えられる。このような仮想空間・現実空間を相互に作用する取組みを行うことで、テクノロジーを活用したWell-beingな都市づくり(デジタルツインを取り入れたリビングラボ)を進め、デジタルツインが人々の活動の多様化・高度化を支えていくことも考えられる。

図表Ⅰ-2-2-11 デジタルツインが支える人々の活動の多様化・高度化
図表Ⅰ-2-2-11 デジタルツインが支える人々の活動の多様化・高度化

資料)国土交通省

 ここでは、仮想空間の活用に向けて進められている取組みについて、3D都市モデルを活用したオープンイノベーションの促進に向けた足元の動きを紹介する。

 デジタル仮想空間と人々の接点となる新たなヒューマンインターフェースの開発・実装等と相まって、都市のデジタルツインの構築・利活用を図ることなどにより、人々の活動・体験の高度化・多様化を支える環境づくりが重要である。行政やデベロッパーなどの開発側と住民を結ぶ実用的なコミュニケーションツールの開発や活用が期待される。

  1. 注1 メタバースとは、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービス
    (出典「経済財政運営と改革の基本方針2022について」(2022年6月))。
  2. 注2 デジタルツインとは、現実空間の物体・状況を仮想空間上に「双子」のように再現したもの
    (出典 総務省「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」中間とりまとめ(2023年2月10日))。
  3. 注3 これら地方の県庁所在地や中核市への居住希望を持つ人を属性別に見ると、都市部(関東圏・近畿圏の市区部)及び政令指定都市からの居住希望者であって50代以上の男性の割合が他の年齢層より高く、町や村からの居住希望者であって50代以上の女性の割合が他の年齢層より高かった。
  4. 注4 地域空間におけるデジタル活用の意義として、場所や時間の制約を超え、多様な暮らし方や働き方を自由に選択できる地域社会の形成が挙げられる。
  5. 注5 デジタルツインによって現実世界のリアルタイムなモニタリング及びシミュレーションが可能になることで、デジタルツインのユーザーは業務効率化やリードタイムの縮小などの効果を得ることができる。例えば、デジタルツインを建築業の企画・設計プロセスに導入することで、デジタル空間上でのシミュレーションが可能となり、実際にプロトタイプを製作しなくても各種試験の実施が可能になったことで、コスト削減だけでなく製品開発のリードタイム縮小効果が期待される。
  6. 注6 例えば、防災分野において、技術開発や対策効果の見える化を実現するデジタルツインの整備により、仮想空間上に流域を再現したオープンな実証試験基盤(デジタルテストベッド)の整備を進めることにより、避難行動を促すサービスや洪水予測技術等の開発をオープンイノベーションにより促進するとともに、治水対策効果の見える化等により合意形成等を促進することが可能となる。現実世界では試すことが難しい想定外の洪水シミュレーションや評価などを行い、試行錯誤の結果を現実世界で活用することなどが可能である。様々な実験・訓練を仮想空間上で行うことで関係者がリアルの場で一堂に集まらなくても技術開発やイノベーションに取り組むことが期待される。これにより、「災害リスク管理が高度化し、災害から人命と暮らしが守られる社会」が図られることが期待される。
  7. 注7 リビングラボとは、まちの主役である住民が主体となって、暮らしを豊かにするための物・サービスを生み出すことなどを通じて、暮らしをより良いものにしていく活動である。主にヨーロッパで広まってきているが、近年日本でも注目されてきている地域・社会活動である(国土交通省「首都圏整備に関する年次報告(令和元年度)」より)。